天敵は近くにいたりする

 ひとしきり触って満足したのか、誠に残念だがクイーンがウィズのお触りをやめてしまった。

 と、クイーンはウィズから少し距離を置いたところでふと思い出したかのように。

「今更だが、貴方はこの店の受付嬢だよな? でも、表の看板にはウィズ魔道具店と書いてあったような。」

「う、受付じょ!? その……い、一応、私がこの店の店主、です……。う、受付、嬢……」

「そう言えば、バニルも自分の事をバイトだと称していたな。いや、貴方からは商人特有の匂いを全く感受出来なかったもので見誤ってしまった。」

「ひっ、酷い!」

 クイーンの悪気のない発言にウィズがショックを受けているが、ある意味的を得たセリフなのでフォローの仕様がない。

 ウィズの変化に気が付かないのか無視してるのか、クイーンは気にした様子もなく。

「そんな些細な事はどうでも良いのだ。それより早速本題なのだが……。」

 一転して真面目な表情を浮かべたクイーンの様子に、ウィズがゴクリと息を飲み込み身構えた。

「書物によるとUndeadはSkeltonかZombieの事を指すと記されていたのだが、貴方はそのどちらにも該当しない。加えてその膨大な魔力量から察するにかなりの強者、平均的なUndeadとは常軌を逸する存在と見受けられる。一体どのような手法で生き永らえているのだ?」

