第5羽 可愛いは正義だよね
翌朝、ロベル君と一緒に朝食を取った。
その後、昨日夕飯を運びに来た女性が食器を回収しに来たんだけど。
「……ロベル様」
その女性が突然ロベル君に話しかけた。
私も驚いたけど、それ以上に彼はビクッと肩を震わせた。
「は、はい。なんでしょうか?」
「昨晩ユリウス様の所在を尋ねられましたが、何か用件があったのですか?」
「え、あ、はい……」
女性は無表情のままなので、その意図が掴めない。
ロベル君もそうなのか、ビクビクしていた。
一体彼に何をしようとしてるんだ?
彼を酷い目に遭わせようというのなら、全力で止めなくては!
「……お呼び致しましょうか?」
「えっ?」
「ですから、ユリウス様をお呼び致しますかと申し上げているのです」
うわっ、言葉遣いは丁寧なのにめっちゃ偉そう。
これには流石のロベル君も苦笑いしそう……。
「ほ……本当ですか!?」
えぇぇぇ!?
ロベル君、めっちゃ目を輝かせてる!?
「ああああの、それじゃあ、お願いします!」
相当興奮しているのか、ロベル君の舌が回っていない。
そんなところも可愛いけど!
「……か、かしこまりました」
女性はロベル君から顔を逸らすと、そのままワゴンを押して去っていった。
……一瞬見えた女性の顔が、赤いように見えたのは気のせいですかね?
「あんなこと初めて言われた……いつもは自分から言わないと会わせてもらえないのに、メイドさんから話しかけてくれるなんて」
満面の笑みを浮かべるロベル君はとても可愛いけど、言っている内容に胸が苦しくなる。
いくら魔王の特性で嫌な感じがするにしても、小さい子供なんだからもっと優しくしてあげてもいいと思うのだけど。
「今から兄様に治療してもらおうね」
ロベル君になでなでされながら待っていると、それほど経たないうちに扉をノックする音が響いた。
「ロベル? いるかい?」
「はい、兄様」
開かれた扉から、一人の青年が室内へと入ってくる。
「昨日は会えなくてごめん。私に何か用があったのだろう?」
その青年――ユリウスは、深い青の瞳を細めて笑った。
立ち絵すら無いキャラだったからどんな奴かと思ったけど、流石ロベル様の兄。
黒髪碧眼で、タレ目が印象的なイケメンだ。
見た目だけで言うなら、めっちゃ優しそうなお兄さんである。
「あの、実は……」
ロベル君はおずおずと、ユリウスに私のことを見せた。
「……この小鳥はどうしたんだ?」
「部屋の窓にぶつかってきたんです。酷い怪我をしていて……その……」
「私に治して欲しいんだね?」
ロベル君が小さく頷いた。
「わかった。治してあげよう」
ユリウスの言葉に、ロベル君の顔がパァと明るくなる。
「ありがとうございます、兄様!」
はい、ロベル君の可愛い笑顔いただきましたー!
ふふふ、余りの可愛さにユリウスも目を瞬かせているよ。
流石はロベル君。
「……じゃあ、その子の傷を見せてもらってもいいかな?」
「はい」
ロベル君が私の包帯をゆっくりと外し、ユリウスに見せた。
「ああ、だいぶ深い傷だね。ロベルがきちんと手当てしてあげていなかったら危なかったかもしれない」
「な、治せますか……?」
「心配しなくても大丈夫。これくらいなら
ユリウスが私に手をかざし、「
すると、ほのかに傷口が温かくなり、痛みが薄れていく。
「はい、これでもう大丈夫」
傷があったところを見ると、跡すら残らず綺麗さっぱり無くなっていた。
おお、流石は魔法。普通に治してたらこんなに綺麗に治らないよね。
ちょっと感動していると、ロベル君にヒョイと持ち上げられた。
「良かったね、小鳥さん」
そう言って、彼が私に頬ずりをする。
んんん、可愛い!
私もスリスリしてあげよう!
「チーチーチー!」
「わぁ、くすぐったいよ」
そんな私達の様子を見て、ユリウスが目を大きく見開いていた。
「……驚いたな。まさか、ロベルに懐いているのか?」
ユリウスの口から零れた言葉に一瞬首を傾げたけど、そう言えば、ロベル様って動物にも嫌われていたような……?
特に動物は本能的な恐怖を感じやすいから、彼の傍には虫すら近づかないとかゲームで言っていた気がする。
もしかして、幼少期もそうだったのかな?
あれ? でも、それなら何で私は怖く感じないんだろう?
もしや、これが転生者特典というものですか?
うーん、ロベル君と仲良くなれるのは嬉しいけど、それだったら人間にしてくれても良かったんじゃないかと思っちゃうな。
「ロベル。お前はその小鳥をどうしたいんだい?」
「え?」
「元は野生の鳥だろう? 傷を治したのなら、野生に返してあげるのが一般的な対応だと思うけれど」
うぐぅ!?
そ、そうだった。私、野生の雀でしたね。
普通はユリウスの言うように、野生に戻すよね。
しかし、今の私にはロベル君を可愛がるという重要な使命があるのだ!
ここで野生に返されては困る!
「チュチュチュチュチュ!」
私はさらにロベル君に擦り寄った。
今の私に出来る「私はこんなにロベル君のことが好きですよ」アピールである。
言葉は通じなくても、これで引き離されるのが嫌だというのが伝わるはず……いや、伝わってくれ!
「小鳥さん……」
ロベル君が頬ずりするのを止めた。
え、まさか、私のことを野生に戻す気ですか……?
い、嫌だ。私はまだ、ロベル君を愛でていたいんだ!
「兄様。僕は……」
ロベル君の手が、私をそっと包み込んだ。
「この子と、一緒にいたいです」
長い前髪の向こうから見える、ロベル君の赤い瞳が私をじっと見つめている。
ろべ、ロベルぎゅんっ……!!
一瞬でも疑った私を許して!
やっぱり君は天使だよ……!
「だ、ダメでしょうか……?」
ロベル君がユリウスを上目遣いで見る。
ユリウスはにっこりと微笑んだ。
「可愛いから大丈……じゃなかった。この屋敷で飼うなら、父上に聞いてみないとわからないかな」
ん? 今ユリウスの奴、「可愛い」って言わなかった?
「そうですよね……」
「でも、私も父上から許可を貰えるよう協力するから、そう気を落とさなくていいよ」
「そんな、兄様のお手を煩わせるわけには」
「私がロベルのためにやりたいんだ。さあ、まずは父上に許可をもらうためにこの小鳥について調べようか」
ユリウスは「図書室に本があるから取ってくるよ」と言って、部屋から出ていった。
あれ、思ったより良い奴なのでは?
しかも、ロベル君を可愛いとか言ってたし……。
いや、油断は禁物だ。
いずれロベル君を裏切るかもしれん危険人物に変わりはない。
一先ず、ロベル君と一緒にいられるように頑張らねば。
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