第2章 この盤石な日常に平穏を!

平和が何よりのご褒美

「はあ、アクアのせいで大変な目に遭った……」

「なんでよおおお! 私、何もしてないじゃない。絶対悪くないじゃない!」


 俺達はいつもと変わらない絵面で、警察署から屋敷へと戻っていた。

 別に警察のお世話になったからではなく、俺のテレポートで登録先である警察署前に跳んだからだ。

 咄嗟に思い出したから良かったものの、あの場から離脱できてなかったと考えると寒気がする。

「ああ、惜しかったなあ。もう少しあの場に留まれたら、きっと私はあのモンスター達に蹂躙され、そのまま奴らの巣の中に連れ込まれたんだ。そして奴らが冬眠の間に溜めこんだ欲望の吐き口にと、その汚らわしいものを私に突き付けてっ!」

「どんな状況だろうと平常運転ですね、この娘は。無理やりにでも先に離脱させて正解でしたよ」

 めぐみんが言うように、定員オーバーという理由から俺とクイーンが後に残り、他の三人を先にテレポートさせたのだ。

 総合的に考えてそうしたのに他の三人から不満げな視線を送られたのが不服だが。

「随分と疲弊しているな。ギルドへの報告は私が済ませておくから、君達は先に帰って良いぞ。元々、こちらの世界の服を購入しようと寄道するつもりだったし。」

 クイーンが気を使ってそんな事を提案してくれた。

 冷静に考えてみれば、ゴブリン討伐をするはモンスターの大群から逃げるはテレポートを二回も使うはと心身ともにクタクタだ。

 初陣で疲れているはずのクイーンに任せるのも悪い気はするが、ここは素直に甘えておくことにしよう。

「それじゃあお願いするよ。あんまり遅くならないようにしろよ」

「承知した。それはそうと、どこかいい服屋を知らないか?」

「それなら、いいお店を知ってるわ! ここはセンス抜群の私がついて行ってあげましょう!」

 クイーンの言葉にアクアが食い入り気味に割り込んできた。

 こいつが自分から行動しようとするのも珍しい。

 大方、さっきクイーンが俺達の事をべた褒めしてくれたので、もっと自分を誉めてくれるかもという下心ありきだろう。

「そうと決まれば、さっさとギルドで報酬貰って服を選びに行きましょう!」

「あっ、ちょっと。そんな急に走ったら転ぶぞ、って遅かったか。それじゃあカズマ、また後で。」

 そう言い残して、クイーンは石段で躓き転んだアクアの下へと走って行った。



「――ああ、疲れた。とりあえずお前ら、先に風呂に入っとけよ。その間に買い出し行ってくるから」

 屋敷に着いた所で、俺は冒険用具を置く為に部屋に向かいつつ二人に声をかけた。

「いつもは一番風呂を独占するカズマにしては珍しいですね」

「うっせ。今日の買い出し当番は俺だからな。だったら早く入っといてもらった方が効率良いだろ。アクア達にも先に入るよう伝えておいてくれ」

「最終的に自分のためというところが実にお前らしいな。だが、ありがたく入らせてもらうとしよう」

 どうしてこうウチのパーティーメンバーはいつも一言多いのだろう。

 と、俺は今日の夕飯は何にしようかと考えながら再び屋敷を後にした。


「――で、何がどうなってこうなった」


 二時間ぐらい経って帰って来た俺は買い物袋をキッチンに置き、真顔で目の前に広がる様子を眺めていた。

 広間にいたのは、泣きじゃくるアクア、再起不能とばかりに突っ伏すめぐみん、それらを慰めるダクネス。

 そして帰りに買ったであろう、こちらの世界風のデザインが施された紫色の寝間着に身を包み、髪はストレートに流し腕に輝くブレスレットをつけたままのクイーンが、そんな二人の様子を心底面白そうに眺めていた。

