第11羽 双方win-winの関係を築きたいよね
ルーファス君にも同じように、ロベル君は「全てを知っているから協力して欲しい」と申し出た。
「……僕達に協力して欲しいだなんて、随分と虫のいい話をするんだね。拒否権は無いけど、こちらのメリットも無いじゃないか」
ルーファス君が小さくため息をつく。
ただ協力して欲しいだなんて言われたら、彼がこんな反応をするのは当然だ。
でも、実は彼らにもメリットはある。
「いや。どうやらこっちにもメリットはあるみたいだぞ、ルーファス」
「何それ。あちらさんが『魔王』を消滅させようとしている時点でメリットなんてないのに?」
「……ルーファス。俺達の目的は何だ?」
「そんなの決まってるだろ。愛しいビアンカを助けるためさ」
「ビアンカ」というのはルーファス君の妹であり、ローラス君の恋人である女の子の名前だ。
「じゃあ、彼らについて行けば、彼女のことを助けられるとするなら?」
ローラス君の発言に、ルーファス君は眉間によせたシワをさらに深くした。
「彼女を助けられる方法なんて他にはなかったじゃないか!」
「だけど、会長さんが俺に言ったんだよ! 協力してくれれば俺達の真の目的も叶えることができるって!」
「そんなの嘘っぱちだ!」
「嘘かどうかは私の話を聞いてから判断しても良いと思いますよ」
白熱しかかっていた二人の口論に、ロベル君が口を挟む。
「頭ごなしに嘘と決めつけるより、まずは私の話を聞いていただきたいのですが」
「……それもそうだね。嘘臭そうだけど、一応聞くよ」
「ありがとうございます」
ルーファス君達が落ち着きを取り戻す。
ロベル君は彼らを刺激しないように、ゆっくり話し始めた。
「初めに、お二人の誤解を解く必要があります」
「誤解だと?」
「はい。お二人は『魔王』が他者の傷を癒す力を持っていると思っていらっしゃるのですよね?」
「そうだよ。死にかけの人間をたちまち元気にしてしまう術を持っていると聞いたから、僕達は『魔王』の力を手に入れようとしているんだ」
「そこが間違いなのです。『魔王』にはそんな力はありません」
「「は?」」
ルーファス君達は同時に目を丸くした。
「いやいや、何言ってるんだよ。『魔王』には凄い量の魔力があるんだろ? それなら、回復系の魔法だって凄いのが使えるんじゃ……」
「お二人共、魔力によって使える魔法に向き不向きがあるのはご存知ですよね? どんなに魔力が多い人でも、相性によっては使うことができない魔法があります」
「……まさか、『魔王』は回復系魔法は使えないのか?」
「その通りです」
絶句する二人に、ロベル君は話を続けた。
「『魔王』は高い自己回復能力を持ちますが、それはあくまで自己の肉体を回復させるもの。他者の肉体を回復させることはできません」
ああ、ゲームでもあったな。
「魔王」の自己回復。
あれのせいでクリアするのに時間かかったとか愚痴ってる他のプレイヤーさんもいたっけ。
私は「流石ロベル様!」と思って、ハアハアしながら戦ってたけど。
勝たなきゃいけないのに、勝つと推しが死ぬジレンマに苦悩していたのは良い思い出だ。
「じゃあ、『魔王』がどんな病も怪我も治せるというのはただの噂に過ぎなかったんだね」
「くそっ、ここまでやってきたってのに……」
ルーファス君達は悔しそうに顔を歪める。
しかし、そんな彼らの言葉にロベル君は首を横に振った。
「いえ、そうとも言い切れません。火のないところに煙は立ちませんからね」
「……? どういう意味だ?」
「貴方達がそう勘違いしてしまう噂の元になった真実がある、ということです」
「真実だって?」
ロベル君が小さく頷く。
「かつて『魔王』のそばには一人の女性がいました。彼女は大昔に『魔王』の命を救い、彼の眷属達の治療も行っていました」
その時、ルーファス君の瞳が大きく見開かれた。
「まさか、その女性が噂の元ネタなの?」
「ええ」
「だが、そんな女の人の話は聞いたことがないぞ」
「世間からは隠されていたようです。文献には女性のことは『黒の聖女』と記載されていました」
