精鋭達集まる
翌朝。
俺はまたしてもクレア達から呼び出されていた。
謁見の間には既にアイリスと護衛の二人、そして昨日会議に出向いてから一度も戻ってこなかったダクネスが、顔を寄せ合って深刻そうに話し合っており。
俺が入るや否や、挨拶もそこそこに作戦会議での出来事を俺に語ってきたのだが……。
「はあああっ!? 神器の回収を俺が指揮しろだ?」
俺の知らないところで、勝手に厄介な役職を与えられてしまっていた。
「す、すまない。誰が言い出したのか、『ここは魔王を討伐したダスティネス様、引いてはそのパーティーのリーダーであるサトウ殿に神器回収を一任しては?』という提案がなされ……。周りの貴族達もこぞって、それがいいそれがいいと賛同し始めてしまい、断るに断れず……」
「本当に何してくれてんだよっ! どうして俺がそんなクソ重い責任を背負わにゃならんのだ!」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい!」
激昂する俺に平謝りするダクネスだったが、こいつが断りにくかったのも理解はできる。
今のダクネスの肩書は、王国の懐刀にして魔王討伐パーティーの一員。
良い意味でも悪い意味でも、この国にあまりにも深く貢献してしまっている。
そんなダクネスが今回の指揮を断ったとなれば、ダスティネスの名に大きな痛手を食らうことは避けられなかったのだろう。
くそ、自分達が責に問われるのが嫌だからって汚い手を使いやがって、これだから貴族って連中は!
「こ、今回の件については、私も申し訳なく思っています。私も責任の分配を進言してはみたのだが、軍事関連では他の公爵家の方が発言力が強く……。お願いしますカズマ殿、今一度この国を守るため、我々に協力して下さいませんか?」
クレアだけでなく、レインも一緒になって頭を下げて俺に懇願してきた。
あのプライドの高いクレアが頭を下げてまで頼んできているのだ、同じアイリス愛好家として手を貸してやりたいのは山々なのだが。
ハッキリ言って俺はそんな見ず知らずの、それも何百という人の命を軽々しく預かれるほど図太い精神は持ち合わせていない。
どうしたもんかと発言を躊躇する俺にアイリスが、
「クレア、レイン、お兄様にばかり頼り切ると言うのも偲ばれません。ここは諦めましょう。お兄様、このような無茶なお願いをして申し訳ありません。勝手に押し付けたのは私達ですので、お兄様はご自身の力を存分に発揮してください。大丈夫です、後は私達で何とかしておきますから、お兄様はお気になさらないでください!」
クレア達の間をすり抜けて俺に謝り、明らかに無理をした笑顔を見せてきた。
妹にこんな笑顔を作らせるとか、罪悪感で心が物凄く痛くなる。
だがクイーンへの有効な手立てが一つも思い浮かんでいない現状、そんな重い責任を背負いたくない。
かと言って、ここで責任放棄したら困るのはダクネス達だろうし
俺が臆病心と良心に板挟みにされ激しく葛藤する中、アイリスがクルリと俺に背を向け。
ふと、まるで今思い出したかのように。
「神器と言えば、以前私のネックレスを奪って行った銀髪盗賊団のお二人は、今頃どうしているのでしょうか?」
アイリスの言葉に、その場の全員がびくりと体を震わせる。
そんな俺達に気付いているのかいないのか、アイリスは俺の眼を見ずになおも続ける。
「クイーン様攻略において、恐らく最初にして最も難関なのが、他でもない神器の回収。もしも……、もしもこの騒ぎを聞きつけあの方々がやって来て下されば、あるいは……」
手を組んで夢見心地の様に思いを巡らすアイリスを見て、ダクネス達が俺をジーッと睨んできて……。
「つ、謹んでお引き受けしようかと思います……」
それからというもの、王都は前例を見ない程に慌ただしく、皆それぞれに割り振られた仕事を完遂しようと駆けずり回っていた。
支援物資を運ぶ人は大量の回復ポーションやマナタイトなどの手配に、送られた物品の搬入。
人材確保をする人は昼夜を問わずテレポートを使いまくって、国中だけでなく国外にまで援軍の要請に明け暮れ。
