気が付けばいつも隣に

 ――俺達が喧嘩をしている間にクイーン達が作ってくれた夕食を食べている間中、俺は……。


 地獄にいた。


「それにしても、さっきのカズマは格好良かったな!」

「ええ、改めて惚れ直しました!」

「まったく、カズマったらまったく! 本当に素直じゃないんだから!!」


 通常、パラライズというのは体が動けなくなるだけの魔法なのだが、今回は団子のおかげで声も出せないようになっていたらしい。

 だが、所詮はそれだけの事で、意識までは失わなかったそうだ。

 つまり……。

「クイーンが怖いぐらい冷たい声で話しかけてたのに、『ふざけんなっ! お前、アクア達に何をした!』って叫んでたわよね! 女神であるこの私の心を揺るがすなんて、カズマも言うようになったじゃない!」

「『事と次第によっちゃタダじゃおかねえぞっ!!』と言うは、いつものカズマらしくはなかったですけど、本当に痺れました!」

「おまけに、『俺にとってはかけがえのない最高のパーティーなんだ!』というのも、本当に嬉しかった。カズマがそんな風に私達のことを思っていてくれていたとはな」

 頬を少し赤くし、満面の笑みを浮かべて俺に呼び掛けてくるアクア達。

 つまり、クイーンがアクア達を殺したと早とちりした俺が放った、この世で最も聞かれたくないセリフベスト3に入るレベルの恥ずかしいセリフを、全員に一言一句漏らさず聞かれたという訳で……。

「それに、逃げ出してもよかった所を勇敢にも私の前に立ち塞がり、皆の仇を取ろうと爆裂魔法を放とうとしたあのシーンは見物、おっと、格好良かったではないか。」

 そしてクイーンはニヤニヤした表情を隠す素振りも見せず、俺に追撃してくる。

 こいつ、絶対この状況を楽しんでやがる。

 さっきは断っちまったが、後であいつが言っていた好きな事を命令できる権利で、クイーンが心底嫌がる命令を出してやる!

 そんな事を心に誓いつつ、肩を震わせながらもこの状況をひたすらに耐える俺に、


「カズマは口では何だかんだ言っても、アクア、めぐみん、ダクネスのことが大切で愛おしくて堪らないんだな~。」


 そんなクイーンの無慈悲な言葉に、アクア達は俺をめちゃくちゃ優しい慈愛の目で見て来た。

 俯く俺にクイーンは肩を震わせながら、俺の頬をつんつんと突き、

「なあなあ、どんな気持ち? なあ、どんな気持ちだ?」

「……く、殺せ」



「だいじょうび、俺は強い、俺は強い! あの程度の発言でいちいち気にする事なんか……」


 気にするに決まってんだろうがあああ!


 広間へと続く壁に空いた空洞の隣で、俺は頭を掻き乱して一人悶絶していた。

 勿論、俺の気が狂った訳ではない。

 昨日の晩に色々あったせいで、広間への一歩を踏み出せないでいるのだ。

 そ、そうだ、こういう時は一度深呼吸をして精神統一を試みるんだ、そうしたらきっといい感じに落ち着くだろう。

 早速俺は息を大きく吸ったり吐いたりしては、すっと肩の力を抜くのを数度繰り返し。

 ……よし、良い感じに落ち着いて来たな。これならいける!


