第5羽 ロベル君が魅力的すぎて変態が増殖しているようです
さて、ロベル君の挨拶が無事に終わったわけなんですが。
舞台裏に引っ込んだ瞬間、王族兄弟がロベル君の目の前に立ちはだかった。
薄暗がりに立っているせいで、彼らの表情は窺えない。
「……アラン様、カーティス様。今までこのようなことを隠していて申し訳ございません」
ロベル君が二人に頭を下げる。
この学校に入る前からの知り合いだから、彼らとの付き合いは長い。
でも、ロベル君の中に「魔王」がいるという話を彼らにしたことは無い。
つまり、彼らも今日初めて知ったのだ。
「お伝えしようとは思っておりましたが、国王陛下より時が来るまで内密にするようにと命じられておりました」
「……そうか、父上の命か」
「はい。しかしながら、私はお二人を騙すようなことをしてしまいました。本当に申し訳ございません」
そんなロベル君の言葉を、アランが「ふっ」と鼻で笑った。
「別に騙していたわけじゃないだろ。秘密にしていたのは父上の命令だろ。じゃあ、しょうがないって」
「しかし……」
「気にすんなよ。むしろ、俺は打ち明けてくれたことに感謝してるぜ」
「兄上の仰る通りです!」
アランを押しのけて、カーティスがロベル君に近寄った。
「ロベル様が我々の身を案じてずっとお一人で戦ってこられたことに感謝はすれど、非難することなどありません! むしろ、今まで助けになれなかったことを悔しく思います!」
カーティスの目からボロボロと涙がこぼれる。
あと鼻からも水が垂れてる。汚い。
「カーティス、顔が凄いことになってるぞ。いいかげん泣き止め」
「これが泣かずにいられますか!? お一人で『魔王』とずっと戦ってこられたというのに……私は、気づいてさしあげられなかった!」
ズビズビと鼻をすすりながら、カーティスがそう言った。
その言葉に、アランの顔も一瞬陰る。
「……そうだな。だが、ロベルが打ち明けてくれたおかげで、これからは俺達もロベルのことを支えてやれるだろ?」
アランがカーティスにハンカチを差し出す。
受け取ったカーティスが涙を拭いながら頷いた。
「確かに……兄上の仰る通りですね」
「だろ? ま、そういうわけだからさ。ロベル、これからは俺達も協力するぜ」
アランがロベル君に向かってウインクする。
流石イケメン。
ちょっとムカつくくらい様になってるわ。
「ありがとうございます。ですが、何も私は一人で戦ってきたわけでは……」
「ロ・ベ・ル〜!」
ロベル君の言葉を遮るように、ユリウスが会場側の入口から駆け寄ってきた。
顔が真っ赤で変態みたいに「ハアハア」言ってて、イケメンでも気持ち悪い。
「良かったよ、挨拶! もう素晴らしすぎて会場中がロベルに魅了されてたね!」
興奮冷めやらぬ様子のユリウスが、早口でそう捲したてる。
「あ、ありがとうございます」
「お兄ちゃん、写真千枚くらい撮っちゃったよ!」
あの短時間でそんなに撮れるわけないでしょうが。
せいぜい百枚くらいが限度なのでは?
それでも撮りすぎだと思うけれども。
「あの、兄様。まだ式の途中なのですが、職員の席にいらっしゃらなくてもよろしいのですか?」
「え? 式はロベルの挨拶で終わりだろう?」
いやいや、まだ続いてますから。
さっさと戻ってその気持ち悪い顔を二度とロベル君の前に晒さないでください。
「さ、今すぐ帰ろう! そして今日の写真を大量に印刷しないと」
ユリウスがロベル君の手を引き、後ろを振り返る。
「……まだ式は続いてるぞ、変態ブラコン教師」
どこからともなく現れた背の高い男性が、ユリウスの頭をベチッと叩いた。
「痛っ! ……暴力反対ですよ、ネペンテス先生!」
「お前が職務ほっぽって醜態晒してるからだろうが」
その男性が大きなため息をつく。
彼は、アンドレイ・ネペンテス。
2m近い高身長とやる気のない目、くたびれた白衣が特徴的な養護教諭である。
ちなみに顔は悪くなく、ちゃんとした格好をすれば絶対モテる。
ま、この先生も攻略対象の一人だから、見た目が良いのは当たり前なんだけど。
「放り出してなどいません。式が終わったので、弟と帰ろうとしたまでです」
「だから、終わってないって言ってんだろ。お前のお目付け役にさせられた俺の身にもなってくれ」
ユリウスは普段、真面目に教師として働いている。
しかし、今日みたいにロベル君が活躍する場面があると、途端にブラコン変態野郎と化すのだった。
そんなユリウスの監視役を無理やり押し付けられたのがネペンテス先生だったらしい。
ネペンテス先生、ゲームでも暇そうに保健室で昼寝してたり、お菓子食ってたりしてたもんな。
押し付けられても仕方ない勤務態度が災いしたようだった。
「つーか、終わった後も俺らは仕事があるだろうが。お前がサボると俺がとばっちり食らうんだからな!」
「知りませんよ。とにかく、私はロベルと一緒に帰ります!」
「こいつもまだ生徒会の仕事が残ってんだよ! ほら、邪魔になる前に席に戻るぞ!」
「ちょ、襟首掴まないでください……くっ、馬鹿力め! ロベル、また後でね!」
ネペンテス先生の力が強いせいか、ユリウスは抜け出せずに首根っこを掴まれたままズルズルと引きずられていった。
「後でユリウス先生が撮ったという写真を貰うことはできますかね……?」
「それは思った。頼み込めばいけるだろ」
王族兄弟のそんな会話が聞こえた。
お前らも変態の仲間入りがしたいのか。
写真はやらんぞ。
私がユリウスからネガごと全部没収するからな!
そんなこんなで。
入学式も無事に終わり、各クラスの教室へ向かう新入生達を生徒会メンバーと一緒に見送った。
「この後は新入生への校舎案内があります。各自、自分が対応するクラスとルートの確認をしておいてください」
ロベル君の言葉に生徒会メンバーが頷く。
そして、私達が生徒会室に向かおうとした時。
「――あ、あのっ! 生徒会長さん!」
突然、背後からロベル君を呼ぶ声が聞こえた。
彼はゆっくりと振り返る。
「貴女は『神聖剣』の……」
そこにいたのは、こちらを睨みつけるようにして立つヒロインだった。
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