その先を求めて

「……マ、カ…マ。…きな…いよ」


 ……遠くから誰かの声が聞こえてくる。

 それはとても優し気で全てを朗らかに包み込み許してくれる、そんな心地よさに満ちていて……。

 そのぬくもりが遠ざかっていきかけた時、手放したくない一心で必死に抱き寄せようと……。

「ふぇっ!? ちょっ、かかかカズマさん? なな何でいきなり抱き着いてくるの!? い、今はそんな事してる場合じゃ……。きゃっ! どさくさに紛れてどこ触ろうとしてんのよ! ほら、その手を放しなさいってカズマ! カズ、ゴッドブロおおおおおお!!」

「ふぎゃあああああっ!」

 右頬にいきなり激痛が走り、そのまま俺は床に叩き伏せられた。

 いきなりこんな目に合わせた犯人をとっちめてやろうと、痛む頬にヒールを掛けつつ。

 身体を両手で守るかのように抱え込み、やたら顔を赤く上気させたアクアをキッと睨み上げた。

「何しやがんだこの駄女神が! 人が心地よく眠ってるところを、いきなり殴って起こすとかお前何様のつもりだ!? そんな奴が女神なんて名乗ってていいのかいい訳ねえだろう! さっさと神格を返上してこい、この極道崩れがっ!」

「極道崩れですって!? あんたいい加減不敬罪でしょっ引いて厳格な天罰を食らわせるわよ、無礼者。そもそもこんな事態になったのは、あんたが間抜け面晒して私に襲い掛かってきたのが原因でしょうが、この不埒ニート!」

「いやいや、よく考えろアクア。俺がわざわざ色気の欠片もないお前に襲い掛かる訳ないだろ、物事は冷静に判断するんだ」

「いきなり落ち着きを取り戻して真顔で言わないで! 私に魅力がないみたいに言わないで! セクハラされたのは私なのに、何故かこっちが悲しくなってくるじゃない。ってそうじゃないわ。ちょっと無能ニート、あんたまだ交代してもいないのになに呑気にグースカと眠りこけてるのよ! それ以前に……」

 はあっ、交代の時間って何の話だ?

 とりあえず、さっきから照れたり怒ったり涙目になったりと忙しいアクアは置いとくとして。

 寝起きの頭をフル回転させ、俺は現状の把握を試み始め……。

「おい、一体なんの騒ぎだ? まだ朝も早いのだから近所迷惑を考えろ。ま、まあ、私としては、気持ち良く眠っていたところを無理やり起こされるのも、悪くはないが……」

「またいつもの喧嘩ですか? それならこんな朝早くに始めないでくださいよ」

 どうやら俺達が騒いだせいで起きてしまったらしい。

 起きて早々通常運転のダクネスと少し不機嫌そうなめぐみんが、パジャマ姿のまま部屋に入ってきた。

 と、そんな二人には目もくれず、アクアが鬼気迫った表情で俺に掴みかかってきた。

「どうしたもこうしたもないわよ! ねえ、カズマ、クイーンは? クイーンはどこにいるの!?」

「い、いきなりなんだよ!? クイーンならそこのベッドに……。あれ?」


 座り込んだままベッドへと視線を移したが、そこに居るはずのクイーンの姿はなく。

 やたらと綺麗に畳まれた布団、そして床に一枚のブランケットが落ちているだけで、後は閑散とした空間が広がるだけだった。


 なにこれおかしい、絶対におかしい。

 昨日までは着替えやら本やらがそこかしこに置かれてたのに。

 というか昨日の晩、何かいい思いをしてた気が……。

「あれ? じゃないわよ。いないから聞いてるんじゃない! まさかあんた、睡魔に負けて眠りこけてる間に、クイーンが起きたとかそういうんじゃ……」

「あああああっ!!」

 思い出した! そうだよ、あの野郎!

