テンプレ、入りました!
屋敷に戻ったところで、お姉さんは手をパンッと合わせ妙に気合を入れ、
『それでは開始と行こうか。諸君が知りたい事は何でも聞いてくれ。その代わり、私も聞きたい事が山積しているから受け答えしてくれると助かる。それと先程から気になっていたのだが、別にタメ口で構わないからな。』
『は、はあ。それじゃあ、お言葉に甘えて』
なんでこんなにテンション上がってるのだろうか。
『そう言えばまだ自己紹介をしてなかったな。俺は佐藤和真、日本出身で今は冒険者をしている。一応このパーティーのリーダーだ。改めて、よろしく』
『ああ、よろしくカズマ。それと改めて、傷だらけの私を助けてくれてありがとう。お次は君かな?』
俺に軽く頭を下げたお姉さんは、今度はアクアに視線を移した。
「私の名はアクア! アークプリーストとは仮の姿。その正体はアクシズ教団が崇めるご神体、水を司る女神アクアなのよ!」
『やはり人間ではなかったか。道理で人間離れした力を感じる訳だ。よろしく、アクア。』
「「「!?」」」
今この人なんて言った!?
「ちょっと、なんで信じてくれな……。今、“やはり”って言った? 私が神様だって信じてくれるの?」
『信じるも何も、それだけ神聖な気配を纏っている者が、唯の人間な訳ないではないか。』
「「「!?!?」」」
ちょ、ちょっと待て、今この人は聞き捨てならない事を言った。
アクアが女神である事を信じるだと!?
「おいアクア、この人に飛び切りのヒールを頼む。あれだけの重傷を負っていたんだ、脳の一つや二つイカレててもおかしくないだろう」
「ちょっと、私が女神だって信じてくれただけで、なんでそんな頭が壊れてる人みたいに言うの? とってもいい人じゃない!」
「だから頼んだんだけどな……」
と、取りあえず次いこ次。
「めぐみん、びっくりしてるとこ悪いが次頼む」
「あっ、はい。分かりました」
「どういう意味よおおお! ちょっとカズマ、こっち向いてちゃんとした説明を……っ!」
動揺しつつも一歩前に出て深呼吸をしためぐみんは、マントをバサッと翻し、
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業する、世界最強の魔法使い! いつか、爆裂魔法を極める者!」
これでどうだ、ウチ自慢の中二病がお送りする痛いセリフは。
さあ、一体これから押し寄せるであろう微妙な空気をどう打ち破るのか……。
『精良なる真名を持つ者よ、汝の魔法への矜持と美学、屹度事解した。故に、汝の紅き眼睛と我が桔梗なる眼の邂逅をもって、濫觴たる拝謁と為そう!』
乗っかった、しかも俺から見てもかなり格好いい振り付けも込みで。
俺達だけでなくめぐみんもこれには驚いたようで、ポーズをとったまま口をポカーンと開けっ放しにしている。
『んっ、どうかしたか? 君の所作を模倣してみたのだが……。』
「い、いえ、すいません。何分今までだと名前がおかしいとか冷えた目で見てくるばかりで、そんなノリノリで返してくれる人がいなかったものでして」
『名前なんか価値観に依存するのだから気にする方が失礼というものだ。さてと、残りは……。』
お姉さんは視線をめぐみんから隣に移した。
「う、うむ、私だな。私の名はダクネス、クラスはクルセイダーだ。攻撃は当たらないが、守ることなら大得意だ。よろしく頼む」
『ああ、よろしくダクネス。しかし、貴族の方なのに大衆に交じって生活しているのだな。なかなか珍しいとは思うが。』
……うん、ほんと何なのだろうこの人。
「ま、まあ、いろいろと突っ込みたい事はあるが。とりあえずお前ら、先にこの人の名前を聞いてあげようぜ! まずはそれからだ!」
「そ、そうね。まずは名前を聞いてなんぼよね!」
アクアに続き二人も首を縦に振る。
普段からアクアなどと関わっていたら驚きの連続なので多少の免疫はあるが、ここまで短時間に連続して驚く事はなかったのではないだろうか。
とはいえ、これ以上驚くこともないだろうと思っていた俺が甘かった。
『と言われてもな。私は自分の名前すら定かでないので自己紹介らしきものは出来ないのだが……。』
『……今なんて言いました?』
『あれ、伝達していなかったか? いやなに、大した事ではないのだが。どうやら私は傷を負う以前の記憶が欠落している様なんだ。アハハハッ!』
それどう考えても大した事だろーが!!