 いや、それ本題じゃなくてお前の単なる興味だろ。

 クイーンの疑問にウィズは言葉に一瞬詰まり、俺の方をチラッと見てきた。

 俺がこくりと頷くのを確認したウィズは、

「私はアンデッドの中でも最上位に位置している、リッチーと呼ばれる存在なんです」


 リッチー。

 ノーライフキングとも呼ばれ、RPGでは最終章などで出てくる大物アンデッドモンスターである。

 ウィズはその昔凄腕冒険者として名を馳せていたが、とある事件をきっかけに自らの意志でリッチーとなった。

 そして今では誰にでも優しい美人店主として、バイト店員を散々困らせながらもこの店を懸命に切り盛りしているのだ。


「――リッチーね。死して尚肉体の原形を留め生存し続ける原理がさっぱり理解出来ん。これはいよいよ量子脳理論を考慮せねばならんのか?」

 どうやらクイーンにとって、死者の復活や永遠の命などは納得がいかない超常現象なのだそうだ。

 魔法の概念や神・悪魔といった存在は全く抵抗なく受け入れていたのに、アンデッドが腑に落ちないのは不思議に思えるが。

 クイーンにしてみれば、それとこれとは話の根本が違うらしい。

 俺にはさっぱり違いが分からないが。

「あの、それで今日はどういったご用件でしょうか?」

 ブツブツと呟くクイーンを気にしながらも、ウィズは俺達に笑いかけてきた。

「実は、こうして元気にしているがクイーンは記憶喪失でな。アクアでも治せないから何か手頃な魔道具がないか聞きに来たんだ」

「ええええっ!? そ、そうだったんですか! すみません、少しも気が付かなくて。あの、それって大丈夫なんですか?」

 声を上げて驚きながらもすぐさまクイーンの体を心配するウィズだったが。

「ああ、知識は失っていないから問題ない。よくある現象だしな。」

「いや、よくありませんよ! なんでそんなに冷静なんですか!?」

 これが普通の人の反応だと思う。

 傍の人が聞くだけでも驚くのに、被験者本人が全くびっくりしない事の方おかしいのだ。

「そんな訳だから、何かいい商品は置いていないか?」

「そっ、そうですね。でも、記憶を取り戻すなんて高度な術を使える魔道具はウチに……。あっ、そう言えば……」

 何やら心当たりがあるらしく、手をパンッと叩いたウィズは戸棚の上から大きめの箱を引っ張り出し、商品を漁り始めた。

 中には黒々とした重そうな腕輪や魔法使いが被りそうな尖り帽子、黄色の砂が入った小瓶や天使の羽根のような羽ペンといった見覚えのない物。

 他にも簡易トイレやカエルスレイヤー、それに……。

「げっ、このチョーカーまだあったのかよ。こんな危険なもの早く捨てろよ」

「この水晶も絶対にいらないです。さっさと破棄してしまいましょう」

「だっ、駄目ですよ! せっかく補充して来たところなんですから」

 補充したところで、そんな危ないアイテム誰も買わないだろうに。

 と、ウィズが商品を探している間暇だった俺は、試しに目新しい商品について聞いてみることにした。

「なあ、ウィズ。この黒い腕輪は何に使うんだ?」

「それはクルセイダー専用の腕輪です。なんと、武器による攻撃の命中率が一割も上がるんです!」

 つまりこれを装備したら、ウチのダメセイダーでも攻撃が当たるように……!

「ただ、それは将来巡って来るはずだった運を前借するものなので、幸運値がどんどん下がってしまいますが。それでもすごいと思いませんか」

「まったく思わない。……こっちの黄色い粉は?」

「それは自分の体に振りかけるだけで、誰でもテレポートが使えるというとても画期的な商品ですよ! ただ、振りかけた状態で爆裂魔法並みの高濃度魔法に曝さなければ、魔法が発動しないのですが」

 …………。

「……これは?」

「所持しているだけで素早さが上がる羽ペンです。使用前に毎回五時間程それを使って文字を書く練習をするだけで、三十分も効果が効く優れ物なんですよ!」

 ウィズが自信満々に商品を紹介してくれたが、やっぱりこの店にはまともな商品が一つとして置いていない。

「なあ、ここの仕入れをしているのはもしかして彼女か?」

 今までめぐみんと商品棚を眺めていたクイーンが、若干呆れた顔を浮かべながら囁いてきた。

「ああ、こんなのばっか買ってるから毎度バニルに怒られてんだよ」

「それで会った時のような消し炭店主の出来上がりという訳か。店主とバイトの立場が逆になっていないか、それ。」

 それはウィズを知っている人全員が思っている事だ。

 ほんと、何でウィズはそんなにこの店に拘るのだろうか。

「あっ、ありました。これなんてどうでしょう?」

 と、話している間にウィズは目的の道具を見つけたようで、俺達の前に小さなフラスコをコトリと置いた。

 中には赤褐色の液体が入っているようだ。

 俺の横からめぐみんも覗き込んできたところで、ウィズが嬉々として商品の説明を始めた。

「これは中身を飲むことによって、どんな状態異常からもたちまち回復する聖水です。勿論普通の聖水とは一味違いますよ。何でもべルディアさんの呪い対策として、当時最高峰のアークプリーストを何十人も集めて数日間祈り続けることで作り上げた物らしくて、神聖度が通常の聖水の数十倍はあるそうなんです!」

 べルディアと言うのは、元魔王軍幹部のデュラハンであり、俺達がこの世界に来て初めて倒した大物賞金首である。

 デュラハンには固有スキルとして、死の宣告という指を差した相手に余命を告げることで呪い殺すというずるっこいものがある。

 本来これを自力で解呪するのはほぼ不可能で、多くの冒険者が死んでしまっていたらしい。

 そんな強力な呪い対策として作られた聖水なら、確かに効果があるかもしれない。

 ただそれは、これを扱っているのが普通の店ならばの話だ。

「それでウィズ、これのデメリットは?」

「デメリットがあって当たり前みたいな聞き方しないでくださいよ……。今回は大丈夫です、効能は身を持って証明しましたから。一度、間違って中身を零してしまった時に数滴私にかかったのですが、私の足が消えかかるぐらいには強力でしたよ。よろしければ手に取って確かめてみてください」

