大怪我も功名の内

 広がる荒野の至る所で飛び交う斬撃、轟く爆発音。

 それらを眼下に見据えて、俺は城壁の上から戦況をジッと観察し続けており。

 近くまで飛んできた火炎系の流れ魔法が爆発し生じた熱風で髪を揺らされながら、観察を始めて以来ずっと思っていたことを口にした。

「なあ、めぐみん。紅魔族の打つ魔法ってのは物凄く強力なんだよな?」

「え、ええ。威力は然ることながら、魔法の精度でも国内最高クラスのはず、です……」

「……だよな」

 隣で佇むめぐみんの言葉に、俺はこくりと頷く。

「なあ、クリス。凄腕冒険者ともなれば、回避スキルや逃走スキル持ち相手でも切り刻めるよな?」

「あっ、あはは。まあ、そうだね。多少の相性の問題は有れど、高レベルな人ともなれば何かしらの対策は用意してると思うよ」

「……ですよね」

 同じく隣で戦場を見ていたクリスに確認をとる。

 なるほど、二人の意見を聞き俺の考えは確信に変わった。

 俺はすうっと深く息を吸い込み――


「強すぎだろおおお!!」


 心の底から思った事をぶちまけた。


 ――アイリスの不意打ち斬撃を合図に切って降ろされた今回の戦闘も、もうすぐ三十分ぐらい経つだろうか。

 初めのうちは、火力自慢の冒険者に神器での回復が追い付かないぐらいの猛攻を加えてもらい、勝利の糸口を探る。

 そういう作戦を立てていたのだが。

 戦闘が始まるや否や、クイーンは指をパチンと鳴らして数十体にも及ぶ自立型ゴーレムを生み出し、こちらに仕向けて来たのだ。

 そのため戦力の分断は免れず、それでもゴーレムを突破してクイーンに辿り着く人もいるにはいるのだが……。


「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

「『インフェルノ』!」

「『カーズド・クリスタルプリズン』ッッ!」

「『ライトニング・ストライク』ッッッ!」


 魔法使い職は各々の最高火力を遠慮なくクイーンに向かって放つ。

 しかしその魔法が当たる直前、クイーンが余裕の表情で手をバッと横に薙ぎ払うと。


「嘘だろっ!? 俺の魔法が弾かれた!?」

「なっ、なんで!? 直撃したはずなのに打ち消されてるっ!」

「ぎゃあああっ! 下半身が氷漬けにされちまったあああ!」

「て、『テレポート』ッ!」


 ある魔法は明後日の方角へ飛んで行き、またある魔法は暴発したかのように掻き消され、中には自分の魔法が倍以上の威力で反って来た人もいるようだ。

 悲痛な声をあげる魔法使い職の間をすり抜け、今度は前衛職が各々鍛え上げた技を叩き込んでいく。

 そんな幾重にも交差した攻撃を、だがクイーンはダンサーの如く華麗に躱し切り、


「ぐはっ!」

「痛ってええええっ! おっ、折れた……っ! 俺の腕が折れたあああ!」

「なっ、俺のハンマーが粉々にっ!?」


 クイーンを囲っていた人々から絶叫が上がっていた。

 そしてクイーンが大きく距離を開けた時は、アーチャー達がすかさず矢で追撃するも、まるで透過でもしたかのようにクイーンにはダメージが通らない。

 こんな調子で既に半分以上の人が前線を退いており、プリーストや救護班の治療が全く追い付いていなかった。

 これでもクイーンが後退する人や回復陣に攻撃を仕掛けていないだけ、まだ良心的と言えるだろう。


「はははー、あそこまですごいと笑いしか出てこないな」

 乾いた笑い声をあげる俺と同じ気持ちなのか、隣にいる二人も苦笑する。

「ていうかあれマジでなんなの? 魔法は効かない、近接戦もお手の物、勿論魔法や体力は無尽蔵。そんな奴どうやって倒せって言うんだよ!」

 破壊の神を名乗るだけあって、こうして真正面からやり合うとそのヤバさが骨身に染みて理解できる。

「その、ごめんね。あたし達がもっとちゃんとしてたら、皆にこんな無茶させないで済んだんだけど……」

 申し訳なさそうに細々と謝ってくるクリスに、

「ホントそうですよ、あんな危険な奴逃がしちゃ駄目でしょ!! ゴーレムはゴーレムで、やっと壊せたかと思ったら足元の土を使って復活するし。真っ二つに切れたと思ったら二体に増えるし、何の悪夢ですか! もっとしっかりしてくださいよ!」