――心行くまで俺達が喚いた後、取り敢えずアクアに回復魔法をかけさせたのだが、やっぱそんな簡単には思い出せないらしい。
というかどうしよう、すごく不謹慎だがちょっとワクワクしてきた。
まさかここに来て、“記憶喪失を起こした美女を救う”なんていうド定番展開が俺の下に訪れるなんて!
普通なら魔王よりも前に来るイベントだろうが、裏ステージって考えたら悪くない。
これも、俺が今まで頑張って来たことへのエリス様からのご褒美だろうか。
「カズマ、何をそんなに嬉しそうな顔をしている。彼女に失礼だろう」
おっと、どうやら顔に出てしまっていたらしい。
ダクネスやめぐみんが生ゴミを見るような目で見てくる。
「こんな美味しいテンプレは早々お目にかかれないんだ。という訳で、ここは存分に楽しませてもらう!」
「開き直った! この男、遂に喜んでいる事を隠そうとすらしなくなったわ!」
「まったく、鬼畜のカズマとはよく言ったものだな!」
俺への風評被害が酷いが、そんなことで俺はめげたりしない。
日本にいた頃に身に着けた不屈の精神力を持ってすれば、こんな戯言なんてことない。
『確かに記憶をなくしたことはショックでしょう。でも大丈夫、魔王すら倒したこのサトウカズマが瞬く間に解決へと導きましょう。どうか大船に乗ったつもりでいてください!』
「「「うーわー」」」
さあ、今のを聞いてお姉さんはどう感じたのだろうか。
きっと嬉しさのあまり泣いて喜んで俺に抱き付いて来たり……。
『いや、暫く楽しみたいから急がなくていいぞ。』
『あれ? ちょ、待ってくれ。記憶なくなってショックじゃないのか? てかなんでそんなに冷静なの? というか今楽しみたいって言ったか?』
ちょっと信じ難い事を言われた気がするのだが、流石に聞き間違い……。
『言ったな。どうやら人間関係や思い出関連が抜け落ちているだけで、知識は健在なようだから慌てふためく必要はない。それに記憶を復元する過程に興味が沸いた。こんな貴重な機会、逃す手はない。』
『全国の記憶喪失で苦しんでいる人達に謝れ!』
ほんとこの人はさっきからお約束をことごとく砕いていく。
まだ大して話してないのに凄い疲れたんだが。
「でも、せめて名前だけは決めとかない?」
「そうだな。名前がないといろいろと不便だからな」
と、お姉さんの発言に若干呆れながらアクアとダクネスが尋ねた。
『言われてみればそうだな。私としては何でもいいのだが……、取り敢えず……。』
何を思ったのか、お姉さんは自分の上着に手をかけるとそれを一気に捲り上げた!?
