正体見たり虚の権化

「おい、プリーストは!? 動けるプリーストはいないのか! 俺の同僚が大怪我を! 頼む、早く、早く治療を!」

「あんなの無理だって!! 強すぎ、勝てるはずない!」

「ああ、俺はきっとここで死ぬんだな。どうせ死ぬなら巨乳美女の胸の中で死にたかったな」

「ああっ、エリス様仏様邪神様! この際アクア様でもいいからどうかお助けをっ!」

「ちょっとそこのあんた、今のはどういう意味よ!」

 反射的に殴りつけようとするアクアを引き止めながら、俺は目の前に広がる世界を呆然と眺めていた。


 王都。

 この国の首都にして、政治経済の中枢ともいえる場所。

 そんな重要都市に現在、国中から冒険者という冒険者が転送されていた。

 王都に着いたはいいが、先程から放送で何度も避難勧告と戦闘要員への奨励が掛かり、人々の顔には一様に悲壮感が色濃く出ている。

 絶え間なく耳に届く雷鳴や爆発音からして、戦場はかなり近いらしい。

 俺達は人波に流されるまま、無残にも瓦解した城門をすり抜け。

 そして……。

「ね、ねえ、もう帰らない? 攻めて来た人はすごく強そうだし、私達との相性が悪いと思うの」

「何を馬鹿な事を言ってるんだアクア! 皆が命を賭して戦っている中、魔王を討伐した私達が逃げては示しがつかんではないか! まあ、気持ちは分からんでもないが……」

「……咄嗟に言葉が出てこないですね。でもこれだけは言えます。ヤバいです、これは絶対にヤバいです!」

「こ、ここは本当に王都なの? もしかしてテレポートが失敗して地獄に送られちゃったんじゃないの!?」

 こいつらの意見に激しく同意する。

 ちょっと周りを見渡してみたが、直径五メートルぐらいの氷塊があったり、半径二十メートルくらいの穴がぽこしゃか形成されてたり。

 地面がぱっくり割れてたり地表が融けてたり。

 現在進行形で雷やら氷やら炎やらが吹き荒れていて、まるでこの世の終わりに立ち会ってる気分だ。

 紅魔の里で魔法の嵐に慣れてるはずの二人ですら、恐怖のあまり青ざめて立っていられないぐらいに震えている。

 普段なら一も二もなく帰るんだけどな。

「俺も今すぐにお暇したいところだが、今日は目的があってきたんだ。どうせ帰るにしても確認してからにしようぜ」

 ダクネス以外はあからさまに嫌そうな顔をするが、俺の言い分も分かっているのか文句は言ってこなかった。

 さてと、お目当ての人はどこだろう。

 人が入れ代わり立ち代わり動いてるし、砂煙とか魔法とかが飛び交ってて探しにくいんだよな。

 俺は千里眼を駆使して、戦場の中心をじっと凝視し……。

 いた。

 十中八九、あいつが王都を攻撃してきた奴で間違いないだろう。

 フード付きのコートを被ってて顔や体形が分からないが、数十人の前衛達を圧倒し。

 後方からの攻撃魔法は全て見切りっているらしく、一つとして当たらない。

「どうだカズマ、見つけたか?」

「ああ、それっぽいのはな。フードを被ってるから顔は確認できてないけど。あれをなんとか外せたらいいんだが……」

 こんな遠距離からフードを剥ぐのは至難の業だ。

 だったら接近しろよと言われるかもしれないが、前戦で戦っているチート持ちや騎士達ですらあのザマなんだ、最弱職の俺にできるはずもない。

「ゆんゆん、あいつのフードを破くのって無理か?」

「ええっ!? あれだけ動き回ってる人に当てられる訳ないじゃないですか! 万一当てられたとしても、その場合首がスパンッと切れちゃうと思うんです。モンスターならともかく、……あの人は…………っ!」

