頭がいいのも困りもの
アイリス達と分かれた俺が大広間に降りてみたら、そこにはクイーンと戦い負傷を負った人が大勢休憩していた。
ちらっと小耳に挟んだが、今回の戦闘中に死者は出なかったらしい。
あれだけ激しい戦闘にも関わらず死人が出なかったのは、もはや奇跡としか言いようがない。
まずはクイーンが殺人者にならなかったことに一安心だ。
あいつがこれからやらかすことはに比べれば、殺人なんか可愛く見えるかもしれないが。
と、俺がぼんやりと周りを眺めている内に、無駄に目立つ青髪が視界に入ってきた。
「『ヒール』! これでもう大丈夫よ、傷が浅くてよかったわね。あなたは聖騎士みたいだし、怪我をしちゃうのは仕方ないけれど、調子に乗ってうちのカズマみたいにポコシャカ死んだらダメだからね。いくら私がリザレクションを使えるとはいえ、いつでも生き返らせてあげられるとは限らないんだから」
どうしたことだ、アクアが重傷を負った兵士に治癒魔法を施して、優しく微笑みかけてるんですけど。
聖騎士風の男も、少し顔を赤くして。
「あ、ありがとうございました。アクアさんのおかげですっかり楽になりましたよ。しかし、あなたは本当に優秀なプリーストですね。あなたがいれば次の戦闘でも安心して全戦に立てるってものですよ!」
「あら、分かってるじゃないの。そう、私はとっても優秀な国一番のアークプリースト! そんな私自らあなたを癒してあげたんだから、もっと褒めて感謝してくれてもいいわよ! お礼にお酒なんか貢いでくれるのも悪くないわね。それもこれも、偉大なる水の女神であるアクア様があってこそ! 分かったら、今すぐエリス教からアクシズ教に改宗して下さい、ぜひしてください! もし今アクシズ教に入信したら、芸達者になったりアンデッドに好かれやすくなったりという豪華特典が……」
「つかねーからな! というかそれは特典じゃなくて呪いだろーが! せっかく人様が感心してたのに五秒で壊すなよ!!」
調子に乗って勧誘を始めたアクアの背後に立った俺は、アクアの後頭部を思いっきりはたいてやり。
アクアが頭を押さえて蹲ってる間に、アクアの言動に戸惑っていた男はすごすごと人だかりの中に消えて行った。
すみません、ウチの駄女神が迷惑かけて、すみません。
聖騎士の人に申し訳なく思っている俺に向かって、アクアが自分の頭にヒールを掛けながら恨めし気な目で。
「何してくれてんのよカズマ! もうちょっとであの人を勧誘できそうだったのに、カズマのせいであっちに行っちゃったじゃない!」
「あのな、お前せっかく良い事してたのになんでそれを帳消しにしないと気が済まないんだ?」
「ただお礼を言われるだけじゃ意味ないじゃない。感謝してくれるって言うのなら、それ相応の誠意ってものを示してもらわないと。あーあ、あの人チョロそうであのまま押したらいけそうだったのに」
こんな俗物的な奴が女神だとか未だに信じられん。
あそこで無理に勧誘しなかったら、あの人だって改宗してたかもしれないってのに。
「女神だって信じて欲しいんだったら、まずはその現金な性格を直したらどうだ。よくよく考えてみたら、お前これだけ周りに迷惑かけといてよく女神の権利剥奪されないな」
「分かってないわねカズマ。私は水を司る女神、つまり全ての生物は私の眷属だと言っても過言ではないわ。そんじょそこらの吹けば飛ぶような物しか司れない下級女神とは格が違うのよ!」
「お前、もしかして悪魔に生まれるはずが間違って女神として生まれちまったのか?」
売り言葉に買い言葉、途端にアクアは目を吊り上げ……。
「……言いたい事は山程あるけど、まあいいわ。私が寛大な神様で良かったわね。その慈悲深さに深く感謝なさい」
…………なんだこれ、なんで突っかかってこないんだ?
