第4章 この煩瑣な戦闘に予行演習を!

困った時の悪魔頼み

 俺の名は佐藤和真。不慮の事故により死した後、美しい女神に導かれ異世界へと転生を果たした。支援全般を受け持つ可憐な女神に続き、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、鉄壁の防御力を誇る女騎士が仲間に加わり、数々の試練の末、念願の魔王討伐を果たす。

 それから幾分時が過ぎた頃、俺達は記憶を失った日本からの転生者と思しき美しい女性と出会い、その記憶を取り戻すべく奮闘する。しかし突如、彼女は俺達の前から姿を消してしまう。そんな彼女を放っておけない俺達は、僅かな手掛かりを求めて街へと繰り出した。すべては彼女と再び笑い合うために……。



 くそ、やっぱ見つからねえか。

 アクア達との待ち合わせまで時間がねえってのに、どこ行きやがったんだよ、あいつは。

 屋敷を飛び出した俺達はまず、分担して街中を探し回ることにした。

 クイーンが出て行ってからしばらく経っているし、もう街にいないことも十分考えられるが、情報収集も兼ねての全方位探索だ。

 クイーンと知り合っていた人が異常に多かったのには驚いたが、大した収穫もなく。

 俺はクイーンが立ち寄りそうな場所の一つである、ウィズの店へと辿り着いた。

「おい、ウィズ! いるか?」

「フハハハハ! いらっしゃっせー! 昨晩クイーンの奴に恥ずかしいセリフを吐きいい所まで行きかけたものの、結局何も起こらずに悶々としている男よ! そんな貴様にはこの商品、噴きかけると立ち所に周囲の者が己に酔いしれるという香水はいかがかな? 嗅がす量を間違えるとパーになるが、効果は抜群!」

「うるっせー! 人の了承を得る前に何でもかんでも見通してんじゃねえええ! しかもどさくさに紛れて際どいもん売ろうとすんな! というかなんだよこの大量に積まれた箱は、商品の整理中だったのか?」

「そんなっ! こんなに素敵な物なのに……」

 扉を開くと同時に、待ってましたとばかりに宣伝を始めたバニル。

 そして俺の言葉に、悲しそうな声を上げるウィズが、

「何でもバニルさんが、近いうちにこれらの商品が売れると仰るので、出荷の準備をしているんですよ。いらっしゃいませカズマさん、また随分とお早いご来店ですね。今日はどういったご用件ですか?」

 ここの店の商品が大量に売れるとか、天変地異の前触れじゃないか?

 今俺達が立たされてる状況からして、全然笑えねえけど。

「朝早くから悪い、ウィズ。クイーンの奴がここに来なかったか?」

「クイーンさんですか? 私はついさっき起きて来たばかりなので……。ゼーレシルトさん、クイーンさんがいらっしゃったかご存じありませんか?」

 ウィズ同様、所狭しと置かれた箱に埋もれかけていた着ぐるみが、手羽先をパタパタと羽ばたかせて。

「それは以前、私がいない時に来たという記憶喪失のお嬢さんの事かな? 私は直接会ってないので断定は出来ないが、今日店に来たのは少年が一人目だよ。その者がどうかしたのかい?」

 ああもう、ここも外れかよ。

「俺達が朝になって起きてみたら、あのヤロウもう会うことはないから探すなって書き残して、どっか行っちまったんだよ!」

「えええっ!? そ、それってすごく大変じゃないですか。わ、私もお手伝いできませんか?」

「それはすっごい助かるが、実はまだ何の手掛かりもないんだ。だからもし見かけるようなことがあれば、すぐ屋敷に戻るよう伝えてくれ。バニルも知らな、ていうかお前って見通す悪魔じゃねえか! なあ、あいつがどこにいるか見通してくれよ!」

 最近バイト店員のイメージがなじみすぎて、こいつが強力な力を持つ悪魔だって忘れていた。

「また随分な物言いであるな。それと貴様、吾輩の力を便利アイテムか何かと勘違いしておらんか? こういった類の力は、そう易々と多用して良いものではないのだ。とはいえ、最近の吾輩はアクセル随一の相談屋と評判のバニルさんである。営業時間内ならば相談に乗ってやらんことも無いぞ」

 易々と多用してはいけないって、普段から俺達をからかう為に無駄に使ってるくせしてなんの冗談だろう。

「こんな非常事態につれないこと言わないでくださいよ! バニルさんって普段は素っ気ないですけど、いざという時は結構親切じゃないですか。クイーンさんが心配ではないんですか!? 今ここで見通してくれてもいいじゃないですか!」

