最強の冒険者爆誕
ギルドへとやって来た俺達は、誤作動を起こす原因だった封印も解けたことなので、改めてステータス測定をしてもらったのだが……。
「はああああ!? ななな、何なんですか、このデタラメな数値は!? 始めから上級職に就かれた人がレベル100になったとしても、普通こんな数値にはなりませんよ!!」
心底驚くお姉さんの声に、ギルド内にいた他の奴らも騒ぎ出す。
数多の冒険者のステータスを見てきたであろうお姉さんがこれだけ驚くとは、一体どれだけ馬鹿げたステータスだったのか。
これだけ騒がれては見たいという欲求を抑えられるはずもなく、クイーンの横からカードを覗き込んでみたら、
「「「「はああああああ!?!?」」」」
そこには俺の予想を余裕で越えた、本当にとんでもない数値が刻まれていた。
「ちょっ、これどういうことですか! 紅魔族の平均ステータスを軽く凌駕しているのですがっ!?」
「す、少し前にアイリス様のカードを拝見した事があったが、それよりも高いような……」
「ままままあ、私は元々癒す事が本業の女神だから、冒険者にはあんまり向いてないのよ! そう、だから別にクイーンに負けても悔しくは……。悔しく、なんて……。わあああああ! カズマあああ、私の、私の記録が塗り替えられちゃったあああ!」
「ゆ、揺さぶんな! ほ、ほら、レベル200とかの奴にはどうせ負けるだろうし、あんまり落ち込むな」
この世にはカンストというものもあるし、たとえ潜在能力がすごくてもそもそもレベル200の奴が存在するか怪しいものだけどな。
俺が適当な言葉でアクアを慰めている横では、
「そ、そんなに凄いのか? 比較対象がないから何とも言えないのだが……。」
クイーンは俺達の反応に軽く引き気味になっていた。
「す、すごいってものじゃないですよ! い、いいですか、私達は高レベルにして、魔王すら討伐した凄腕パーティーというのを前提においてですよ。魔力値でアクアを凌ぎ、知力で私を凌駕し、耐久力もダクネスまであと一歩という程です! これがすごいと言わずに何をすごいというのですか!!」
めぐみんの言う通り、こいつらはスキルの偏りや性格には多々問題があるが、いや、偏りがあるからこそ、ある分野では他の追随を許さないはずなのだ。
それと同等レベルのステータスを一人で、しかも初期段階で持っているとなると異常もいいところだ。
これで幸運値も俺と比肩したらどうしようもなかったが、幸いこれだけは人並みより少し低いぐらいだった。
いや、それでも十分えげつないんだけどな!
「要するに君達の長所と同等の物を私が一人で有しているという事だな。そりゃ凄い。」
「随分と淡白な反応だな。もうちょっと驚いたり感動したりしないのか?」
「と言われても実感がないからな。」
と、困ったように頭を掻くクイーンに、お姉さんがちょいちょいと手招きをしていた。
首を傾げながらも素直に近づくクイーンに、お姉さんは耳に口を近づけ小声で話し始めた。
『ステータスを確認した今、ギルド側としては止める理由がなくなりました。というか、むしろこちらからお願いします! どうかカズマさん達が進んで仕事をこなすよう協力してください! あの方々は実績はあるのにすぐに自堕落な生活を送ろうとするので。腐らせておくワケにもいかず、ギルドとしても手を焼いていたんです』
『御任せ下さい。彼らの思考回路は概ね把握したので、餌さえチラつかせれば簡単に動かせます。なので、先程発案させて頂いた交換条件を呑んで下さると助かるのですが……。』
『ええ、勿論です。秘密裏にですが、ご満足して頂けるだけの臨時報酬を出させて頂こうと思います!』
思わぬ処にギルドからの刺客がいた。
何故俺が二人の会話内容を分かっているかというと、勿論読唇術を使ったからだ。
クイーンの奴め、とんでもない事を画策していやがった。