アクアの不可解な反応に俺が困惑していると、
「あっ、カズマさんにアクアさん。ここにいたんですか」
さっきまで荒野に残っていたゆんゆんが、俺達の下へ近寄ってきた。
「おっ、ゆんゆんか。調べ物ってのは無事に終わっ……。おい、どうしたんだよそれ? ゆんゆんも顔色悪いし……」
俺達のいるテーブルに腰かけたゆんゆんは、身じろぎ一つしないその物体を椅子に座らせてからげっそりとした顔で。
「……実はめぐみんがどうしても気になるというので、爆裂魔法の爆心地にまで行ってたんですけど。そこでちょっと衝撃的な事実が判明しまして……」
「余程衝撃を受けたんだろうなってことは二人を視れば分かる。でも爆心地を見に行っただけでこんなのは出来上がんないだろ?」
そう言って俺はゆんゆんの隣に座らされた、昔爆裂魔法が大好きだった頭のおかしい娘の残りかすに視線を移した。
さっきから俺達が話している内容も頭に入っていないようで、魂が抜けたようにめぐみんは目が虚ろになっている。
正直関わり合いになりたくない。
「クイーンさんが、帰り際にめぐみんの爆裂魔法を受けてもピンピンしてたじゃないですか。それが納得いかなかったらしくて、私に魔法解析をしてくれと頼んできたんですよ」
なんともめぐみんらしい発想だ。
「分析をしてくれるのは有難いけど、戦闘が終わってすぐじゃなくても良かったんじゃないか? ゆんゆんだって疲れてただろうに」
「はじめは私もクイーンさんの事がショックだったので、断ろうしたんですけど……。めぐみんは悔しさで居ても立っても居られなかったみたいで。もし断ったら、ダストさんが私の友達だとふにふらさんとどどんこさんに話すと脅されまして……」
「ウチの爆裂狂がごめん。意識取り戻したらちゃんとしばいとくから」
心の整理をする時間ぐらいあげればいいのに、それに対しての仕打ちがあんまりではないか。
と、今までどこかボケーッと俺とゆんゆんのやり取りを眺めていたアクアが、
「それはそうとして、調べてみた結果はどうだったの? 私、めぐみんがこんなになっちゃうのはほとんど見たことないんですけど」
「まっ、まあ、今回ばかりはめぐみんがこうなっちゃうのも仕方ないですけどね。私がめぐみんの立場でもこれぐらいショックを受けると思いますし」
ゆんゆんにそこまで言わせるとは、本当に余程の事だったのだろう。
俺とアクアが見守る中、ゆんゆんは自信なさげに、それでもハッキリ。
「先に結果だけ伝えます。クイーンさんは爆裂魔法にハリケーンらしきものを打ち込むことで、爆発のエネルギーを消滅させたんです」
……………………。
「あ、あの、聞いてました? 何か反応してもらわないと不安になるんですが……」
「ごめんね、私さっきまですごく働いてたからちょっと疲れてるみたいなのよ」
「俺もさっきまで頭をフル回転させてたせいか耳が遠くなってるみたいだ。悪い、ゆんゆん。もう一回言ってくれないか?」
俄かには信じられない事を言われた気がしたが、多分聞き間違いだろう。
「は、はい、分かりました。では、改めて。先に結果だけ伝えます。クイーンさんは爆裂魔法にハリケーンらしきものを打ち込むことで、爆発のエネルギーを消滅させたんです」
…………。
ふと周囲を見回したら、大広間の中ではまだ大勢の人が出入りしており、喧騒は止むことがない。
この場にいる人はアクアが全員治療したのか、防具はあちこち破損しているが、体の方に目立った傷はなさそうだ。
もっとも、今後を考えて意気消沈したり自分の力のなさに項垂れたりしてる人は結構いるが。
俺は傍に置いてあるコップを手に取り、中に水を注ぎ一気に飲み干した。
コップを机に戻したところでアクアとお互いに顔を合わせ、そしてゆんゆんの方に顔を戻し――
「「はあああああああっ!!??!??!??」」
周りの人の目を気にする余裕もなく、大絶叫を上げた。
突然大声を上げた俺達を何事かと大勢が注目してきたが、そんな事には全く気付かずに。
「ねえ、ゆんゆん。冗談も言える子アピールするのは良いのだけれど、これはちょっとやりすぎだと思うの! 嘘や冗談って言うのはね、カズマのジャージで机の上にこぼしちゃったソースを拭いたことを、ちょむすけの涎だって言ってごまかしたり、カズマがダクネスのパンツを被ってはしゃぎ回ってたってダクネスに教えてあげたりとか、そう言った話を指すのよ。だけど今のはちょっとぶっ飛びすぎてるわよ!」
アクアの言う通りだ、今のは全然シャレになって……。
