第17話 定例会議にて1。

「そのお祭り、私と2人っきりで見て回らない?」

 トアはキラキラした目で俺に言った。口に押し込まれた大量の果物のせいで返答が出来ない。

 せっかくなら皆で回った方が楽しいんじゃないかな。それに正直、絵里と千佳を2人残すのは心配だ。見知らぬ土地で離れ離れになるのは、少々リスクが高い。

「そんなのダメに決まってるでしょ!」

 そんな考えを口にする前に、千佳が憤慨した様子で反対を主張した。

「いーじゃない! あんた達はそっちの世界でずっと一緒だったんだから! お祭りくらい何回か行ってるんでしょ」

「行ってないよー。今年の夏休みは絶対2人でって決めてたんだから」

「あー! 絵里それは抜け駆けだよ! っていうか、それ含めてテスト結果で決めるはずだったでしょ!」

 ……やかましくなってきた。どうにも3人揃うとあっという間に大騒ぎになってしまうな。

「えー。でも夜寝る前にデートの約束ちゃんとしたもの。ねー、ヤナギ」

「え? そうなのか?」

 昨晩の事は、睡魔に襲われてからほとんど覚えていない。窓際に居た筈なのに起きたらベッドの上だったし。ウトウトしている内にそういう会話をしていたのか。だとしたら、無責任に反故にする訳にはいかない……のか?

「トアちゃん、嘘はダメ! 柳君が眠そうだったから、私達はすぐ隣の部屋に移動したでしょ。柳君、寝ぼけながら布団に潜っちゃったし」

 そうだったのか。トア……危険だな、こいつの言い分は。

「わかったわ! じゃあこうしましょう!」

 悪びれる様子も無く、トアが勢い良く立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。

 ……嫌な予感がする。

「私達3人で勝負をしましょう。勝った人が、今晩ヤナギと2人っきりでお祭りデート! どうかしら?」

 自信満々に見下ろすトア。絵里と千佳は口を開けて呆気に取られている。恐らく俺も同じ顔をしているだろう。賭けの対象にされてしまった。

 平和に過ごしたいんだけどなー、本当は。

「勝負の内容は……そうね、召喚術で競うってのはどうかしら!」

「ちょっと待った! 不公平にも程がある、勝てるわけないじゃん! それなら年号暗記勝負ってのはどう?」

「千佳ちゃん、それは私達の世界の歴史だから。もっと共通の知識……元素記号クイズとかがいいんじゃない?」

 それもどうかと思うが。元素記号だって共通とは限らないぞ。

 それぞれが自分の得意分野に持っていこうとしている。競争意識は高そうである。そもそも対立する原因が、俺が優柔不断であるせいなので止めるに止められない。流れを見守るしか出来ないのだ。情けないなぁ。

「……まぁいいわ。これから定例会議だし、お祭りまでは時間がある。それまでに勝負内容を決めて、ヤナギとのデートを文句無い形に成立させましょう」

 椅子に座り、サラダを頬張りながらトアが言った。

 また大変な事になってしまったな。それにしても、こんなにタイミング良くお祭りがあるなんて……あれ? もしかして。

「トア、まさかこのお祭りに合わせて俺達を召喚する日を決めたのか?」

「そうよ」

 サラッと肯定した。うーん、用意周到。恐ろしいお姫様だ。トア様に気を付けろ、というグラウンさんの言葉が今でも頭に浮かぶ。

 とは言え、この世界に来てまだ荒野とこのお城しか見ていない。お祭りもそうだけど、城下町を見て回れるのは少し楽しみだ。せっかく異世界に来たのだから色々観光しないとな。こんな機会なかなか無いし。

 絵里と千佳は真剣な顔で何か考え込んでいる。勝負の件だろうか。お祭りデートなんて、相手が誰であれ緊張しそうだ。

 ごちゃ混ぜに放り込まれておかしくなってしまった味覚の口直しに、俺はもう一度プペンの実を食べた。

 うん、うまい。




「…………以上が前月の収支報告と、今月の見通しになります。今夏は例年に比べ日照時間が少ない為、ウギの木の成育が遅れる懸念がありますが、その分プペンの実とパスの実の収穫が……」

「くぁ……」

 欠伸を必死に抑える。マズイな、学校の授業みたいで非常に退屈だ。2人は熱心に話を聞いていて、流石は優等生だなぁと感心する。

 結局定例会議には、絵里と千佳も参加する事となった。勉強とは違うかもしれないけど、新しい知識の吸収にはとても積極的で、この2人の方がよっぽどこの国に貢献出来る気がする。

 四角く配置されたテーブルにはそれぞれ、ザイン国王とトア、グラウンさん含むサモニカの人達数名、ヒストさん含む国の運営サイド、そして俺達3人が座っている。

 さすがに厳粛な雰囲気があり、高校入試の面接を思い出してしまう。その緊張感のせいだろうか、この部屋に入ってからなんとなく肌がピリピリとして、軽く耳鳴りもしている。

 難しい顔をしたザイン国王の様子が、厳しい父親に重なるせいもあるかもしれない。小学生の頃こっぴどく怒られてからというもの、俺は父親に恐怖感を覚えているのだ。

「ふむ、ご苦労。次はグラウン、先日の赤銅の竜について調査報告を頼む」

「はい」

 グラウンさんが報告書を手に、立ち上がる。

「やはりあの竜は野生化した召喚竜で、そもそもは恐らく……ラシックスが喚び出したものと考えられます」

 国王の表情がさらに険しく、トアも顔色が変わった。

「ラシックスって何?」

 千佳が尋ねると、報告書の一枚をこちらに渡して説明してくれた。

「ラシックスは、召喚術を利用する犯罪グループだ。この国の北に位置するスラム街で大きな勢力となっているんだが……」

 グラウンさんがトアを見た。その続きをトアが繋ぐ。


「そこのトップのリッシュって奴が、私のストーカーなのよね」

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