工業の魔都ヒルセン2
アタシはイグノちゃんの先導で、迎賓館からの直通エレベータに乗り、ヒルセンの地下区画に向かう。後ろからは、通信用魔珠を捧げ持ったメイドさんが続く。ヒルセン出身の
「フィアラ陛下、通信を繋いだままで大丈夫ですか?」
“いえ……あの、軍事機密でしたら到着後でも結構ですけど”
「
“それでしたらおそらく、大丈夫です。馬車や船では、酔ったことがないので”
というような話をしているうちにエレベーターは止まり、アタシたちは地下フロアに出る。あえて王妃に説明はしなかったけど、このエレベーターは、迎賓館の賓客を有事に非難させるためのものだ。敵の侵攻があった場合、ここから最短距離で地下通路を抜けて船舶による脱出を図るわけだ。
そのプラン自体は書面で見せられていたけど、地下に入るのは初めてなのでルートは覚えていない。それ以前に、広大過ぎる空間に生産・管理・収容と機能ごとに分かれた管理ブロックが並んでいて、ここで迷子になったら帰れる自信がない。
「陛下、そこを右です。動く歩道の赤いルートに乗ってください」
歩く歩道――が普通に作られていたことにも驚かされたけど、エレベータもそうだと思い直す――に乗ること数分。降りると同時に、目の前の鉄扉が開く。
「こちらが、試作品の保管倉庫になります。1号から4号までありますが、こちらは1号倉庫です。試験運用を通過し実用化に近いものほど、若い番号が振られた倉庫に移動することになります」
扉から内部に入ると、広さと奥行きがそれぞれ20mほどの殺風景な空間。高さは10mほどで天井には照明が吊るされ、縦横にパイプやケーブルが走っている。
用途も不明な物資やら資材やらがギッシリとストックされているため、広さのわりに閑散とした感じはない。獣人族のスタッフや、彼らが使役する
なにこのシステマティック物流。ここだけ現代日本レベルだわ。
「こちらです」
イグノちゃんが示す先には、彼女が王国に提案したいものがあるのだというけど……見た瞬間に、やらかしてしまったことが分かった。イグノちゃんではなく、アタシが。いつものことながら世間話のひとつとして、ちょこっと適当なことをいってしまったのを思い出したからだ。
「これ……って、ああ。そうよね」
“魔王陛下、どうされました? それは、いったい……”
「失礼、フィアラ陛下。これは……列車砲、ですね」
小型の専用貨車に積まれたそれは、漫画で見るような……というかアレね。サーカスで人間大砲なんかで使うような、いわゆる“大砲”って形。サイズは、思ったより小さい。砲の前側基部には、
イグノちゃんに話したこれの元ネタは、第二次世界大戦のドイツが作ったという超巨大なバケモノなので、それに比べると穏当なものに仕上がったと、いえなくもない。
「それで、これが、イグノちゃんの提案なのよね? アタシにはまだ、なんとなく、わかるようなわからないような感じなんだけど」
「はい。王国への鉄道施設の建設・レールの敷設はもう少しで始められると思いますが、それに伴い、考案・検証していたものが、こちらです」
考案て。もうキッチリ生産済みなんじゃないのよ。
“列車砲、というのは……つまり、鉄道に載せる、砲……ということですの?”
「そうです。レールの敷設は魔王領と王国南部、そこから中央の王都を繋ぐ路線から始めますので、一石二鳥かと思います。ルコックに積まれている蒸気砲より小型軽量ですが、こちらは魔力充填式ですので、威力はほぼ変わりません」
“魔力
「魔力
投石砲の魔力版ではなく、むしろアタシの小銃を大型化した物か。そう尋ねると、イグノちゃんは笑顔で首を振った。
「原理は近いですが、こちらは曲射も可能になります。最大射程は5
あら。王妃陛下があんぐり口を開けたまま固まってしまったわ。
「イグノちゃん、それ味方に被害が出ちゃうから、自国内だと使えなくない?」
「はい。ですので、帝国との国境になるリニアス河の堤防にレールを敷いて、対岸への攻撃に使えないかと思っているのです」
あまりにも長い河沿いの国境線は、守る側にとって対処し切れない困りものだが、鉄道に積載したこの砲があれば、一瞬で移動と攻撃が可能になる。
「どうでしょうか?」
“……どう、といわれましても……”
王妃陛下は
“魔王陛下、あの……本気でこれを、王国に?”
アタシが
アタシはヤケクソ気味で、引き攣った笑顔のまま魔珠を見据える。
「もちろんですわ、王妃陛下♪」
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