「「「ちょ!?」」」
「な、何をしているのですか!? カズマがここぞとばかりに見ていますよ! カズマも、ガン見しちゃ駄目です!」
「おい、めぐみん邪魔だ! せっかくお姉さんが自分から脱ぐという俺には全く非がないにも関わらず女性の、それもUR級の肢体を拝めるというすんばらしーイベントなのに目を塞ごうとすんじゃねえ! おい、ダクネスも邪魔すんな!!」
俺の視界を塞いでくる邪魔者共をどうにか切り抜けようと、俺は魔王から逃げていた時以上に必死の抵抗を見せる。
「この男は、最近は本当に自分の性欲に従順だな。少しぐらいは自重しろ!」
「そうですよ、絶対に見せませんからね! というか、お姉さんは何でいきなり脱ぎだしたんですか!?」
俺達が取っ組み合っている中、お姉さんは非常に冷静な口調で、
『何故慌てている? 別に視認されて減少する物でもあるまいに。』
何と素晴らしい格言だろう。
「ほら、お姉さんがいいって言ってんだから俺にも見せろ! これ以上邪魔するようなら代わりにお前らの裸体を拝ませてもらうぞ」
「別にカズマになら見られても構いませんよ。その代わり、ちゃんと責任は取ってくださいね」
「め、めぐみん!? お、お前は何を言っているんだ!?」
めぐみんのあまりに過激な言葉についつい慌ててしまう。
「そ、そうだぞ、お前がわざわざその身を犠牲にする必要はない! さあカズマ、どうせやるならこの私に……、わ、私、に……。くうううっ!」
「恥ずかしいなら無理に張り合わないでいいんですよ。それとも、その厭らしい身体で私の男を魅了するつもりですか? もしそうなら私にだって考えがありますからね!」
「べべべ別にそういうつもりで言ったんじゃ!」
俺を止めようとしてたはずなのに、どこを間違ってこんな美味しい場面に変わったのだろうか。
もう少し見ておきたいが、お姉さんの生着替えも捨てがたい、いやでもここは……。
究極の選択を迫られ苦悩する俺の事などいざ知らず、アクアがお姉さんに駆け寄り。
「ねえねえ、なんで急に服を脱ぎだしたの? バカなの? 実はダクネス並みの変態さんなの?」
『いや、服に私を示す残滓でもないかと思って。……おっと、どうやら当たりのようだ。これはカードか?』
「ア、アクア、なんでそこで私が……、い、いえ、何でもありません……」
思い当たる節でもあるのだろうか、今度これをネタにいじってやろう。
って、ああっ、しまった、悩み込んでる間にお姉さんが服を着ちまったじゃねえか。
しかもめぐみん達の方も話しは持ち越しってことになってるし。
俺のバカヤロおおおお!
「――いつまで落ち込んでいるのですか。さっきも言いましたが、責任さえとってくれるなら私がいくらでも見せてあげますから、そろそろ元気を出してください」
「うるさい、そういう問題じゃないんだよ……」
あんな場面を両方取り零すとか、落ち込むに決まってるだろうが。
それにめぐみんのを見せてもらってもな。
「おい、今とんでもなく失礼なことを考えただろう?」
「気のせいだろ。それでアクア、何が出てきたんだ?」
お姉さんが見つけたカードをアクアが眺めていたので、俺はめぐみんから逃げるように声を掛けた。
「何か女の人みたいな絵が描かれてるわ。それと、これ多分何かの魔道具よ。使い方はさっぱりだけど、かなりの魔力が込められてるみたいだし」
と、アクアがカードを渡してきたので俺もじっくりと見てみることに。
表には確かに女性っぽい絵が描かれており、裏側には少し特徴的な図形が刻まれている。
これは見た感じ高貴な女性っぽいので女王か女神を表現しているのだろうか、なんともタッチが独特過ぎて判断が付かない。
それに魔道具ってことは、転生特典でもらったのだろうか。
『うーん、特に思い出さないな。だが折角出て来たんだ、有効活用しようではないか。この絵柄は女王と類似しているし、“クイーン”。これを私の呼び名にしておこう。』
『え、そんなのでいいのか?』
俺は素で聞き返してしまった。