「貴様は本当に吾輩を何だと思っておるのだ。わざわざ自分から出て行った者を探すなどバカげているであろう。だが、貴様がどうしてもと言うのであれば、時間外料金が嵩むが占ってやらんことも無いぞ」

 そう言って悪魔らしい笑みを浮かべるバニル。

「分かった、さっきの香水言い値で買ってやるよ」

「毎度あり! これは六本セットであるからして、お値段据え置き九十万跳んで八百七十七エリス!」

「有り金全部じゃねえか! 普段そんなに相談料高くないだろうが、ここぞとばかりに足元みやがって!」

 手持ちの金を全部突っ込んできたのが仇になりやがった。

 苛立ちのままに財布ごと叩きつけてやったが、バニルはニヤニヤしながら軽々と片手で受け取り。

「それではそれでは汝のご希望通り、見通す力を用いてクイーンの動向を探ってやろうではないか! ふんっ! よし完了だ。それではお待ちかねの結果発表である。見通す力を使ってみたところ、なんと……っ!」

 思わず俺だけでなく、ウィズや着ぐるみまでもが息を呑みこんだ。

「…………何も分からなかった。以前言ったが、あの愉快な娘は神聖な気配を纏っておる上に、吾輩に匹敵する実力の持ち主であるのでな、我が見通す力がほとんど通じないのだ。それでは確かに見通す力を使いはしたので、このお代は受け取っておくぞ。おおっと、これは極上の悪感情! うーん、美味であ、てこ、こら、その気もないくせにウチのポンコツ店主の商才を誉めて遠回しに吾輩に嫌がらせをするな! さっきのは唯の冗談である! もっと気合を入れて見てやるから、それ以上余計な事を吹き込むな!」

 散々人をもて遊んでくれたお返しに嫌がらせを始める俺に、慌ててバニルが止めに入った。

「この人がイライラしてる時にいらん事するからだ! 金だけふんだくろうたってそうはいかねえからな!」

「まったく、吾輩なりに貴様の緊迫感を緩和してやろうと気を使ってやったのに、ひどい言われようである」

「お前が気を使うとかゾッとするわ、心にもないことを言うなよ。どーせお前の私利私欲のためだろうが」

「そうに決まっておろう! 何せ吾輩は悪魔であるからな!!」

 こいつ開き直りやがった。

 いや、この際クイーンの居場所さえ掴めればもういいか。

「そう急くな。先程も言ったが、奴が飛び切り見通し辛いのには変わりないのでな、精度を高めようとすればそれなりに時間が掛かるのだ。もう少ししたら終わるので、黙ってそこに座っているが良い」

「ったく、初めからそうしてくれればいいのに……」

「バニル様ほどのお方が見通し辛い相手だと!? 少年よ、一体その娘は何者なのかね!?」

 破壊を司る女神様です。

「カズマさん、紅茶を入れましたので、宜しければこれを飲んで少しでも緊張を和らげてください」

「あぁ、ありがとう。はあ、ウィズだけだよ、俺の心を癒してくれるのは」

 店の裏に行ったかと思ったらこんなことをしてくれていたのか。

 ここは気を使ってくれたウィズに感謝しながら、紅茶の味を堪能しておくことにしよう。

「ふむ、漸く見通せてきおったわ。奥に城壁が見えることからして、大都市近郊の荒野か。しかしこれは……。して、この場所は……」

「おい、なんだよ。一体どうしたんだよ! 急に黙りこまないでちゃんと説明しろよ!」

「そうですよ、バニルさん! 私達にも分かるようにちゃんと説明してください!」

 一番肝心なところで言葉を止めやがって。

 そんなに人をイライラさせて楽しいか!? 楽しいんだろうな。

「……そう騒ぐでない。少々度肝を退かされる事象が多数起こったので、思わず言葉を失っただけだ」

「先程から、私が今までに見た事ないぐらいバニル様が何度も戸惑っておられるのだが……。一体何を見通されたのですか?」

 心配気にそう尋ねる着ぐるみに、バニルがポツリと呟いた。

「こちらに向かって手を振ってきおった……」

 はっ?

「あの、それってどういう……?」

「要するに、吾輩があの娘を見通していたのを悟られたと言うことだ」

 はあ、それがどうしたというのだろうか?

