第7羽 遂にあの瞬間がやってきた……!

 ロベル君と一緒に暮らし始めて数日経ったある日のこと。


「ロベル。今日は良い話を持ってきたよ」


 ユリウスがそんなことを言いながら、突然部屋に入ってきた。

 ちなみに、あの日以来、こいつはやたらとロベル君に会いに来るようになった。

 朝起きた時とか、出かける前とか、家に帰ってきた時とか、寝る前とか、とにかくウザったいくらい来る。

 この間とかは、一緒に朝食をこの部屋で取った。

 以前にもこういうことがあったのかと思ったけど、ロベル君の反応を見る限り、初めてのことだったみたい。

 その時は正直ロベル君と二人きりの時間を邪魔されてイラッとしたけど、ロベル君が嬉しそうだったから我慢してあげた。

 本当はもう「お前の目ん玉つついてやろうか!」ってくらいイライラしてたけど、ロベル君の可愛さに感謝して欲しい。


「良い話、ですか?」


 ロベル君は最初こそ頻繁に会いに来る兄に戸惑っていたものの、今では突然の来訪にも動揺しなくなっていた。


「ああ。ロベルは以前、魔法を習いたいと言っていただろう?」


 その言葉に、ロベル君の手の上にいた私はビクッとした。

 ま、まさか……。


「実は、ロベルに魔法について教えてくれる先生が見つかったんだ」


 つ、遂に来てしまった!

 ここ最近のユリウスの行動で、こいつがロベル君を裏切るなんて信じられないと思ってきていたのに。

 ここに来て、ゲームと同じ展開が来ちゃいますか!?


「兄様、本当ですか!?」


 あああ、ロベル君嬉しそう……。


「私がロベルに嘘をつくわけないだろう?」


 ゲームだとめっちゃ嘘ついてましたけどね。

 でも、これこそ嘘であって欲しかったよ……。


「私が師事している先生の昔の教え子が、ロベルの家庭教師をやっても良いと仰ってくれてね。女性の方で、名前はカーミラさんと言うんだ」


 げぇ! カーミラって、あの女家庭教師の名前と同じじゃん!

 これは絶対に阻止しなくては!


「チャンチャンチャン!」


 私はロベル君に必死に抗議した。

 カーミラは危険だ!

 習うにしても、せめて別の人に変えてもらいなさい!


「はは、スズちゃんも応援してくれてるみたいだね」


 ちっがーう!

 何を適当なことを言ってくれちゃうんだ、ユリウス!


「家庭教師をやってもらうにあたって、ロベルの事情をある程度は話したんだ。それでもやってくださるそうだから、これを逃すともう見つからないかもしれない」


 うっ、追い打ちをかけるようにそんなこと言いやがって!

 そんなこと言われたら、ロベル君が二つ返事で頷いちゃうでしょ!


「でも、家庭教師をつけてもらったら、スズと遊べる時間が減っちゃうよね……」


 おおっと、ロベル君が迷いを見せているぞ。

 これならもしかすると、引き受けないのでは?


「……でも、魔法のことを知ったら、使えるようになるかもしれない。そしたら、きっと……」


 ロベル君は何か小さく呟くと、次の瞬間、勢いよく顔を上げた。


「僕、魔法を習いたいです!」


 ああああああぁぁぁ!

 ちょっと迷う素振りを見せたけど、結局受けちゃうのね!

 くそぅ、私が言葉を話せたら、絶対にダメだって言ってあげたのに!


「わかった。先方にもそう伝えておくよ。詳しい日取りはまた後日にね」


 そう言って、ユリウスは去っていった。


「チュン……」


 ユリウスの奴め、これでロベル君が酷い目に遭ったらどうしてくれるんだ。


「ごめんね、スズ」


 ロベル君が申し訳なさそうな顔を私に向けた。


「これからは遊べる時間が減っちゃうけど、でも、僕はやっぱり魔法を覚えたい」


 うっ。そんな顔をされたら、何も言えなくなるじゃないですか。


「魔法を使えるようになったら、君ともっと色んな遊びができると思うんだ」


 彼の言葉に私は「えっ?」となった。

 確かゲームでは、幼いロベル様が魔法を覚えようとしたのは父親を含む周囲の人に認められたいからだったはず。

 その目的が、私のためになってる?


「外にだって出れるようになるかもしれないし、それに……君にもしもの事があっても、守ってあげられるでしょう?」


 ロベル君が、私のことを守りたい……?

 一緒に暮らすようになって、彼と仲良くなれたとは思っていた。

 でも、まさか、そんなにも私のことを大切に思ってくれていたなんて……。


「チーッ……!」


 嬉しさのあまり、私の目から涙が出た。

 これぞホントの雀の涙……なんてね。


「えっ!? ど、どうしたの?」


 突然私の目から涙が出たことに、ロベル君が慌て出した。

 ただの嬉し泣きだから心配しないで、と伝えるためにロベル君の手にスリスリする。


「チュンチュッ」

「『心配しないで』って言ってるの?」

「チュピ!」

「君がそう言うなら……でも、何かあったら僕にちゃんと教えてね。まだ非力だけど、君のことを守りたいから」


 ううっ、本当に優しい子だよロベル君!

 しかし、そんなロベル君にカーミラは酷いことするのよね……。

 というか、まともに魔法を教えてたのか?

 体罰ばっかで、ちゃんとした授業してないんじゃないか?

 もしそうだとしたら、ロベル君の決意が無駄になってしまう!

 でも、ユリウスといい、最近ではメイドさん達の対応も冷たくなくなってきているから、もしかするとゲームの展開から外れてきているのかもしれない。

 まずは、カーミラがどんな奴か見極めなくては。

 ゲーム通りのクソ女じゃないことを祈ってるけど……何だか嫌な予感がしてるんだよね。

 どうか何事も起こりませんように!

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