今後あいつの発言には要注意しなければ、俺の甘美な引き籠り生活が危ぶまれてしまう。
「そう言えば、これから職業を決定するのでしたよね?」
「ええ、そうですね。何になさいますか? 筋力値は平均より少し高いぐらいですので、重工製の武器を扱う前衛職は無理ですが、それ以外なら何にでもなれますよ! さあ、どれにします?」
興奮が冷めないお姉さんを宥め、
「その前に、お手数ですが各職業の説明をして頂けないでしょうか? 書物からの知識しかないので、私の認識にズレが生じている可能性があるんです。」
「そ、そうですね。先走り過ぎました、申し訳ありません。それではご説明を!」
そこからしばらく、お姉さんは全ての職業の説明をひたすらしていき。
「――そして最後に、基本職の≪冒険者≫の話を。まああなたにはあまり関係ないでしょうが、一応説明しておきますね。冒険者は、あらゆるスキルを同時に習得することが可能な唯一の職業です。ただ、本職よりもスキルポイントが余分に量んでしまいますし、精度も本職には及ばない上に職業補正も効きません。ですので、あまりお勧めはしませんよ。カズマさんの様に、最強の最弱職と呼ばれるケースも極稀にはありますが、他の職業に就ける人がわざわざ選ぶメリットはありませんね。これで全てです」
ふむ、とクイーンは頷き軽く思考し。
「確認したい事項が一点。冒険者はどんなスキルでも習得可能と仰いましたが、そのスキルは人間が扱う物限定なのでしょうか? 例えば、モンスターの所持する技や特性なども問題なく習得可能なのでしょうか?」
「え、えっと……。スキルは誰かに使い方を教えてもらい、その上で実際に見ることでスキル欄に出現するんです。ですので教えてもらえさえすればモンスター達が使うスキルでも可能なはずですが……。クイーンさんは一体何を覚えるつもりなんですか?」
「気にしないで下さい、此方の話ですので。」
顔を引きつらせるお姉さんにさらっとした対応をとるクイーンは、俺達をちらっと流し見て。
「確か、アクアがアークプリーストでめぐみんがアークウィザード、ダクネスがクルセイダーだったよな?」
「そうだな、一応は」
言いながら俺は、一応はそうである奴らの顔を横目で見る。
「何よ、私達の顔なんか見ちゃって? 言いたい事があるなら聞こうじゃないの」
「何でもないよ」
ちゃんとしたスキル振りをしてくれとか、各々のクラスに見合った言動をしろとか、そんな今更な事なんかこれっぽっちも思っていない。
「それで、クイーンは何を悩んでるんだ?」
「暫くは君達の処で厄介になる訳だし、パーティー構成的にどうしようかと悩んでいるのだが。聞いてみるとプリーストやウィザードも面白そうだと思ってな。」
「ああ、確かにそれは迷うよな。お前ならどれに就いても優秀そうだし」
途端にビクッと身体を震わせる二人。
どうやらこいつらにも思うところがあるようだ。
自覚しているのなら改善しろと言ってやりたいところだが、どうせ直さないのだろう。
「もしこいつらに気を使ってるんなら、そんな必要はないぞ。転職もできるとはいえ、後から変更とかは難しいからな。好きなやつ選べよ」
「そうか、それじゃお言葉に甘えてアークプリーストに……アクア、そんなに近づいて来るな、無言に涙目で揺さぶるな。じょ、冗談だって、本当はアークウィザードになろうとって、めぐみん? どんな原理か知らないが文字通り眼を紅くして胸倉を掴まないでくれないか? だ、大丈夫だって、ならないから、どっちもならないから。取り敢えず二人とも揺さぶるのはやめてくれ。」
不安げな顔付きで揺さぶっていた二人から解放され、やっと一息つくクイーン。
「か、軽く酔った……。そんなに心配しなくても大丈夫だって、初めからなるつもりはなかったし。単に慌てふためく二人を見たかっただけだから。」
