第12羽 もしもの話
ルーファス君達と別れた後、私はホッと胸を撫で下ろした。
「チュンチュ!(上手くいって良かったね!)」
「そうだね。これで彼らの研究が進めば、僕の中から『魔王』を分離させる方法がわかるかもしれない……そうだったよね?」
「チュン(うん)」
彼らは大切な人を救うため、「魔王」の力を奪う方法を探していた。
でも、そんなものは存在しなかった。
他人の魔力の一部を奪う魔法はあったみたいだけど、全てを奪う魔法なんて無い。
だから、彼らはそれを作ろうとした。
ルーファス君は他人の魔力の一部を奪う魔法を応用させて、新たな魔法を生み出そうとした。
ゲームではもちろん、この世界の彼もその研究をしていたようだった。
しかし、ゲームの中ではその研究が上手くいくことは無かった。
いや、傍目には成功しているように見えた。
彼のルートのあるエンディングでは、研究が終わり、彼らは「魔王」を倒すことでその力を手に入れた。
ロベル様を殺して奪った力を利用して、ビアンカさんを救おうとした。
だけど、彼らが「魔王」の力だと思っていたそれは、実は「魔王」の魂だった。
力を使って妹を助けようとしたルーファス君は、逆に自らの肉体を「魔王」に乗っ取られてしまう。
そして、自らの意思に関係なく動く肉体が、近くにいた妹とローラス君を殺してしまった。
愛する妹と友人を殺してしまったルーファス君の精神は脆くも崩れてしまい、彼の身体は完全に「魔王」のものとなった。
国中の人々が「魔王」が倒されたことに喜ぶ中、ルーファス君の姿をした「魔王」がほくそ笑むシーンでそのENDは終わる。
もちろん、これはBADENDの話。
でも、他のエンディングでも、力の分離に失敗したり、研究成果が出る前にヒロインに絆されて「魔王」の力を奪うのをやめたりしている。
結局、彼らは「魔王」の力だけを奪うということはできていない。
ちなみに彼のHAPPYENDは、ロベル様をヒロインと一緒に倒した後、何故かビアンカさんが目を覚まし、皆で抱き合いながら喜ぶという、ご都合展開のお話だった。
理由不明だけど目を覚ましたとか何だよ。
せめて、ヒロインの力で目を覚ましたとか、そういうことにすれば良かったのに。
苦労して見れたHAPPYENDだったけど、私はあんまり好きじゃない。
「スズから聞いた話だと、彼らは学生生活を送りながら組織の一員として活動して、さらに秘密の研究をしていたんだよね?」
「チュピピ(うん、そうみたい)」
「凄いよね。二足のわらじならぬ三足のわらじだ」
それは私もゲームをプレイしていた時から思っていた。
私の学生生活なんて、大して勉強もせず友達と遊んで過ごした記憶しかないよ。
大切な人のためにそこまでできるなんて凄いなと、当時の私は他人事のように思ってた。
でも、今ならわかる。
彼らがそこまでできた理由。
私もロベル君のためなら何だってするし、何だってできるもの。
「でも、僕もスズのためならそれくらいやるし、何だったら四足のわらじでも構わない」
「チュピ(そんなのロベル君の身体が壊れちゃうよ)」
「壊れたって良いよ。君のためになるのなら、僕は命を捧げたって……」
「ジュウ!(そんなこと言わないの!)」
私は羽でロベル君の頬をぶった。
とはいえ、力強くぶったわけじゃないのでポスッという音が鳴っただけだけど。
「ジュウジュウ!(私はロベル君と一緒にいたいのに、命を捧げられたら一緒にいられないよ!)」
「……そうだね。ごめん、スズ」
「チュン(わかってくれたならいいよ)」
ロベル君が私のために動いてくれるのは嬉しいけど、それで死んじゃったら悲しいよ。
もしロベル君が無茶しようとしたら、私が止めなくちゃ!