 ゆんゆんが今にも泣き出ししそうな顔で訴えて来た。

 グロ耐性のある俺でも、首チョンパだけは古傷が疼くので勘弁願いたい。

 となれば、代替案として思い着くのはこれぐらいしか……。

「カ、カズマ、何を取り出してるのですか!?」

 狙撃の準備を始めた俺に、めぐみんが不安そうに聞いてきた。

「決まってるだろ。これをフードに当てて破くんだよ」

「待てカズマ! あれだけ人がいるんだ、他の人に当たったらどうする!?」

「そもそもカズマのステータスでは、あれだけ気流が乱れてる中に打ち込んでも届きませんよ」

「それは分かってる。でも、試してみる価値はあるだろ。なんせ俺の幸運はエリス様印入りだからな」

 現状これ以外手がない上に、このまま帰るのもそれはそれで憚れる。

 それを理解しているからこそ、黙り込むしかなくなるダクネス達。

 皆が見守る中、俺は襲撃犯のフードに狙いを定め……。

「だ、だったら私の爆裂魔法の風圧でぺらっとめくれば解決でしょう! という訳で打ちます!」

「い、いや、ここは私がアイツの下まで行って、直接剥いだ方が確実だろ! 心配するな、私は必ずやり遂げてくる! では、いってくりゅ!」

「めぐみん、バカ言わないで! そんな事したら、あの一帯にいる人達まで仲良く死んじゃう!」

「ダクネスも、お前にできるなら前戦にいる人が苦戦する訳ねえだろ! 自分の不器用さをもっと自覚しろ! というかお前、あの戦闘の渦中に入りたいだけだろ」

 詠唱を開始しためぐみんをゆんゆんが慌てて取り押さえ。

 飛び出して行きそうだったダクネスを俺が無理やり食い止めると、ダクネスはブルッと身震いをして、

「お、おいカズマ、こんな非常事態にまでそんな罵倒を、……一体何のご褒美だ! 時と場所ぐらい考えろ!」

「お前はちょっと黙ってろ」

 ああもう、こいつらは毎度毎度俺の足を引っ張りやがって。

 こういう時は必ずアクアも何かしらやらかして……。


「『パワード』ッ! それから、『ブレッシング』ッ!」


 アクアの魔法により、俺は柔らかい光に包み込まれ。

「さっ、これならよっぽどでない限り大丈夫でしょう。ちゃちゃとやっちゃいなさいな!」

 そう言って微笑むアクアに、

「お前熱でもあんのか? 丁度王都にいるし、腕の良い医者を探してきてやるから、そこで安静にしとけよ」

「今は戦闘中だし、いっそのことエルロードに行った方がいいかもしれない。私も一筆書いて来よう」

「それでは私は、竜車の手配をしてもらえるよう下っ端に頼んできますね」

「アクアさん、大丈夫ですか? 私が看病しますからここに座って安静にしていてくださいね。あっ、水飲みますか?」

「ねえ、ちょっと、なんで急に優しくするの? 私ただ支援魔法と祝福魔法をかけただけなのに、なんでそんな重病患者扱いされないといけないの!?」

 騒ぐアクアの肩を、俺は優しく掴んでやり。

「いや、いいんだ。クイーンの看病で疲れが溜まったんだろう。しばらくは何も言わないから、ゆっくり休むといい」

「カズマが見たことないぐらい優しく接してくれて、嬉しいやら気味悪いやらで変な気分なんですけど」

「そこは素直に喜んどけよ」

 よく分からんことを言い出してはいるが、一言多いあたり風邪ではないらしい。

「だったらどういう風の吹き回しだ? お前がこんな気の利いた事をするなんて、裏があるか病気にかかったぐらいしか考えられないじゃないか」

 俺の言葉にゆんゆんを含む三人がうんうんと頷く。

 と、アクアは肩をプルプルと震わし涙目になって騒ぎ出した。

「ひっど! 皆私の事をそんな風に思ってたの? 私だって学習するのよ。カズマの幸運値を上げて命中率を高めたらいいんじゃないかって思ったからやったのに、たまには素直に褒めてよ!」