「クイーンですか。変わった響きですが、まあ、ないよりはマシですね。なんでしたら私がつけてあげ」
『断る。』
「即答!?」
めぐみんに名前を付けさせたら酷いことになることを直感で見抜いたのだろう。
それに、クイーンぐらい俺の世界では普通にある名前だし……。
「お前ら紅魔族よりはマシだろ」
「何か言いました?」
「なーんにも」
小声で言ったつもりだったが聞こえてしまったようだ。
「そ、それじゃあクイーン? 先にちょっと聞きたい事があるのだが、いいだろうか?」
『勿論だ、遠慮なく質問してくれ。』
「わ、私が貴族の生まれだとどうして分かったんだ?」
それは俺も気になっていた。
一体どんな魔法を使ったら、こいつが貴族出身だと見分けられるのか是非知りたい。
アクア達も気になっていたようで、お姉さん改めクイーンに視線が集まる。
『そんな大層な事ではないと思うが。さり気ないマナーや仕草、自己紹介時の挨拶の作法から推察しただけだ。まあ、そんなに気にしないでくれ。』
マジかよ、このダクネスが実はお嬢様オーラを発していたのか。今までまるで気付かなかった。
いや、普段の奇行の数々が上品な面を塗り潰しているだけか。
『では、今度は私が質問をしても良いか?』
『お、おう、いいぞ。何でも聞いてくれ!』
改まって言われると少し緊張するな。
『まず根本的な問題なのだが、ここは地球じゃないのか?』
『ほんと根本的だな』
とはいえ、記憶がないのなら仕方がないか。
しかし、ここまで動じてないと少しつまらない。
『お察しの通り、ここは地球じゃない。説明しても信じてくれるか分からないが、ここは地球のある世界とは別の世界なんだ』
『成程、これで大部分の事柄が納得いった。地球の言葉は二十言語程知識があるのに、めぐみんやダクネスが話す言葉はどの言語とも似通っていなかった。街や建造物の構造も地球には存在しない建築様式だし、使用していた材質も異なっていたからな。』
……もういちいち驚くのがアホらしく思えてきた。
『では次に、“冒険者”とは何なのだ? 単語の意味は知覚しているが、何故そのような職業が存在するかが理解出来ない。』
ああそれか、これは何と説明すればいいのやら……。
『えーっと、クイーンってRPGってなんかやったことあるか? あるんだったら、あんな感じの世界を思い浮かべてくれればいいんだけど』
直には世界観が思い付かないのか、クイーンは頭を少し傾け、
『RPG? Rocket-Propelled Grenade、ручной противотанковый гранатомётのことか? 弄った経験は有るかもしれないが趣味ではない気がする。そもそもあれを製作可能な程この世界の科学文明は発展しておらんだろ?』
『誰がロシア軍の対戦車擲弾のことを聞くか! ゲームの方だよ!』
『ああ、Roll Playing Gameの方か? いや、恐らくないな。ゲームについての知識が全くない事からして触れた経験すらないのだろう。』
今時ゲームをやったことがないって、そんな事あり得るのか?
というか、ゲームはやったことなくてなんで擲弾は弄ったことがあるかもしれないんだよ、普通に怖いわ。
――それからしばらく時間をかけてゲームの話やこの世界の話をめぐみん、ダクネスを交えながら説明したら、すぐに理解したようだ。
『ほー、なかなか面白い世界に来たものだな。これは今後の生活が楽しみだ。』
「随分と楽観的だな。まあ、不安で手が付かなくあるよりは断然いいが。それで、他に聞きたい事はないか?」
これからのことを想像してかやたら楽しそうなクイーンに、ダクネスが声をかけた。
『そうだな……。この街に図書館はあるのか?』
「図書館ですか? そりゃありますが、何をするんですか?」
不思議そうに尋ねるめぐみんに、クイーンはなんでそんなことを聞くのかと言いた気な顔を浮かべ。
『言わずもがな、本を読むんだ。』
「し、しかし、お前はまだこちらの文字を読めないのでは……」