「おおお、おは、おはよう、皆さん! 本日はお日柄もよく過ごしやすそうですね!?」


 よしっ、出だしはバッチリだったはずだ。

 ちょっと声が裏返ったり噛んだりした気もするが、これなら気取られる心配もないだろう、きっと。

 中に入るとそこに居たのは、暖炉の前に移動させた炬燵から上半身だけを出し、目の下に若干隈を作って本を読んでいるクイーン。

 そしてみかんを食べてのんびりしているアクアとめぐみんの三人だった。

 俺はあくまで自然体を装って、さり気なく天国の中へと潜り込む。

「おはようって、もう昼近くだぞ。それにどうしたんだ、えらく動揺している様だが。」

「ななな何の事でしょうか!?」

 頬杖をつき本に目線を走らしたままのクイーンがよく分からない事を言い出した。

 こういう時は気にしないようにするのが一番だ。

「おはようございます、カズマ。今日も見るに堪えないダメ人間っぷりですね」

「まったく、これだからヒキニートは。この私を見習ってあんたももっと早く起きなさいよ」

「普段は俺以上に堕落しているお前にだけは言われたくない」

 と、俺が起きてきたのに気付いたダクネスが、俺の分の朝飯を持ってキッチンから出てきた。

「おはよう、カズマ。今の様子を見るに、昨日の発言が原因で眠れなかっただようだな」

「そそそそんなんじゃねーし! ただゲームやってただけだし! ああ、そうとも、ただゲームをやってて遅くなっただけだ!」

「ふふっ、そういう事にしておいてやろう」

 こいつ、ちっとも信じていないな。

 俺の演技力をもってすれば大丈夫だろうが、念のためこれ以上の追及を阻止するべく、運んできてくれた朝飯兼昼食を急いで口に運ぶ。

「どうしたの、カズマさん? お顔が赤く火照っていますけど風邪でもひきましたか? 今なら特別大サービスで、この私自ら膝枕してあげてもいいですよ?」

「い、いらんわ。昨日かなり飲んでたし、まだ酔いが残ってんだろ」

「いえいえ、私から見ても今のカズマは少し冷静さを失っているように感じますが?」

 そう言ってにんまりとするアクアとめぐみん。

 こいつら、俺が強く出れない事を見越して好き勝手言いやがって。

「まあまあそう言ってやるな、カズマはこう見えて意外と乙女チックな面があるんだからな。それに、焦らずじっくりと追い込まれた方がカズマも喜ぶだろう」

 近くに寄せた椅子に腰かけながら、ダクネスは頬を若干赤らめた。

「そんなので喜ぶのは世界広しといえどお前だけだ。自分のズレた価値観で人の趣味を判断しようとするんじゃねえ!」

「ズレた価値観だと、 私のどこがズレていると言うのだ? 虐げられた方が気持ちいいというのは全世界共通ではないか」

「そういうとこだよ! それにお前ら、いつまでもにやつくなっていうか、本当に止めてください! 認めるから。昨日の事が原因だって認めるから、もう許してっ!」

 チクショウ、夢中だったとはいえあんな恥ずい事を叫ぶなんて一生の不覚だ。

 今度からはもっと慎重に言葉を選ばなければ、俺はダクネスじゃないのだからこんな辱めはちっとも嬉しくない。

 開き直って泣き落としてみたが、めぐみんやダクネスはくすくすと笑いだし、アクアに至っては俺の頭を愛おしそうに撫でてくる始末だ。

 もう嫌、これからどうしたら……。

「よっし!」

「「「わっ!!」」」

「ふわああああ! な、なんだ、どうしたんだ!?」

 掛け声とともに突然炬燵の中から外に飛び出したクイーンは、今まで読んでいたらしい本をバチンと閉じ、

「漸く下準備が終わった。さあ、諸君!! いつまでもSanctualの中に入り浸っていないで仕事を始めるぞ! 『大改装 ビフォーアフター』の時間だ!」

「「は、はあ?」」

「急に叫んだと思ったら何言ってんだお前」

 握りこぶしを振り上げて、猛烈に燃えていらっしゃるクイーンさん。

 そのあまりのテンションの高さに俺達が唖然としている傍ら。

「そうよ、大改装よ! ここは女神たる私の出番じゃないかしら、やるからには徹底的にやるわよ。となればこうしちゃいられない、私は親方のとこに行って道具とかいろいろ借りて来るわね!」

「おう、丁度君への委託を検討していた所だ。流石は女神様、話が早くて助かる。」

「そうでしょそうでしょ。帰ってきたらもっと褒めてね! それじゃあ、ちょっと行ってくるわ!」

「おいおい、ちょっと待て」

 俺の制止も聞かずにアクアはものすごい勢いで屋敷を出て行ってしまった。

「あのー、クイーン? あのカズマ並みに腰の重いアクアが屋敷を飛び出して行っちゃいましたが、一体何をするつもりなのですか?」

「そうだぞ、炬燵でだらけさせたらカズマに匹敵するアクアが、あっさりと炬燵を抜け出したのはどういうカラクリだ? さっき言っていた、びふぉーあふたー? と言うのに関係あるのか?」

