始まらない冒険者生活

 夢を見ていた。

 その女性は巡りゆく時代の流れとは裏腹にその姿形は一向に変化せず、数千年もの時を地球で過ごしていた。

 新しい文化が花開く時、彼女はいつもその中心地にいた。

 世が乱れた時、彼女の周りでは多くの人々が無残な死を迎えた。

 そんな事が繰り返されたのだ、きっと精神が疲弊しきったのだろう。

 科学が発達したある時代。彼女は誰にも気付かれることなく、黒い光に包まれ地上から姿を消してしまった――



 翌朝。

 めぐみんに文字通り叩き起こされたため、俺は渋々ながらも朝爆裂に付き合うことにした。

 そのせいでまたしても夢の内容を忘れてしまったが、どうせ大した事じゃないから構わないだろう。

 最初は負けじと二度寝を敢行しようと思ったが、『こちらの生態系は危険らしいので念の為同行して欲しい』とクイーンが正論を振りかざして頼んできたので断れなかったのだ。

 道中クイーンが記憶にある場所に赴きたいと言い出し寄り道をしたが、その場所は何の変哲もないただの平原だった。

 どうやら何も思い出せなかったらしく、今はいつもの爆裂スポットへと足を向けているのだが。

「さっきから何を怒ってるんだ?」

「……何でもないですよ。ただ、カズマはクイーンの頼みなら素直に聞くのだなと思っただけです。昨日カズマが言っていた理想の彼女像とクイーンが一致するからと言って、何も心配してませんから」

 こんな感じで出発時からめぐみんの機嫌が頗る悪い。

 当然俺はその理由に察しはついているが、こういう反応をされると少し焦らしたくなるってもんだ。

「まったく、この俺がわざわざ眠い中付いてきてやってんだから素直に喜べばいいのに。一体何が不満なんだ?」

「だから何でもないと言ってるじゃないですか!」

「またまた、お前あれだろ。俺がクイーンに甘いから妬いてんだろ?」

 どんな顔をしているか見てやろうとチラッと横目で眺めていたら、めぐみんは帽子の鍔をちょっとだけ下げ、


「そうです、妬いてるんですよ。私がカズマのことを好きだと知っていながら他の女性に過度に優しくするのは趣味悪いですよ。もっと自重してください!」

「あっ、はい……」


 めぐみんはいつも不意打ちでドストレートに来るから心の準備が出来なくて困る。

 かくゆうめぐみんも、クイーンの前では少し恥ずかしかったのかそのまま何も言わなくなってしまい、俺達の間に気恥ずかしい雰囲気が流れることに。

「仲良き事は美しきかな、てか。ところで、爆裂スポットとやらはあそこの岩場か?」

「そっ、そう。あれだあれ、あそこだ! んじゃ、めぐみん、さっさと打って帰ろうぜ!」

「そ、そうですね! 早く帰って朝ご飯でも食べましょうか!」

 流石、どこぞのがっかりプリーストとは違い空気の読める常識人。

 おかげで甘酸っぱい雰囲気が掻き切れたぜ。

 岩場から十分離れたところで立ち止まったクイーンは、めぐみんに期待に満ちた眼差しを向け、

「では、拝見願おうか。めぐみんの爆裂魔法とやらを。私は魔法を見るのは初めてだからな、是非とも魅力溢れる素晴らしい物にして頂きたい。」

「ふっ、任せてください! 初めての魔法で我が爆裂魔法を拝めるとは、クイーンは幸運ですね。これ以外の魔法を覚えられないぐらい強烈な印象を残してあげますよ!」

 いつもの調子でクイーンを爆裂道へ勧誘しようとするめぐみんは、張り切って毎度おなじみの詠唱を唱え始めた。

「『黒より黒く 闇より暗き漆黒に 我が真紅の混淆を望み給う。 覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理、無業の歪みとなりて現出せよ。 踊れ 踊れ 踊れ 我が力の奔流に望むは崩壊なり、並ぶものなき崩壊なり。 万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!』 見ていてください、クイーン。これが、人類最大の威力の攻撃手段! これこそが、究極の攻撃魔法です!」