「……まったくもって仰る通りです、本当にごめんなさい!」

「カズマ、クリスは悪くないのですから八つ当たりしては可哀想ですよ」

 めぐみんの言う通り、クリスに当たっても仕方がないと分かってはいるが、不満の吐き出し口がなくついついキツく言ってしまった。

「悪い、俺も言い過ぎた。それよりお前ら、なんか気付いた事はないか? 俺達が後方で待機してるのは、何か反撃の糸口がないか探るためなんだからな」

 なにもすぐに逃げられるように最後方で待機している訳ではないのだから、自分の仕事ぐらいは熟さなくてはならない。

 俺の言葉に、普段の言動はともかく一応は頭が切れ魔法に詳しいめぐみんが、

「見た限り魔法操作を行っているのでしょうが、扱いが不得手な属性はなさそうですね。そもそも、我が爆裂魔法さえ粉砕できるのですから、あの程度の魔法乗っ取れて当然でしょう」

 なぜお前がそこで胸を張るんだ。

「お前もクイーンに一泡吹かせようと対策を練ってたんだろ? いい案の一つや二つ出なかったのか?」

「うぐっ、それなんですが……。爆裂魔法によりダメージを食らうよりもクイーンが魔法を乗っ取るほうがどうしても速くて、……警戒されている状態では打つ手がありません……」

「その事実は知りたくなかったよ」

 そう言って杖をぎゅっと握り悔しそうにするめぐみん。

「それじゃあ、あのクイーンの異常なまでの回避率はどういう仕組みだ? 武器破壊や弓矢が当たらない現象に至っては意味分かんないし」

「回避率に関しては、完全に経験の賜物だろうね。多分スキルなんか使わなくても無意識に身体が反応するんだよ」

 その疑問に答えてくれたのは、この場において恐らく一番クイーンについて詳しいクリスだった。

「そして矢が通り抜けるように見えるのは、矢が当たる瞬間だけ体捌きで避けてるから。武器が木っ端微塵にされてるのは、あの方が無機物を粉砕する技術を持ってるから、ってところかな」

「やけにクイーンの事を詳しく知ってるんですね。独自の情報ルートでも持ち合わせてるんですか?」

「えっ!? あっ、ま、まあそんな感じかな。あは、あはははっ!」

 まさか天界から調べて来たとも言えず、めぐみんから眼を逸らして頬をポリポリ掻くクリス。

 無機物を粉砕と言えば前にめぐみんが、屋敷を修復する時にクイーンが岩石を指で粉微塵にしてたとか言ってたっけ。

 やっぱ無理ゲーじゃん。

 スキル的な何かならスキルバインドを掛ければ止められるし、支援魔法の類ならブレイクスペルで一時的にとは言え封じられると思ったんだが。

「「「はあー」」」

 勝利の明光が全く見えず、三人して大きなため息をついていたら、

「カーズマー!」

 初めは固定砲台みたいに回復魔法をあちこちに飛ばしていたが、それでは間に合わないと早々に怪我人の治療に専念していたはずのアクア。

 そして騎士達に指示を出しながら前線で攻撃の大部分を請け負い、鎧が彼方此方壊れかかっているダクネスが、階段口からこちらに走って来た。

「どうした、お前らが抜けたら一気に戦況が悪くなるからこっちに来んなって言っただろう」

 かく言う俺も一寸先が見えないため気力的に疲れ果て、アクアに声を掛ける言葉が弱弱しくなっていた。

 そんな俺に構わず、アクアは半泣きになりながら訴えてきた。

「そんな余裕すらないからこうして来たんでしょうが! ねえ、まだブレスレットを奪う方法を思いつかないの? 来る人来る人皆怪我の度合いが深刻すぎるんですけど! しかも結構なプリーストが既に魔力切れを起こしてるんですけど!!」

 続くダクネスも切羽詰まった様子で、

「カズマ、こちらもマズイぞ! アクア達が回復させる以上にこちらの被害が甚大すぎて、徐々に前線に出られる人数が減ってきている。神器を回収した後の消耗戦を考慮したら、そろそろ第一段階を突破しなければ勝算がなくなるぞ!」

