第8羽 生徒会の愉快なメンバーを紹介するぜ!

 入学式の翌日、国王陛下から正式にロベル君のことが世間に公表された。


「何故そんな人物が生きているのか」

「子供のうちから殺せなかったのか」


 そんな意見が聞こえてくる一方で、ロベル君のことを知っている人達からは励ましの言葉を貰った。


「今まで頑張ってきたんだね」

「これからは私達も支えるから、何かあれば遠慮なく言ってくれ」


 などなど、皆さん温かい言葉をくれた。

 ロベル君を露骨に避ける人が一人もいなかったどころか、自ら協力を申し出てくれる人達が多かった。

 これもロベル君の人望が為せる業、というやつだろう。

 ロベル君、いつの間にかこんなに多くの人達に愛されるようになって……小さい頃から見てきた私は泣きそうだよ。


 公表から1ヶ月くらいはそんなふうに色んな人から声をかけられたりしてバタバタしていた。

 ようやく落ち着いてきた頃には新入生歓迎会とかも終わって、生徒会の活動も落ち着いていた。


「あー、ようやく色々終わったなぁ」


 生徒会室で書類作業中、アランが伸びをしながらそう言った。

 こいつ、一応副会長なんだけど、さっきから全く作業が進んでいない。


「目の前の書類は終わってませんけどね」


 会計の女の子が呆れたようにため息をつく。

 彼女はプラチナブロンドの髪をツインテールにし、アーモンド型の目は翡翠色の瞳を持っていた。


「それは言わないお約束でしょ」

「お喋りはしても構いませんけど、手は動かしてください」


 女の子は電卓を叩く手を止めず、アランに冷たく言い放った。

 電卓なんてハイテクなのもあるんだと、初めて見た時は思ったなぁ。

 まあ、今は彼女の電卓を打つ手の動きが全く見えないことにビビっているのですが。


「え、それならリリに話しかけるのは良いの?」

「……手を動かしてくださるのであれば」

「やった!」


 アランがおもちゃを買ってもらった子供のように、嬉しそうに笑う。

 それを真正面から見た女の子――リリアナ・リリオペちゃんは、一瞬にして茹でダコ状態になった。


「じゃ、皆の迷惑にならないようにリリの隣にいくね」

「えっ、あの……!」


 リリアナちゃんの返事を待たずに、アランは書類を持って空いていた彼女の隣の席に座る。

 ちなみにその席は今たまたま離席している庶務の男の子の席である。

 戻ってきたらどうするんだろう……副会長権限で無理やり席の交換するのかな。


「……いい加減にしてください、兄上」


 彼らのやり取りを黙って見守っていたカーティスが、こめかみをピクピクさせている。

 ゲームでは副会長だった彼だけど、ここでは書記をやっている。

 そして、当たり前だけど、彼の方がアランより真面目に仕事している。

 最初は同じくらいの書類の量だったはずなのに、彼の書類はアレンの残りの半分くらいの枚数になっている。


義姉上あねうえも満更でもない顔をせず、しっかり叱ってやってください。そうじゃないと調子に乗りますよ、この兄上は」


 カーティスは自らの兄をギロリと睨む。

 彼がリリアナちゃんのことを「義姉上」と呼ぶのは何故かと言うと。


「いいじゃないか。リリは俺の婚約者なんだから」


 そう、リリアナちゃんはアランの婚約者なのだ。

 ゲームでも彼女はアランの婚約者だった。

 私の中の第一印象は、アランルートでのライバルポジションの子。

 アランルートでしか登場しないから、どういう子だったかはあんまり覚えてなかった。


「婚約者であっても今は職務中です。仲が良いのは構いませんが、楽しいお喋りは書類作業が終わってからにしてください」

「別にいいだろ。ちゃんと仕事はするし。ねぇ、リリ?」


 アランはいたずらっ子のような笑みを、リリアナちゃんに向ける。

 既に赤いリリアナちゃんの顔がさらに真っ赤に染まった。


「わ、私は……その」

「頑張ってください、義姉上! 兄上のサボり癖は今のうちに治さないと、将来苦労しますよ!」

「やだなぁ、俺は真面目にやる時はやるよ?」

「今がその時でしょう、バカ兄上!」

「ひどーい! リリ、助けてぇ」


 アランがリリアナちゃんに抱きついた。


「っ〜〜〜!?」


 抱きつかれたリリアナちゃんは真っ赤な顔で声にならない叫びを上げると。


 ――バチーンッ!