 そう言って小瓶を俺に渡してきた。

 というか、ウィズはアンデッドなんだから聖水とかの扱いにはもっと気を付けろよ。

 俺達は慎重に小瓶の説明書を読んだが、確かにデメリットはなさそうだ。

 ウィズにしては珍しく、本当に良い物を仕入れたらしい。

「よっし、それじゃこれを売って……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……。」

 今度はクイーンが少し青い顔をして静止をかけた。

「どうしたのです? 今回は珍しくデメリットはなさそうなので、買ってもいいと思いますが」

「ああ、俺もなかなかいいものだと思うぞ。珍しく」

「あ、あの、そんなに珍しくと言わないでもらえませんか……」

 ウィズが細々と何か言ってるがそんな事は気にせず、クイーンはウィズに恐々とした様子で。

「なあ、先程これは服用する物だと言ってたよな? これの製造日は何時だ?」

「そうですね、今から大体五年ほど前でしょうか」

「い、いらない。」

 なるほど、そういう落とし穴があったのか。

 確かに製品の効果に問題はないが、元がただの水なのだから消費期限だって当然存在する。

 道理で水という割には色がおかしいと思った。

 やはり、ウィズの店の商品は最後まで油断ができない。

「そうですか。でも今の所これ以外に記憶を回復できそうな商品は取り扱っていません。お役に立てなくて申し訳ありません」

「いやいや、別に構わないよ。アクアですら出来ないのだから元々期待していなかったし。」

 頭を下げて謝るウィズに、クイーンは手を横に振って爽やかな笑みを浮かべた。

「それじゃあ帰るか。ウィズ、また来るから何か新しい情報が入ったら教えてくれないか?」

「分かりました。バニルさんにも帰ってきた時に聞いておきますね」

「そう言えば、今日はあの悪魔達がいませんでしたね」

 めぐみんの言うように、今日は悪魔二人組がいなかった。

 バニルはともかく、最近店番が板につき始めたあのペンギンの着ぐるみ悪魔。

 今やこの店のマスコットであるゼーレシルトがいないのは珍しい。

「それが、私が目を覚ました時には既にいらっしゃらなくて。そう言えば、せっかく仕入れた商品がいくつか無くなってたんですよ。もしかして、私が気を失っている間に泥棒がっ!?」

 バニルと着ぐるみがいないのは、十中八九その商品を返品しに行ってるんだろう。

 本当に、あいつはあいつで苦労してるんだなと俺が秘かにバニルに同情していた、丁度その時。

「こんにちは。偶然通りかかったので遊びに……。め、めぐみん!? なんでここにいるの!?」

 めぐみんと同じ紅い目に黒髪を持った女の子、ゆんゆんが扉を開けるなり驚きの声を上げた。

 名指しされためぐみんはさっと真顔になり、視線だけゆんゆんに向け。

「何でと言われましても、私達も魔道具を探しに来ていたのですよ」

「そういう事はもっと早く教えてよ! そうしたらお土産とか菓子折りとかを持って来たのに、酷いよめぐみん!」

「どうしてあなたに逐一そんな事を教えないといけないのですか。そもそも会う度に人に物をあげる必要はありませんよ」

 と、ゆんゆんははっとしたようで頭を振り気を取り直したようだ。

「そ、そんな事より、ここで会ったが百年目! 魔王討伐にも参加して、次期族長としての立派な実績を作ったんだもの。そろそろ決着をつけるわよ、めぐみん!」

「嫌ですよ、お腹空きましたし」

「ええっ!? そ、そんな理由で断らないでよ! あっ、すいません皆さん、騒がしくしてしまって。お姉さんも、ご迷惑でしたよね」

 俺やクイーンの存在に気が付き、ゆんゆんは上目遣い気味に謝ってくる。

「些細な事だし、別に構わないよ。私と君は初対面だよね? めぐみんの友人のようだが名前を尋ねても?」

「あっ、そ、そうですよね。名前も知らない人にいきなり話しかけられたら、『うわ~、この人挨拶もできないの~。礼儀がなってないから関わりたくないわ~』とかってなりますよね」