「お前ら、いちいちアクアの怠けっぷりを説明するために俺を比較対象に持ってくるな、俺はあそこまで落ちぶれてないからな! 今は金があるから働く必要がないだけだし、そもそも俺は既に一生分の人類への貢献を果たしてるんだ。余生をのんびりしても罰は当たらないはずだ!」

 こいつらときたら、魔王退治がどれだけ大変だったか知らないはずないのに、まだこんな事を言ってくるとは。

 俺はクイーンの周りに積まれた本の山から手頃な一冊を手に取り、表紙を見みてクイーンが言ったセリフを理解した。

 そこには、『建築技法・大辞典』という文字が。

「さっきまで屋敷を修繕する為の技法を調べていたんだ。で、それが漸く終了したから、そろそろ開始しようと思ってね。昨日被害状況を調べてみたら、予想以上に派手にやらかしていてな。骨組みから組み直す必要があるから、時間が掛りそうなんだ。」

 そう言われれば確かに昨日、明日中に直しておくとか言っていたが、まさかここまで本格的にするつもりだったとは。

 でも確かに、昨日の騒動のおかげで屋敷を支える柱がいくつも切断されており、正直いつ壊れてもおかしくなかったので、土台から直してくれると言うのならありがたい。

 それに、これならアクアが真っ先に反応したことにも頷ける。

 あいつは無駄に器用だから補修隊長とか呼ばれて最前線の壁を直したり、昔俺もお世話になった拡張工事の親方とかに今でも頼られたりしている。

 そのせいで異様なやる気を見せているのだろう。

「そっか、何か手伝える事があったら言ってくれ。鍛冶スキル持ってるから、ちょっとした物なら直せると思う」

「ああ、是非とも頼む。流石に屋敷一つとなると私一人ではちょろっちきついからな。運搬とか言った力仕事はゴーレムに委任する予定だが、細かい作業をさせるのは困難だし。何より買い出しはゴーレムに行かせられないのでな。」

 実はクイーンの奴、昨日のクエスト中に他のメンバーが使用していたスキルをスキルポイントを消費するまでもなく使えるようになったらしく、その中にクリエイトアースゴーレムもあったのだそうだ。

 屋敷をボロボロにしてくれた中・上級魔法も、ゆんゆんがモンスターの群れに使っているのを見て覚えたのだとか。

「つまりは屋敷の修繕をするという事ですね? それなら私も手伝います。ふふっ、マジックポーションなどを自作した私にかかれば、家具などの小物は忽ち修復されることでしょう!」

「恥ずかしながら、私は大した戦力にならないだろうが、筋力と耐久力には自信がある。私にできることがあるのなら遠慮なく言ってくれ」

 クイーンの趣旨を理解した二人も、喜んで力を越してくれるみたいだ。

「諸君、今回は完全に私の後始末だが、どうかよろしく頼む。」

 さてと、それじゃ俺もさっさと飯を食って、準備を始めますか。


 ――着替えをして広間に戻ってみたら、普段はサイドテールにしている長い髪を背中側でしっかり結び、頭にバンダナ、服を土木工事用に着替えたクイーンの姿が。

 屋敷の設計図らしきものを眺めている所からして、今からの工程を再確認しているのだろう。

「どうしたんだ、その服?」

「ああ、これは昨日私が汚れてもいい服はないかと聞いたところアクアが、『屋敷を直すんだったら絶対この服じゃないと!』とか言って予備の服を貸してくれたんだ。どうだ、似合ってるか?」