『何だか数冊流し読みしたら理解出来る気がするのだ。という訳で、あるなら場所を教えてくれないか? 誰か付いて来て、文字の種類といくつか日常会話を教授してくれると尚助かるのだが。』
サラッととんでもない事を言いだすな。
図書館行きたいって言いだした時点で、こんなこったろうとは思っていたが。
「めぐみん、悪いが一緒に付いて行ってくれないか?」
「分かりました」
机に立掛けていた杖を手に取り、外出する準備を進めるめぐみんに。
『その前に魔法をもう一度かけてもらわないと、そろそろ時間切れなのではないか?』
「おう、そうでした。アクアー、もう一度あの魔法をかけてくれませ、んか……」
「くかーっ」
どうやらこの頭の弱い女神には今までの話は少し難しかったようだ。
はぁー、全く。
「起きろ、この駄女神がああああ!!」
時刻が夕刻に差し掛かった頃、俺は五人分の夕食を作り始めていた。
というのも、あの後話し合ってなし崩し的にではあるが、しばらくクイーンをウチで養うことにしたのだ。
身寄りも知識もないし、当然と言えば当然か。
三人からも特に反対はなかったし、むしろ皆泊めたがっていたしな。
「カズマー、ご飯まーだー。私、お腹空いたんですけどー。早く食べたいんですけどー」
「ちょっと待ってろよ、そろそろ二人とも帰ってくるはず……」
「「ただいまー」」
言ってる間に帰ってきたようだ。
「おかりー、もう飯できるから早く手を洗って来い!」
よし、あとは皿に盛るだけだし、チャチャっと配膳してしまおう。
「カズマ、何か手伝おうか?」
「おう、サンキュー、ダクネス! んじゃ、この皿達を運んで行ってくれ」
「分かった。しかし、今日はえらく豪華だな」
ダクネスが言うように、今日は普段よりも食材やデザインを凝ってみたのだ。
「今日から仲間が増える訳だし、簡単だが歓迎会でもしようかなと思ってな」
「歓迎会!? 今、歓迎会をするって言った?」
と、そこで急に椅子がガタッと音を立てた。
相変わらず、こういう事だけはすぐに食いつく宴会芸の神様である。
「それじゃあ私、お酒をたくさん取って来るわね。今日は宴会よー!」
「おい、あんまり飲みすぎないようにしろよ。また二日酔いになっても知らないからな」
「大丈夫よ、この私を誰だと思ってんのよ。二日酔いなんか恐るるに足りないわ!」
その割にはいつも苦しんでるじゃないか、あいつには学習能力というものがないのであろうか。
しかし、今日ぐらいはいいか。
せっかく同居人が増えるのだし、少しぐらい羽目を外しても文句を言う人もいないだろう。
「おっ、いい匂いですね。今日はいつもより豪華じゃないですか」
「まあな、今日はクイーンが来て初めてってことで、ちょっと気合を入れて作ってみた」
「へー、カズマが料理をしてくれたのか。見た目も香りもいいし、これは楽しみだな。」
机の上に並べた料理に目を走らせながら、めぐみんとクイーンも席に着いた。
「皆コップは持ったわね。では、クイーンが私達の屋敷に来た事を祝してっ!」
「「「「「カンパーイ!!」」」」」
こうして、賑やかな食事が始まった。
――食事を始めて早一時間。
「ふー、旨かった。ごっそさん。」
「お粗末様」
粗方食い尽くし、今は酒を飲みながらデザートを食べていた。
「ほ~ら、くいーん~、もっとにょみなしゃいよ~」
「おい、アクア、それぐらいでやめておけ。また気持ち悪くなるぞ」
「いいじゃな~い、ちょっとぐ~らい~」
すっかり出来上がったアクアがクイーンに酒を進めているのを、ダクネスが窘めているが、
「そうだな、折角だしもう少し堪能させてもらおうか。」
「ああ、もうクイーンまで! お前だってかなり飲んでいるのだから気を付けるんだぞ」
「さっすがね~、ほ~らもういっふぁい~」
言いながらクイーンにお酒を注ぐアクア。
ダクネスが一応クイーンにも注意しているが、アクアとは対照的に全く酔った様子を見せない。
どうやらクイーンは酒にめっぽう強いようだ。