国王や第一王子が国命を掛けた交渉の為国を留守にしており、代わりにアイリスが主軸となって日夜会議が開催されている。
そんな最中、俺はクイーンから如何に神器を奪い去るかを考えながら、時々援軍としてやって来た知り合いに挨拶をしに行っていた。
【決戦まで後50時間】
「――これはお客人。お会いするのは、娘が族長資格を獲得した時以来ですね。何でも再び世界が危機に瀕しているそうじゃないですか」
「お久しぶりです、族長さん。相変わらず元気そうで何よりです。今回は駆けつけて頂いて本当に感謝してますよ」
国からの要請状を受けた紅魔族の人達が、いかにも完全武装と言った感じの武具を身に纏い、早くも王都に足を踏み入れていた。
中には知り合いのぶっころりーと自警団の仲間や、あるえを始めとしためぐみんの同級生達。
シルビア戦において、俺達が頭のおかしい兵器を探す為の時間を稼いでくれた人や、それ以外にも見覚えのある人達が大勢集まってくれていた。
誰もが今までに死線を何度も潜り抜けて来たかのような大物臭を出しており、その圧倒的な迫力には目を見張るものがある。
その数およそ七十名程、これは非常に心強い。
「元々これが我々紅魔族に与えられた使命にして存在意義ですから、駆けつけるのは当前ですとも。我々にどんと任せて置いて下さい! 今こそ、我ら紅魔族に古より伝えられし禁断の宝具を解放する時。破壊の神を名乗る其の者に、我らが力を表明してしんぜよ!」
そう言って紅魔族の現族長であるゆんゆんの親父さんは、怪しげな光を放つ禍々しい杖を振り翳し、紅い目を輝かせた。
一見ちょっと業物な程度の杖に見えるのだが、きっとすごい特殊効果が付随しているのだろう。
「ただでさえ皆さんは強いのに、その上宝具まで持ち出してもらえるなんて。その調子で戦闘時もよろしくお願いしますね」
「任されました。でもこの杖は昨晩魔力を込めると黒く輝くよう改造した唯の杖です。宝具なんてものは初めからありませんよ」
「バカにしてんのか!」
そうだった。ここの人達は実力はあるけど根っからの中二病なんだった。
【決戦まであと26時間】
「これはこれはカズマ殿、お久しぶりですね。お顔も当時より随分と凛凛しくなられたようで、より煽情的になられましたな」
「冗談でもそんな事言うな、鳥肌立ったわ!」
「はっはっはっ! 勿論私は本気ですよ。それはともかく、今回はアクア様から直々の勅命。我らアクシズ教団一同、骨身を惜しまず協力させて頂きます」
先程まで鼻息荒くしていた態度から一転、アクシズ教団最高責任者のゼスタは深々と大真面目に頭を下げてきた。
「でも大丈夫かおっさん。アクアから聞いてるだろうけど、今回の相手は……」
「ええ、存じております、存じておりますとも。我らが神にあのような寂し気な顔をさせた邪神でございましょう。ご安心ください、我々が責任を持って欠片も残さず殲滅いたしますので」
「い、いや、そいつ俺の仲間だから程ほどにしておいてくれ」
この人達、アクア絡みになると普段とは違う意味で怖い。
俺も普段アクアにやってるいろんな事は、絶対バレない様にしよう。
王国としては招集するつもりはなかったようで、俺が提案した時クレアやレインが物凄く嫌そうな顔をした。
気持ちは痛い程よく分かるが、今回の戦闘は本気で死人が出かねない。
そこの部分をこんこんと語ってやると最終的に二人も折れたので、今朝方アクアに呼んできてもらったのだが……。
「そこの幸薄そうなお兄さん、今アクシズ教徒に入ったらアクア様のご加護で瞬く間にモテモテになれますよ! ほら、怖くないですよ。この紙にちょーっと名前を書くだけですから!」
「エリス教徒が出しゃばんじゃねー! ほら邪魔だ、この聖なる石でもくらえっ!」
「あらそこのあなた、いい男じゃない。ねえ、これからあのお洒落な店に行かない? 今ならアタシがあなたに奢られてあげ、ああーちょっと、どうして逃げるのよ! アタシと良いことし、ま、しょー!」
……やっぱ呼ぶべきじゃなかったかな。