「い、いきなり大声を上げないでください、びっくりするじゃないですか!」

「おい、クイーンがいないではないか!? まさか昨日の夜に目覚めたのか?」

「そうだよ、クイーンだよ! お、おい、今何時だ!? お前ら、あいつ見かけてないか? どうしよどうしよ、クイーンがいない。マジどうしよう!!」

「ちょ、急に取り乱すな! お前がそんなのでどうする。本当に何があったんだ?」

 そ、それもそうか。今はあれこれ悩んでいる暇はないんだった。

「わ、悪い。実は夜中にクイーンが目覚めたかと思ったらあいつの眼がオッドアイになってて、しばらくあいつの夢の話を聞いてたんだ」

「「「はあっ!?」」」

 三人とも俺から語られたあまりの事実に混乱したような顔をし。

「なんだが、俺が慰めたらそのままいい感じになっていよいよ一線超えようとした当にその瞬間に強烈な眠気が押し寄せてきてそのまま寝落ちしちまって……」

「「「はあっ!?!?」」」

 三人とも俺から流れ出たあまりの出来事に性犯罪者を見るみたいな目をし。

「あんたどさくさに紛れてなにやろうとしてんのよ。アホなの? それともバカなの?」

「衰弱している女性の心の弱みに付け込むとか、アクシズ教徒もドン引きですよ!」

「外道・鬼畜の言葉では言い足りんほどの見下げたクズだな、この女の敵め!」

 何故か牛乳を拭いて一週間放置されたボロ雑巾の如く非難の目で見てきやがったがそれも無視だ無視!

「そんな事はどうでもいいんだよ、未遂だったんだから! それよりヤバいのはその後だ!」

「この男、あれだけやらかしておいてそんな事と流しましたよ!! しかも、それをどうでもいい?」

「こ、こいつはもうダメだ。これ以上被害が拡大しないうちに、そろそろ本気で捨ててくる事を考慮した方が良いのではないか?」

「いやー、あんた以上にヤバいものなんてこの世に存在しないんじゃないかしら。私、なんだかあのヘンテコ仮面が聖人に思えてきたんですけど」

 ああ、もう。本当にそれどころじゃねえってのに、済んだ事をいちいち掘り返しやがって。

「うるっせー! 文句や暴言は後でいくらでも聞いてやるから口を挟むな! それでその眠気なんだが、いくら何でも脈略がなさすぎる。多分、クイーンがスリープでもかけたんだろうな。魔法を使った当人がこうして俺が眠ってる間にいなくなった事実を踏まえるに、俺に後を追わせないよう足止めしたって考えるのが自然だ! 理由は分からないが、逃げだしたって事は俺達に見つかりたくないんだろう。だから急いで探さなきゃ、このまま雲隠れされちまう!」

「カズマに襲われそうになったから自己防衛でやったんじゃないの? さっき私に襲い掛かってきた真新しい前科もあるし」

「その話は置いとけって言っただろうが!」

 未だに疑いの目を向けてくるアクアとは対照的に。

「そ、そそそそれって非常にマズイではないですか!? どど、どうしましょう、どうするんですか、カズマ!?」

「お前が逆境に弱いのはよく知っているが、早く冷静になってくれ! 事態は一刻を争うんだよ!」

 露骨にアワアワしだしためぐみんを揺さぶり、俺は落ち着きを取り戻させようと試みる。

「ひとまず、クイーンを見た者がいないか探しに行こう。幸い冬明けの時期はどこの店も仕事を始める時間が早い。有益な目撃情報も得られるだろう。お前が眠らされてからまだ数時間しか経っていない今なら、追い付ける可能性も決して低くない。私は着替えてくるから広間で待っていてくれ」