再度掴みかかろうとする二人を今度は軽く捌きながら、クイーンは満足そうな表情を浮かべる。
このタイミングでこんな悪戯を挟むとは、いい性格してやがる。
「では一体何になるんだ? ま、まさかクルセイダーか!? なるほど、駄目な私の代わりにクルセイダーとしてこのパーティーに参加する、つもりはそういうことなんだな! お前の参加で居場所を失い、パーティーを抜けることになった私は、他に拾ってくれるパーティーもおらず、そのまま一人で街をふらつく事になる。路頭に迷い、その内ロクでもない商売人に見つけられてしまう私は、どこぞの変態貴族のもとへ売り飛ばされ。そいつに奴隷のように扱われてしまうんだっ! そして……っ!」
「ああ、クルセイダーは地味だしあんまり興味ないから最初から念頭になかったわ。」
「……それはそれで仲間外れにされているみたいで少し寂しいのだが」
今日も絶好調で面倒くさい事を言うダクネス。
このメンツを相手によくこれだけ手玉にとれるものだな、俺のツッコミ回数が減って非常に助かる。
「それで、結局何になるのですか?」
「ふふん、実はここに来る前から考えていたのだが……。」
すぐには答えず、クイーンはルナのほうに向き直った。
「ルナさん、私は決めた。」
「さあ、どうなさいますか? 洗礼された剣技を有する≪ソードマスター≫? 圧倒的な火力を持つ≪アークウィザード≫? 絶大な防御力を誇る≪クルセイダー≫? それとも、あらゆる回復魔法を司り、前衛に出ても申し分ない戦闘力を誇る≪アークプリースト≫?」
「≪冒険者≫で。」
――その一言に、さっきまで活気に溢れていたギルド内を沈黙が支配した。
クイーンと俺達やギルド職員との間で職業選びに関し一悶着あって、三時間ぐらいが経過した頃。
俺達は街を離れ、討伐クエストに出掛けていた。
出発に時間が掛かったのは、クイーンがお手軽なスキルを覚えてくると言ったからだ。
今回のクエストはゴブリン退治。
冬が開け引っ越して来たのか、数日前に突如現れたらしい。
いくらステータスが高いとはいえクイーンにとってはこれが初陣。
しかもパーティーを組んでの事なのでこのぐらいが妥当だろうと、ギルドのお姉さんが勧めてくれたのだ。
その時、俺達の顔を不満げにチラッと見たのは気のせいに違いない。
「ねえねえ、本当に良かったの? せっかく上級職にも就けたのにカズマさんと同じ最弱職で?」
「そうですよ。誰もが付ける訳ではない名誉な職業なのですよ」
「上級職など、全冒険者数の一割にも満たないレアな職業だからな」
「お前らさんざん圧力かけといてよく言えたな」
しかし実際、何を考えているのだろうかこの人は。
今のステータスなら盗賊とかにもクラスチェンジできるかもしれないが、俺の場合この職業のまま魔王討伐までやってのけた。
その俺ならば冒険者を続けるのもありだろうが、最初からもっと上の職業に就ける人が、わざわざ冒険者を選ぼうとする精神が分からない。
未だに納得のいっていない俺達に、クイーンは少しウンザリした様子で。
「先刻も言ったが、この職業を選んだのは考えあっての事だ。それで良いではないか。」
「だからその考えってのを聞かせてくれよ。何でも覚えられるってだけで冒険者を選んだのなら絶対にやめた方がいいって。覚えたところでポイントを余分に食ったり威力が弱かったりで、大した利点にはならないんだよ」
「流石、冒険者にしかなれなかったカズマさん。経験者が言うと言葉の重みが違うわね!」
この野郎、一回きっちり絞めてやろうか。
と、クイーンは諦観したように小さく溜息を吐き出した。
「分かった、君達も私を心配しているからこその発言だろうしな。さっきは人が大勢いたのではぐらかしていたが、私の考えというのを噛み砕いて説明するよ。」