 今はアクアの回復を受けているが、あの硬さだけが取り柄のようなダクネスでさえ快感に浸る余裕が全くなかったのだ。

 そこからも、クイーンの攻撃がいかに高威力なのかが推し量れる。

「そうは言うがな。めぐみんやクリスとも相談してたけど、ありゃちょっとどうしようもないぞ。見てみろ、大半の連中はゴーレムに足止めされてクイーンに近付けすらしてない。仮にできてもまるで人間がゴミのよ、ものともせずぶっ飛ばされてるだろ」

「カズマ、いくら世界に名立たる名言でもここでは使っちゃいけないと思うの」

 アクアが律義に突っ込んでくるが、本当にそれぐらい勝負になってない。

 なんならクイーンには遊んでいる節すら見える。

 ほら、今回も魔法を封殺したり、今では目を閉じたままなくせに鮮やかに避け……。


「あれ?」


「どうしたカズマ? 何か気が付いたのか?」

「いや、ハッキリとは分かんないんだが……。何処となくクイーンの動きに違和感を感じるんだよ」

 特におかしな点を見出せなかったらしく、ダクネスは訝し気に首を傾げた。

 単なる勘違いなのだろうか。いや、やっぱりどこか変な気が……。

 と、その時クリスが、あっと小さな声を漏らし、

「ねえ助手く、キミ。何となくだけど、あの方の防衛法が変わってるように見えない?」

「あっ!」

 なるほど、そういう事か。

 俺とめぐみんとは逆に未だアクアとダクネスは反応が薄いが、今まで前線に居たのだから気付かなくても仕方がない。

 そんな二人に、クリスが追加で説明をしてくれた。

「ここからだと良く分かるんだけど、基本的にあの方は魔法の無駄打ちや余計な行動はしないんだよ。ほらっ、あんな感じで」

 そこには既に先程感じた違和感はなく、的確なタイミングで最小限の魔法を打ち込んだり、嬉々として武器を壊しては叩き潰したりするクイーンの姿が。

「だけど、ついさっきじょ、カズマ君が気付いた時は何発かの魔法は飛び避けてたし、近づいてくる人にも魔法で牽制してたんだよ」

「いや、むしろその方が自然だと思うのだが……。それよりクリス、カズマの事はもう助手君で良いと思うぞ」

「あえっ!? あっ、そ、そうだね! よく考えたら、ここに居る人はほとんどあたし達の事知ってるもんね。あはっ、あはははっ!」

 俺もいつ言おうかと思っていたが、呆れ顔のダクネスが代わりに指摘してくれたのでそれで良しとしておこう。

 それはともかくとして、今の見立てには一つ不可解な点がある。

「ですが、今はまた前の戦法を取っていますね。どうして一時的にやり方を変えたのでしょう? 急にピンチになったという訳ではなさそうでしたし」

 そこが疑問だ。

 めぐみんやクリスが言うには、あれは魔力や体力などの消耗も少なく物凄くコスパの良いスタイルらしい。

 緊急事態でもないのにそれを変更すると言うのは、いくら何でも不自然すぎる。

 これはゲーマーの勘だが、この点がブレスレットを奪うための唯一の突破口な気がしてならない。

 よく考えろ、そして思い出せ!

 今まで得た情報から、何か予測できないか?

 あいつがあれだけ好き勝手魔法を弄れるのは、分析魔法を使ってそれらに対処しているからだ。

 それもゆんゆんみたいに画面を周囲に出すことも無く、ほんの一瞬で……。

 …………あの優秀なゆんゆんが見本で見せてくれた時ですら、あれだけ手間暇かけていたのだ。

 いくら神様とは言え、そんな高難易度魔法を広範囲かつ長時間連続で使えるものなのか?