 そう言ってクイーンはその場でクルリっと一回転してみせた。

 予備まで持っているとは思わなかったが、そういう変なところに妙なこだわりがあるあいつが言いそうな事だ。

「ああ、似合ってると思うぞ。工事現場のオアシスって感じだ。それじゃあ先にできるとこから始めておいてくれ。俺はその間に買い出し行ってくるから」

「了解、よろしく頼む。それじゃあめぐみんは屋敷内外の残骸の撤去を、ダクネスは私と一緒に特殊な資材の調達を手伝ってくれ。」

 クイーンが地図を見せながらダクネスに説明を始める中、俺はふとある事を思いつき、めぐみんにこっそり頼み事をしておいた。

 めぐみんが訝し気にしながらも了承してくれたのを確認し、俺は広間に背を向け買い出しに出掛けようと……。

「――そんな訳で、木材採取には多少の危険が予測される。辞典によると、アクセルの街から少し離れた森の奥に分布するそうだ。ただ、こいつは人間が木材用に改良したくせに、切られてたまるかとばかりに触手に似た蔓を使って相手を縛り付けるらしい。その上、己で分泌した油性分によって呼び寄せた性力旺盛なモンスター共に対象を犯さ」

「おーいダクネス! 買い足さなきゃいけない物がかなりあるから、お前は俺の買い出しに付き合ってくれ。クイーンも、一人で行った方が心置きなく戦えるからそれでいいよな? さっ、早くいこーぜ!」

「お、おい、どうした!? 何故そんな急に私の手を……!? そ、そんな突然されては、こ、心の準備が……。ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 俺の突然の奇行に呆然とするクイーンをよそに、俺は慌ただしく屋敷を後にした。



 手始めにガラスやら生石灰やらが売られている店に向かう道中。

 どうした訳か、ダクネスは顔を赤らめて妙に辺りを気にしていた。

 やたらともじもじしたり髪をいじったりと、すごく落ち着きがない。

「おい、どうしたんだダクネス? そんなあから様に不審者みたいな態度を取って。トイレでも行き忘れたのか?」

 するとダクネスは、驚きのあまりか目を見開き。

「逆に何故カズマはそんなに普段通りでいられるんだ!? もう少しく恥ずかしそうにしていてもいいと思うのだが。あと、トイレは関係ない」

 どうして俺がいまさらダクネスと一緒に買い物をするだけで気恥しくならねばならないんだ。

 と、ダクネスは更に顔を火照差せ、よく注意していないと聞き取れないぐらいか細い声で。

「いや、だって……ほら。お前と二人で、で、デートするのも久しぶりじゃないか。しかも、お前の方から誘ってくれたし……」

「…………」

「お、おい、何とか言ったらどうなんだ!」

 いや、そんな事言われましても。

 もしかして、知らない間に俺が何かしてしまっていたのだろうか。

 ひとまず、今の状況を客観的に分析してみよう。

 俺の提案を受けて、ダクネスは俺と二人きりの買い物をしている。

 言うまでもなく、俺は男で、ダクネスは女。

 そしてダクネスの方は初々しさこの上ない様子で俺の傍らを歩いている。

 ……なるほど、言われてみればこれはデートだわ。

 だけどなあ……。

「あー、いや、悪い。別に俺はデートのつもりはなかったんだが……」

 その言葉にダクネスは一瞬動きを止め、次の瞬間俺の胸倉をつかんで詰め寄ってきた。

「はあああ、デートじゃない!? な、ならば何故私を強引に連れて行こうとしたのだ? 私と一緒に買い物デートがしたいけどめぐみんがいる手前どさくさに紛れて、という意地らしい設定だったのではないのか!?」