 そう言ってめぐみんは大きく息を吸い込み、

「『エクスプロージョン』ッッ!」

 この世界の最強魔法により、岩場はその圧倒的な力の暴力により瞬く間に弾け飛び、後には巨大なクレーターのみが残されていた。

 いくらネタ魔法と言われど、この域にまで達したら一転して感動物だ。

 火力一点で鍛え上げただけあって、今やめぐみんは瞬間火力では世界一の魔法使いになっている。

 クイーンもそのあまりの破壊力に髪を強風でたなびかせながら、少年のように目をキラキラと輝かしていた。

「すっげえええ、これが魔法か!」

「フッフッフッ! 混沌なる翁鬱よ、爆滅せよ! ハッ、最高、です!」

「何という爽快感、何という破壊の権化! 水爆以上の威力を個人で発生させるという無謀な事象に叛するその心胆、そして術後に押し押せる脱力感と快感! 傍観しているだけでこの清々しさ、況や己の手で穿つ立場に置いてをや!」

 落ち着いた人だと思っていたが、想像以上に心躍らせてるな。

「そうなのです、そうなのですよ、クイーン! これだから爆裂魔法はやめられないのです!! 例え日に一発が限度でも、打った後に倒れるとしても、爆裂魔法はそれ以上の高揚感を我々に与えてくれるのです! やっぱりクイーンは見所がありますね。どうです、あなたも覚えてみては?」

「はいはい、人の人生狂わすなよ。今日はクイーンに見せつけるためか威力に偏り過ぎで他がダメダメだな。バランスも悪いし見栄えも良くなかった、46点」

 とは言え、クイーンのこの反応も頷ける。

 思い返してみれば俺も初めてこれを見たときは大感動したもんだ。

 その後にめぐみんがカエルに食われる事態が発生しなければ、俺ももっとはしゃいでいたかもしれない。

 今となっては懐かしい話だ。

 未熟だった頃を回顧しながら前のめりに倒れためぐみんを背負い、今日の採点を済ます。

 さてと、早く帰って二度寝と洒落こむか。

「くっ、私としたことが油断しました。久しぶりに酷い点数です。明日からは気を引き締め直さねば。さて、クイーンも帰りましょう」

「えっ!? あ、ああ、そうだな、帰るか……。」

 どこか歯切れの悪いクイーンに、どうかしたのかと俺とめぐみんは顔を見合わせた。

「なあ、私も試してみてもいいか?」

「「はい!?」」

 今なんと?

「試してみてもって、爆裂魔法をですか!? いや、あなたはまだ冒険者カードも持っていないのですから無理ですよ。昨日話したじゃないですか」

「確かにそう言っていた。だが、これは直感なのだが出来る気がしてならないんだ。ほんの一発でいいんだ、頼む!」

 左手を前に立て必死に懇願してくるクイーン。

 この人は一体何を言っているのだろう。

 まさかアクシズ教徒化すると巷で有名なアクア菌でも移ったのだろうか?

 移って毒されて馬鹿にでもなったのだろうか?

「ま、まあやってみてもいいが、どうせ発動しないぞ。スキルを覚えるには冒険者カードが必要だし。そもそも、一回見ただけでどうこうなる程簡単な魔法じゃ……」

「ありがとう! うしっ、いっちょやってみっか!」

「聞けよ!」

 俺の話を無視して左手を軽く前に突き出したクイーンは、先程めぐみんが唱えた詠唱を一言一句違わず諳んじ始めた。


「『黒より黒く 闇より暗き漆黒に 我が真紅の混淆を望み給う。―――』」


 …………ん?


「『覚醒の時来たれり、無謬の境界に落ちし理―――』」


「えっ、ま、まさか……!?」

「そ、そんな訳ないですよね!? 我が奥義である爆裂魔法が、一回やそこら視たぐらいで打てるはず……!?」


「『無業の歪みとなりて、現出せよ!』」


 なんか、クイーンの周辺を黒いオーラみたいなのが取り囲んでるし空気がビリビリし始めたんですけど。

 というか、これってすんげぇヤバいのが打たれる気がするんですけど!


