第10羽 親子喧嘩は雀も啄まない
えー、どうも皆さん。現場のスズです。
私は今、通気口内の真っ暗闇の中にいます。
ロベル君は今カーミラから指導を受けている真っ最中なので、彼の様子を見に行こうと、再び部屋を抜け出した次第です。
ですが、一向にロベル君達がいる部屋にたどり着きません。
もしかすると、ロベル君の部屋から一番離れた部屋でやっているのかも。
でも、私は諦めない。
ロベル君が無事かどうかを確かめないと、私は夜も寝られない。
にしても、この通気口は全部の部屋に繋がってるっぽいけど、やたらと部屋数多いな。
流石は貴族様の御屋敷。
そのうちユリウスの部屋とか彼らのお父さんの部屋を引き当てちゃいそうだと思ってたけど、ここまで多いと見つけるまでに何年かかることやら。
「――ユリウス! 一体どういうつもりだ!?」
突如聞こえてきた怒鳴り声に、全身がビクッと震えた。
ななな、何事ですか?
「どういうつもりだ、とは?」
あ、ユリウスの声だ。
怒られているだろうに、随分と冷静だなぁ。
……ん? 怒られてるってことは、相手はもしやお父さんなのでは?
「とぼけるんじゃない。ロベルに家庭教師をつけて良いなど許可した覚えはないぞ!」
「そうでしょうね。父上に許可を得ないまま、私の独断で決めたことですので」
「何だと……!」
ああ、やっぱりお父さんなのか。
ゲームでも話の中でしか登場してないからどんな人なのかわからなかったけど、声の感じは結構低くて、威圧的な喋り方のせいもあるだろうけど厳しそうな印象を受ける。
てか、今サラッとユリウスがとんでもないこと言ってなかったか?
「父上に申し上げても許可が下りないことは目に見えておりました。ですから、私が勝手にあの子に家庭教師をつけました」
ええ!?
てっきりお父さんが許可してくれたのかと思ってたけど、そうじゃなかったのか。
だから、お父さんブチ切れてるのね。
「……お前は自分が何をしたのかわかっているのか? これでロベルの存在が世間に知られるようになったらどうするつもりだ!」
「わかっております。家庭教師を引き受けてくださったカーミラさんにも口外しないよう言ってあります」
「しかし、彼女が屋敷に出入りしている時点で探りを入れてくる連中もいる。そうなったらロベルのことは隠し切れないかもしれないのだぞ!」
ロベル君のお父さんは、ロベル君のことを他の人に知られたくないのかな?
というか、もしかしてロベル君の存在そのものが他人に知られていない……?
お父さんが「世間に知られたらまずい」みたいなこと言ってるし、ロベル君の存在を知っているのは家族を除いたらこの屋敷で働いてる人達だけなのかもしれない。
でも、そんなことゲームに書かれてあったっけ?
ロベル様もこの事実を知らなかったのか、それともあえて主人公に言わなかったのか。
いずれにせよ、さっきの発言からお父さんがロベル君を世間から隠し続けているのは確かみたいだ。
でも、何でロベル君のお父さんは彼のことをそんなに隠しておきたいんだろう?
「――父上がロベルのことを隠したいのは、あの子がアコナイト家の恥になると思ってですか?」
ユリウスも、お父さんがロベル君を隠す理由を知らなかったみたいだ。
ロベル君に話しかける声よりも低い彼の声からは、明らかな怒りを感じた。
「……それは違う」
「では、何故あの子の存在そのものを隠すのですか? あの子は自分に魔力が無いから、父上は外に出ないよう命じているのだと思っておりますよ」
「それは間違いではない。あの子はまだ弱すぎる」
「弱いから隠すのですか? しかし、あの子は今、強くなろうとしています」
「……それが問題なのだ」
「はい?」
お父さんのものと思しき、長いため息が聞こえた。
「……とにかく、今回の件は許せることではない。家庭教師の方には謝礼を渡して、ロベルの家庭教師を辞めてもらいなさい」
結局、お父さんはロベル君を隠したい理由を明かすつもりは無いみたいだ。
ユリウスにも話せないような理由ってなんだろう?