 そんな馬鹿な、アクアがこんなに先を予測して行動できるなんて。

 俺はアクアの成長に嬉し涙を流し、気付いた時にはアクアの頭を撫でていた。

「よしよし、お前の成長は確かに見たぞ、俺達が証人だ。それじゃあさっそく試させてもらうよ!」

「んっ、……ちょっと、褒めてとは言ったけど頭撫でてとは言ってないんですけど……」

 そうは言いながらも、俺の手を払わずにどことなく嬉しそうに受け入れているアクア。

 成長した娘を見守る父親ってのは、こんな感じなのかな。

 目元を拭った俺は、改めて弓に矢を番え狙いを定めた。

 標的は俊敏に動き回ってるし他の人もいるから危ないが、今の俺はどんな不可能でも可能に変えられる自信がある。

 そして、襲撃者が大きく冒険者達から距離を取ると思われた瞬間、


「『狙撃』ッ!」


 張り詰めていた弦から手を放し、矢を解き放った。

 俺の狙い通り、矢は人集りを通り過ぎ、魔法攻撃を掻い潜り、気流に邪魔されることなく、そのままフードを被った人物に吸い込まれていった。

 相手もこんな人混みの中、矢が飛んでくるとは思わなかったのだろう。

 間一髪のところで首を曲げて躱すが、それでもフードには切れ目が入った。

 動きを止めた襲撃犯のフードが、そのまま風に煽られ。

 太陽の日差しがその素顔を照らし、戦闘中にも関わらずその場にいる全員が無意識に目を見張っていた。


 ……悪い予感ってのはどうして当たってしまうのだろうか。


 視た者を魅了し思わず溜息が零れ落ちてしまう、女神の如き相貌。

 風でたなびく煌びやかな白金色の髪に、周囲を冷徹に見極める虹彩異色の瞳を持つ風光明媚な女性。

 俺達にとっては見慣れた人物、クイーンの姿が露になった。


 ――幸いにして、クイーンは攻撃の腕を止めた人達には眼もくれず、人を射殺せそうな鋭い視線で矢の飛来した方角を見据えていた。

 きっと、フードを切り裂いた優秀な狙撃手を探しているのだろう。

 そんな攻撃対象になりかけてる俺は今……。

「く、クイーンがすごい形相でこちらを睨んでいますが、バレてませんよね? ほ、本当に大丈夫ですよね!?」

「だ、大丈夫だろう、きっと……。…………多分」

 めぐみん達共々、戦場にも関わらずうつ伏せになっていた。

 潜伏スキルを発動させてはみたが、逆に動きが取れなくなってるので、もし見つかったら後が物凄く怖い。

「なあ、今日のところは何も見なかったって事で、アクセルに帰らないか?」

「何を寝ぼけた事を言ってるんですか! この機会を失ったら二度と会えないかもしれないんですよ!! そうです、いっそ矢を撃ったことを謝りに行きましょう。顔を見たら私達の事を思い出して、話し合いに応じてくれるかもしれません」

「お前は俺に死んでこいて言ってんのか。あんなおっかないクイーンの前になんか立てる訳ねーだろ!!」

「しかし、このままでは確実に王都が崩壊してしまう。それはそれで困るぞ」

 そうは言ってもなあ。


「あっ、ちょっと、アクアさん、どこ行くんですか!? 危ないですよ!」


 俺達がコソコソと相談している横で、ゆんゆんが突然小さな声で叫ぶというなかなか器用なことを、てそうじゃなくて……。

「おま、勝手に飛び出すなよ! まだどうするか決まってないってのに、何考えてんだ!」

「カ、カズマ、早く追いかけないとアクアが!」

「ああもう! さっき褒めてやるんじゃなかったああああ!」

 俺達は大慌ててアクアの後を追いかけたが、基礎ステータスの高いアクアは瞬く間にクイーンの前へ辿り着いてしまった。

「クイーン、クイーンなんでしょ! 手紙では記憶がなくなるとかなんとか書いてあったけど、私達をからかってるだけなのよね? 理由は知らないけれど、お城に魔法を打ちこむのは止めた方がいいと思うの。今からでも遅くはないわ、私も一緒にごめんなさいしてあげるから、一緒に謝りに行きましょ!」

 アクアの奴、クイーンを説得するつもりなのか?

 そうにしても案もなしに突っ込むなと言ってやりたい。

 当のクイーンは俺達に攻撃を仕掛けてくることはなく、必死に語りかけてくるアクアを訝し気に観察していた。

「ねえ、なんでそんな顔をするの? もしかして、本当に私の事、忘れちゃったの? 一緒にクエスト行って、宴会して、私の相談にだって乗ってくれて……。……あんなに楽しかったのに…………?」