「『Explosion』!」



「お、おい、一体何があったんだ!? 何故めぐみんがそんな放心状態になっているんだ!?」

「どうしちゃったの、めぐみん? またカズマさんに何かされた? それともついに頭まで爆裂しちゃった? 何ならヒールかけてあげるけど」

「誰がするかこの駄女神! いや、ちょっといろいろあってな……」

 屋敷で待っていたダクネスとアクアが、めぐみんの異常さを見て慌てて駆け寄って来た。


 あの後クイーンが放った爆裂魔法は、とんでもなく凄かった。

 どれぐらい凄かったかというと、威力だけでも今回のめぐみんと同等か少し超えたぐらいであるだけでなく。

 クレーターの形や爆風の爽快さなどの付加価値、更には早朝に吹き抜ける一陣の温かな風を演出するなどの加点ポイントも含めると。

 辛口採点で見ても100点オーバーの、それはそれは素晴らしい爆裂魔法を打ってくれたのだ。

 こうして、目が虚ろで何やらぶつぶつ呟く不気味なめぐみんの出来上がりと言う訳だ。

 正直、俺もあまり関わりたくない。

 屋敷に帰る道中、めぐみんをよく知る街の皆から散々心配されたぐらいだし。


「めぐみんはそんなことで落ち込んでるの? ほらほら、朝ご飯でも食べて元気出しなさいな」

 アクアなりに慰めようとしているのか、椅子に座らせためぐみんの前にご飯を並べ始めるが。

「そんなこと、今そんなことと言いました!? アクアは他人事だからそんな軽々しく言えるのですよ!! いいですか、知っての通り私は生まれてこの方、爆裂魔法しか打ってこなかったのです。クエストで得た経験値は全て爆裂魔法につぎ込み、爆裂魔法の事だけを考え続けてきました。その末にデストロイヤーを筆頭に、数多の賞金首の討伐や魔王城の結界の撃破など、確かな実績を残してきたのです! それなのに、それなのに!! このクイーンは! 魔法を見ることすら初めてのド素人のはずなのに、私以上の爆裂魔法を放ったのですよ! この案件は、私の存在意義が掛かった一大事なのです!!」

「わ、分かったわ。軽々しく言った私が悪かったから、そんなに怒んないでよ……」

「急に饒舌になったな」

 言うなれば、めぐみんは自分のお株を取られただけでなく、その努力までもが一蹴された気持ちになったのだろう。

 だとしたら、これぐらい荒ぶるのも仕方がないのかもしれない。

「そ、その、悪かったね。そこまでめぐみんを追い込む気はなかったのだが……。」

「いえ、クイーンは別に悪くないですよ。単なる私の修行不足が原因ですから。ですが、もし悪く思ってくれているのでしたら、少し私の頼みを聞いてくれませんか?」

 クイーンが少し申し訳なさそうにするが、めぐみんは意外にも怒った様子は見せずにそんな事を提案してきた。

「おい、めぐみん! お前、最近性格がカズマに似てきたぞ」

「うっさい、おっぱい」

「おっ、おっぱ!?」

 涙目で首を絞めてくるダクネスを落ち着かせている傍らで、

「何が望みだ、お詫びと言っては何だが可能なことなら別に構わないぞ。」

 クイーンがめぐみんの要求をあっさり受け入れていた。

「ちょ、少しは躊躇えよ! お前のことだからこいつが普通の人と同じ思考回路を持ち合わせてないことは察してるだろ。突拍子もないのを頼まれたらどうするんだよ?」

「おい、それは暗に私の頭が狂ってると言いたいのか?」

 俺は心配になり声を掛けたが、クイーンは余裕な表情で、

「大丈夫だ、あんまりにもあんまりなのが来たら出る所出てやるだけだ。」

「それはそれで留置所に迎えに行くのが面倒だからやめてくれ。めぐみんも、あんまり変なこと頼むなよ。一緒に爆裂道を歩もうとか」

「おおっ、その手もありましたね。ナイスアイデアです、カズマ!」

 しまった、藪蛇だった。

「それではクイーンには……」

「お断りします。」

「即断ですか! ま、まあクイーンには素質がありますし残念ですが、この道の厳しさは身を持って理解してますからね。無理には薦めませんよ。それと、カズマはあとで覚えておいてくださいよ。コホンッ、では!」