「大勢いたからって。他の人に聞かれては不味いような理由があるんですか?」
「何を企んでいるのかは知らんが、場合によっては黙っていられなくなるぞ」
クイーンの曖昧な言い回しに、めぐみんとダクネスが少し警戒した。
「いや、これは私の仮説でしかないし世界の歪みに関する事柄なので、この世界の住人にはあまり大っぴらにしない方がいいと思い配慮しただけだ。」
世界の歪みって、そんなものがあるのだろうか。
どうやら他の奴らも分からなかったようで、首を傾げている。
「この世界の人々は気にしていないようだが、どう考えても不自然な事象が幾つもあるんだ。例えば冒険者の性能とかな。めぐみん、ダクネス。君達は冒険者に対する認識なんて、スキルポイントばっかり食う最弱職って程度だろう?」
「まあ、そうですね」
「うむ。私達だけではなく、一般的な認識もそんなものだろうな」
同意する二人に満足して、クイーンはコクリと首を縦に振る。
「アクア、ギルドにあった人の力量を図る機械やカードは、日本人が作った物なのだろう?」
そうだったのか。
確かにあれだけこの世界の技術レベルとかけ離れた技術力が詰め込まれているとは思っていたが、まさかそんな裏設定があったとは。
「さあ? 私の仕事は日本人をこの世界に送る事だけなんだから、その後誰が何しようが知らないわよ」
「そこまでは把握しておけよ! お前がそんなだからデストロイヤーとか魔術師殺しだとか余計な事やらかす奴が出てくるんだろうが!」
前々から分かってはいたが、こいつは職務怠慢すぎる。
その皺寄せがいつも俺に降り懸かってくるので本気でやめてもらいたい。
「今度天界に戻った時にでも確認しておいてくれ。兎に角、あの変に便利な魔道具のせいで、微細な部分で様々な支障を来しているのだよ。」
「……あの、あまりにも曖昧過ぎるので、もうちょっと具体的に話してくれませんか?」
俺もさっぱり分からないので是非お願いしたい。
「いいけど話し出すとキリがないから、私が冒険者を選ぶに至った事柄のみに焦点を当てるぞ。まず、冒険者の認識を改めておこうか。冒険者に就く人は元からステータスが低い、平たく言えば才能が無いという事だ。故に消費ポイントが嵩むのだと推測される。中堅冒険者でも苦手なスキルには余分にポイントを消費するのと同様にな。この点で因果関係と相関関係の混同が生じているという訳だ。逆に言うと、優秀な人材なら例え冒険者に就いても本職並みのスキルポイントで習得出来るはずなんだ。」
何という事だ、恐ろしい程までに説得力がある、あるのだが……。
「カズマ、何を落ち込んでいる? 君の武器は才能じゃなく長年のゲーマー生活で培った機転だろ。才能なんて生きていく上での単なる付属品に過ぎないから気にするな。」
「べべ、別に気になんかしてないから!」
それでも人間という種族は、面と向かって才能が無いと言われると傷つくものなのだ。
「なるほど、一般に根付いた先入観のせいで職業を選ぶようになってしまい、高ステータスな人材が冒険者に就く前例がなかったということか」
「当り前と思っていた事にも、案外理由があるんですね」
ダクネスとめぐみんも、クイーンの推測に納得せざるを得ないようだ。
アクアはポカンとしてることからして、理解が追い付いていなさそうだが。
「つまりクイーンは、スキルポイントの心配がないなら、どんなスキルでも習得できる冒険者の方が便利だと言いたいのですか? でも、本職には職業補正というものがあるので、威力や性能にはやっぱり差が出ると思うのですが?」
と、めぐみんがふっと思い付いた疑問を投げかけた。
「その職業補正とか言う意味の分からない体系も、魔道具出現によるまやかしだ。この世界には魔法もあれば呪いも存在するのだから、言葉に豪然たる力が宿っているのは想像に難くない。それらによる強力なプラシーボの発生が原因であろうな。」