「おまっ、俺のいないとこでそんな事してやがったのか! 道理で俺のジャージからソースの匂いがしたりダクネスから理不尽な制裁を食らったりした訳だ! ふざけんなよっ、お前がその気なら俺にだって考えがあるからな。屋敷に戻ったらお前の羽衣はちょむすけの爪研ぎ専用布にしてやる。後、舐めたら服が溶けるように見えるダクネスキャンディーを、本人に内緒でバニルに売り込んでるのも言いつけてやるから覚悟しとけ!」
「やめて、私の神器をそんな事に使わないでー! 破けちゃったらどう責任取ってくれるのよ!? それに、せっかくできた私の新しいバイトを潰そうとしないでー!」
「あ、あのあの、二人とも落ち着いてください! 周りの人が見てますから、凄く注目浴びてますから! めぐみんも、いつまでも落ち込んでないでカズマさん達を止めてよ!」
俺とアクアが取っ組み合いを開始し、ゆんゆんがめぐみんを高速で揺さぶり、めぐみんが頭をくらくらさせ――
「ったく、何でこんな事に体力使わねえといけないんだ」
「それはこっちのセリフよ。カズマが変に絡んでこなければ、こんな風にはならなかったのよ」
「俺のせいにすんなよ、元はと言えばお前が原因だろうが! 毎度毎度俺を苛立たせる事ばっかやりやがって! そろそろお前とは決着を……」
「わ、分かったわよ。今回は私が悪かったわ。謝るからもうこの辺りで仲直りしておきましょう」
…………。
俺がアクアの額へ黙って右手を当ててみたところ、アクアは一瞬ビクッとするだけで、俺の手を薙ぎ払うこともなく。
「ちょっ、ちょっと、急にどうしちゃったのよ」
「いや、お前がどうしたんだよ。お前が素直に自分から謝るとか今までなかっただろうが。熱はなさそうだがウイルスにでもやられたのか?」
「普段私の事をどう見てるか今度じっくりと問い詰めてあげるわ。別に、私はいつも通りよ」
俺の手を叩き落としこちらをジッと睨んでくるアクアは、世間的には確かに普段通りなのだろう。
しかし、俺にはやっぱりどこか不自然に見えるのだ。
ではどこがおかしいのかと言われても説明できないが、こう無理して平静を装ってるというか、周りに気取られないよう我慢してるというか。
「なあ、アクア。お前……」
「すいません、アクアさん! 第二陣の患者が来ましたので、治療に協力してはもらえないでしょうか?」
俺がアクアに話しかけようとした時、タイミング悪く王都で働くプリーストらしき人がアクアに応援を要請しに来た。
あまりの重傷に自分達では動けず、現地での治癒では治りきらなかった人達が到着したようだ。
「しょうがないわね、このアクア様の超すごい腕を振るってあげるわ! それじゃあカズマ、私も手伝いに行ってくるわね」
「お、おい、ちょっと待て!」
そう言うとアクアは俺の方を振り返りもせずに、呼びに来たプリーストと共に患者の下まで走り去って行った。
やっぱり気になる。理由はよく分からないが、すごく気になる。
「あっ、あの、カズマさん? どうしたんですか?」
おっと、随分とゆんゆんのことを放置してしまっていた。
それもこれもアクアの様子が変だからで、って、さっきから俺はなんでアクアの事をこんなに気にしてんだよ。
あいつはどうでもいいじゃないか、それよりも今はクイーン対策を構築しなければ。
「すまんゆんゆん、内容があんまりにあんまりだったから気が動転して。それで、クイーンがハリケーンを使って爆裂魔法を無効化したってのは本当なのか?」
「正確にはハリケーンみたいなものでですが、まず間違いないと思います。私もすぐには信じられなくて何回もやり直しましたし、分析魔法が誤作動を起こしていないかも確認したので」
ゆんゆんすら事実を事実として口に出してるだけで、全く納得いってないらしい。
でも、今の内容だったらめぐみんが真っ白な灰に成り変っていてもおかしくはない。
周りから何度も止められネタ魔法使い呼びされても、それら全てを一蹴し己が生涯を費やす覚悟で鍛えてきた最強魔法。
ネタ魔法扱いされどバカにされど、その威力だけは本物だった破壊魔法。
それを心の底から愛しひたすら信じて来たというのに、それをこうもあっさりと完封されたのだから。
めぐみんが廃人と化した理由は良いとして、ちょっと気になる点がある。
「なあゆんゆん、ギルドでも使ってたその魔法解析ってどんな魔法なんだ? 修練度によって精度は変わるけど、誤作動なんか起きないだろ?」