 俺達は今だによく分からず、小首を傾げていた。

 いや、一人だけ違った。

「そ、そのような所業を為せる者が存在するとは……。あの、バニル様、まさかその娘は……っ!?」

「うむ、我らが天敵。それも、あの狂猿女神より格が上位に位置する存在であるのは間違いないであろう」

 バニルの言葉に、悲鳴すら上げられず唯々絶句する着ぐるみ。

 というか、バニルのヤツ完全にクイーンの正体に気が付いたみたいだな。

「あの、クイーンさんがバニルさんの見通す力を感知したら、問題があるのですか?」

「こちらに大した実害はない。ただ、感知した事であやつが行動を早める可能性は十分に考えられるな」

 それって結構問題じゃねえか。

 クイーンが何を企んでいるかは知らないが、本来の記憶が戻ったってんなら悠長に構えてられないだろう。

「それで、結局その場所は何処なんだよ? あいつが何かやらかす前に早く行かないと!」

「ええい、そんなに近づくな、暑苦しいわ! それより、吾輩に詰め寄った時に鈍感店主の胸部が当たり、もっと近づいてくれないかなと期待している男よ!」

「べべべ、別にそんなの思ってねーから! ウィズ、こいつの言ってる事は全部嘘っぱちだ! だからそんな冷たい目で見ないでくれ!」

 怯えた様子で自分の体を手で抱き、俺から距離をとるウィズ。悲しいです。

 そんな俺達に構わず、バニルはビシッと指を向けてきて。


「今すぐ冒険者ギルドに向かうが吉! さすれば自ずとクイーンの下に行きつくであろう!」


 冒険者ギルド? さっきはどっかの大都市近郊とか言ってたのに。

 一瞬疑わしく思えたが、対価を得た状態でのこいつの助言は大概合っている。

 かと言って……。

「さっきまでと話が違うじゃねえか。そんな事を唐突に言われて、はいそうですかって訳にいくか。他にも分かった事あるんだろ、高い金払ったんだからちゃんと教えろよ!」

「吾輩はそれでも構わんが、どうせ目的地に行けばすぐに分かることだ。ここで時間を取ることも無かろう」

 そう言われるとそうかもしれないが。

 丁度アクア達との待ち合わせ場所でもあるからギルドには行くつもりだったし。

「……ギルドに行けばいいんだな。色々言いたいことはあるが取り敢えず助かったぜバニル。それじゃあ、行ってくる!」

 そちらにサムズアップし、俺は足早にこの場を去ろうと……、


「少し待つがいい!」


 したところで、バニルが後ろから鋭く呼び止めた。

「なんなんだよ、早く行けって言ったり待てって言ったり! 俺はお前の暇潰しに付き合ってる時間は……っ!」

 振り向き様に悪態をつこうとして、途中で言葉を切った。

 いつも飄々とした態度を崩さないあのバニルが、いつになく真剣な表情を浮かべ、


「貴様は数日後、今から赴く死地にて己の仲間の門出に立ち会うことになる。これは世の理であり既定された抗い切れぬ事象であるからして、貴様らにはどうにも出来ず、唯成り行きを見守るしかない。汝、今からその時に備えて心積もりしておくがよい」


 死地って、俺はこれからどこへ向かわされるんだよ。

 といか、門出って言ったか?

 てことはつまり……。いやいやまさかそんな。

 しかしバニルの表情は真面目そのものであり、嘘とは思えない。

 ……念のため心のメモには書き加えておくか。

「……お前が何を指して言ってるかはさっぱりだが、一応覚えておくよ」

「礼には及ばん。次回はあの娘も連れてのご来店を心よりお待ちしておりますぞ、お客様。フハハハハ!」

 バニルの高笑いを背に、俺は今度こそ店を後にしようと扉を開き……。

「しかしバニル様、その娘が事実女神だというのでしたら、何故見通す力を行使出来たのですか? 我々悪魔の力は神々相手では効果がないはず。それに何度かその娘の名前をお呼びになっていますし……」

「それは相手が純粋な神であった場合である。クイーンの奴には少しばかり事情があるのでな、格の割りには神聖力が脆弱なのだ……。それにあやつは女神にしては中々話の分かる奴でな、吾輩にしては意外と気に入っており……」

