第6羽 睨らまれるようなことしましたっけ?
え、何で睨まれてるの?
もしかして、ロベル君があんな目立つことをしちゃったから?
ヒロインちゃん、目立ちたくなかった?
でも、後々嫌でも目立つようになるんだけど。
「な、何か御用ですか?」
ロベル君も何で睨まれてるのかわからないようで、戸惑っているみたいだった。
ヒロインはこちらを睨みつけたまま、ツカツカと近づいてくる。
くっ! ロベル君に何かしようっていうなら、私が許しませんよ!
「ありがとうございますっ!」
ヒロインが廊下に響き渡るほどの大声を出し、頭を勢いよく下げた。
「え?」
「チュン?(え?)」
私とロベル君がキョトンとする中、ヒロインは言葉を続けた。
「私、ずっと不安だったんです。ここに入学した皆さんは『魔王』を倒すという決意を持ってここに来ているというのに、ただ『神聖剣』に選ばれただけで、今までそんなこと一度も考えたことが無い私なんかがいていいのかって。誰とも仲良くなれないまま、自分一人で戦わないといけないのかなって」
おや、ゲームでもそんな話をしていたような気がするな?
親密度が高い攻略対象にヒロインが悩みを打ち明け、そのキャラの言葉に勇気を貰うというイベントだったかな。
確か、そのイベントでヒロインはそんな話をしていたはず。
あ、そういえば、そのイベントで自分がどのキャラのルートに進んでいるのかがわかるんだよね。
私にも「ロベル様には一体いつ打ち明けてくれるのかな」と思っていた時期があったよ。
その後、ロベル様ルート自体が存在しないと知った時の絶望感は計り知れなかったけれど。
「でも、私、生徒会長さんの言葉に勇気を貰いました!」
ガバッと頭を上げた彼女は、やっぱりロベル君のことを睨みつけるようにして見ていた。
「『魔王』は皆と一丸になって戦ってこそ勝てる相手なんだ。私一人で倒さなきゃいけないわけじゃない。そう思ったら、不思議と肩の荷がおりました」
彼女は「それに、」と話を続けた。
「生徒会長はずっとお一人で戦ってこられたのに、胸を張って堂々としてらして……本当にお強い方なんだと思いました。私も生徒会長さんみたいに強くなって、皆と『魔王』を倒したいと、あの挨拶で思ったんです!」
今まで眉間にシワを寄せていた彼女の顔が、パッと花開くように笑顔になった。
「私、ここに通っている皆さんと一緒に戦いたいです! だから、これから一生懸命頑張って『魔王』を倒せるくらい強くなります!」
ニコニコと笑う彼女を見て、私は思い出した。
ああ、そういえば、ヒロインは真剣な顔をすると眉間にシワが寄るんだっけ……。
だから、まるで睨みつけているように見えると、ゲーム内で攻略対象にからかわれるシーンがありましたね。
すっかり忘れてたわ……だって、一回見ただけのアランルートで出てきたシーンだし。
警戒して損した。
「……ありがとうございます、カモミールさん」
「へっ!? ど、どうして私の名前を?」
「貴女の名前は有名ですよ。『白の聖女』の生まれ変わりと呼ばれているマリア・カモミールさん」
ロベル君の言葉に、ヒロインことマリアちゃんの顔が赤くなる。
マリア・カモミール……ゲームでのヒロインのデフォルト名と同じだ。
名前がデフォルトじゃなかったら転生者かもしれないと思っていたけど、デフォルト名だからまだ判断がつかないな。
「そそ、そんな。『白の聖女』様の生まれ変わりだなんて、畏れ多いです!」
「しかし、貴女は『神聖剣』に選ばれました。『白の聖女』しか持つことのできなかった剣を持つことができた貴女を、皆が彼女の生まれ変わりだと称するのは当然ですよ」
「白の聖女」の生まれ変わり。
ゲームでも、ヒロインはそう呼ばれていた。
この「白の聖女」とは、かつての「神聖剣」の持ち主であり、「魔王」を倒した女性のことである。
彼女のことは世界の危機を救った英雄として多くの文献に残されていて、世界中の人々に知られているような存在だ。
一部の人達の中では「彼女は神の遣いだ」と崇拝している人もいるらしい。
しかし、同じように呼ばれる「黒の聖女」のことは、ほとんどの人が耳にしたこともないだろう。
ロベル君のお父さん達も「魔王」について調べている時に初めて知ったみたいで、かなり厳重に秘匿されているようだった。
「頑張るのは良いですが、くれぐれも無理だけはしないでくださいね」
「はい!」
マリアちゃんが元気よく返事をする。
その時、遠くから彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
「マリア・カモミール。君はこっちだぞ!」
「あ、はい! 今行きます!」
彼女は「ありがとうございました!」と再びお礼を告げ、呼ばれた方へと去っていった。
「……嫌われたわけじゃないみたいで良かったよ」
「チュ、チュン(そ、そうだね)」
睨まれていると思って警戒していただけに、拍子抜けしてしまった。
でも、とりあえず、マリアちゃんとは良好な関係が築けそうで良かった。
これで嫌われてたら、ゲーム通りにロベル君が彼女に殺される未来が待っていたかも。
まあ、まだ気は抜けないけどね。
「魔王」を倒すと言っても、まずはロベル君と「魔王」の魂を分離しないといけない。
でも、それができるかどうかすら未だにわかってないし……。
「……チュピ?(ん?)」
ふと、妙な視線を感じて、私は背後を振り返る。
少し離れたところで、一人の男子生徒がこちらを睨みつけていた。
胸章を付けているから新入生のはずなんだけど、何であんなところで突っ立ってるんだろう。
多分もう教室でホームルームが始まってると思うんだけど。
その子は私の視線に気づいたのか、慌てて目を逸らして立ち去っていった。
一体何が目的だったんだろう?
マリアちゃんじゃあるまいし、あれは絶対睨んできてたよね。
……あれ、もしかして、さっきの子は入学式でロベル君に質問してきた子じゃない?
遠目でわかりにくかったけど、きっとそうだ。
そういえば、あの子もどこかで見たことある気がするんだよなー。
多分、ゲームにも出てきてたと思うけど……うん、全く思い出せない。
マリアちゃんの時と言い、全クリしたはずのゲームでも忘れてるところが結構あるなぁ。
こういうふうに転生してくるなら、もっとゲームをちゃんとやっておけばよかった。
そうすれば、ロベル君の死亡フラグを楽々回避できるかもしれないのに。
「どうかしたの?」
私の様子に気づいたロベル君が声をかけてくる。
……まあ、睨んでると思ったのは私の勘違いかもしれないし、言わなくてもいいかな。
不安な気持ちにさせちゃったら悪いからね。
「チュンチュ(何でもないよ)」
「そう? 何かあったら遠慮なく言ってね」
「チュン(うん)」
結局、休む暇もなく校舎案内の時間がやってきた。
途中、校舎案内なのにロベル君が新入生達から質問攻めにあったり、それを一緒にいたアランが「一人ずつ質問しろよ」と言って質疑応答みたいになったり、その様子を盗撮してたユリウスがネペンテス先生に見つかって引きずられてたりした。
そんなことがあった中でも、ロベル君は文句を言うでもなく、ずっとニコニコしていた。
慈愛に満ちすぎ天使かよ……あ、天使だったわ。
その後も天使なロベル君は大勢の人達(一部変態を含む)に囲まれながら、生徒会の仕事をやりきって帰宅したのでした。
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