以前クイーンに教えてもらったのだが、冒険者カードに自動で表示されるスキルというのは、先達が長い年月をかけ改良・洗練を繰り返した完成型で、教えてもらった通りにやれば誤作動なんか生じるはずがない。
にも関わらず、ゆんゆんが術式に間違いがあった可能性を提示したのが腑に落ちなかったのだ。
それに、ゆんゆんが何度も“ハリケーンのような”と強調していたのも気になる。
「ええっと、説明が少し複雑になってもいいのでしたら……」
「問題ない。俺でも分かるように簡潔にしてくれると助かる」
魔法関連の知識は殆どないのでそう頼むと、ゆんゆんは快く引き受けてくれた。
「これはクイーンさんに教えてもらった魔法なんですけど。名前を≪マジック・アナライシス」と言いまして、使用された魔法とその用途などを詳細に分析できるものなんです」
いきなりとんでもない情報が出た、なんで現地人が知らない魔法をクイーンが知ってんだよ。
しかし思っていた以上に便利な魔法っぽいな、今スキルポイントに余裕あるし、俺も覚えてみようかな。
「判定の精度は、術者の魔法に関する知識量に比例するそうなので、上級魔法を使えないカズマさんにはちょっと……」
ですよね、そんな都合のいい魔法なんてありませんよね。
「そして魔法効果の分析なんですけど……。ちょっと口では説明し辛いので、実際にやって見せますね。カズマさん、何か魔法を使ってくれませんか? できれば実戦を想定してもらえたら、有用性を説明しやすいかと」
確かにそれは一理ある。
しかし実戦を想定してと言われてもな、ここじゃ中級魔法とかは使えないし。
どうしたもんかと俺はキョロキョロ周りを見回し……。
……………。
……よし、あれでいこう。
俺は実戦を意識し、対象に向かって手を向けた。
「『クリエイト・アース』! からの、『ウィンドブレス』ッッ!」
「ッ!?!? あああああっ! いーったい、目があああっ!!」
自分の出来栄えに満足した俺は、ゆんゆんの方に振り返り、
「こんなもんでどうだ?」
「バッチリです。それではお見せしますね」
俺の言葉に、ゆんゆんが一つ頷き詠唱を始めた。
その一方で、俺の攻撃対象が早くも回復したようで。
「一体なんのつもりですか! 傷心の可愛い女の子相手にこの仕打ち、カズマは鬼ですか悪魔ですか!」
「いやー、実戦と言えば対人戦だろ。だから無防備なお前を見ててつい。それにお前も元気出たんだし、結果オーライだろ」
「いい訳ないでしょ、すっごく痛かったんですよ! それに私が魔法の実験台に指定されたことが納得いきません! それも、ゆんゆんの魔法の!!」
怒り心頭で突如襲ってきためぐみんをドレインタッチで迎撃し、ゆんゆんへのサンプルを増やしていたら、
「『マジック・アナライシス』ッ!」
魔法が完成したようで、ゆんゆんが高らかに声を上げた。
するとゆんゆんの周辺にモニターのようなものが数面現れ、その中を文字の羅列が高速で流れていた。
というかこれ、まんまプログラミングだわ。
三十秒程でゆんゆんを取り囲んでいた画面が一斉に消え、新しく大きめの画面が一枚現れた。
「ふうーっ。カズマさん、解析終了しました。この画面を見てください」
言われるままに、絡んでくるめぐみんを振り解き、俺は後ろから画面を覗き込んで見たが。
なるほど、これはすごい。
時系列ごとに記載されたスキルが、いつどれほどの効果を及ぼしたかが数値化され、内容も事細かく記述されている。
おまけに隣には再現映像まで載っているときた。
見る人が見たら、相手の癖や手法などが手に取るように分かることだろう。
なんせあのめぐみんですらちょっと物欲し気なんだから、相当な代物だ。
「基本的に範囲や時間を狭めるほど、短時間で解析可能です。そしてこの魔法の凄いところは、初見の魔法でも術式を読み解けば効果を予測できる点なんです!」
そう言って、ちょっと自慢げに胸を張るゆんゆん。
知らない魔法まで分析できんのかよ、使い方次第では向かうとこ敵なしじゃねえか。
って事はあれか……。
「さっきからゆんゆんが頑なに、“ハリケーンみたいな”って言ってたのは、術式がハリケーンと似て非なるってことか?」
「そうなんです。正確に言うと……」
「風魔法の説明何てどうでもいいのです! そんなことより、どうやって爆裂魔法を消滅させたのか話してください、さあ早く!」
「ちょっ、ちょっと揺らさないで! さっきまで頭真っ白で話を聞かなかったのはめぐみんじゃない!」
「さっきはさっき、今は今です! その時その時で状況判断ができないゆんゆんに非があるんですよ!」
なんという暴論。