 めぐみんはギロッっと俺を一瞥した後、一拍開け――



 しばらくして、ギルドでの用事を終わらせためぐみんとクイーンが屋敷に戻って来た。

 めぐみんの頼みとは、“冒険者カードを作り、その情報を皆に共有する”と言うもの。

 スキルポイントなしであれだけの爆裂魔法をぶっ放したメカニズムも然ることながら、クイーン自体のステータスが気になったそうだ。

 魔法を打った後に魔力切れを起こすことも無かったしな。

 これは俺も興味があったし、クイーンも了承どころかむしろ早く行きたがっていたので、二人でギルドへと赴いていたのだ。

「で、どうだったんだ結果は? ……どうしたお前ら、そんな戸惑ったような顔して?」

「それが、妙な事になりまして……」

「妙な事だと?」

 ダクネスが紅茶を入れたティーカップから口を離し首を傾げた。

 アクアもソファーから乗り出し興味津々そうに耳を傾けていた。

「それがですね――」


 ギルドの扉を押し開けると、中からはいつもの喧騒が聞こえてきた。

「ほほう、ここが冒険者ギルドというものか。カズマが言っていた通りの中世仕立てだな。しかし、ここは始まりの街だと聞いていたのだが、その割にはチラホラと強者の気配を感じるな。」

「そんなことまで分かるのですか? 私も魔力の大小ぐらいでしたら分かるんですけど。そう言えば、クイーンはかなりの魔力を持っているはずなのに何も感じないですね。何だか普段のアクアを見ているようです」

 クイーンはギルドの様子を物珍しそうに観察つつ、興味深い事を言ってきた。

「普段のってことは能ある鷹はということだろう。実力者程身体から漏れ出る魔力を抑制出来るんじゃないか?」

「確かにそうですが、アクアがそんな気を使う事をするとは思えないのですが」

「ぶふっ! 彼といい君といい、彼女の扱い方が雑いな。女神は丁重に扱うものだぞ。」

 口では注意をしてくるが、さっき噴き出してたのを見逃してませんよ。

 と、ギルド内が随分と静かになっていた。

 どうしたのかと思ったが、その理由は皆の目線ですぐ分かった。

「しかし、それはそれで興味深いな。もしかしたら個体により察知されやすい魔力があるのかも……。」

 この街では新参者の、それも女の私から見てもかなり綺麗な人が来たらこうなるのも不思議ではない。

 試しに近くでひそひそと話す冒険者の話を聞いてみたら……。

(おい、何だあの滅茶苦茶美人な姉ちゃんは!? お前知ってるか?)

(いや、知らねえ。この街に来たばっかなのかもな。お、俺声かけてみようかな……)

(おい、早まるな! 確かにあの姉ちゃんのスタイルは半端なく良いし顔だって最高だ! だがな、連れはあの頭のおかしい子だぞ)

 おい。

(そ、そうだった……。つ、つまり、あの人も……)

(頭が変だって可能性も十分考えられるだろ。というか三人中三人がそうなんだ、むしろそっちの方が確率高いだろ! せめてもう少し様子を見てから判断した方がいいって)

(そ、それもそうか……、あれだけの美人なのになあ。だがあの三人と同レベルの地雷だとしたら……。だあああ、勿体ねえ!! )

(まったくだぜ。あーあ、奇跡的に真面だったりしないかなあ……)