「おっ、お帰り。いや、実はさっき面白い事があってな。」

「おい、そういう言い方はないだろう。おかげでアクアとめぐみんがこんな状態になってしまったのだぞ。いや、実はな……」

 四人一緒での入浴中に、アクアがクイーンをボードゲームに誘った。

 しかし、チュートリアル込みの初陣からアクアはコテンパンに負け、コマ落ちを繰り返し元の駒の半数になっても勝てなかったのだとか。

 続いて何やら対抗意識を燃やしたらしいめぐみんがクイーンに挑戦したのだが、アクア同様に何度挑戦しても勝てず、このような状態になったらしい。

「初めは理解不能なルールが多数あり頭を悩ましたものだが、使用法さえ理解すれば中々面白かったぞ。」

 嬉々として語られたのがそんな内容で呆れ返る俺に、アクアが詰め寄ってきた。

「おかしい、あれはどう考えてもおかしいわ! 私が考えに考えた手が一瞬にして崩されるのよ! しかもクイーンがズルしたに違いないって言っても誰も信じてくれないのよ!」

 そりゃズルじゃなくて単純にお前が弱いだけだろう。

 しかしアクアはいつものことだが、めぐみんがあの様子なのはちょっと珍しい。

 未だに打ちひしがれているめぐみんに目をやりつつ、俺がダクネスに聞いてみたら、

「本当にすさまじかったぞ。早々にアークウィザードを刈り取られてしまい、めぐみんはエクスプロージョンやテレポートを使うことができなかった様でな。程なくして勝負が終わってしまった」

「実に二十戦無敗っ!」

 クイーンがにかッと笑いながら勝利のVサインを送ってくる。

 ふむ、大体この状況は理解した。

 だからこそ言わしてもらうが。

「カズマ、そんなところでぼーっと見てないでお前も二人を慰めるのを手伝って」

「おっと、俺はこれから風呂に入んないといけないからな。二人のことは任せたぞ」

「ちょっ!? この状態の二人を私に押し付けるのか! おっ、おい、カズマ!」

 今のこいつらの相手は絶対に面倒だ、こういう時はさっさと風呂にでも入って一日の疲れを癒すに限る。

 後ろでダクネスがぎゃいぎゃい言ってくる中、俺はそそくさと風呂場へと向かった。


 ――風呂から出てきて広間に入った途端、何やらいい匂いが漂ってきた。

 今日の当番は俺だったのだが、誰かが代わりに作ってくれたようだ。

「おっ、いい匂いだな、ってどこぞの三ツ星料理店かよ!? おい、これ誰が作ったんだ?」

 そこにはプロの料理人顔負けの料理の数々が並べられていた。

「おっ、カズマ出てきたか。今日はすごいぞ。落ち込んでいたアクアとめぐみんのためにクイーンがご馳走してくれることになったんだ」

 追加の皿を運びながら、俺が入ってきたのに気付いたダクネスが教えてくれた。

 既に椅子に座っていたアクアとめぐみんは料理を見つめたまま涎を垂らしており、今にも食い付きそうな態勢だ。

 と、台所の方からクイーンが酒を何本か手に持って出てきた。

「ちょっとダイニングを借りたぞ。しかしこの世界の野菜はどうなっているんだ? 切ろうとした途端回避したり逃亡を図ろうとしたり汁を飛ばしたり。昨日書物を読んだり君達から話を聞いたりした時は頭いかれてんのかと思ったが、まさか本当だったとは。もう少しで顔面パンチにイカ墨まみれと散々な目に合う所だった。全く、トドメぐらい差しとけよ。」

 やれやれと肩をすくめながら椅子に座るクイーン。

「だよな、この世界に来たらまずそれに驚くよな。俺もこの世界に来たばかりの頃は、畑から秋刀魚を取ってこいだのキャベツ狩りやれだの言われて、もう日本に帰りたいと何度思ったことか。いや、そうじゃなくって。お前料理もできたのか?」