実は本当にロベル君を家の恥晒しとか思ってるんじゃないだろうな……?
そうだとしたら、ロベル君の実の父親だろうが許さないぞ!
「父上。私はもう、あなたに言われたことをただ実行するだけの人形ではありません。父上があの子のことを蔑ろにするのであれば、私はあなたに逆らいます。あなたに従ってこの家を継ぐくらいなら、ロベルのことを守って勘当されますよ」
お、おお!
よくぞ言ってくれたユリウス!
ぶっちゃけお父さんは何考えてるのかわかんないから敵とは言い難いけど、ユリウスはロベル君の味方になってくれるみたいだ。
流石我が同志!
でも、ロベル君にやたらめったら会いに来るのは止めて欲しい。
私とロベル君の二人きりの時間が減っちゃうからな!
「ロベルの家庭教師は絶対に辞めさせません。このまましばらく彼女にはロベルに魔法を教えてもらいます」
「勝手な真似を……!」
「では、勘当なさいますか? もしそうするのであれば、私はロベルを連れてこの家を出ますよ。そうなったら、この家の跡取りはどうするおつもりで?」
あっ……なるほど。
ユリウスが強気なのはそのせいなのか。
確か、ゲームでもアコナイト家の跡取りはユリウスとロベル君の二人だけだった。
つまり、今彼らが縁を切ったら、アコナイト家は跡取りがいなくなる。
まあ、貴族なんだから養子を取るなり、後妻を迎え入れて新しく子供を作ったりしても良いような気はするけど。
「お前は実の父を脅すつもりか?」
「そのようなつもりはございません。父上ほどのお人であれば、我々がいなくなったところでどうとでもやりようがあるでしょう?」
ユリウスの言葉に、お父さんは押し黙ってしまった。
ユリウスの言う通り、やりようはあると思うんだけど、お父さんには養子や後妻を取れない理由でもあるのかな?
「父上のロベルに対する態度について私に納得のいく説明ができるのであれば、私はあなたの指示に従います」
「……それは言えない」
再び流れた長い沈黙。
……静かな親子喧嘩って、見てる方が辛いんだなぁ。
つい気になって盗み聞きしてたけど、そろそろ居た堪れなくなってきた。
「……父上はいつもそうですね。大事なことは何一つ私に教えてくれない」
ユリウスの声は、酷く悲しそうに聞こえた。
「父上にも事情があるのはわかっております。ですが……仰ってくださらなければ、伝わらぬこともあるのですよ」
その後、ユリウスは「失礼します」と言って、部屋から出ていく音がした。
……うーん、お父さんがユリウスに自分の考えを隠しちゃってるのが原因で、親子仲がこじれちゃってるみたいだ。
ゲームだとそんな話は無かったけど、ユリウスはお父さんのことを殺しちゃうんだよね。
ゲームでも、ユリウスとお父さんの仲は最悪だったのかもしれない。
殺してしまうくらいなんだから、余程のことがあったのかな。
……まあ、今の私がどうこうできる問題じゃないね。
ユリウスとお父さんの問題は当事者同士で何とかしてもらいましょう。
さて、長居しすぎたな。
さっさとロベル君達を探さないと、授業が終わっちゃうよ。
「――うっ、ぐすっ」
不意に聞こえてきた啜り泣く声に、私の足が止まった。
「ううう、またやっちゃったよう……」
さっきまで聞いていたはずの声なのに、威厳の「い」の字も感じさせない声音にチェンジしてて、私の頭は大混乱している。
「ユリウスに嫌われたー!」
その人物はそう言うと、「わぁぁん!」と大声で泣き叫び出した。
いや、低くて渋い声でそんな泣き声出されても。
えーと、もしかしなくても、この泣き声の主は……。
「パパ失格だぁぁぁ!」
やっぱり、ロベル君達のお父さんですよね?
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