 …………。

「おい、私達に関する悪口を言いたいなら聞こうじゃないか」

 我慢の限界を超え、私はその男の後ろから声をかけた。

「げっ!? あた、め、めぐみんじゃねえか!? 急に後ろに立つな心臓に悪いだろうが」

「今、頭のおかしい子と言おうとしましたね!! よろしい、私の頭のおかしさを今ここで証明してやろうではないか!」

「やめろ、いつもいつもこんなとこで打とうとすんじゃねえ! おい、誰かこいつを抑えてくれ! 俺一人じゃ止められねえ!」

 ギルド内が一気に騒がしくなる一方、そんな雰囲気はどこ吹く風でクイーンが私の傍に歩み寄ってきた。

 そして私が男の首にかけていた手をあっさり外し、私の両脇に手をかけてヒョイッと持ち上げてきた。

「それで、目的の冒険者カードとやらはどこで作成するんだ?」

「はっ、離してくださいっ! こんな格好はあまりにも屈辱的です! というか、あなたはどうしてそこまでマイペースなのですか!?」

「賑やかなのは見ている分には楽しいのでな。」

 にこりと微笑みながらクイーンが手をパッと放してしまったため、もれなく私は尻もちをついてしまった。

 ううっ、何だかこの人にはリズムを崩されてばかりな気がする。

「イタタタッ、きゅ、急に離さないでくださいよ。それで冒険者カードですが、あそこの……」

「嬢ちゃん、この辺じゃ見かけねえ顔だな。ギルド加入の受付ならあそこだ」

 横から急に声をかけてきたおじさんを前に今までの余裕の態度はどこへやら、クイーンはビクッと身体を震わせて恐々と振り返り。

「あっ、ああ。助かり、ます……。」

「お前さんからは常人を超えた何かを感じるな。ようこそ、地獄の入口へ! せいぜい頑張りな、この命知らずが!」

「は、はぁ。」

 会話を終えるとクイーンは若干顔を白くし、私の方に顔を近づけてきた。

「お、おい、めぐみん、彼は何者なんだ? 全く気配を感じなかったのだが。」

「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。見かけによらず気立てのいい人ですから」

 優しい私は早々に彼の面目を回復しておいてあげる。

 それにクイーンの可愛らしい一面が垣間見れて少し得した気分だ。

「いや、別に怖い訳ではないのだが……。というか、その小動物を眺めるが如き目で見るのは辞めてくれ、無性に腹が立つ。」

「気のせいですよ。それよりほら、早く受付に行きましょう」

「あ、ああ、了解した。本当に何者なんだ?」

 未だにぶつぶつ呟くクイーンを連れて、もはや私達専任になりつつあるギルドの美人受付嬢ルナの前に立った。

「あまりギルド内で暴れないでくださいよ、めぐみんさん。それで、そちらの方は?」

 深く溜息を吐き、お姉さんはさっそく私の隣にいるクイーンに関心を向けた。

 先程の一連の出来事の元凶なのだから警戒しているのかもしれない。

「私は昨日この街に来たばかりで、道に迷っていた所をこちらのめぐみんさんと出会ったんです。話を聞く内に魔王を討伐したベテランパーティーに所属していると判明したので、これ幸いとそのまま暫らくこのパーティーに参加させてもらい、冒険者のイロハをご教授願おうと思った次第です。」

 よくもまあこうも真実に近い嘘をスラスラと言えるものだ。

 流石、私の名前をきちんと認識してくれるだけはあ……。

「なるほど、つまりは冒険者になりに来たのですね? ……あの、お言葉ですが。カズマさん達のパーティーに加入するのは、やめておいた方が……」

「心配して下さりありがとうございます。確かに色々と爆弾を抱えている人達ですが、根は悪い人ではなさそうですし。それに、私は今無一文ですから、資産のある彼のパーティーに置いてもらった方が何かと都合がいいのですよ。」

「おい、パーティーメンバーの一人がいる前で堂々と言うとはいい度胸じゃないか」

 未だ心配の様子が隠せない様子のお姉さんに、クイーンは顔を近づけ小声で何かを伝えた。

「是非とも、是非ともお願いします! ギルドとしても全面的に協力致しますので!! それでは、早速冒険者カード作成の手続きに移らせて頂きます。勿論お代は結構ですよ」

 まるでクイーンを救いの神であるかの如く尊敬の眼差しを送るお姉さんは、いそいそとステータス測定の準備に移った。

 何だろう、無性に腹立たしいことを言われた気がする。

「お待たせ致しました。それでは、こちらの魔道具に手を触れてください」

「こうですか?」

 おっと、どうやら準備が済んだようだ。

 クイーンは言われた通りに水晶型の能力測定機に手を振れた。

 さて、一体どのような数値が出るのでしょう。

 他人事ではありますが、こういうシチュエーションはワクワクしますね。

「あれ!?」

 表示されるステータスに思いを馳せていたら、急にお姉さんが素っ頓狂な声を上げた。

「どうかしました、何か不自然な事でも発生したんですか?」

「い、いえ。あのすいません、もう一回手を触れて頂けませんか?」

 一体何があったのだろうか。

「こう?」

「ありがとうございます。……あれー?」

 尋ねるクイーンにお姉さんは曖昧な返事を返しながら、再度首を傾げた。

 気になったので、少し後ろで待機していた私は二人に近づいた。

「あの。何か問題でも起きたのですか?」

「そ、それが……」

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