「ちょ、ちょっと、首が締まるのでやめてもらえませんか! それと、皆見てるからデートデートってあんまり大声で叫ばない方がいいと思いますよ、ララティーナお嬢様!」

「ら、ララティーナは止めろ!」

 俺の言葉で周囲の様子に気付いたらしく、ダクネスは俺の胸倉からゆっくり手を放し恥ずかしそうに体を縮こまらせ。

「で、では、どういった理由で私を買い物に誘ったんだ?」

 ……い、言えない。こんな純情そうな顔をしたダクネスにはとても言えない。

 これ本当の事を言ったら、十中八九ダクネスにしばかれるやつだ。

「もしかしてまたよからぬ企みの上での行いなのか? 怒らないから言ってみてくれ」

「ぜ、絶対?」

「ああ、絶対だ。クルセイダーに二言はない!」

 ……一度こうなったダクネスは、誤魔化しても引き下がってくれないし。

 …………仕方ない、言うだけ言ってみるか。

「……さっきクイーンがお前に、木材調達を手伝ってくれって頼んでたじゃん。しかも相手が変態ホイホイ的な奴だって。お前ってあれな性癖だから、どうせ後先考えずに迷わず突っ込むだけだろ。だったらクイーンに悪いし、筋肉バカなお前にふさわしい荷物運びでもさせた方が効率良いかなと思いま、ぐふぇ!」

 言ってる途中で、ダクネスが今度は怒りで顔を赤くして本気で殴ってきた。


 ――嘘吐きクルセイダーに殴られた部位にヒールを掛けつつ、クイーンに頼まれた素材をどんどん買い込んでいく。

 結構な量になってきているが過程はどうあれ、こうして力だけはあるダクネスがついて来てくれたので問題ないだろう。

 しかし当の脳筋クルセイダーは、さっきからずっとご機嫌斜めなようで全然口を聞いてくれない。

「なあ、いい加減に機嫌直せよ。俺が悪かったって」

「ふーんだ」

 謝る俺の方を見ずに、ダクネスはプイッと顔を背けてしまう。

 あれから既に一時間は経過しているというのに、未だに機嫌を直してくれないのだ。

 そりゃデートだと期待させておいて、実はクイーンの邪魔になりそうなのを阻止したかったから誘ったってのが気に入らないのは分かるが。

 普段のこいつならなんだかんだ最終的には、そんな扱い方がたまりゃんとか言って喜ぶところだろうに。

「どうしたんだ、いつものお前らしくない。何か言いたい事があるなら言えよ」

「私は普段からこんなものだろ。無口で人付き合いが苦手で不愛想な箱入り娘だ。別にどこもおかしくないし機嫌も悪くない」

「一応の自覚はあったんだな。でも前半はともかく、今のお前を見て機嫌がいいという人は眼科に行くべきだぞ」

 まあ、バルターとの見合い話が来た時には既に喧嘩っ早くなってた気もするけど。

 しばらくそっぽを向いていたダクネスは小さくため息を吐き、漸く此方をチラチラと見ながらぽつぽつと語りだした。

「……最近、お前はクイーンの事にかかり切りになっているだろ。普段なら嫌がりそうな事でも、クイーン絡みになると文句も言わずにやろうとするし、彼女に対してはやけに物腰が柔らかい。いや、彼女は記憶を失っているし支えてやらないといけないのは重々承知している、しているのだが……。カズマが他の女性に対してやたらと優しくしているのを見ると寂しいというか、何というか……」

 思っていた以上に可愛らしい理由だった。

 確かに俺は以前、ダクネスに告白してもらったことがある。

 その時俺はめぐみんを理由に断ったのだが、それ以降もちょくちょくアプローチをしてくれていた。

 しかし、最近はそういう行動がめっきり減っていたので、遂に愛想を付かされたのかと内心どぎまぎしていたのだが。

 こうして改めて、私意識してますよ的な言葉を口にされるとやはりドキドキしてしまう。

「お、おい、急に黙らないでくれ! そんな反応をされては余計に恥ずかしくなるではないか!!」

「い、言われてるこっちの方が恥ずかしいわ! お前、なんでそんなにしおらしくなってんだよ。普段のお前はそんな健気な女子じゃなくて、周りがどれだけドン引きしようが己の欲望を優先するエロさだけが取り柄の奴だったはずだ。お嬢様っぽい言動はアイリスに任せておけ、自分のカテゴリーを忘れるな!」

「お、お前と言う奴は! せっかくの良い雰囲気が台無しではないか! そこはもっとこう、『お前、俺の事をそんなにまで思ってくれていたのか、ありがとな』ぐらい言えないのか!」