「僕も無茶しないように気をつけるけど、まずは彼らが無茶するのをやめさせないとね」
「チュピ?(どうするの?)」
「連絡が取りやすいから学校には残ってもらうつもりだよ。だから、組織から抜けてもらおうと思ってる」
「チュピピ?(そう簡単に抜けられるかな?)」
「ああ、大丈夫。色々と手は尽くしてあるから。何だったら、組織も解体できちゃうかも」
「チュイッ!?(ええ!?)」
「
確か、ゲームだと「魔王」を倒せたら自然消滅したけど、倒せないと裏社会とかでずっと暗躍していたような……。
「僕も詳しくは知らないけど、父様やプラムさんが頑張ってくださっているみたいだよ」
ロベル君が背後にいたプラムさんを見る。
「良い報告ができるまで今しばらくお待ちください」
プラムさんはそう言って、ロベル君に頭を下げた。
昔から、プラムさんは色んな物や情報をどこかから仕入れてきてるんだよね。
中には機密文書みたいな部外者は見ることができないようなのも混じってるし、彼は一体何者なんだろうか……。
「それに、彼らの研究も僕達でサポートできる。金銭も知識も、あらゆる面でサポートできれば、彼らの予定よりも早く研究を完成させられる」
「チュン?(でも、それに加えて『黒の聖女』の力を引き出す研究もするんでしょ?)」
「うん。そこが一番大変だけどね。まだ手がかりすら掴めてないから」
そうなんだよね。
「黒の聖女」の力を引き出す方法なんてゲームにも出てこなかったし……そもそも「黒の聖女」なんて言葉が出てこなかったけどさ。
そういえば、ロベル君の中の「魔王」が目覚めたあの日、私は人の姿に戻っていたんだよね。
それで、その魔力を「黒の聖女」のように抑え込んだ。
もしかして、力を引き出せたら、私は人になるのかな?
……ロベル君はこのことをどう思うんだろう。
「……チュピ(ねえ、ロベル君)」
「うん?」
「チュンチュイ?(ロベル君は私が人間になったら嬉しい?)」
私の質問に、ロベル君は目を丸くする。
「どうして?」
「チュン?(昔、私が人になった時があったでしょう?)」
「うん」
「チュピピ(その後、雀に戻った私を見てロベル君が残念そうな顔をしてたから)」
「……確かに、そんなこともあったね」
ロベル君が苦笑する。
「僕はスズが人でも雀でも大好きだよ。どんな姿の君でも、ずっとそばにいられるのならそれでいい」
「チュイ?(でも、昔は人の姿の方が良かったんじゃないの?)」
「いや、あんな反応になったのはそういう意味じゃなくて……」
ロベル君が口ごもる。
その頬はわずかに赤く染まっていた。
「……めて欲しかったから」
「チュ?(え?)」
「あの時の僕は、またスズに抱き締めて欲しかったんだ。あれが、その、初めて感じる人の温もりだったから……」
モゴモゴと小さな声で言われたそれに、今度は私が目を丸くする。
「い、今はそんなこと思ってないからね」
「チュン?(思ってないの?)」
「そんな子供じみたことは思わないよ! むしろ抱き締めたいという……か……」
ロベル君が「しまった」と、顔をさらに赤くする。
はへー、抱き締めたいかぁ。
そっかぁ、私、人間になったらロベル君に抱き締められちゃうのかー。
「い、今のは忘れて!」
「チュピィ(忘れられそうに無いかな)」
「は、恥ずかしいから!」
今までも恥ずかしいセリフめちゃくちゃ言ってたのに、これで照れるんだ。
可愛いなぁ、ロベル君は。
「チュンチュ(ロベル君にそう言ってもらえて、私は嬉しいよ)」
私は何気なく言った。
「チュン(もし人間になれたら、本当に抱き締めて欲しいな)」
「……人にならなくても、君がそうして欲しいなら抱き締めるよ」
ロベル君は私をそっと両手で包むと、自分の胸に近づけた。
抱き締めてるつもり……なんだろうな。
「チュピピ(これは無理があるよ、ロベル君)」
「そう?」
「チュン(これなら、私は頬ずりされる方が好きだな)」
「じゃあ、そうするね」
ロベル君は恥ずかしげもなく私に頬ずりをする。
これは恥ずかしくないんだ。
まあ、いつもやってるからだと思うけど。
「スズの身体はいつもフワフワで気持ちいいね」
「チュンチュ(ロベル君のほっぺはいつもモチモチスベスベだね)」
このままずっとスリスリしてたいなぁ……なんて、考え始めていた時。
「――申し訳ございませんが、続きは屋敷でお願いします」
プラムさんの呆れたような声が私達に投げかけられる。
あ……いたの忘れてた。
影薄すぎますよプラムさん。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、別に俺のことなんか気にせずイチャついてても良いんですけど。場所が場所なんで」
うーん、確かに。
人が全然いないとはいえ、ここはまだ学校だから、誰かに見られたりしたらまずいかも。
私のことを知っているのは極一部だから、何も知らない人が見たらロベル君が雀と会話する変人だと思われるかもしれない。
「そうですね。気をつけます」
「わかれば良いのです。まあ、仲が良いのは悪いことではありません。早めに屋敷に戻って、お二人で好きなだけイチャついてくださいね」
ややぶっきらぼうにプラムさんが告げる。
べべ、別にイチャついてないし?
ちょっと仲良くしてただけだからね!
そうして、私達は準備されていた馬車に乗り込んで、帰路についたのだった。
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