 なんか後ろからすっげー気になる話が聞こえてくるんですけど。

 だけど今は急がないといけない。

 本当に惜しいが、そのことはクイーンを連れ戻してから改めて尋ねるとしよう。



 ギルドの入口前に着いた時には、既に他の三人が到着していた。

 おっと、どうやらゆんゆんも来てくれたみたいだ。

 もしもの時には、貴重な戦力として頼らせてもらおう。

「遅いわよ、カズマ! 一体どこほっつき歩いてたのよ!」

「悪い、ちょっとウィズんとこで話しててな。それより、クイーンの奴は見つかったか?」

 憤慨するアクアを窘めつつ、俺は今一度状況を把握しようと全員に声をかけた。

「テレポート屋は利用していないようだ。それに、そっちの方角には目撃者もいなかった」

「こっちもハズレです。まあ、所詮ゆんゆんですのでこんなもんでしょうけどね」

「酷い! クイーンさんが来なかったってだけで、なんでそんな風に言われないといけないのよ!」

 だろうと思った。となると残りは……。

「ふふーん、聞いて驚きなさい! 私の超優れた調査能力のおかげで、目撃情報がザクザク集められたわよ!」

「うん、そうだろうな。早く話せ」

「ちょっ、なんでそんなに反応が薄いの!? 今のはもっと盛り上がってもいい場面じゃないかしら?」

「ま、まあ、アクアが向かった商店街は人通りも多いし、どこへ行くにも絶対通らないといけない道だからな」

 ダクネスが言う通り、あの道は絶対に通るはずだから、情報を沢山搔き集められるように一番足の速いアクアに行かせたんだ。

「なんか釈然としないわね……。それでクイーンだけど、朝市が始まる時間帯にあの道を通っていたんですって。それでね、おじさん達の証言を辿っていったら、なんと!」

 調子を取り戻したアクアはビシッとギルドを指し。

「冒険者ギルドへと続いていたのよ!」

「やっぱそうか、その辺は俺が聞いた情報と同じだな。よしお前ら、早く入ってお姉さん辺りに聞き込みしようぜ」

「だからなんでそんなに素っ気ないのよ! 頑張って聞き込みしてきたのにあんまりよ! もっと私を誉めてよ、労ってよおおおお!」

 後ろでごちゃごちゃ煩いアクアはそのままにして、俺達は受付へと駆け込んだ。


「――すいません、お姉さん! 少し聞きたいことがあるんですが!!」

「カ、カズマさん!? どうしたんですかこんな朝早くに慌てて? と、取り敢えずこちらに身を乗り出さないでください」

 おっといけない、急ぎすぎてついつい乗り出してしまった。

「えっと、クイーンの奴がこちらに来ませんでしたか?」

「クイーンさんですか? ええ、来られましたよ。丁度一時間ぐらい前でしょうか。同じパーティーなのに、どこに行かれるか聞いていないんですか?」

 事情を知らなかったら当然の質問だ。

 俺がここまでの流れを簡単に説明した所、お姉さんは驚嘆の表情を浮かべた。

「えええっ! そ、そんな事になっていたんですか。以前お会いした時とは雰囲気が随分と違っていたので、どうしたのかと思ってはいたのですが。まさかそんなことになっていたなんて……。そうとは知らず送り出してしまいました、申し訳ありません」

「それについては別にいいんです。それより、あいつどこに行くとか言ってませんでした?」

「いいえ、そういった事は特に。ただ、世界地図をくれないかとだけ頼まれまして」

 なんでそこで世界地図が出て来るんだ。

 ……まさかっ!?

「まさか、あれだけ意味深な手紙を書き残して私達に心配かけるだけかけておいて、その実自分だけ旅行に行こうとしていたの!? まったく、クイーンたらまったく、なんて悪い子なのかしら! それなら私達も誘ってくれればいいのに!」

「そんな訳ねえだろ! クイーンがお前みたいなすっ呆けた理由で旅立つか!」

「はあ? 私がいつそんな理由で旅に出たのよ!」

「探してくださいとかって書き残して、ガキの家出みたいに魔王退治へ行ったの忘れたとは言わせねえぞ!」

「二人とも、今は喧嘩をしている時ではありませんよ! まずはクイーンの居場所を突き止めることに尽力しましょう!」

 いつもの流れで俺達が喧嘩を始める前に、めぐみんが慌てて仲裁に入ってきた。

「悪い悪い、こいつ相手だとつい。あのお姉さん、他に何か気付きませんでしたか? 地図のこの場所を凝視してたとか、どっかの地名を呟いてたとか。どんな些細な事でもいいんです!」