 クイーンのあまりの反応のなさに、徐々に言葉尻を弱くして顔を俯かせていくアクアと、益々首を傾げるクイーン。

 そうこうしてる間にアクアに追いつき、ダクネスは俺達を庇う形で一歩前で剣を構え、俺とめぐみん、ゆんゆんはアクアの隣に立った。

「こんのクソバカが! お前ってヤツは、どうしてこう毎度毎度事態を面倒な方向に持って行くんだ! ……あれ? おっ、おーい、アクアー。アクアさーん?」

 俺の言葉に全く反応を見せないアクアを不思議に思い、顔を覗き込んでみたら。

 そこにはひどく意気消沈した表情のアクアが。

 どうやらクイーンに忘れられたのが相当に堪えたらしい。

 めぐみんとゆんゆんがアクアの背中を撫でてやり、ダクネスも視線は油断なくクイーンに向けたまま、背中越しにアクアを気にしていた。

 …………。

「なあクイーン、今のお前は覚えてないかもしれないけど、俺達は昨日まで一緒にパーティーを組んでたんだ。だからお前とは事を交えたくない。でもお前が王都を吹っ飛ばすって言うんなら、後ろの人達がほっとく訳がない。せめて王都を襲撃している理由を話してくれないか?」

「後ろの人達はって、カズマはほっとくという意味ですか?」

「余計な茶々を入れんなよ」

 めぐみんが煩いが、取り敢えず交渉してみるだけしてみよう。

 万が一という場合もある。

 と、先程から顎に指をあてて思考に耽っていたクイーンが、その重く閉ざされていた口を開いた。

「思うに、汝は水を司る女神であるか? 名が確かアクアだっただろうか……」

 その言葉にアクアがばッと顔を上げ、ちょっと期待しながら、

「そ、そうよ! 私はアクア、水を司る女神にしてアクシズ教のご神体、女神アクアよ! もしかして私の事を思い出してくれたの!?」

「否、汝の事は天界名簿を読了してる故に認識しているに過ぎない。それと、先程から汝らは、何故我をクイーンと呼称している? 確かに昔女王気分を味わおうと国を創設した事はあったが、それは随分と昔の話であるぞ」

 そんなしょうもない理由で建国するなよ、人騒がせな。

「実はここ一週間分の記憶が残存しておらんでな。汝らの文言から推察するに、我は汝らと共にあの片田舎の街で過ごし、その時の名をクイーンとしていたという所か」

 この短時間でそこまで読み解くとは、洞察力の高さは健在のようだ。

「そ、そうなんですよ。それで今朝あなたが急にいなくなったからこうして追ってきた訳でして」

「どうしたのですか、カズマ? いきなり敬語なんか使い始めて?」

 と、めぐみんが心底不思議そうな顔でそんなことを。

「あっ、いや、あんな感じで喋る人には反射的に敬語を使っちまうんだよ」

「ほう、それは初耳だな。基本お前は相手が貴族だろうがタメ口だというのに」

「それは気心が知れてる奴にだけだ。そんな誰かれタメ口って訳じゃない」

 本当は知的で美人なお姉さんへの耐性があんまりついてないから、相手がクイーンとはいえちょっと緊張しただけなのだが。

 それとダクネス、気心が知れてるってとこで喜んでくれるのは良いけど、めぐみんの眼が怖いんでモジモジすんのやめてもらえませんか。

「そこの、先程から我の肢体を舐めるように視姦している者よ。汝の質問に対しての回答だが……」

「誤解を招く言い方すんな! お前らも、そんな目で俺を見んな!」

 こいつ、なんつーことぶちかましてくれてんだよ、周りの眼が冷たくなったじゃねえか。

 慌てる俺など眼中にないのか、クイーンはニヤリと笑みを浮かべ、手をパッと前に出し突き出した。


「その理由を知りたいのであるならば、我を倒してからにするのだな!」


 お前それ言ってみたかっただけだろ。

「一週間世話になったらしい汝らの顔に免じて、此度は退却してやろう。だが、次は確実に陥落させるのでそのつもりで。だが正直、先のような戦闘ではあまりにも一方的でつまらん。そこでだ――」

 クイーンが唐突に指をバチンと鳴らし、


『今宵より三日、汝らに執行までの猶予をくれてやろう。戦闘の開幕は正午とする。その間に逃亡するもよし、英気を養うもよし。我がこの地を再度踏む刻、この場に留まる猛共がいる事を期待しておるぞ』


 魔法らしきもので声を拡張させてそう宣言したクイーンは、クルッと俺達に背を向け街から離れて行った。

 その姿を追う事も止める事もできず、俺達は黙って見届けていた。

 と、何を思ったのか、急に立ち止まったクイーンはこちらに顔を向け。

「そう言えば、まだ遂行していない事が――」


「『エクスプロージョン』ッッ!」


「「「「ちょっ!?!?」」」」

 ついに頭がいかれたのか、クイーン目掛けてめぐみんが爆裂魔法をぶっ放しやがった。

 パッと見避けてなさそうだったし、あれ直撃したんじゃね?

