第19羽 私が雀じゃなかったら
私が森の中で音がした方向へ全力前進していると、巨大なロボットみたいなのがロベル君を掴みあげているのが見えた。
もっと近づくと、ロベル君が苦しそうに呻いていることに気づく。
――ロベル君に何してくれとんねんゴラァ!
「ジュウジュウジュウ!」
私は衝動のままにそのロボットへぶつかっていく。
当たり前だけどロボットの身体が揺らぐことはなくて、むしろ私の脳が揺さぶられた。
うえぇ、気持ち悪い……。
でも、ここで諦めるわけにはいかない。
「ジュウジュウ!」
今度はロボットの目玉らしき赤いガラス玉を突っついた。
ここがロボットの目である確証はないけど、私に注意が向いてロベル君のことを離してくれればそれでいい。
これが功を奏したのか、ロボットの動きは止まっているみたいだった。
「す、スズ? ど、して、ここに」
ロベル君は私の姿に気づくと、苦しそうにそう聞いてきた。
息も絶え絶えなその声に、私の胸が痛くなる。
待っててね、今助けてあげるから!
私は早く助けてあげたい一心で、必死につついた。
すると、つついていた目が突然赤く輝き出した。
「危ない!」
ロベル君のそんな声が聞こえたと思うと、私の身体に衝撃が走った。
「え、何?」と思う間もなく、私の視界がクルクルと回って、再び硬い何かに衝突する。
地面にぶつかったということに気づいたのはその数秒後だった。
私は何度も起き上がろうとしたけど、身体が麻痺したように動かなかった。
最初の衝撃と地面に全身を打ちつけられたせいで、骨が折れたのかもしれない。
「スズっ!!」
ロベル君が私の名前を呼んだ。
それに答えたいのに、声が出ない。
まだロベル君が捕まってる……こんなところでへこたれてる場合じゃないのに。
意識が
「兄様、スズ! 返事をしてください!」
ああ、ユリウスもどこかで倒れてるのか。
きっと、彼もロベル君を助けようとして吹き飛ばされたんだろうな。
やっぱりゲームのユリウスとは違って良い奴だったんだね。
疑ってごめんよ。ロベル君のこと、守ってくれてありがとう。
……ダメだ。弱気になってきた。
霞がかる視界の中で、ロベル君がどんどん締め付けられていく。
――私がもっと早く行動していれば。
いや、違う。私が人間だったら、彼を助けられたんだ。
ユリウスやお父さんに、カーミラが危険な奴だってすぐ伝えられたし、今だってロベル君が捕まる前に彼を抱きかかえて逃げられたかもしれない。
何で、私は雀なんかになっちゃったんだろう?
……ごめんね、ロベル君。
「――りを」
ロベル君の声が遠くに聞こえる。
でも、いつもの彼とは様子が違った。
「二人を、傷つけるなあああぁ!!」
次の瞬間、ロベル君の身体から真っ黒なオーラが溢れ出す。
いや、あれはオーラじゃなくて魔力だ。
ゲームで見た、ロベル様が魔王として覚醒した時と同じような光景が目の前に広がる。
違うのは、ロベル君を捕まえているのが、謎のロボットだということ。
黒い魔力が触れたところ――ロベル君を握る手から、ロボットは塵になって消えていく。
抵抗しようとしたのか、ロボットはもう一方の手をロベル君に向かって振り下ろした。
しかし、それすらも魔力に触れた瞬間に塵となる。
やがて魔力はロボットの全てを飲み込んで、何もかもを消し飛ばした。
「……あれは、ロベルの、魔力、なのか……?」
私のそばでユリウスの声がした。
声が途切れ途切れで苦しそうだけど、生きていることがわかってホッとした。
良い奴だってわかったのに、死んじゃってたら悲しいもの。
「ロベルは……無事か」
黒い魔力が引いていくと、地面にうずくまるロベル君が姿を現した。
まだちょっと苦しそうだけど、目立った怪我は無いようだった。
「スズ……君は、何て無茶を、したんだ」
ズズッと何かを引きずる音が近づいてくる。
それと同時に、ユリウスの声もより近くに聞こえた。
彼が無理に身体を動かし近づいてきているとわかり、アンタも今無茶してるじゃないかと文句を言ってやりたくなる。
そんな声が出せるほどの気力は残ってないし、そもそも出せたところで彼には雀の鳴き声にしか聞こえないけど。
「待ってて、今、
ユリウスがそう言った直後だった。
「ああああああああぁぁぁ!!」
耳を劈くほどの叫びが森の中に響く。
その声の主は、ロベル君だった。
引いていたはずの黒い魔力が、再び彼の身体から溢れ出していた。
その魔力はどんどん膨れ上がり、周囲のものを消し飛ばしていく。
「ロベル!」
ユリウスがロベル君の名前を呼ぶ。
でも、ロベル君は魔力の中心で苦しそうに頭を抱えていて、声が聞こえた様子は無い。
その間にも黒い魔力は大きくなっていて、次第に触手のように表面がうねり出す。
その黒い触手が私達のすぐそばを掠めると、そこにあった草木を塵にした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
さっきよりも辛そうな叫び声が聞こえる。
でも、痛みに呻いている声には聞こえない。
私の意識がはっきりしないから、そう感じるだけかもしれないけど。
「くそっ、ロベルに近寄れない!」
ユリウスがロベル君に近寄ろうとしているけど、黒い魔力が邪魔をしてその場から動くことすらできない。
このままじゃ、私達は飲み込まれてしまう。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
普段のロベル君の声からは想像できないほど、低くしゃがれた叫び声。
かなりの音量なはずなのに、声が遠くに聞こえる。
でも、その叫びからは不安や恐怖、そして焦りを感じた。
……ああ、そうか。
ロベル君は怖かったんだね。
私やユリウスを失うことが怖くて、その力に頼っちゃったんだ。
でも、今度は自分で力を操れなくて、焦っちゃってるんだね。
このままだと私達を失ってしまうかもしれないのに、どうすることもできなくて。
私達を失うかもしれない不安と恐怖、そして力を操れないといけないという焦りが、更に魔力を膨れ上がらせているんだ。
――安心させてあげなくちゃ。
「心配しないで」と言って、彼を抱き締めてあげないと……。
そう思った瞬間、私の身体は熱を帯び、白く輝き出したのだった。
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