「まあ、それなりに嗜んでいたのではないか? 今日のメニューは先程商店街を経由した時に、アクアが物欲しそうに眺めていた物を模倣しただけだが。」

 既にそれなりの域を軽く凌駕していると思うのだが。

 というか、通りすがりにチラッと見ただけで再現されたら、店の人はたまったもんじゃないな。

「ほんとすごいわよね! クイーンが何をしたら機嫌を直すかって聞いてきたから、商店街一の名店のスペシャル定食が食べたいって頼んだら本当に作ってくれるんだもの。あっ、クイーン、気が利くわね。それは私が今日のために買っておいたとっておきのお酒なのよ。さっそく皆で飲みましょう!」

「お前は少し遠慮というものを覚えろ」

 相変わらずのアクアに呆れつつ、俺もさっそく席に着いた。

「さて、カズマも来たことだし食べるとするか。召し上がれ。」

「「「「いただきまーす!」」」」

 試しにスープを一口……。

 あ、あかん。これは止まらない!

 これだけの衝撃を受けたのは、初めて霜降り赤ガニを食べた時以来か。

 すぐに他の料理も食ってみたが、どれも最高に美味しい!

 俺も料理スキルを持ってはいるが、ここまでのものは作れない。

「どうだ、口に合ったか?」

 会話も忘れて夢中で食べている俺達に、上品にワインを堪能していたクイーンが尋ねてきた。

「おいひいのれす! ふぉれふぉどのりょうふぃふぁ、ふぁふぇたふぉふぉがあふぃまふぇん!」

 口一杯に料理を詰め込んでいるので、めぐみんが何を言っているかよく分からないが、多分、今までで一番美味いとかそんなとこだろう。

「この舌が肥えた私を唸らせるなんて、あなたなかなかやるわね。この私の名において、【商店街のコックさん】の名を授けてあげるわ!」

「ああ、私もここまで味付けや風味が完璧なものは早々お目にかからない。しかも普通の食材だけで作っているのだから尚更だ」

 アクアと違い本当に舌が肥えているダクネスからも大絶賛らしい。

 勿論、俺も大満足だ!

「ああ、すっげー美味い! アクアじゃないが、しばらく王城に居て毎食高級な料理を食べていた俺から言わせても、宮廷料理人を名乗っていいと思うぞ。アイリスにも食べさせたいぐらいだ!」

「何故王城に何日も滞在してるのかとか、この国の第一王女を呼び捨てに出来るぐらい仲がいいのかとか、詳細を尋ねたい事はあったが。取り敢えず、どうも。私はかの店主を真似しただけだが、これだけ喜んでもらえたのなら作った甲斐があったというものだ。」

 俺達の感想を聞いて、クイーンはうんうんと首を縦に振った。

「王都絡みは後で話してやるよ。そう言えば明日はどうするんだ? またクエストとかか? 今日の事もあるし、行くなら他の人と行ってくれ。クイーンがカードを作った時に他の冒険者もたくさんいたし、断る奴はいないだろう」