食事の間中、こっちの世界についていろいろ話した。
ギルドの事や魔王軍との激戦、基本的な生活リズムに至るまで様々だ。
おいそこの、ニートの生活なんか話しても仕方ないんじゃねーのとか思った奴は廊下で立ってろ。後で折檻してやる。
しかし図書館のほうである程度調べたようで、ぶっちゃけ既に俺よりもこの世界について知っているかもしれなかった。
追加して言うと、あまりに自然だったのでめぐみんが言い出すまで気付かなかったのだが。
クイーンの奴、既にこっちの言葉を喋れるようになっていました。
「明日はどうするんだクイーン? また図書館に行くのか?」
「いや、こちらの基本知識はある程度身に付けたからいい。だからのんびりと記憶の取り戻し方を模索するぐらいしかやる事がないが……、そう言うダクネスは何をするんだ?」
グラスに入った酒を一気に飲み干しながら、クイーンはダクネスに聞き返した。
「私か? 明日は領主の仕事もないし、編み物でもしようかと思っている」
「流石ララティーナお嬢様、貴族の嗜みってやつだな!」
「ら、ララティーナはやめろといつも言ってるだろ!!」
すかさずからかってやると顔を赤くして大喜びのお嬢様。
「ララティーナは家で編み物を、か。じゃあアクアは川で洗濯でもするのか?」
「おっ、おい、クイーン! お前までカズマに乗っからないでくれ!」
クイーンは意外とノリがよく、話をしていてすごく楽しい。
「わらしはいえでご~ろごろしゅるのでいそがしいわ~」
「やれやれ、この様子では真面に部屋にも帰れなさそうだな。後で連れて行ってやるか。」
「べ~つによってなんからいわよ~」
そう言いつつもアクアはクイーンの肩に頭をのせて半分寝かかっていた。
そんなアクアの頭をポンポンと撫でてやりながら、今度はめぐみんに同じ事を尋ねた。
「私は日課である一日一爆裂に行くつもりです。今朝はとても気持ちが良かったので、明日も同じぐらいに行こうかと思っています」
「ああ、さっき言っていた例の。そうだ、私も付いて行っても構わないか? 早いうちに魔法というものを見ておきたいと思っていたんだ。」
クイーンの言葉に、めぐみんはバンッと机を叩きつけた。
「勿論です、勿論ですともクイーン! 一緒に行きましょう、是非とも行きましょう! この際です、爆裂魔法がどのようなものか如何に素晴らしいかを今からこんこんと語ってあげようではないですか!」
興味を持たれたのがよほど嬉しいのか、めぐみんは目をキラキラ輝かせて前のめりになっていた。
今日と同じ時間からか、正直朝爆裂は眠いから嫌なんだが、いや待てよ。
明日はクイーンが一緒について行くと言っていた。
つまり、めぐみんをおんぶする為にわざわざ俺が行く必要はないということで……。
「そっか、クイーンが行ってくれるか。だったら俺が行くのは邪魔だよな、二人でガールズトークを楽しみたいだろうし。俺はゆっくり寝てるから、二人で楽しんできてくれ」
これを好機とばかりに俺はクイーンに丸投げし、何か言われる前にそそくさと席を立った。
「何を言っているのです、カズマも行くんですよ! カズマがいないと一体誰が採点をするというのですか!」
何という我侭。
「なんでお前の都合で俺が早起きしなくちゃいけないんだ。今日は朝から行ってやっただろ、だから明日は行きたくない。自己採が嫌ならクイーンに頼めよ、基準さえ教えたらきっと俺よりも的確な判定をしてくれるだろうよ。そういう訳で俺は寝るから、おやすみー」
「いくらクイーンでも一回見ただけで出来る訳ないじゃないですか! そ、それに、採点のためだけについて来て欲しい訳では……。ああっ、ちょっと、待ってくださいよー!」
もう少し詳しく聞きたい事を言われた気もするが、その程度で俺の決心は揺るがない。
明日から本格的にクイーンの記憶取戻しは始まるだろうし、今日はもう寝ることにした。
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