 格が違うと言われればそれまでだが、以前出会ったウォルバクやアクアを見る限り、神様だってそこまで万能ではないと思う。

 と、ここでもう一つ思い出した。

 それはエリスから教えてもらった、天界でクイーンが暴れた時の取り押さえ方。

 あの時も突然クイーンに隙が生まれたとか言っていた。

 これは短時間の間だけクイーンの様子に変化が訪れる、という点が似ていると言えるんじゃないだろうか。


 ……もしかして。


 だとしたらそこを突けばあるいは。

 あっ、でもあいつは強敵あるあるの、一度見た技は通じないとか言うのはちゃんと押さえてるよな、前に本人も言ってた気がするし。

 だったらやっぱりこれは無理が、いや待てよ。

 そう言えばあの技だけはまだ一回も見せてなかったはず、だとしたら……。

「なあクリス、ちょっと頼まれてくれないか?」

「……その顔、助手君なにか思い付いたね。いいよ、なんでも言って!」

 そんな頼もしい事を言うクリスに俺は、

「ちょっとひとっ走り行って、ゆんゆんに伝言を伝えて欲しいんだ」

「「「「はい?」」」」

 俺の言葉を不思議に思ったのか、アクア達が首を傾げた。


「――カズマさん、お待たせしました!」

 さっきまで紅魔族を率いて前線で頑張ってくれていたゆんゆんが、クリスと一緒にこちらへと走ってきた。

「悪いな、急に呼び立てたりして。それで、結果はどうだった?」

「はい。カズマさんの予想通り、クイーンさんは神器の使用を十分おきぐらいに一度停止させていました」

 よっし、思った通りだ。これなら何とかなるかもしれない。

「どうしてカズマは、クイーンが神器を定期的に停止してると分かったのですか? いい加減カズマが何に気が付いたのかを私達にも教えてください」

「まあ、待てよ。今から順番に話してやるから」

 急かすめぐみんを押し留め、俺は五人の熱い視線を受けながらちょっとだけ自慢げに話し始めた。

「クイーンが一時的に行動を変えたってのはさっき話しただろ。それがどうにも引っかかって記憶を辿ってみたら、ふと思い出したんだよ。クイーンの神器には、電算能力を上昇させる機能が付与されてたって事をさ」

 俺の言葉にめぐみんやクリスははっと息を呑み、ダクネスとゆんゆんは目が真剣になってくる。

 アクアはまだキョトンとしているが。

「俺のいた世界にはパソコンって言う便利な機械があるんだけどな。こいつは物理現象を分析したり、使い様によっては未来のシュミレートまでできたりするんだ。そして性能のカギとなるのが搭載された計算機。こいつの性能が良ければ良いほど、タイムラグなしで結果が出て来るって寸法だ」

「ねーちょっと、もっと分かりやすく説明してくれないと分かんないんですけど」

 3G回線が4G になるって言われた時は、これでダウンロードしたかったあの動画このゲームがすぐさま俺の手にと興奮したのも、今となっては懐かしい。

「とはいえ、どんなに優れたパソコンだって長時間連続運転させたらすぐにガタが来る。そしてあの分析魔法ってのは、どう見てもパソコンを基に開発された魔法だ。だったらクイーンにも同じ症状が起きて、脳を休ませる時間を設けてるんじゃないかと思って、ゆんゆんに調べてもらったんだよ」

 前に分析魔法を見せてもらった時、マナタイト杖によって爆裂魔法の威力が向上したと記述されていたのが気になっていたのだ。

 そこから、もしかしたら装備品の効果を集中的に分析できるのではと思い至り。

 足の速いクリスに裏を取って来てもらったところ、それは可能だとのこと。

 そこで俺はゆんゆんに、クイーンが電算能力を向上させている、若しくは神器を停止させる時間が存在したのかを調べてもらったのだ。

 結果は聞いた通り、つまりクイーンが分析魔法で魔法を弄れない瞬間があるとほぼ断定できる。

 これで漸く反撃への糸口が掴めたというものだ。

「よーし、そんじゃ全員が理解したところで……」

「ねえねえカズマ、私はまだ理解してないんですけど」

 服の袖をクイクイ引っ張ってきてアクアがなんか言ってるが、それに構わず俺は昔繰り返し使っていた言葉を発した。


「俺に考えがある」



「――とまあこんな感じだ。どうだ?」

 一通り作戦を言い終わったところで皆の反応を伺ったら、作戦の要であり一番負担の大きいダクネスが肩をプルプルと震わせ、

「それだ、それでいこう! 正直攻撃が当たらない私にこれだけの見せ場を用意してくれるとは思わなかった。私はお前の要望に全力で答えてみせるぞ!」

 あれっ、すっごい喜んでる。

 提案した俺ですら若干引くぐらいヤバめの注文をしたはずなんだが。

「ちょ、ちょっとダクネス、なに喜んでんの!? 確かにこの役割はダクネスにしか無理だけど、下手したら死んじゃうんだよ!?」

 クリスの慌てぶりを見るに、やはり俺はなかなかの事を言ったらしい。

 そんなクリスとは対照的に、ダクネスはこちらがびっくりするぐらい冷静に落ち着いた様子で。

「クリス、お前が心配してくれるのは分かる。だが私はクルセイダー、そしてクイーンは私達の大切な仲間なんだ。だからこの役割は絶対に蹴る訳にはいかない。大丈夫だ、私の耐久力と防御力はこの国でも随一だ。それを他でもないクリスが知らないはずないだろう?」