 世界地図なんかを持ち出してきたのだ、何かしら目的地があるに違いない。

 俺の言葉に、お姉さんはちょっとバツの悪そうな表情を浮かべ。

「私も気になって、失礼ながら横目で観察していたんですけど、これと言ったことは……。あっ、でもこの場を立ち去る時には、テレポートみたいなものを使っていらっしゃいましたよ」

「ん? みたいなとはどういう事だ?」

 お姉さんの微妙な言い回しに、ダクネスが首を傾げる。

「素人目ですのでハッキリとは分かりませんが、テレポートじゃなかった気がするんです。どう説明すればいいんでしょう……、なんというか……パッと消えたんですよ。詠唱も無ければ魔法陣も出現せず、なんの前触れもなく突然に。あれは本当に消えたとしか……」

 言ってる本人も良く分かっていなさそうだが、いずれにせよ、クイーンは既にアクセルを離れたんだな。

 しかも、馬車や徒歩を使っていないのだとしたら……。

「つまり、クイーンが貰ったっていうこの世界地図から移動先を推測しろってことか。こんなもん、地域だけでも絞んないと範囲が広すぎるぞ……」

 一難去ってまた一難とはまさにこのこと、取りあえず俺達も地図帳を借りてはみたが、当然目星を付けられるはずもなく。

 皆して頭を抱え始めた、そんな時。

「あの、カズマさん、ちょっといいですか?」

 ゆんゆんがおずおずと声を上げ、

「もしかしたらですが、クイーンさんの居場所が分かるかもしれません」

「マジかよ! えっ、そういう魔法でもあるの?」

「そういえば魔法解析の術を新しく覚えたとか言ってましたね。それでクイーンが使ったテレポートらしき何かの残痕から、転移先を逆算しようってことですか。ゆんゆんにしては冴えてるじゃないですか」

 思い出したかのようにめぐみんが解説してくれた。

 世の中にはそんな便利な魔法が存在したのか、今の今まで知らなかった。

「それって、上手くいけばクイーンの居場所が割り出せるってことか!?」

 めぐみんとゆんゆんがビッと親指を立ててきた。

 おお、これはいい兆候だ。もしかしたらこれで一気に近づけるかも。

「でも、これって最近習得したばかりなので、まだあんまり試せてなくて。それにかなり難しい魔法なので、結構時間がかかると思いますけど……」

「ここで立ち往生してるよりはマシだ、気にせずやってくれ」

 俺の言葉に、長々と詠唱を唱え始めたゆんゆんの周りには、やたら複雑な魔法陣が数枚出現した。

 かなりの集中力が必要なのか、ゆんゆんの額からは幾筋も汗が流れ落ちる。

 な、なんか大変そうだな、ちょっと静かにしてようか。

 俺達がゆんゆんを静かに見守る中、突然ギルドの扉がバンッと開かれ、鎧がほとんど原形を留めていない満身創痍な騎士が飛び込んできた。

「す、すみません! 緊急事態です!!」

 叫ぶなり騎士はその場に血反吐を吐きながら崩れ落ちてしまい、賑わい始めていたギルド内が静まり返る。

「ちょっと、どうしたのよそんな傷だらけになって? 今治してあげるわね。『セイクリッド・ハイネスヒール』!」

 アクアが慌てて回復魔法をかけてやると、騎士の傷はたちどころに治っていき。

 あまりの回復の速さに騎士は驚きながらも、アクアに感謝をした後に悲壮感を駄々洩れにして、

「そ、それが、正体不明の何者かがいきなり襲い掛かって来て……っ! 現在我々騎士団が応戦しているのですがまるで歯が立たず、こうして全地域に援軍を申請しに来たのです!」

 なんとも物騒な話だ。

 しかし、俺達は今それどころではないのだ。

 一刻も早くクイーンを見つけて企てを阻止しなければ、後々どんな目に合わされるか予想もつかない。

 どこの誰かは知らないが、自分達だけで頑張ってくれ。

「カズマさん! クイーンさんが使った魔法の転移先が特定できました!」

 と、騎士が来てもそのまま解析を続けてくれていたゆんゆんが声を上げた。

「おう、本当か! それで、どこだった?」

「はい。クイーンさんのテレポート先は――」

 その一方で、

「あなたはアクセルの方ではないですよね? 一体どこが襲撃されているんですか?」

 駆けつけて来た受付のお姉さんが騎士に尋ね、

「襲撃されているのは――」


「「王都です!!」」


 期せずして、二人の声が見事にハモった。

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