【決戦まであと20時間】
「佐藤和真、キミはいつも大きな難題に立ち向かう運命にあるみたいだね」
「なんだマクラギ、お前も来たのか。まあ俺ほどではないにしろ、一応はそこそこ腕の立つ冒険者だもんな、ナデシコ。うんうん、きっと皆喜んでいるよ、キサラギ」
「僕を車両荷重を分散させる角柱や秋の七草や犯罪組織と間違えるな! 僕の名前はミツルギだ、何度言えば分かるんだ! ワザとか、絶対ワザとだろっ! まったく、僕達は一緒に魔王を討伐した仲なんだから、いい加減名前ぐらいちゃんと覚え……」
こうして、勇者になり損ねた魔剣使い、ミツラギも来てくれましたとさ。
「あっ、あの、もうちょっと喋ら」
【決戦まであと……】
「あれ、クリスじゃないか。こんなとこにいて仕事の方は大丈夫なのか?」
俺が疲れた頭を休める為に、気分転換がてら城内を歩き回っていたら、本来ここにいるはずのない人を見かけた。
「うん、本業の方はウチの子に任せて来たんだ。上の人も許可をくれたし、せめてあたしだけでも助太刀しようと思ってね」
俺の言葉に、少し申し訳なさそうにクリスが話しかけてきた。
「いや、クリスだけでも来てくれて助かった。天界からは誰も来てくれないと思ってたからさ。クイーンの情報を持ってるのが俺だけってのは滅茶苦茶心許なかったんだよ」
「そう言ってくれるとあたし達も救われるよ。何から何までキミ達だけに任せるのは忍びなくってさ。聞いたよ、キミが神器の回収作戦を一任されたんだって? あれからいい案は思い付いた……て事はなさそうだね……」
俺の晴れない顔を見て、クリスも声のトーンを落としていく。
「俺だって色々と考えてはみたんだぞ。予めコンクリみたいなのを貯めた場所に誘導して、いい感じに固まったところを襲うとか。延々と水をぶちかまし続けて呼吸が危うくなった時に、やめて欲しければ神器を渡せって頼むとか。でもどれもこれも現実的じゃないなって」
「できるできない云々より倫理的にあんまりだと思う」
間髪入れずにクリスは真顔で口を挟んで来た。
と、大きな溜息を吐いてからクリスはニカッと笑い。
「よしっ、あたしも作戦を考えるの手伝うよ。神器回収と言えば銀髪盗賊団の専売特許。お頭としては悩める助手を見捨てては置けないしさ」
クリスの言葉に俺も不敵に笑い返し。
「そうですね。神器が絡んだ以上、俺達仮面盗賊団としては失敗は許されない。共に知恵を出し合いましょう!」
「だから都合のいい時だけ仮面盗賊団を使うのはやめてってば!」
そんないつもと同じ調子でぷりぷり怒るクリスに、俺は少し塞ぎ込んでいた心が軽くなるのを感じた。
その他にも腕利きの冒険者が到着したり、エルロードから多額の支援金と共にまさかの増援が送られてきたりして、遂にその時がやって来た――
『これより、ベルゼルグ王国第一王女アイリス殿下より出陣前の勅語を賜る! 皆の者、静粛に拝聴するように! それではアイリス様、こちらへ』
マイクの様な魔道具に向かって話すクレアの声が、王都中に響いた。
クイーンが定時した時刻まであと一時間を切った頃。
戦闘に携わる者達は皆、場内の軍事演習場で一堂に会していた。
今回はレベルも職業も問わなかったからからか、この場にいる戦闘員数は千を優に越している。
ここまで多くの冒険者が集まるところを俺は見たことがない、以前魔王軍が王都に進軍してきた時以上じゃなかろうか。
俺が舞台袖から会場の様子を窺っていると、クレアが舞台から捌け。
神器である聖剣や鎧を装着した勇者のような恰好をしたアイリスが、威風堂々と舞台へと登壇した。
そして、王女のお言葉を聞こうと静まり返った会場を、アイリスはゆっくり俯瞰する。
『お集りの皆様方、本日はこのような死地に留置くださった事、そして私達の呼び掛けに駆け参じてくださった事、王族を代表して御礼申し上げます。先程お知らせした通り、此度私達が対峙すべき相手は、自らを破壊の神と名乗る女性唯一人。そして間もなく、この王都を無に帰す為にそのお方が再来なされます』