「どこの世界のJKボスだよ。」

 言いながらゆんゆんはコホンと小さく咳ばらいをし。

「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、紅魔族随一の魔法の使い手! 上級魔法を操り、やがて里の族長となる者!」

「ちょっと待ってください、誰が紅魔族随一ですか! 魔王の親衛隊相手に苦戦していたあなたが、魔王城を取り囲む強力な結界を破壊するという偉業を成し遂げたこの私を差し置いて、何を勝手に紅魔族随一を名乗っているのですかっ!!」

「な、なによ! 確かに結界を壊したのはめぐみんだけど、私だって魔物を沢山倒して活躍したんだからいいでしょっ! あの親衛隊だって、最初は幹部クラスの実力があったはずだし、戦果としては十分じゃない!」

 なんやかんやでいつも通りの取っ組み合いを始めた二人。

「賑やかな子だな。」

「それ、アクアと同じ感想だな」

「あっ、今お茶を入れますね」

 長引きそうだったので、紅魔族二人のキャットファイトをBGMに、俺達はウィズが淹れてくれた紅茶を飲みながら優雅なひと時を過ごすことにした。



 ――十分ほどして喧嘩が収まり、昼食を取りにギルドへ向かう道すがら。

「改めまして、ゆんゆんです。めぐみんと同じ紅魔の里出身のアークウィザードで、上級・中級魔法を使えます」

「こちらこそ。私はクイーン、職業は冒険者だ。暫くめぐみん達のパーティーに加入することになった。よろしく、ゆんゆん。」

 有耶無耶になっていた自己紹介を済ます二人。

 と、ゆんゆんは少し意外そうな顔を浮かべ、

「えっ、冒険者って、基本職の冒険者ですか? それだけの魔力量ですし、てっきりアークウィザードかと思っていたんですが」

「そういう選択肢も存在したが、カズマを見ていると冒険者の方が面白いかなと思ってね。」

「あっ、なるほど。確かにカズマさんを見てると冒険者ってすごく便利そうですもんね」

 思わぬところでお褒めに預かった。

 しかし、今や俺は魔王すらも倒したカズマさんだ、これぐらいの称賛は当然の事であろう。

「ゆんゆんは私達に同伴して来て良かったのか? 用があってあの店を訪問したのであろう。」

「大丈夫ですよ、この娘は毎日暇してますから。今日だって一人元気にぼっちしてて、寂しくなったからウィズと話そうとしただけでしょうしね」

「元気にぼっちなんかする訳ないでしょ! それに毎日も暇してないわよ。今日だってちゃんと用事があったんだから!」

 言いたい放題なめぐみんにゆんゆんが反射的に反論するが。

「ほほう、そうでしたか。お忙しいあなたを連れて行くとは申し訳ない事をしましたね。では、もう帰ってくれて構いませんよ」

「そんなっ! あっ、で、でも、よく考えたらその用事は別に今日やらなくても大丈夫なのよ。だからここは一緒に付いて行ってあげるわ」

「いえいえ、里随一の魔法の使い手なあなたに手間を取らせるのも偲ばれますし、そんな無理に時間を割いてくれないくていいですよ」

 取りつく島のないめぐみんの物言いに、ゆんゆんが徐々に泣き出しそうになる。

 そんな様子を見かねたのか、クイーンがめぐみんの肩をポンポンッと叩き。

「まあまあ、大切な友人を弄びたい心理も理解出来ないことは無いが、私は彼女ともっと交流を深めたいんだ。ゆんゆん、多忙な時に申し訳ないがもう少し私に付き合ってくれないか?」

「だ、誰が大切な友人ですか! ゆんゆんとは別にそんな関係では……。ちょっ、あなたも照れてモジモジしないでください! クイーンもクイーンです、この子をあまり甘やかさないで欲しいのですが」