執拗に絡むめぐみんから解放されたゆんゆんは、さっき出た画面を操作し、
「えっと、では改めて。とは言え多分見せた方が早いので、こちらを見てください」
画面に移されたのは、光点で人型を表現した仮想実験場と、その状況説明をしているであろう文面。
さっきの戦闘をシュミレートしているらしく、何百という人型の光点から離れていく者が一人、恐らくこれがクイーンだろう。
「てかこの魔法、明らかこの世界の文明レベル超えてるよな。一体誰が作ったんだ?」
「ああ、これはクイーンさんの自作らしいですよ。四日前の晩に偶然会って、試験的に作ったから試してくれと頼まれたんです」
「製作者教えた本人だったのかよ!? あいつ、本当に色々やってくれるな」
俺の独り言をゆんゆんが拾ってくれたのだが、まさかそう言う事情だったとは。
と、俺達が愕然としている間にも映像は進み、丁度人混みから外れた人型に黒い粒の波が降り懸かっていた。
そして黒い波の何か所かに緑色の亀裂が入ったかと思うと、波が不規則に揺らめき、そのまま一気に膨張して消え去ってしまった。
映像が終わったところで、俺は首を傾げ、
「なあ、多分今のは爆裂魔法が放たれたシーンなんだろうけど、ここから何が分かんの? ……めぐみんどうした、そんな幽霊でも見たような顔して?」
「っ! す、すみません、やり方が余りにも常人離れしていたので、自分の目を疑ってしまい……。ゆんゆん、これは本当に先程の戦いを再現したものなんですよね!?」
信じられない様な顔をしためぐみんが慌てて尋ねると、ゆんゆんも何やら打ちひしがれた様に弱弱しく肯定した。
「さっきからどうしたんだよお前ら? 分かった事があるんなら教えてくれよ! お前らだけで納得すんな!」
話に全く付いて行けてなくて抗議する俺にめぐみんが、
「……クイーンは強化させた風の上級魔法で、爆裂魔法の隙を切り裂き自滅するよう誘導したんですよ」
なるほど。
分からん。
「でも魔法を無効化するなら他にも手があるだろう? アクアの持ってる反射魔法とか」
俺は視たことないが、世の中には魔法効果を消失させる魔法だってあるらしいし。
説明が分かりにくいめぐみんに代わってか、今度はゆんゆんが。
「……結果だけ見ればそうなんですが、クイーンさんが行ったのは魔法制御の乗っ取りなんです」
なるほど。
分からん。
「クイーンの末恐ろしいところは、即興で魔法の改編を行い、しかも恐ろしいまでの燃費の良さで実現させた点なんですよ……」
「これってつまり、その気になったら倍以上の威力で魔法を反射させたり、打った後の魔法さえ制御可能だってことで……。…………私、アークウィザードとしての自信なくしそう……」
「そ、そうか……。それはまた難儀だな」
よくは分からないが、クイーンが神がかった方法で魔法を無力化したってのは悟った。
めぐみんはともかく、ちゃんとした優秀な魔法使いのゆんゆんがここまで意気消沈しているのだ、これは相当な代物なのだろう。
さて、どうやって攻略したもんかと考える傍らで、ゆんゆんがあっと小さな声を洩らした。
「どうしたんですか、ゆんゆん? あまりの友達欲しさに遂にエア友達でも作ってしまったんですか?」
未だに打ちひしがれているのか、めぐみんが力なくゆんゆんに尋ねた。
「さ、さすがにそこまでボッチこじらせてないわよ! そうじゃなくって、分析結果を読んでて気付いたんだけど、クイーンさんもマジックアナライシスを使ってたみた」
「そういう事ですか! 魔法制御とかいう邪道を素で出来るのかと懸念していましたが、そんなイカサマをしていたとは!! そうと分かればこちらの物、逆にその裏をかけばそれ即ち我が爆裂魔法を食らわせられるということ! ふっふっふっ! 次に会った時を楽しみにしていてください、クイーン! そのスカした顔を恐怖で埋め尽くしてやります! 今度こそ、今度こそはっ!!」
「め、めぐみん、その言い方じゃどっちが侵略者か分かんないよ! そもそも、分析魔法は邪道でもイカサマでもないと思うんだけど……。それに、クイーンさんは本当に一瞬で分析を終わらせちゃうんだから、裏をかくのは決して簡単な事じゃ……」
めぐみんのこの荒れよう、これ確実に俺にまで飛び火が来るやつだ。
事前に危険を察知した俺はゆんゆんにこの場を任せ、ここまで分かった情報をダクネスに伝えるべく、二人に黙って会議室へと急ぐことにした。
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