アイリスの“唯一人”という言葉に笑い出す者は一人もいなかった。
幅五十メートルにも及んで瓦解した、最前線に築かれていた砦以上に強固な正門。
地殻は断裂し丘陵が熔解し、幾つもの巨大なクレーターや氷塊が残る平原。
これらを唯一人の人物が生み出したとクレアから告げられた時は、冗談だ、大げさだと笑い飛ばす人は勿論いた。
しかし、実際にあの場にいた者達から漂う空気から、それらは全て事実であり、笑い事で済ますのはあまりにも疎かだと全員が理解したのだろう。
『前回の戦闘では、幸いにして死者こそ出ませんでしたが、その戦力差は歴然でした。正直に申し上げますと、この場にいる皆様のお力をお借りしても、勝利を獲得し得るかは保証しかねます。それ程までに敵の力は絶大で、私達の力はあまりに脆弱すぎるのです』
そこまで一息に言ったアイリスは、静かに目を伏せてしまった。
このあんまりと言えばあんまりなアイリスの言葉に、会場中の雰囲気が愈々お通夜モードへと移行し……。
『ですがっ!』
そんな悲愴感に渦巻く中、だがアイリスはカッと眼を見開いて、その瞳を確固たる信念で燃やし、
『ですが、一度原点に立ち返り、冷静に周りを見回してください。そして思い出してください! 我々は決して一人で戦っているのではないという事をっ! 何時如何なる時も、我々には背中を預け、共に戦う仲間がいる事を!! お互いに手を取り合い協力しあえば、単純な戦力計算では測り知れない力を生み出し得る! 我々に超えられない壁は存在しないのだと、私は心から信じております!!』
不思議なことだが、アイリスの熱い言葉を聞いていると不安な気持ちが和らぎ、燃え上がらんばかりの闘志が沸々と滾りだしているのを感じる。
それは俺だけではなかったらしく、会場中の人が自信ありげに不敵に笑ったり、互いに肩を組んで鼓舞し合ったりしていた。
そして、聖剣を鞘から勢いよく抜いたアイリスは、それを高々と天へ掲げ、
『我らは古より武の極致へと昇り詰めんとした勇者達の末裔! 何物にも負けぬ力を先祖より受け継いでいます! さあ、今こそ己が磨き上げた力を発揮し、共に奮闘しましょう!!』
「「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」」
会場中の人々が一斉に、天まで届くのではないかという程の声量で時の声を上げた。
人々からの声援を受けながら、アイリスは悠然と舞台袖に戻り。
感動のあまり泣きじゃくって顔をぐちゃぐちゃにしたクレアを引き連れながら、恥ずかしそうに俺達の下に戻ってきた。
「クレア、そんな大げさに泣かないでっ! 視ている私が恥ずかしいのですが」
「で、でしゅが、あの小しゃくて愛らしぃがっだアイリズざまがあんにゃにごりっばなごとをいうようににゃるなんてっ!」
「分かりました、分かりましたからひとまず泣き止んでください! クレアにはまだまだ沢山のお仕事があるのですから!」
そう言ってアイリスは、未だに泣き止まないクレアの背中を優しく撫でて宥めてやっている。
これではどっちが年上か分からんな。
「アイリス様、お疲れ様でした。とても良い演説でしたよ。お蔭様で皆の士気も高まりました」
「まあ、あなたは私の下っ端にして左腕なのですから、この程度の士気上げもできない様では困りますけどね」
「お前は何様なんだよ、いい加減そのよく分からん呼び方すんのはやめろ。アイリス、今の演説には感動したぞ! 流石は俺の妹だ!」
「常日頃から妹扱いしているカズマには言われたくありません」
見事自分の責務を果たした妹を労うべく笑顔で迎え入れた俺に、アイリスも安心したように満面の笑みを浮かべ。
「ありがとうございます、お兄様。お兄様にそう言って頂けたお陰で、私も元気が湧いてきました!」
ああ、やっぱり妹ってのはいいものだ。
笑顔を見せてくれるだけで心が浄化されるっていうか、小さい悩みなんかどっかに吹き飛ぶって言うか。
いや、決して俺はロリコンじゃないからな。
これで何度目になるか分からないが重ねて言わせてもらう、俺はロリコンではない!
