第8羽 厳しい女教師と聞くと尖ったフレームのメガネを着けているイメージがあるのは何故だろう?
さて、遂にカーミラが家にやって来る日になりました。
さあ、
「スズはここでお留守番だよ」
着いていこうとした瞬間、ユリウスにそう言われた。
何でも、カーミラはあまり動物が好きじゃないみたいで、私を見たら引き受けてくれないかもしれないからだそうだ。
これじゃ、カーミラがどんな奴か確認できないじゃないか!
「ジュウジュウ!」
「ごめんよ。でも、こればかりはどうしようもないんだよ」
「スズ、ごめんね。お留守番よろしくお願いします」
ちょっと反抗してみたけど、ユリウスにあっさりあしらわれた挙句、ロベル君にもこんなことを言われてしまった。
結局、ユリウスとロベル君は私を置いて部屋から出ていってしまった。
こうなってくると、私はどうするべきなのだろうか?
ユリウスを信じるか?
今の奴なら信頼度は高い。
日々の言動からしてブラコン感が強いし。
だけど、ゲーム通りの筋書きにならないとも限らない。
何らかの要因――例えば、他人に唆されて、とか。
くぅ、やっぱり自分の目で確かめたい!
となると、まずはここから脱出しなくては。
ロベル君と暮らし始めてからは、一度もこの部屋の外に出たことがない。
ロベル君とずっと遊んでいたから、この部屋の構造も把握しきれてないし。
身体が小さいから、どこかに穴があれば抜けられると思うけど……。
「……チュピ?」
飛んで天井付近まで上がっていくと、角のところに丸くくり抜かれた穴があった。
近づいて中を覗くと、管のようなものが通っている。
恐らく、通気口みたいなものなんじゃないだろうか。
今の私ならギリギリ通れそうな大きさだ。
もしかすると、ここから抜け出せるのでは?
そっと中に入って、異常がないか確認する。
特に他の生き物はいなさそう。
虫ならまだいいけど、ネズミなんかと鉢合わせたら大変だからね。
奥の方を見れば、薄らと明かりが見えた。
やっぱり、どこかに繋がっているみたい。
私は意を決して、穴の中を進んでいった。
最初に見えた明かりは、別の部屋に繋がる穴から漏れていたものだった。
その部屋を覗くと、本がぎっしり詰まった本棚とペンなどが乗っている机が見えた。
誰かの書斎のようだけど部屋主はおらず、窓からの明かりだけが部屋を照らしていた。
ロベル君達がいなかったので別の部屋を探そうとした時、視界の端に気になるものが映った。
机の横の方に置かれた、紙がセットされている機械。
よく見ると、機械本体にはキーボードのようなものがついている。
あれはもしかして、タイプライターなのでは?
実際にはお目にかかったことがないけど、写真ではあんな感じだった気がする。
ゲームでは登場してなかったと思うけど、タイプライターなんてあるのね。
タイプライターって、中世より後の発明品だったと思うんだけど。
中世ヨーロッパ風の世界観だと思ってたけど、文明的には意外と進んでいるのかな。
ま、今はそんなことどうでもいいや。
早くロベル君達を探さないと、今日は顔合わせだけみたいだからカーミラが帰っちゃうかもしれない。
そう思って、私は再び通気口の中へと戻った。
またしばらく進んでいると、今度は複数の人が喋っている声が聞こえてきた。
耳を澄ますと、女性と男性の声の中にロベル君らしき声も聞こえた。
――間違いない、この部屋だ!
私はゆっくりと部屋へと近づいた。
「――では、引き受けてくださるということでよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですわ。可愛い弟弟子の頼みですもの」
多分ユリウスとカーミラが話しているのだろう。
もうちょいで部屋の中を確認できそうなんだけど、もうすぐ会話が終わっちゃいそうだ。
急げ急げ!