 ダクネスはいつになく真剣な表情で真面な発言を残し、そのまま走って部屋を後にした。

 普段は色々と終っているが、こういう緊急時のダクネスは本当に頼もしい。

 あいつ、普段からこれぐらいの落ち着きと頭のキレを発揮してくれればいいのに。

 と、淡々と動くダクネスを見て漸く落ち着きを取り戻しためぐみんがその後を追い。

 続いて俺とアクアも各々の部屋へと戻った。



 万全の態勢を整えてから広間へ向かったが、そこは男女の差なのだろうか、俺が一番乗りのようだ。

 ここに来る前にもう一度クイーンの部屋を覗き、何か手掛かりになる物でもないかと探してみたが、服どころか紙切れ一枚落ちていなかった。

 外からの雑音もなく静まり返っている広間の装丁は、一週間前と寸分違わず。

 ふと、クイーンなんて人間は初めからおらず、空想上の人物だったのではないかと勘違いしそうになる。

 今では屋敷中から漂う新しい木や塗装の残り香だけが、クイーンがこの屋敷にいたことを思い出させてくれた。

「あいつ、何で出て行っちまったんだよ。いくら記憶がなくなりかけているとはいえ、割と落ち着いた状態だったんだし。何も出ていくこと……、ん?」

 何となく見た机の上には、昨日までは置いてなかったはずの見慣れない紙が。

 ま、まさか……っ!?

 慌てて机に駆け寄った俺は、逸る鼓動を抑えつつその紙を手に取り――


「すまない、遅くなった。カズマ、何を読んでいるのだ?」

 準備が整った三人が広間に駆け込んできたところで、ダクネスが声をかけてきたのだが。

 それには答えず、俺は机を前にして微動だにせずに黙り込む。

 俺の様子を不思議に思ったのか、三人は顔を見合わせながらこちらに寄って来た。

「どうしちゃったのよカズマ? これからクイーンを追いかけようって大事な時に辛気臭い顔しちゃって。そんな後ろ向きな気持ちじゃ、見つかるもんも見つかんないじゃない。一体何を読んで……」

 後ろから覗き込んできたアクアは俺の手元を見て、そのまま押し黙ってしまった。

「カズマだけじゃなくアクアまで、どうしたのだ? その紙を見てから様子が変だが……」

「これって手紙ですよね? というか、これって……」

 ダクネスとめぐみんが不安げに見てくるが、俺もすぐには答えられないでいた。

 めぐみんが言うように、これは手紙だ。

 しかも冒頭部分には無駄に達筆な字で――


『Dear my party members』


「これは、クイーンから俺達に当てた手紙だ。まだ全部読んでないけど、このタイミングで置いて言ったってことは……」

「「っ!!」」

 俺の言葉に、どうやら二人も事態を把握したらしい。

 全員が見つめる中、俺は文面を読み上げていくことにした。


『朧月夜の美しさが漸増しつつある今日、如何お過ごしでしょうか。

 この地に降り立ち僅かしか時を経ておらぬ故に、この世界の文字では書き損じが生じる可能性を考慮し、この場で日本語を使用することをお許し下さい。


 さて、このような手紙を一通残し突如消失した私に対し、皆々様方は詳細説明をお求めになることでしょう。

 その件に致しましては大変心苦しくは御座いますが、何分残された猶予が僅かしかなく、このような形で代用させて頂いた次第です。

 端的に申し上げますと、旧き記憶が復元される裏方で、強烈な破壊衝動が彷彿しており、最早抑制が効かぬ域にまで達しつつあるのです。

 今だから打ち明けますが、昨夜の談話中もいつ暴発しても不思議でない危険な状態でした。

 これ以上は諸君らとの友好的な接触は困難と判断。故に、この街を退去する方針に決定しました。』


 皆が動揺を隠せず目を見開く中、俺は先を読み続けた。


『この世界での記憶が薄れているため、諸君らの名が誤っていてもご容赦を。


 ダクネス、美しい容姿を持ちながら、腹筋に留まらず背筋まで割れた令嬢は類を見ませんので、反って全身筋骨隆々を目指すのもまた一興かもしれません。

 めぐみん、度々彼のジャージに包まり香りを堪能するのは、性的倒錯に陥る可能性が予測されうるので、十分注意を払われるよう。

 アクア、意中の相手の出現は全ての民へ平等に訪れるもの、必要以上に苦悩せず自らが説いた教えの第五項を想起させ、思うが儘にやり遂げなさい。

 そして最後に。カズマ、ハーレムに憧憬を抱くのは結構ですが、実現するとなると厄介娘達の後始末が多大な負担となり採算が付かぬと推測されますので、件の店の利用時のみに押し留める方が賢明です――』