 冒険者に就いたとはいえ、これだけのステータスを持つ常識人だ。

 チョロッと募集を掛ければ、さぞ大勢の人が集まってくるだろう、アクアと違って。

「そうだな、特に決めていないが。そろそろ真面目に記憶を取り戻す行動に移行しなければな。いつまでも君達に世話をかける訳にもいかないし。」

 と、箸を止めて少し考え込むクイーンに対し、アクアは机をバンっと叩き身を乗り出した。

「いいじゃない、そんな事しなくても! いつまでもこの屋敷に居ればいいわ!」

「仮に記憶が戻ったとしても、このままこの屋敷に住めばいいと思いますよ。私は一向に構いません」

「同感だ。そもそも、私達はもう同じパーティーなのだ。誰も迷惑だなんて思っていないぞ」

 そんな三人の言葉に、

「あ、ありがと。そこまで言われるのは想定外だった。ちょっと照れ臭いな。」

 目線を逸らしつつ若干顔を赤くして、まるでエリス様みたいに照れるクイーンが凄く可愛い。

 そんな可愛いクイーンはハッとして一つ咳ばらいをたて、いつもの冷静な表情に戻ってしまい、

「ま、まあ、そちらは追々検討するとして。一先ず行動に移そうと思っているのだが、何か具体的な案をくれないか?」

 具体的な案か、そう聞かれるとすぐには思い付かないものだが。

「そうですね。アクアの魔法でも無理でしたから、治療タイプの魔法では難しいと思われます。となると、何かの魔道具でしょうか?」

「とは言っても、そのような魔道具は聞いたことがないな。どこかに売っているのだろうか?」

 俺もそんなものは聞いたことがない。

 となると手詰まりだろうか。

 そんな中、ふとクイーンが何か思いついたように声を上げた。

「そういえば、今朝方来た悪魔が営む店には何か置いてないのか? ぱっと聞いていた限りでは、絶妙に使えない物が多くあった気がしない事もなかったが、あれで魔道具店なのだろ?」

「おおっ、確かにそうだな。ないにしても、何か魔道具に関する情報ぐらいくれるかもしれない」

 あそこの店の商品にはあまり期待できないが、情報通のバニルのことだ、何かしらの情報は持っているかもしれない。

「何言ってるの、あんなアンデッドや腐れ悪魔に頼ることないでしょ! もし知ってたとしても、どうせあの陰険悪魔はボッタクルに決まってるわ!! 私は絶対に行かないからね」

 バニルの話になった途端にアクアがあからさまに嫌そうな表情をした。

「アクアがそういうなら仕方がありませんね。クイーン、明日の爆裂散歩帰りでよければ私が案内しますよ」

「それは有難い。となると、対価として何かしなければな。」

「そんな対価だなんて大げさな。別に構わないですよ、この程度の事で」

「まあまあ、そう言わずに。貸しは早いうちに返しておく方がいいからな。試しに何か言ってみてくれ。」

 意外とグイグイ来るクイーンの押しに負け、めぐみんは何がいいかと考え始めた。

「そうですね……。では一つ、私の質問に答えて下さい。実は、先程から聞いてみたいと思っていた事がありまして。ですが……、その……。皆の前では言いにくい事なので、少し耳を貸してくれませんか?」