どこぞの輩がロリマだのロリニートだの謂れのないあだ名を広めたせいで変に定着してる気がしてならんが。
あくまで、アイリスは妹として可愛がってるだけだからな。
あれ、でもアイリスだって初めて会った時からは大分年を取っている訳で。
しかも祝勝会の時に、『私ももうすぐ十四歳、そろそろ未来の事も考えないといけませんね……』とか言ってたような……。
「カズマ、あんたこんな時にまた不届きな妄想してたでしょ」
「かかか考えてねえよ!? 疾しい事なんかひとっつも考えてないからな!」
「その慌てる態度があからさまに怪しいわね。まあ、カズマが頭ん中で何考えてようと構わないけど、私を辱めるのだけはやめてよね」
「大丈夫だ、それだけは絶対にないから」
俺の即答に何故か微妙な顔をしながらも、アクアはそれ以上首を突っ込んでこなかった。
本当に、どうしてこいつは妙な時にだけ勘が働きやがるんだ。
普段からそれぐらい頭を回転させてくれたらどんなに俺の心労が軽くなるか。
と、未だにジーッと見つめてくるアクアにビクビクする俺の下に、アイリスがトコトコとやって来て、少し残念そうに言った。
「お兄様、申し訳ありません。私は全体の指揮補佐を任されていますので、戦闘中はお兄様の傍にいられないんです。本当は私が剣となり、お兄様をお守りしたかったのですが……」
「何て事をおっしゃるんですか、アイリス様!? あなたはこの国の王女なのですよ、いくらカズマ殿がお相手でも冒険者の剣になるなどとっ!」
レインが声を裏返しながら大慌てで制止に入ってきた。
俺としてもアイリスの気持ちは嬉しいが、ここはレインに同感だ。
アイリスが出陣せざるを得なくなっただけでも大問題なのに、一介の冒険者に過ぎない俺を守るとか以ての外だ。
そもそも年下の女の子に守られながら戦うってのは情けなすぎる。
俺は丁度目の高さぐらいにまで達したアイリスの頭にポンっと手を置き、
「ありがとう、アイリス。その気持ちだけで俺は十分守られてるよ。それにこれでも俺は数多の賞金首をはじめ、最後には魔王さえ討伐した勇者だぜ! そう簡単にやられると思うか?」
アイリスを安心させられるようフッと笑いかけた。
「お兄様のその根拠のない自信はどこから湧いてくるのですか? お兄様はステータスがあまり高くないのですから、少しも安心できませんよ。それと、もうナデポもニコポも効きませんからね」
「あれっ!?」
おかしい、前は上手くいったのに何で失敗したんだ。
それに今の様子を見ていた連中がこぞって笑い出したのが憎たらしい。
恥ずかしさでプルプル震える俺を見て、アイリスはクスクスと笑い。
「お兄様の強さはステータスでは計り知れないことを私はよく知っています。ですが、お兄様の脆弱さもよく知っていますから、無理だけはなさらないで下さい。また死んだりしたら絶対に許しませんからね!」
俺の身を心から案じてくれてるのは分かるんだが、言い方からして素直に喜べないのが悲しい。
どう反応していいのか迷い頬を引きつらせている俺に、未だに肩を震わせたダクネスが近付き。
「そ、それよりも、カズマ。私はアイリス様と共に騎士団の下で指揮するよう任されている。しばらくは別行動になると思うが、私の力が必要になったらすぐに呼んでくれ。さあ、アイリス様、クレア殿とレイン殿があちらでお待ちです。我々も参りましょう」
ダクネスが指し示した先では、兵士達がせわしなく動き回る中、騎士団長達と真剣に話し合いをしているクレアとレインの姿が。
そちらの様子を黙ってジッと見ていたアイリスは、何か強い決意をしたかのように拳をギュッと握り、俺の方へチラッと視線を送ってきた。
「そうですね、ここに居てもできる事はあまりありませんし、私も向かうとします。ですが、その前に……」
少し顔を赤らめ、それでいて悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべたアイリスは、突如背伸びをして……。
「「「ちょっ!?!?」」」
い、今なんか俺の頬に温かくて柔らかいものがっ!?
「ちょっ、アッ、なっ、をっ!??!?!!?」
あまりの出来事に脳の処理が追い付かず、俺は訳の分からない言葉を発し。
ダクネス達がその場に凍り付く中、アイリスがガバッと俺に抱き付いてきた。
なにこれ、いったい何が起こっているんだ。
アイリスに突然キスされたと思ったら、何時の間にかその子が俺の胸の中に納まってるんですけど。
俺がオロオロとしている間にアイリスは俺の胸に埋めていた顔を上げ、少し顔を赤らめながらも花が咲いたような笑みを浮かべて。
「お兄ちゃん! 私、お兄ちゃんの事好き、チョー好き! だから、お兄ちゃんのガチでスゲーところを私に見せてね、マジでっ!」
そう言ってもう一度俺をぎゅっと抱きしめて、パッと離れたかと思うと俺から少し距離を取り。
クルッとこちらに顔を向けたアイリスは、片目を閉じてべっと小さく舌を出した。
ビクッと震えるめぐみんを見たアイリスはしたり顔を浮かべ、今度は振り返ること無くそのままクレア達の下へ走り去って行った。
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