「……笑えないね。『魔王』を倒した『白の聖女』と対になる様な名前じゃないか」
「文献の著者がどのような意図でそう名付けたのか、または彼女が本当にそう呼ばれていたのかはわかりません。しかし、『黒の聖女』が驚異的な治癒能力を持っていたのは事実です」
「その『黒の聖女』は人なのか?」
「文献ではそう記されています」
「じゃあ、その女の人ももう死んでるんじゃないの?」
「詳しい記述はありませんでしたが、恐らくそうでしょうね」
「何だよ。じゃあ結局、ビアンカは助けられないんじゃないか!」
今にもロベル君に飛びかかってきそうなほど、ルーファス君が怒りをあらわにする。
でも、ロベル君は慌てず冷静に答えた。
「いいえ。助ける方法はあります」
「どうやってだよ? まさか、その『黒の聖女』を甦らせるとでもいうのか?」
ローラス君が呆れたように言う。
「いえ、その必要はもうありませんよ」
ロベル君がニッコリ笑って言うと、ローラス君の顔が引きつった。
「あの、もう必要ないとは?」
「『黒の聖女』は既に甦っていますので」
「……はぁ?」
ルーファス君が「コイツ何言ってんだ」みたいな顔でロベル君を睨んでいる。
「甦ってるって……その女は『魔王』の味方なんでしょ? 倒さなくていいの?」
「確かに、彼女は『魔王』の味方です。しかし、彼女は人類の滅亡を望んでいませんでした」
「……味方だけど、そこは意見が食い違ってたんだな」
「そんな奴が何で『魔王』のそばにいるのさ?」
「彼女は『魔王』の命の恩人であり、彼と唯一心通わせた存在だったからだと私は推測しています」
「ふぅん……で、その甦ってる『黒の聖女』はどこに?」
「ここにいますよ」
「「はぁ!?」」
二人同時に驚きの声を上げる。
本日二度目。仲良いな、この二人。
「甦ったという表現は良くなかったかもしれませんね。彼女は生まれ変わったのです」
「生まれ変わった? ……まさか」
ルーファス君の目線が私――ではなく、私達の背後にいるプラムさんに向けられる。
「……俺はただのしがない使用人です」
「じゃあ、誰のことを言ってるんだ?」
ルーファス君達がキョロキョロする中、痺れを切らしたらしいロベル君が、ちょっと語気を強めて言った。
「……ここにいるでしょう?」
彼が自分の肩にいる私を指さす。
すると、二人の目が更に大きく見開かれた。
「……冗談よしてくださいよ。会長さんの肩にいるのはただの雀じゃないですか」
「安心してください。彼女は頭が良いので私達の言葉もちゃんと理解してますよ」
ロベル君がそう言うと同時に、私は胸を張る。
私はただの雀じゃない……らしいよ。
私が「黒の聖女」だっていう自覚がないから自信もっては言えないんだけど。
「その雀がビアンカのことを助けてくれるの?」
「本人は助けるつもりのようですよ。ですが、一つ問題がありまして」
ロベル君が、その細長い指で私を撫でる。
「彼女は今の状態では本来の力を発揮できないようなのです」
「……どうしたら発揮できるようになるんだ?」
「それを、貴方達にも一緒に調べてもらおうと思っています」
「わかんないんだ」
「はい、残念ながら。ですが、きっと見つけてみせますよ」
ロベル君の言葉に、ルーファス君が考え込む。
これで彼が協力してくれなかったらどうしよう。
彼の持つ技術が、ロベル君の願いを叶える鍵になりそうなのに。
「……とんでもないのに目をつけられちゃったなぁ」
ルーファス君が大きなため息をついた。
「でも、ビアンカを助けるためなら、僕達は何だってするよ」
「ああ。スパイをやれって言われてもやるぞ」
「では、協力していただけるのですね?」
「そういうことになるね。元々拒否権は無いけど、そっち側にしかメリットがないものでも無さそうだし」
「ありがとうございます。それでは、これからよろしくお願いしますね」
かくして、私達は何とか彼らと協力関係を築くことができたのだった。
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