 思わず手紙を真っ二つに割いた俺は、そのままくしゃくしゃに丸めその場に叩きつけた。

 それに便乗してダクネスが残骸をグシグシと踏みつけ、めぐみんが爆裂魔法の詠唱を……。

「おい、それはやめろ! 修理したばっかの屋敷が無くなるだろうが!」

「放して下さい! 私の秘密がこうしてカズマ達に知られた以上、そんなものどうでもいいですよ! 死なば諸共、全てを灰燼と化してくれる!」

 ダメだ、こいつ完全に自棄になってやがる。

「お、落ち着けよめぐみん。大丈夫だって、お前が俺の服をクンクン嗅ぐぐらい俺は気にしないから」

「火に油を注いでどうする! ほら、めぐみん。お前も一度冷静になって、あっ、イタタタタッ! こ、こら、私の髪を引っ張るなっ! ああ、もう、頼むから落ち着いてくれ!」

 涙目になりながらもどこか嬉しそうな変態筋肉に、眼と顔をこれでもかというぐらい赤くした戦闘狂。

 そして先程から俺達の騒ぎには参加せず、両手で頬を挟んで何やら顔をぶんぶん振っている珍獣。

 そんな奴らを見つめながら、俺は手紙がまだ途中だったと思い出し、渋々ぺしゃんこになっていた手紙を慎重に広げた。


『どうやら地平線が光を帯び始めたようです。自我の保持も厳しい為、ここで筆を置かせて頂きます。

 これを読了後は私の事は忘れ、以前と変わり映えの無い日々を過ごされますよう。

 億が一私を発見しようと、それは諸君らと苦楽を共有したクイーンではなく、全てを無へ帰す破壊の化身。

 何を仕出かすか予測不可能な累卵の危うさを有しているので、接近は控えて下さい。


 ほんの一時ではありましたが、諸君らとの出会いは非常に尊く無二の出来事でした。

 この先も、良き出会いのあらんことを。

                              By Queen』


 手紙はそこで締め括られていた。

 アクアの時みたいに他に何か書かれていないかと入念に見てみたが、当然そのような痕跡は見当たらない。

 やっぱ行先は書かれてないか、というかそんなもの決めてないのかもしれない。

 だけど、この文面から推測するに……。

「カズマ、その手紙の最後の記述が事実なら、まだクイーンは近くに居てもおかしくないですよ!」

 その通りだ、なにせまだ日が出てから二時間も経っていない。

 い、いいぞ、これならまだ……!

「カズマ、クイーンと何を話していたのか教えてくれないか?」

 と、そこでダクネスが待ったをかけた。

「何言ってるのよ!? まだクイーンが近くにいるかもしれないのよ。時間が空いちゃうとあの子の事だもの、きっとフラフラッとどっか行っちゃうに違いないわ! 今すぐ追いかけないと!!」

 その言葉にアクアが声を荒げてて反論するが、ダクネスは依然として厳しい表情を崩さなかった。

「アクア、あのクイーンが手紙だけを残して私達から距離を置いたのだ。文面からしても、本当に記憶を失っており、破壊の衝動も制御できていないのだろう。そんな彼女と何の情報もないまま会うのは危険すぎる」

「だ、だけど……っ!」

「……アクア、確かにダクネスの言う通りです。逆に言えば、これを書き終えてから数時間は経っているのです。今更五分や十分動きが遅れても大して変わりません。ならば、ちゃんとクイーンの事を理解してあげた上で、迎えに行ってあげましょう」