 そんなキザなセリフを求められても。

 というか……。

「前にめぐみんにも似たような事を言われたんだけど、俺ってそんなにクイーンにべったりになってるか? あんまり自覚ないんだけど」

「めぐみんも言っていたのか。まあ、普段のカズマを知ってる者が見たら気味悪がるくらいには、クイーンに気を配っていたからな。アクアも、最近お前が構ってくれなくなったからか、少し寂しそうにボヤいていたし。ちょっと悔しいが、傍から見ていたら彼氏と見紛う程だったぞ」

 散々な言われようだが、クイーンの彼氏だというのは満更でもない。

 あんな美女、しかも中身もちゃんとした人の彼氏だとか、男としてこれ以上の誉は無い。

「俺は基本的にまともな人に対しては誰にでも優しいぞ。俺は紳士にして漢の中の漢だからな」

「おい、それでは私達が普通ではないと言ってるように聞こえるのだが?」

「そうだよ、当たり前じゃん」

「んなっ!」

 この街での常識にそんなに驚かれても。

 と、ダクネスは一瞬聞くかどうか迷った素振りを見せ。

「なあ、カズマ。お前、何か私達に隠していないか?」

「……どうしてそう思うんだよ」

「昨日私達がパラライズにより身動きが取れなくなった時、お前は真っ先にクイーンが私達に何かしたのではと疑っていたな。だが、普段のカズマなら、まず間違いなく私達の方が何かやらかしたと言及してくるはずだ」

 ……………………。

「それに、ついさっき私がクイーンと話をしている時に、お前はめぐみんに何かを頼んでいただろう。めぐみんに話しかける場面なんていくらでもあったのに、クイーンの意識が逸れた隙に秘かに話していたのが気になっていたんだ」

 …………伊達に長い付き合いをしてないしな。

 出かける時、めぐみんがやたら訝し気な表情をしていたのも、きっと同じ理由なのだろう。

 別に隠しているつもりはなかった。

 ただ今回の話は他の人というか、他の人間に言ってもいいのか自信がなかったのだ。

 見た目が子供で頭脳が大人な探偵ではないが、下手に話して被害がこいつらにまで拡大したりしないだろうかという一抹の不安はどうしても残る。

 どうすればいいか分からず黙り込む俺の肩に、突然ダクネスは手をのせてきた。

「おい、どうしたんだよいきなりっておい、ちょっ、痛い、痛いって!」

 いい加減こいつは自分の筋力がオーガ並だという自覚をだな……。


「カズマ、以前めぐみんも言っていたが……」


 そんな俺にダクネスは珍しく、本当に珍しく。

 こいつと初めて会った時のような、騎士らしい威風堂々とした表情を浮かべ。


「何を悩んでいるかは知らないが、私は、私達は、お前が決めた事に従う。好きにやればいい。どんな事になっても後悔なんてしないから。話を聞けばめぐみんも同意するだろう。アクアは口には出さないだろうが」


 その言葉を受けて、俺は気付いた。

 そうだよ、俺達は仲間なんだ。

 どんな過酷な状況だろうと、頼れる仲間と一緒に切り抜けて来た……と言っていいのだろうか?

 あれっ、ちょっと思い返してみても好き勝手するこいつらのせいで、絡まれなくてもいい事件に巻き込まれて結局死んだ事も結構あったような。

 あれっ、これって世間的には余裕でアウトなんじゃ?

 ま、まあともかく、今更気を遣うような奴らじゃなかったな。

 俺は一つ決心を固め、ダクネスの手を軽く払った。

「はあ、分かった、話すよ。お察しの通り、これはクイーンに関係するんだが、現状本人には伝えるべきじゃない。それ程に極めて込み入ってるんだ。お前らに気付かれてる以上、今夜にでも全員で相談しよう。多分アクアは既に知ってると思うが、その時詳細を話すよ」

 俺が折れたのを見てダクネスは力強く頷き、


「私達を信じてくれてありがとう。それがどんな内容だろうと、私達は必ずお前の力になる。だから気を楽に持て!」


 ついつい見惚れてしまうぐらいの笑顔を見せてきた。

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