「めぐみん、何て事をするの! もしかして欲求不満だったの、溜まってたの? 言ってくれたら私が相手してあげたのに、どうしてクイーンでやっちゃったの!?」

「今のは打つ必要なかっただろうに!? 不意打ちでしていいのは、私に対してだけだぞ!」

「あああっ、めぐみんが、めぐみんがついに殺人犯に……っ! いつかやるかもとは思ってたけど、まさか本当にするなんて!! ……わっ、私のせいだ、私が学生時代からもっとめぐみんをしっかり教育していれば!」

 本当にやってくれやがったなこいつは!

 これって殺人になるんじゃないのか。いや、今回の場合は殺神か?

 いくら相手が暴走してるとは言え、相手はまだちゃんと会話ができたってのに。

 しかも仲間殺しなんて禁忌中の禁忌。

 ウチのパーティーで一番仲間思いのめぐみんが、まさかあんな奇行に走るとは想定外だった、完全に油断した!

「ち、違うのです! 私だって直撃させるつもりもなければ、気分が高ぶって打った訳でもないのです!! ただ、ショック療法を使ってクイーンの記憶を蘇らせようと思っただけで。クイーンが振り返ったタイミングを狙って打ったのに、まさか避けないとは思わないじゃないですか!」

 めぐみんもうつ伏せで涙目になりながら反論してきたが、そんな言い訳が通じると思ってんのか。

「つもりがなかったで許されるならこの世に警察は必要ねえんだよ! そもそもショック療法ってレベルじゃねえだろうが、あれはかすりでもした普通は即お陀仏だ! そこの変態ぐらいバカみたいに防御関連スキルを上げていなけりゃ一秒と持たねえよ!」

「ば、バカとは失礼な! わ、私はただ、守る事を生業とするクルセイダーだから仕方なしに……っ!」

「そう言うのは両手剣スキルぐらい取ってからにしろ!」

「それは断る!」

 このヤロウ、こんな時にまでなんてわがままなんだ。

 いや、ダクネスに突っかかっている場合ではない。

 あれだけ圧倒的な力を見せつけてくれたクイーンのことだ、瀕死の重傷ぐらいで済んでいてもおかしくはない。

 三日後に王都を襲うテロリストを救うというのも世間的にはマズイかもしれないが、そんなことは今は関係ない。

「おい、アクア! 魔法が引いたらクイーンに回復魔法を……っ!」

「カ、カズマさん!」

「な、なんだよゆんゆん、悪いけど今急いで」

「あ、あれ、あれっ!!」

 ゆんゆんが驚愕を露にし、震える指で未だに立ち込める火柱の方を指さした。

 つられて俺もそちらへ視線を動かし、


「う、嘘だろ……」


 あまりに信じ難い現実を目の当たりにし、俺を含めその場にいた騎士や冒険者達全員が驚愕の表情を浮かべる。

 ある人はガックシと膝をついて絶望にくれ、またある人は後退りしながら口を戦慄かせていた。

 爆裂魔法により生じた焔陣が、内部から急速に膨張したかと思うとそのまま四散し、

「人の話は最後まで拝聴する物であるぞ、我でなかったら漏れなく昇天していた所だ。まあその場合は天界回帰の術式を組む手間が省けたので、いずれでも構わんのだが」

 まるで何事もなかったかのように悠然と佇むクイーンは、そんな事をボヤき、

「さて、一番肝心の口上を失念していたので、この場でやらして頂こう」

 視覚できる程の膨大な魔力を躰に纏わせ、左手を天に仰いだ。


『我こそが万物の破壊を司りし神、トルクティオである。己が造詣に溺没せし愚者共よ、我が名の下に其の滋魂を乖離せよ‼』


 荘厳な雰囲気の中その宣ったクイーンは、手の上方で練り上げられていた魔力を一気に解き放つ。

 それはクイーンを中心に眩い光を拡散させ――

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