「い、いくら何でも職業補正をただの思い込みと言い切るのは無理があるんじゃないか? もしそうだとしたら、あの魔道具が作られる前にも冒険者はいたんだろうし、誰か一人ぐらい気が付いてるだろ」
クイーンのあんまりにも大胆な説明に、俺は思わず口を挟んだ。
「言い方が悪かったか? プラシーボとは言ったが、この世界ではそれが実現しているという意味だ。その媒介に魔力を使用したかどうかは憶測の域を出ないが、実際に生じて居るのだからそうなのだろう。それを言い出したら、ステータスさえ基準に達していれば職業の変更が可能なのに、全てのスキルを習得出来るのが冒険者だけという事も論理が破綻しているぞ。おっと、いかんいかん、これ以上は作品論となってしまうからな、ここでは控えておかねば。」
誰への言い訳かよく分からないが、これ以上説明する気はないようだ。
俺としてもこれ以上は頭が痛くなるし、何よりこの世界で暮らすのが怖くなりそうなので、ここらで潮時としておこう。
と、クイーンはコホンと一つ咳払いをつき。
「ともかく、冒険者に大した短所がない以上、人外生物のスキルをお手軽に習得可能な冒険者はかなり魅力的なのだ。いくら私でもデュラハンやバンパイアの体質的なスキルは、そう易々と身に付けられるとは思えないからな。」
「お前は一体どこへ向かおうとしているんだ?」
「以前しょうもない理由で死の宣告を覚えようとしたカズマにだけは言われたくないと思うぞ」
俺の言葉に、ダクネスが真顔でダメ出しをしてきた。
そんな事を話しているうちに、ゴブリンが目撃されたという場所に到着した。
木の陰からコッソリと覗いてみたが、これは想像以上に数が多い。
森の中にちょっとした広場が出来ており、その一角に三十匹ほどのゴブリンが固まってくつろいでいる。
今は広場を見下ろせる小高い崖の上にいるので、まだ気付かれてはいないはずだ。
普通よりも群れの数が多いが、今の俺達のレベルなら恐るるに足りないし、クイーンもあのステータスなら余裕だろう。
「よっし、それじゃあ確認するぞ。防御はダクネス、支援と回復はアクア、俺は全体の指令や遠距離からの中級魔法と狙撃で援護するから、クイーンは遊撃手みたく自由にやってくれ」
「了解した。さっき幾らかスキルを教えてもらったからな、奴らには実験台となってもらおう。」
「すみません。今日はもう魔法が使えないので、私は完全に足を引っ張ってしまいますが……」
珍しくめぐみんは少し申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「なーに気にする必要はない。ギルドの人が言っていたが、Kobalosというのは雑魚なのだろう。君の代わりに私があいつらをぶっ飛ばしてやるさ。」
「こば? もしかしてゴブリンの事を言っているのか? モンスターの名前ぐらい正確に覚えておけ。それはさておき、防御は任せてくれ。爆裂魔法にすら耐えた私の防御力をその目で確認してくれ!」
「私にも期待して頂戴な! 傷ができても跡なんか残らないくらい完璧に治してあげるわ!」
「ああ、魔王軍さえも討伐したという君達の実力を、特と拝見させてもらおうか。」
自信満々に胸をたたく二人と、それに対し不敵な笑みを浮かべるクイーン。
今回は皆テンションが高いな。
クイーンにいいとこを見せようとアクアまで張り切っているし、実際俺も少し滾ってきている。
何故って、こいつらとはまた別の意味でツッコミが追い付かないが、それでも十分まともな部類に入る王道ヒロイン枠だ。
もしここで格好良いとこを見せたら、裏ステージであるクイーンルートが展開するかもしれない。
これは嫌でもやる気が出てくる。
「それじゃあ予定通り。行くぞー!」
「「「「おー!!」」」」
クエスト開始――!
