第2羽 攻略対象との出会い。そして……

 学校に着いて早々、一人の生徒に話しかけられた。


「おはよう、ロベルとスズ。今日は晴れて良かったな!」


 金髪の優男風の生徒が、ロベル君に親しげに話しかけてくる。


「アラン様、おはようございます」

「おいおい、様付けじゃなくて良いっていつも言ってるだろ?」

「そういうわけにはいきませんよ。アラン様はこの国の王子でいらっしゃいますから」


 この男子生徒――アラン・ラナンキュラスはこの国の第一王子だ。

 ゲームの攻略キャラの一人でもある彼は、金髪碧眼のとっても王子様らしい見た目をしている。

 だけど、今の喋り方からわかる通り……。


「お堅いなぁ、ロベルは。俺がこう言ってるんだから、気にしなくてもいいのに」


 性格は緩いというか、ちょっとチャラい。

 私としては、アランは日本で言うところの陽キャなパリピだと思っている。

 性格も身分も関係なく幅広い交友関係を持っているみたいだし、学校でも色んな生徒と楽しげにお喋りしてるところをよく目撃する。

 正直、もっと王子様らしく振る舞えないのかと思うけど、ゲームでもこうだったからしょうがない。


「……兄上。ロベル様を困らせてはいけませんよ」


 口を尖らせているアランの後ろから、紺色の髪の男子生徒が姿を現した。

 彼はアランと同じ色の瞳で、アランを睨みつけている。


「困らせているつもりは無いんだけど?」

「ロベル様はお優しいから、何も仰っていないだけです。その証拠にスズ様の目が冷たいのにいい加減気がついてください」


 そんなに冷たい目をしてたかな?

 まあ、ぶっちゃけアランはゲームでもそんなにタイプじゃなかったから、冷めた目で見てたかもしれない。


「ロベルだって別に困ってないだろう?」

「確かに困ってはいませんが……」

「ダメですよ、ロベル様。兄上を甘やかしたらもっと調子に乗りますから」


 その男子生徒が深いため息をつく。

 ロベル君はそんな彼に向かって困ったように笑った。


「あの、カーティス様。以前より私に様付けはいりませんと申し上げているのですが……」

「いえ、ロベル様にそんな無礼なことはできません」

「ですが、カーティス様は第二王子で、私は伯爵家の子息です。大変申し上げにくいのですが、私が敬語を使うならまだしも、カーティス様が私に対して敬語をお使いになられるのは外聞がよろしくないと思うのですが」


 私たちの目の前にいるこの男子生徒の名前はカーティス・ラナンキュラス。

 ロベル君が言った通り、彼はこの国の第二王子である。

 そして、彼ももちろん攻略対象である。

 アランとは異母兄弟にあたり、瞳の色以外はあんまり似ていない。

 アランが白馬の王子様なら、彼は戦場で戦う屈強な王子様だ。

 年齢はロベル君やアランの一つ下なのに、体格は彼らより大きい。

 そんな彼が何故ロベル君に対して敬語を使うのかというと、彼がアランに抱いていたわだかまりをロベル君が解消してくれたから……だと思う。

 兄であるアランは天才肌で何でもそつなくこなせたが、弟のカーティスは努力家だった。

 でも、アランにはどうしても勝てなかった。

 実際にはアランも影でめっちゃ努力を重ねてるんだけど、それを知らなかったカーティスはどんなに努力しても勝てない兄を嫌っていた。

 ゲームではヒロインが彼らのそういったわだかまりを解消したんだけど、この学校に入る前に彼らと出会ったロベル君がうっかり解消してしまった。

 いや、それ自体は悪いことじゃない。

 ただ、ゲームとは違う流れにしてしまったから、私の持っているゲーム知識が役に立たなくなりそうだ。

 ……ま、そもそもロベル君が生徒会長やってる時点で、ゲームと全然違う流れになってるんだけど。


「なんだよ、カーティスの方がロベルを困らせてるじゃん」

「……兄上よりはマシです」

「あ、困らせてる自覚はあるのな」

「兄上は自覚すら無いようですね」

「実際、ロベルは困ってないって言ってたじゃんか」

「だから、それはロベル様がお優しいからアホな兄上に気を使ってくださっているだけだと申し上げているではありませんか」

「おい待て、今サラッと『アホ』とか言わなかったか?」

「言いましたよ」

「酷い! お兄ちゃんはこんなにもカーティスのことを思ってるのに!」

「ウザイ。キモイ。白々しい」

「うわぁん! ロベルぅ、弟が冷たいよぉ!」

「ロベル様に引っ付かないでください!」


 ロベル君の腕にすがるようにくっつく兄を引き剥がそうとする弟。

 仲が良いのは構わないけど……これ、傍から見たらロベル君を取り合っているようにしか見えないからね?

 お前らが取り合うのはヒロインだろうが。

 何で私のロベル君を取ろうとしているんだ。


「お二人共、そろそろ移動しないと式が始まってしまいますよ?」

「ん? もうそんな時間か」

「バカに付き合っていたら日が暮れます。さっさと行きましょう」

「辛辣!」


 騒々しい王族兄弟と一緒に、私達は式場へと向かおうとする。

 すると、ロベル君が「あ」と声を上げた。


「申し訳ございません。生徒会室に忘れ物をしてしまいました。先に向かっていてください」

「珍しいな、ロベルが忘れ物なんて」

「お一人で大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。それに……」


 ロベル君が指で私の頬を撫でた。


「一人ではありませんから」


 目の前の兄弟二人が目をぱちくりさせる。

 そして、同時に微笑んだ。


「失礼致しました。スズ様もご一緒に行かれるのでしたね」

「スズも一緒なら大丈夫だろ。それじゃ、俺達は先に行ってるぜ」


 兄弟が式場へと向かう。

 その反対方向へ、ロベル君は歩みを進めた。


「チュン?(何を忘れたの?)」

「スズの首につけるリボンだよ。新調したのにうっかり生徒会室に置いてきてしまったみたいなんだ」


 私の首には今、ロベル君から貰ったリボンがついている。

 ちなみに今つけているものじゃないけど、ロベル君の人生初の買い物は私につけるためのリボンだった。

 貰った時は泣きましたよ、ええ。

 で、彼はそれ以来ちょくちょくリボンをプレゼントしてくれるようになった。

 でも、何故に今?


「チュピピ?(それ今じゃなくても良くない?)」

「ダメだよ! 大勢の人の前に立つんだから、可愛いスズをもっと可愛くしないと!」


 ロベル君は興奮しているのか、顔が赤くなっている。

 ロベル君、私を着飾ってどうするのさ。

 会場にいる人達が見るのはロベル君であって、私はおまけだというのに。


「スズは何もつけなくても可愛いけど、リボンをつけているともっと可愛くなるからね。隣にいる僕が霞んじゃうよ」

「チュンチュ(それは絶対ない)」


 ロベル君は普段真面目で優秀なのに、私が絡むと思考がポンコツになるんだよなぁ……。

 そこが可愛いけれども。


 そんな会話をしながら、角を曲がった時だった。


「――きゃっ!?」

「おっと!」


 ロベル君が走ってやってきた人物とぶつかった。

 彼は咄嗟に、倒れそうになったその子を抱き留める。


「大丈夫ですか?」

「はっ、はい……」


 ぶつかってきた相手は、どこかで見たことのある可愛らしい女の子だった。


 ……あれ、そういえばこの光景もどっかで見たことあるような?

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