 若干顔を赤くしてぼそぼそと抗議するめぐみんをよそに、ゆんゆんは嬉々とした表情で、

「わ、私と、交流を深めたいっ! も、勿論です。こんな新しい人とお近づきに慣れる絶好の機会、例え里が燃えようとモンスターが襲って来ようと行かせて頂きます!」

「……せ、せめて実家は優先してやってくれ、ご両親が悲しむだろうから。」

 あまりに大はしゃぎするゆんゆんの様子を見て、若干顔を引きつらせるクイーンにめぐみんがフォローを入れ始めた。

「ゆんゆんには友人がほとんどいませんから、哀れにもこういう反応になってしまうのですよ。この街でもゆんゆんの友達と言えば、カズマ達とウィズ、バニル、あとはチンピラぐらいですからね」

「そ、そんなことないから! クリスさんとかイリスちゃんもいるし、他にもレストランの前にいる埴輪のロクロ―や、花屋で飾られている毬藻のマリー、春になると赤い花を咲かしてくれるキャメロンとか……」

「も、もういいです! 途中から人間ですらなくなっていますから! クイーンがドン引いてますからそれ以上はやめてください!」

 めぐみんの話に絶句するクイーンにゆんゆんは大慌てで弁解を測ろうとするが、もっと危うい方向へ加速するだけだった。

 空飛ぶ食べ物やウチのメンバーに対してでさえ余裕な表情を浮かべていたクイーンが、これほど引き攣った顔を晒すとは。

「何て事だ、私としては友人など五人もいれば二十分と思っていたのだが。君がそこまで必死に友人を求める辺り、一般的に9という数は少ないのか!?」

「お前が驚いてたのはそっちかよ!」

 ゆんゆんの友達の少なさに驚いたのかと思ったが、どうも違ったらしい。

 単に自分の中の価値観と世間的な価値観のズレに衝撃を受けただけのようだ。

 と、クイーンは少し控えめにゆんゆんに声をかけた。

「何故そこまで執拗に友人の数を増やしたいのかは知らんが、君がそこまで求めるのなら私が人間とのコミュニケーション法を教授して」

「ぜひお願いします!!」

 クイーンの言葉にかぶせて、ゆんゆんが抱き着かんばかりの勢いで近づく。

「わ、分かったからそんなに凄まないでくれ。で、では、私が隣からサポートするので、ギルドに着いたら適当な人に声をかけてみてくれ。」

「分かりました! お願いします、クイーンさん!!」

 言い終わるや否や、ゆんゆんはクイーンの腕を引っ張って走り出す。

 その後を、俺とめぐみんは苦笑しながら追いかけていった。



 ギルドに到着するや否や、クイーンがゆんゆんの肩に手を置き、

「要領はさっき説明した通りだ。それでは、早速実践に移ろうか。」

「はい! クイーンさん、不束者ですがよろしくお願いします!」

「うん、そういうのは重く取られるから人前では抑える様にな。」

 気合十分なゆんゆんを連れて、クイーンはメンバー募集をしていた冒険者に話しかけに行った。

 その間ただ待つのも暇なので、俺とめぐみんは先に昼飯を食べておくことにした。


 ――腹も膨れて食後のまったりした気分を楽しんでいたら、漸くクイーン達が帰ってきた。

「遅かったですね。ゆんゆんは話せるようになったのです、か、って大丈夫ですか、クイーン!? まるでカズマにセクハラされてドン引きしたウィズみたいな顔をしていますよ」

「なんなんだよ、その例え方は! もっと普通の例え方があるだろ、何でいちいち俺をダシに使うんだ! 大丈夫か、クイーン? 随分とやつれてるけど」

 さっきまで元気そうだったクイーンは今では顔を真っ青にし、疲れ切った様子で頭を抱えており。

 隣にいたゆんゆんは、さっきから何度もクイーンに頭を下げていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい! 本当にごめんなさいクイーンさん、私のせいでっ!」