「…………はあー、そんな風に言われたら止めるに止められないじゃない。分かったよ、こうなったらダクネスが梃子でも動かないのは知ってるからね。でも約束して、絶対に死なないこと。もし約束を破ったらあたしだけでなくエリス様だって許さないからね!」

 そう言って嘆息をつくクリスに、ダクネスは朗らかな笑みを返し。

「ああ、約束する。私は絶対に生きて皆の下に帰ってくる」

 ダクネスとクリスがそんなやり取りをしている一方……。

「……で、あんたは何をそんなに怯えているのよ?」

「っ!? べべ別に怯えてなどいませんよっ!? ここここれは単なる武者震いと言うやつで……っ!」

 自分に託された役割が余りに背負うものが大きい為か、めぐみんが杖をぎゅっと握りとても不安げに、今にも泣き出しそうになっていた。

 そんなめぐみんを見て、どこか達観した様子のゆんゆんが少し呆れ気味に、

「普段あれだけ爆裂爆裂言ってるのに、あんたってここぞという時に限ってヘタレるわよね」

 ビクッと反応するめぐみんにゆんゆんは、今度は諭すように優し気な声で、

「でも、そんなめぐみんだからこそ爆裂魔法の新たな可能性を生み出せるんじゃないの?」

「……言ってくれますね。いいでしょう、そこまで煽られたからには私も黙っている訳にはいきません。我はベルゼルグ一の爆裂魔法の使い手、めぐみん! あなたのその挑戦、受けて立とうではないですか!」

 そう宣言しマントをバサッとするめぐみんは、自信にあふれ爆裂魔法を信じ切ったいつも通りの姿になっていた。

 …………なんかいいよな、ああいうの。

 お互いを知り尽くしているからこそ、全幅の信頼を寄せたり鼓舞し合えたりするという心地の良い関係性。

 俺にもあんな感じで、何でも言い合える親友と呼べる奴がいたらなあ。

「カズマカズマ、私あの四人を見てるとなんだかほっこりするの。なんかこう、胸が暖かくなるって言うか、思わず抱きしめたくなるって言うか」

 感傷に浸っていた俺に、アクアが目をキラキラさせてそんな事を言ってきた。

「お前もか。俺もああいう仲間とはまた違った親友って言うのを、日本でも作っときゃよかったって思ってたところだ」

「そんなのはヒキニートやってたあんたには無理に決まってるでしょうが。そう思うんだったらまずは学校に行くところから始めなくちゃね」

 夢見心地だった俺に、すかさずアクアが辛辣にも現実を突きつけてくる。

「うっ、うるせー、あれはあれで楽しかったからいいんだよ。ていうかいい加減ヒキニートは止めろって言ってるだろうがこの堕女神」

「堕ちてないわよ、今では天界に戻れたから完全復活した立派な女神様よ! そんな性格してたら、仮に学校に行ってもすぐに周りの人に愛想つかされて結局ボッチになってたでしょうね!」

「言ってくれるじゃねえか、普段人様に迷惑をかける事しかしていない女神の面汚しが!」

「わあああっ! カズマがまた酷い事言った! あんたそろそろ本気で天罰を与えるからね!」

 なんだか久しぶりな気がするこのやり取りに心が落ち着いている自分が悔しい。

 と、取っ組み合いを始めようとした俺とアクアを、何故か四人が微笑ましく見守っていた。

 その眼差しに何だか気恥しくなり、俺は掴んでいた襟首をそっと離し目線を逸らしていく。

 それはアクアも同じなのか、若干顔を赤くして俺の方をチラッチラッと見てくる。なんだよそれ。

「と、とにかく、作戦はさっき言った通りだ。頼むぞお前ら、援護は俺達に任せておけ」

 俺の言葉に今まで弛緩していた空気が引き締まり、各々が力強く頷く。

 それを確認した俺もこくりと頷き、


「それじゃ……」

「それじゃあ、神器回収いってみようっ!」

「「「「おおー!」」」」


 クリスが俺の横から元気に声を上げ、全員が拳を高く上げた。

 それ、俺がやりたかったのに……。

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