 めぐみんが何故か顔を赤くしモジモジしてそう言うので、クイーンは訝しげになりながらも立ち上がりめぐみんの口元に耳を近づけた。

 勿論、何を話しているのか気になった俺は即座に読唇術スキルを発動させた。


『どうやったらクイーンみたいに、胸が大きくなるのですか?』


 完全に予想の斜めいく質問だった。

 確かにめぐみんの胸はとても慎ましいし、俺も大きくなってくれたほうが嬉しいが、まさかクイーンに聞く程までに真剣に悩んでいたとは。

 クイーンもあまりにも予想外の事だったのか、一瞬きょとんして。

「ぷっ、ハハハハハッ!!」

 腹を抱えてその場でもんどりうって笑い出した。

 そりゃそうだ、急に真面目にそんな事を聞かれたら誰でもこうなるだろう。

 かく言う俺も、めぐみんにバレない様に笑いをこらえるのに必死だ。

 ここで笑い出したら、明日の爆裂魔法の的が俺になってしまうだろう。

「ちょっ、なんでそんなに笑うのですかっ! あなたが何でも聞けって言ったんですよ。おい、それ以上笑い続けるようなら、我が爆裂魔法の餌食と化しますよ!」

 めぐみんが顔を真っ赤にして笑い転げ回っているクイーンに向かって脅しをかけるが、そんな顔をしていては少しも怖くない。

「ねえ、一体めぐみんは何をお願いしたの? 私にも聞かせてよ」

「まあまあ、めぐみんにも言いたくない事ぐらいあるだろうし、そっとしておいてあげようではないか」

 無神経に尋ねるアクアだったが、何となく察した様子のダクネスがそっと諭した。

 と、クイーンが笑いで震えながらも床から机に手を伸ばして掴み、息も絶え絶えに起き上がってきた。

「はあはあ……、い、いやすまん。まさかめぐみんぐらいの年でそんな事を心配しているとは思わなかったからつい。ぶふっ!」

「言ってる傍から!」

 めぐみんが再び笑い出したクイーンに殴りかかって行った。

 もっとも、クイーンはめぐみんの攻撃を全部避けているが。

「ハハハハハッ、ああ面白っ! 危うく腹筋が崩壊するとこだったよ。それじゃ、後でめぐみんの部屋にでも行って教えてあげるよ。それでいいだろ?」

 腹を押さえ目尻に涙を浮かべながら、クイーンはめぐみんに聞く。

「ほ、本当ですか!? 本当に教えてくれるのですか?」

「ああ、私の全知識を用いて、めぐみんに合いそうな手法を教授しようではないか。」

 何て頼もしい。あの誰も盛り土できなかった平原を、本当に開拓する方法が存在するとでも言うのだろうか。

 クイーンの手腕に是非とも期待したい。

「えー、さっきのゲームで再挑戦しようと思ってたんですけど」

「懲りないな。めぐみんに教えた後で良ければ相手してあげるから、部屋で待っていてくれ。」

「ホントね! 今度こそあんたをコテンパンにしてやるんだから覚悟なさい!」

 粋がってはいるが、アクアがぼろ負けして泣き崩れる姿しか思い浮かばない。

「ところでカズマ、なんでそんな笑みを噛み殺したような顔をしているのだ? もしかしてめぐみんが何を言っていたか読唇術で見ていたのか?」

 俺の漏れ出る表情に気付いたのか、ダクネスが隣から怪訝そうに聞いてきた。

「そ、そんなことないぞ! うん、断じて一言も聞こえていない。だからめぐみんさん、そんな目を紅くしてにじり寄って来ないでもらえませんか? お、落ち着けって。そ、そうだ。お前に一つ言っといてやるよ」