 という良い音を立てて、アランの頬を平手打ちした。


「へぶっ!」


 結構な勢いでぶたれたせいか、アランは後ろに吹き飛ばされる。

 その様子を見て、リリアナちゃんが我に返った。


「も、申し訳ございません! 大丈夫ですか、アラン様!?」


 涙目になりながら、リリアナちゃんはアランに近づく。


「だ、大丈……」

「平気ですよ、義姉上。兄上の身体は鍛えられてて丈夫ですから、その程度では死んだりしません」

「なんでカーティスが答えるんだよ!」


 不満そうに顔をしかめて、アランがガバッと起き上がる。


「ほ、本当に大丈夫なのですか……?」

「……ああ、心配いらないよ」


 その返事を聞いて、リリアナちゃんがホッとしたように笑みを浮かべる。


「良かった……」


 彼女は潤んだ瞳でアランを見つめながら、そう呟いた。

 顔立ちと生真面目な性格が災いしてキツイ印象を受ける彼女だけど、本当は優しくて良い子なのだ。

 あと、可愛い。


「やっぱり、リリは可愛いなぁ」


 アランがしみじみと噛み締めるように言った。


「へ!? い、いきなり何を……」

「君が俺の婚約者で良かったよ。他の男に奪われてたら、俺は一生後悔するね」


 そう言って、アランがニッコリと笑う。

 それを見たリリアナちゃんが耳まで真っ赤になったのは言うまでもない。


 彼女のことを全くと言っていいほど覚えてなかった私だけど、少なくともアランがこんなにも婚約者にベタ惚れだった覚えはない。

 てか、ゲームでもベタ惚れだったらヒロインは略奪愛になるよね。

 そんなの全年齢対象の乙女ゲームでできるわけがない。R指定付くよ絶対。

 じゃあ何でこの世界の彼らはラブラブカップルと化しているのかと言うと……まあ、確実にロベル君が関わったせいだよね。

 リリアナちゃんとはこの学校に入る前から、何度か会っていた。

 彼女はアランの隣にいることが多かったから彼女と私達だけで話すことは滅多になかったのだけど、一度だけアランがいない中で話をする機会があった。

 その時に、アランと上手くいっていないというような話を聞いて、ロベル君が彼女にアドバイスをしたのである。

 実際にはアドバイスを考えたのは私なんだけど、私の言葉は彼女には伝わらないから代わりに伝えてもらった。

 そしたら、なんか、次に会った時にはもう既にこうなってた。

 私は「素直に自分の気持ちを伝えてみたら?」と言っただけで、別に大したアドバイスはしてないんだけどな……。


「ただいま戻りまし――また俺の席でイチャついてる……」


 不意に開かれた扉の向こうで、一人の男子生徒がゲンナリした顔をしていた。

 彼は庶務のローラス・ブルーム君。

 アランがいつもリリアナちゃんにちょっかいを出すせいで被害を受けている、憐れな青年である。


「ほら、兄上。ローラスが席につけないでしょう!」

「えー。ローラス、今日だけ席変わって?」

「それ、前も言われたっすよ」

「じゃあ、今日も変わって?」

「……身分差的に拒否できないのわかってやってますよね?」

「別に断ってもいいぞ?」

「平民が王族の頼みを断れるわけないじゃないっすか!」


 ローラス君は商人の息子だ。

 でも、爵位を持っているわけではないから、身分的には平民なのだ。


「兄上! 身分を鼻にかけて他人に迷惑をかけるなど……!」

「もういいっすよ、カーティス様。もう諦めてるんで。あと、別にアラン様は身分を鼻にかけてはいないっすよ」

「むう、しかし……」

「ローラスもそう言ってるし、今日の俺の席はここね!」

「兄上はもっと自重してください!」


 そして再び兄弟喧嘩が始まった。

 リリアナちゃんはオロオロしだし、ローラス君は呆れ顔でアランの席に座って作業を始めた。

 で、肝心のロベル君は何をしているのかと言うと。


「皆さん、今日も元気ですね」


 そう言って、生徒会メンバーをニコニコと眺めていた。

 特に注意するでもなく、菩薩のように慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。

 一応、前までは「注意した方が良いんじゃない?」と彼に進言していたんだけど、この騒ぎがもはや日常茶飯事なのでもう諦めた。

 作業の進行度は問題ないからね。

 ロベル君が目にも止まらぬ速さで書類をさばいているおかげだと思うけど。

 そんなわけで、生徒会は今日も賑やかなのでした。





 その日の作業終了後。

 ロベル君が解散を告げると、他のメンバーは帰宅準備を始めた。


「ああ、そうだ」


 ロベル君はわざとらしく、思い出したように声を上げた。


「貴方はこの後も残ってもらえますか?」


 そう言って、彼は一人の生徒を指さした。

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