「よろしくお願いします、カーミラ先生」
「あら、先生だなんて嬉しいですわ。こちらこそよろしくお願いしますね、ロベル様。……ところで、アコナイト伯爵様はいらっしゃらないのでしょうか?」
「父上は所用で出かけております。何か御用でもありましたか?」
「いいえ。ただ、ご挨拶させていただきたかっただけですわ。これから大切なご子息を預からせていただくことになるのですから」
「そうでしたか。本日は申し訳ございませんが、また後日いらした時に」
「わかりましたわ。それでは今日はこれで失礼させていただきますね」
セーフ、間に合った!
カーミラが帰っちゃう前に奴の顔を拝まねば。
どれどれ……あれ、意外と優しそうな見た目してるじゃん。
カーミラは緩いウェーブのかかった茶髪をしていて、丸いメガネの向こうからは翡翠色のタレ目が覗いていた。
つり目でキチッとした厳しそうな女性を想像してたから、ちょっと拍子抜けかも。
「……あら?」
部屋から出ようとしたカーミラが、不意に私の方を見た。
慌てて引っ込んだけど、めっちゃこっち睨んでたし、気づかれたか?
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何かいたような気がしたものですから」
「何かとは?」
「小動物かと一瞬思いましたが……そんなわけございませんわよね。きっと虫がいたか、私の気のせいですわ」
どうやら、気づかれてはいないみたいだ。
でも、あの睨んだ目、怖すぎなんだけど。
何か、小動物によっぽど恨みでもあるのかな?
「小動物がお嫌いと聞きましたが、本当なのですね」
「ええ。昔ちょっと色々ありまして。それ以来ネズミやら雀やら、小さい動物は嫌いなのですわ」
「そうなんですか……」
ロベル君が悲しそうな顔をする。
ロベル君は動物好きなのに、あんなハッキリと「嫌い」って言われたら悲しいよね。
「じゃあやっぱり、スズと一緒に授業は受けられないね……」
あ、ロベル君が悲しんでたのはそっちか。
でも、確かにロベル君と一緒に授業を受けられないのは不安だな。
見た目が優しそうでも、ゲームの通りにならないとは限らないし。
「『スズ』とはどなたですか?」
ロベル君の呟きを聞いたカーミラがそう尋ねたけど、彼は戸惑っていた。
まあ、小動物嫌いな人に「雀を飼ってます」なんて言いにくいもんね。
そんな彼に代わって、ユリウスが彼女の質問に答えた。
「実は、今我が家で雀を飼っているのです」
「あら、そうでしたの?」
カーミラがあからさまに嫌そうな顔をする。
このままだと断られるんじゃないか?
そう思ったけど、流石はユリウスと言うべきか、すかさず言葉を続けた。
「ですが、カーミラさんがいらしている間は部屋から出さないようにしますので、どうかご安心を」
にっこりと微笑むユリウスは妙な信頼感が出ていた。
こいつの言うことなら大丈夫だろう、みたいな。
「……それなら、まあ、大丈夫ですわね」
少し悩む素振りを見せていたカーミラだったけど、結局は納得したみたいだった。
くそっ、そのまま断ってくれれば良いものを!
「本当に申し訳ございません。どうぞこれからよろしくお願いします」
「いえ、私の都合ですし、ユリウス様が気になさることではありませんわ。こちらこそよろしくお願い致しますね」
そんな会話をした後、彼らは部屋を出た。
誰もいなくなった部屋を眺めながら、私はため息をついた。
頑張って部屋を抜け出したはいいけど、カーミラがどんな性格なのかまではわかんなかったな。
唯一、小動物が嫌い、つまり私とは絶対に相容れない奴だということだけはわかった。
でも、カーミラがたとえどんな奴だったとしても、もう引き受けられちゃったからなぁ。
これからの私にできることは、ロベル君の変化に気づいてあげることだけだと思う。
本当はロベル君に変化があった時、誰かに知らせられれば良いのだけど……ただの雀には彼の支えになってあげることしかできなさそうだ。
まあ、何も無いのが一番良いんだけどね。
とりあえず、今日はもうロベル君の部屋に戻ろう。
そんでもって、寝るまでの間は彼と一緒に楽しく遊ぶんだ。
これからはロベル君と遊べる時間が減っちゃうから、思う存分ロベル君を堪能するぞ!
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