「い、いや、一度引き受けたからそれは構わない。構わないのだが……。」

「お疲れ様。それじゃあ、何があったか聞こうじゃないか」

 お疲れモードなクイーンに席を譲ってやった俺は、魔法で入れた水をクイーンに手渡した。

 礼を返した後、クイーンはそれを一息で飲み干し。

「こういう事は反復あるのみだから、一先ず臨時パーティーでも組んで場慣れさせようと適当なパーティーに交渉しに行ったのだが。挨拶をして以降ゆんゆんが一向に会話に入ってこなくてな。だからゆんゆんにも何か話すように進言したら……。」

 その時の状況を思い出したのだろうか、顔の蒼白さに磨きがかかってきた。

「体を惜しまず全力でお手伝いするとか重い事を言い出すは。話を逸らそうと向こうの人がゆんゆんの趣味を尋ねると、一人チェスに一人カードゲーム、植物との対談とかなんとか答え始めるし。挙句の果てに自分はつまらないからまた今度にしましょうとか言って逃走を図るし……。」

「ごめんなさい、ごめんなさい! 本当に何から何までごめんなさい!」

 どうやらゆんゆんのボッチスキルはクイーンには効果抜群だったようだ。

 そう言えば、社交的な人がコミュ障に関わるといたく疲れるって話を聞いた事がある。

「お、お気の毒に。それで、結局そのパーティーとの交渉は上手くいったのですか?」

「い、一応、向こうの人が何故か私の性格を知ってたみたいで、何とか入らせてもらえる事になったわ」

 本人は知らないようだが、ゆんゆんはこの街では既に『孤独を愛する真面な方の紅魔族』として名が通っているからそのせいだろう。

 話を聞くに、そのパーティーはそこそこ腕利きではあるがメンバーの内数人が体調を壊したらしく、冬に使い切った資金を補充できず困っていたのだと。

 そこでゆんゆんは勿論、ステータス測定した時もこの場にいてクイーンの実力を知っていた事もあり、二人の参加を快く受け入れてくれたそうだ。

「まあ、そういう訳だから今から行ってくる。白犬を討伐するらしいから、夕飯までには帰宅するよ。」

「ホワイトウルフですよ、クイーンさん」

 話を切り上げたクイーンは席から立ち上がり、少しクラクラとふら付きながらも臨時パーティーの下へ向かって行った。

 そんなクイーンの様子を見かねためぐみんが、はあと溜息を吐くとすっと立ち上がり。

「仕方がないですね。ゆんゆんの事はどうでもいいですが、クイーンが心配になってきました。カズマ、私もついて行ってクイーンのフォローをしてきます」

「ありがとう、めぐみん! 私もクイーンさんに申し訳なくて頼もうかと思ってたの。というかめぐみん、今私の事はどうでもいいって言った?」

「言いましたよ。さっ、相手の人を待たせるのもいけません。さっさと行きましょう」

「そこは嘘でも言ってないって言ってよー!」

 泣き叫ぶゆんゆんを放ってめぐみんはさっさと行ってしまい、ゆんゆんが慌てて追いかけていった。

 めぐみんが来る事を知った途端に、先方の人がすごく嫌そうな顔をしたので一悶着起きそうになったが。

 クイーンが二、三口添えをしただけで晴れやかな表情に早変わりし、軽やかな足取りで出かけて行った。

 ギルドのお姉さんへの対応といい今回といい、あいつは本当に口が回るな。

 というかめぐみん、これ以上クイーンの心労を増やしてやるな、何のためについて行ったんだよ。

 と、気が付いたらあっという間に一人になってしまった。

 少し寂しい気がしないでもないが、あいつらがいると煩いのでこれはこれでいいかもしれない。

 急に手持無沙汰になった俺はここにいても仕方がないので、暇潰しに街を散歩することにした。

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