「ほほーう、なんでしょうか? 返答次第では朝日を拝めなくしてやりますよ」

 それはご免被りたい。

 俺は凄んでくるめぐみんの肩にポンッと手を置き、物凄く真面目な顔で、

「しっかり聞いて、大きくなるんだぞ」

 その瞬間、めぐみんに思いっきり殴られました。



 もうすぐお昼時と言った頃、俺は一人ウィズの店へと向かっていた。

 昨晩言っていた、クイーンの記憶回復に役立つ商品情報を得るためだ。

 当事者であるクイーンはめぐみんに付き添って爆裂散歩に出掛けたので、現地集合ということになった。

 残りの二人はというと、アクアは天界から急に呼び出しがあったらしく昨日の夜遅くから留守にしており、ダクネスも領主の仕事で実家に戻っている。

 ぼんやりした頭のままウィズの店近くまで来た時、めぐみんがクイーンに背負われてこちらに向かって来るのが見えた。

 向こうも俺に気付いたらしく小走りでこちらに近づき、

「カズマにしては早かったですね。グータラで引き籠りな上に面倒がりなので、てっきり昼を超えたぐらいまで寝ているものかと」

「お前が普段俺のことをどう思っているか今度徹底的に問いただす必要がありそうだな。ところで、クイーンはえらくご機嫌だな。何かいい事あったのかい?」

 やけに晴れやかな表情をしたクイーンに、俺が何気なく尋ねてみたら。

「いやー、散歩の途中でちょっ」

「わああああ、クイーン! それ以上はもう言わないと約束したじゃないですか! 何あっさり破ろうとしているのですか!」

 クイーンの背中で突如めぐみんが騒ぎ出した。

「そういえばそうだったな、失敬失敬。でもあんな面白い事をカズマに話さないのはもったいない気がするのだが。」

「これっぽっちももったいなくありませんから! 絶対話さないでくださいよ、絶対ですからねっ!」

「任せておけ、それは後でしっかり話しておけと言う前振りなのだろう?」

「違いますって!」

 顔を真っ赤にして必死に止めようとするめぐみんを、クイーンはニヤニヤとしながらからかっていた。

 本当に何があったのだろうか、後でこっそり聞いておこう。


 そうこうしているうちに、俺達はウィズの店の前に到着した。

「ここが彼の店か。悪魔が営む店ってことだから、てっきり禍々しい雰囲気の場所を想像していたのだが、意外にも清潔な店だな。しかし、こんな街の外れではなく、もっと表通りに店を構えたほうが繁盛すると思うのだが。」

「前に聞いたところ、お金が足りなかったそうです。今も赤字続きで移転もできないのでしょう」

「ほら、さっさと用事を済ませて帰ろうぜ。昼飯もまだだし」

 ドレインタッチでクイーンの体力をめぐみんに分け終え、俺は店の扉を開いた。

「あっ、カ、カズマさん。それにめぐみんさんも。い、いらっしゃいませ。あらっ、そちらの方は新しいお友達ですか?」

 久しぶりにあいつではなくウィズが迎え入れてくれた。

 もっとも、所々焦げた跡があり顔色もかなり悪そうだったが。

 また何かやらかして、バニルにお仕置きをされたようだ。

「よっ、ウィズ。ちょっと聞きたい事があって来たんだけど大丈夫か? 主に体調とか……」

「え、えぇ、大丈夫です。いつものことですし……。それで……」

「これは挨拶が遅れたな。ではまず手始めに自己紹介を。私はクイーン。暫らくの間、カズマ達のパーティーに居候する者だ。よろしく頼む。」

「はっ、はい。私はウィズと申します。こちらこそ、よろしくお願いします。あの、あの……」

 挨拶を済ませたというのに、ウィズは未だに落ち着きがなくクイーンと俺の間で視線を行き来させた。

「どうした、ウィズ? 他に何か気になる事でもあるのか?」

「ええっと、何と言いますか……」

 これ以上ないぐらい真剣な眼差しを向けている俺に、ウィズは戸惑いながらも。


「なんで私は初対面の方に会って早々体を弄られているんですか!?」


 クイーンに身体のあちらこちらを触られている事を指摘してきた。


「何でと言われても、そんなこと俺は知らない。クイーンに聞いてくれ」

 俺は今、クイーンが触ることで強調され激しく揺れる肢体を眺めるので忙しいのだ。

 めぐみんが蔑んだ目で見てくるが、そんなことには構っていられない。

 クイーンが生んでくれたこのチャンスを見逃す手はない。

「昨日アクアが言っていたが貴方はUndeadという存在なのだろう? 私はUndeadを正直信じていなくてな、何故か君の肢体が希薄だったり炭化していたりしているのでその為の検証を。ふむ、聊か寒冷だが肉付は普通の人間と大差ないのだな。いや、それにしては胸部が豊かすぎるか。これは術を行使した事による副作用なのか?」

「きゃっ! あっ、あのあの、そろそろ、んっ! やめて頂けないでしょうか!? あなたに触られていると、ひゃっ!! 何故かピリピリしたり、変な気分になるので。ちょっ、そ、そこはダメですって!! というか、カズマさんも見てないで止めてくださいよ!」


 チョー、断る。


「カズマは本当に欲望に忠実ですね。少しぐらい自重しても罰は当たりませんよ」

「欲を抑制すると体にストレスが溜まって健康に悪いし、成長にも影響が出るらしいぞ。だからめぐみんは未だにそんななんだよ」

「言ってくれましたね! 今に見ててください、その内あなたが他の人に関心を向けられないぐらい魅惑の体になって……。というか、昨日からそのネタばっかりじゃないですか! 他に言う事はないのですか、って無視しないでください!」

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