第7話 序章〜宴にて1〜
扉の先は体育館程の大きな広間になっていた。
そこには長テーブルや円卓が敷き詰められていて、豪華な食事が所狭しと載せられている。見た事も無い料理がたくさんあるが、どれも色鮮やかで美味しそうだ。驚いたのが、茶碗に盛られた白米や味噌汁など、あまりにも馴染みある和食が所々に見受けられる点だ。さすが産業の盛んな国……なのか、あらゆる国の食文化に精通している。
しかしこれは会食の規模では無い。どう見ても宴会だ。それも大規模な。
「玄関でみんな忙しそうだったのって、これの準備だったのかな」
「……そうかもな」
千佳が目を輝かせながら料理を物色している。見慣れない美味しそうな料理は、確かに俺も気になる。
「私達はどこに座ればいいのかな」
絵里が「出来れば端っこがいいな」と小さい声で付け足す。その気持ちは痛い程わかるが、状況的に俺達はメインのど真ん中な気がする。
パラパラと方々の扉から人が集まり、それぞれ適当な場所に座っていく。使用人や、先程のサモニカの人達だ。俺達は案の定、ヒストさんに促されて部屋の中央に位置する一番大きい円卓の席に座った。
俺が座った席の真正面には、青い装飾が施された幅広い大きな椅子が2つ並んでいる。恐らくここに国王と王女が座るのだろう。
ウェイターの様な人が飲み物の注文を取りに来た。アルコールも各種揃っているらしいが、俺達は高校生なので3人共ソフトドリンクをお願いした。
その時、中央奥の扉付近に立っている男が、声を張り上げて言った。
「王と姫様のご入室だ!」
その言葉と同時に、ザワザワとしていた空気に緊張が走り、大勢が一斉に扉に向けて敬礼をした。見様見真似で俺達もそれに倣う。
そして、開いた扉の先から2人の人物が姿を現した。
1人は貫禄のある40代半ば程の男性だ。ガッシリした体つきと精悍な顔つきは、現役の戦士と言われても納得してしまいそうだが、その威厳に満ち溢れた存在感は国王という立場に相応しくも思う。
もう1人は王女では無くお姫様だった。非常に可愛らしい容姿の女の子だ。年は16か17程だろうか、俺達と同じくらいに見える。比較的童顔の絵里や千佳に比べて、その顔立ちは端正で美しく、淑やかで気品溢れる佇まいだ。
2人が部屋中央の大きい円卓、すなわち俺達の向かいの席まで歩き着く。
「召喚の経緯についての説明は?」
国王がグラウンさんに尋ねる。俺達から見て円卓の右隣の席傍に立っていたグラウンさんが説明した旨を伝えると、国王は「そうか」と呟く。
「まずは、竜の撃退について礼を言う。話によれば我が召喚団の未完成な召喚術を、君達が完成させ正規の召喚を成功させたと聞く。おかげで国の危機を回避出来た。感謝する」
「いやいや、そんな」
絵里と千佳が謙遜する。2人がやった事は、本当に凄い事だったんだ。学力の高さがこんな場面で発揮されるとはなぁ。
国王は「それはそれとして」と仕切り直し、言った。
「しかしそもそも、我々の勝手な事情の為に、結果的に君達3人を強制的にこの世界に喚び出してしまった事、申し訳ないと思っている。弁明の余地も無い。本当にすまなかった」
テーブルに頭がぶつかる程の勢いで、深々と頭を下げたのだ。俺も絵里も目を丸くした。千佳も驚いて、食事に伸ばしてた手を急いで引っ込める。
「送還の方法は、必ずや見つけ出す。ウチのバカ娘が全霊を持ってその発見に尽力する。だから今しばらく時間を頂きたい」
国王は顔を上げない。隣のお姫様も深々と頭を下げている。いやいや、そこまで深刻に謝られると困ってしまう。
「そんな、大丈夫ですよ。こんなに豪華な食事を私達の分まで用意してくれただけでも有り難いです」
千佳が手をパタパタさせながら答える。目の前の食事に釘付けになっている今の時点では、この言葉は本音なんだろうなぁ。
……それにしても、なんで送還の方法をこのお姫様が探すんだ?
「国王様。一先ずはお互いの紹介から始めましょう。こちらの御三方にも、まだ説明が不充分と見受けられます」
円卓の左隣に立つヒストさんが会話を汲み取る。国王とお姫様に席に座るよう促し、コップに飲み物(アルコールのような物)を注ぐ。お姫様にも注いでるけど大丈夫なのだろうか。この世界の法律は知らないが。
「こちら客人の真ん中の男性がヤナギ様。向かって右の女性が、不完全な召喚図形を完成して見せたエリ様。そして左側の女性が、適切な解釈で詠唱を成立させたチカ様でございます」
なんだか悪意のある紹介だが事実なので何も言えない。今の所、俺の存在意義が不明瞭だぞ。
「そしてこちらが、ここミノンアーチ国の国王で在らせるザイン国王様。そして隣が国王様の1人娘、トア様でございます。トア様はこう見えても類稀なる……」
「そんな話どうでもいいわ! それより、とっとと私の要件を伝えたいんだけど」
ヒストさんの話をぶった切る。淑やかなイメージがいきなり壊れた。
……ん? トア様?
『トア様には、気を付けろ』
グラウンさんの言葉がよぎる。そしてお姫様は、真っ直ぐ俺を見て、はっきりと言ったのだ。
「ヤナギ、私と結婚しなさい」
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