いつも何かと問題が起きてクエストに失敗する俺達だが、今更ゴブリン如きに後れを取ることはない。
ダクネスが守り、アクアが支援をし、俺が後方から多彩なスキルを使って危なげなく撃破していく。
そしてクイーンはというと。
「凄いな、この生物は。一体どんな進化を辿ったのだろうか? 文献だけでは形状の詳細を判別するのは困難だからな。」
CQCみたいなので五匹のゴブリンを同時に相手にしつつ、生態観察を始めていた。
「おいクイーン、まだ戦闘中だぞ! 観察は後にしてそいつらを討伐してくれ! トドメを刺さないと経験値が取れないぞ!」
「うん? ああ、すまない。ついつい悪癖が出てしまった。どうも興味がある事象に出くわすと、他の事そっちのけでそちらに集中力が移ってしまうようでな。後、こんな格下の奴にトドメを刺すのはなんだか可哀想だと思うのだが。」
「そんなこと言ってる場合かー!」
クイーンが討伐を渋る以外は大した問題もなく、俺達にとっては非常に珍しいがあっさりと終了した。
「終わったなー」
「ほんとですね。私達にとってはとても珍しくあっさりと終わりましたね」
「ああ、それだけ私達が成長したということだろう。素直に喜んでいいのではないか」
めぐみんやダクネスも同じ事を考えていたようだ。
「そうよね、今回は皆頑張ったわよね! それにクイーンもなかなかだったじゃない。さっき使ってた格闘術だってここに来る前に覚えたばかりなんでしょ? それであれだけ動けるなんて、さすが高ステータスなだけはあるわね!」
ここでアクアは覚えたと言っているが、これは文字通りの意味だ。
どうもクイーンは、スキルポイントを消費することなく様々なスキルを習得したらしいのだ。
なんでも、料理スキルを取らなくてもある程度は料理ができるのと同じ原理らしい。
後から発覚した事だが、クイーンが覚えてきた物は本職の奴でもそれなりにポイントを消費して修得したのだとか。
「いやいや、言及すべきは君達の方だ。ダクネスはあれの攻撃を物ともせず鉄壁の守りを貫き、アクアの支援魔法は飛び切り効き目が高い。しかも昨日私を直してくれた回復魔法もあるから安心して前線に出られる。カズマは遠距離からの中級魔法に、本職以上の命中率を誇る狙撃によってダクネスの特性を引き出しつつ見事に敵を撃退し、皆にも適宜鋭い指令を出していた。本来ならここに今朝見せてくれためぐみんの爆裂魔法があるから、どんな敵だろうと吹き飛ばせる。なんだよ、街の冒険者達が言っていたよりもずっと素晴らしいパーティーじゃないか。流石は魔王討伐パーティーだな!」
クイーンは初クエスト達成で若干興奮しているのか、とても熱く語ってくれた。
ここまで人に褒められる事も珍しいので、若干恥ずかしくなり顔を逸らす俺達。
なんか、たまにはこんなのもいいかもな。
これからはちょくちょくクエストにも出てみるか。
「さ、さあ帰りましょう! 帰ってシュワシュワで乾杯よ! 今回は楽な仕事だったわね。毎回こんなチョロいクエストならいいのだけれど」
「おまっ、ここにきていらんフラグ立てんなよ、いい加減この展開を覚えろ! せっかく無事に帰れそうだったのに……」
「お、おいカズマ、何か聞こえないか?」
ダクネスの言う通り、どこからか地響きが鳴りそれがこちらに近づいてきていた。
しかも敵感知によると結構な数が。
「初心者殺しか? いや、あれではここまでの地響きはならないな。とすると……」
「カ、カズマさん、私すごく嫌な予感がするんですけど」
「奇遇だな、俺もだよ」
俺とアクアは思わず顔を見合わせてしまう。
「カ、カズマ!? あれ、あれ!!」
めぐみんが声を震わせながら森の奥の方を指さした。
つられて俺もそちらを……。
「てっ、撤退いいいい!!」
「わーっ! 待って、カズマさん! 私を置いて行かないでーっ!」
「うっせ、早く来い! ああもう、またこんな終わり方かよ! お前という奴は、毎度毎度飽きもせず厄介事を連れてきやがって!!」
それを見た次の瞬間には、俺達は一目散に来た道を引き返していた。
「私、全然悪くないでしょ!? 今回は絶対私のせいじゃないでしょ!」
「おい、どうした? 何故逃げる必要がある、戦えばいいではないか。」
「バカヤロウ! あれを見てまだそんな事が言えるのか!? 逃げなきゃ死ぬだろうが!」
俺と併走しながら頓珍漢な事を言うクイーンを怒鳴りつけ、俺は全力で走った。
俺達を追うのは、冬眠から目覚めただろう腹ペコなモンスターの群れ。
そいつらが俺達の戦闘の音を聞きつけたのか、血気盛んに餌を求めて群をなし我先にと此方に襲い掛かってきた――!
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