 アクアはまだ何か言いたそうだったが、優しく窘めるダクネスとめぐみんを見て心配してるのは自分だけでないと分かり大人しくなった。

「ここで焦っても結果は良くならないしな。実はな――」


 俺は眠りにつかされる前にあった事を淡々と三人に話した。

 一通り話し尽したところで様子を窺ってみたら、アクア達は酷く驚いた顔をしていて。

「私、何だかその話知ってる気がするわ。……違うわね、ここの所夢で見た話とすごく似てるっていうのかしら……」

「!? アクア、お前もか。実は私も……」

「私も見ました! と言っても、カズマの話を聞くまでは忘れていましたが……」

 なんと、あの夢を見ていたのは俺だけではなかったようだ。

 かくいう俺も、昨日クイーンが話してくれるまではほぼ忘れていたが。

 しかし、四人中四人がそう思ったんだし、これは確実だろう。

「俺も直接確認を取った訳じゃねえけど、もう断定して良さそうだな。俺達が見た夢での出来事は、クイーンの過去の追体験だったってことだ」

 でも、だったら何で俺達はそんなものを見れたんだ?

 クイーンが自発的に見せたとか? いや、それができるなら記憶が無くなってるはずないし、そもそも意図が分からない。

 そんな疑問を聞いてみると、アクアは少し考えてから。

「多分、クイーンの体調が原因だと思うの。神様の意思っていうのは、夢とか人の意識が薄い時なら直接伝えられるのよ。勿論伝える相手は限定できるし、そもそも普通は意識しないと伝えられないんだけど。今回クイーンはとても弱ってたでしょ? だからその辺りの調整が上手くいかなくて、無意識のうちに拡散しちゃったんじゃないかしら」

 夢枕に立つとかそういった感じか。

 今思えば、夢を見る時はいつもクイーンがボロボロだったり病み上がりだったり高熱を出してたりしていた。

 普通の人ならただの変わった夢だと思ってそのまま忘れるんだろうが、事情を知ってる俺達だからこそこうして気付けたってことか。

「その場合、夢で見たあの女性がクイーンになるのか。それってかなりまずいのではないか……」

「そうですね、あれが本当に追体験なのだとしたら。その気になれば、クイーンはたったの一撃で街を吹き飛ばせると言うことですし……」

「そりゃそうよ。破壊の神様っていうのは事実上創造神様の代行者なんだから。神権だって強いし、ステータスだってとんでもないわよ」

 今サラッととんでもないこと言いやがったな。

 主神の代行者って、一体どれだけの力を秘めているのか全く想像がつかない。

 どうしよ、温和なクイーンならともかく、冷徹な破壊の神様を連れ帰るのはかなり怖いんだけど。

 俺は痛む頭を押さえながら、各々の感想を言い合っているアクア達に顔を向けた。

「で、これからどうする?」

「今更それを聞く? 考えるだけ無駄だと思うのだけれど?」


 若干呆れたような口調で即答するアクア。


「相手は街一個ぐらい簡単に消滅させられる化け物だぞ?」

「ふっ、その程度の火力で破壊の神を名乗るなどおこがましいですね!」


 何処からその自信が出てくるのか分からないが、やけに得意げなめぐみん。


「被害はデストロイヤーの比じゃないかもな」

「あの時とは違いレベルも上がった。私の後ろにいる者に手出しはさせん」


 拳と掌をばちッと合わせ、フッと笑みを零すダクネス。


 そのまま俺達はじっと見つめ合っていると、何故だか可笑しくなって全員一斉に笑い出してしまった。

 笑いが収まったところで俺達は一つ頷きあい。


 ――屋敷を飛び出した。


 これが俺達の答え。

 俺達は俺達らしく、今まで通り自分達のしたい様に動くだけだ。

 それだけじゃない。

 クイーンだって既に本心を言っていたではないか。

 平然を装ってはいたが、若干その声を震わせ、不安や恐怖を含んだ声色で。


 私を頼む、と。


 まったく、そうならそうともうちょっと分かりすい態度を取れっての!

 接触するな探すなとか俺達に被害が逝かぬよう無駄に気を使って、責任や嫌な感情は全部自分一人で背負いこんで。

 そのくせ本心を隠しきれない悲劇のヒロインぶりやがって、面倒臭いったらありゃしねえ!

 ああ、まったく……。


「ああもう、しょーがねえなああああああっ!!」


 叫びながら俺達はクイーンの情報を求めて、街へと走りだした。

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