短刀、合口? そんな高尚なモノじゃないよ
「あぁ…」
荒野の中で黒いスリーピースを纏った男が黄昏ている。
暗い緑色の車体をしたキューベルワーゲンの中では、中折れ帽で顔を伏せた男が居た。
黒いスリーピースの男、
時代遅れのアルコールエンジンカーなのがそもそもの原因ではあるが、キューベルワーゲンはトクロの譲れないこだわりらしく頑として譲らないのである。
荒野の中、前にも後ろにも進めない。
運よくアルコールを積んだ車が通るのを待っていた。
すでに燃料が切れて二日が立っている。
黒星は暇なのもあるが、携帯食料に飽きてきていた。
味のしない栄養ブロックは好んで食べたいモノでは無いのは確かである。
内臓系統を機械化していない人間が長期的に荒野に出る事を想定している食料品は基本的に無いのだ。あまり体に良いとは言えない上に、非常に高い価格である。
燃料が切れない計算だと、味のある食事にあり付いて次の町までたどり着けた。
だが、町から出発する直前の補給でアルコールをサバ読みされたのだ。その上、町から出ると言う状況にあった黒星達には粗悪なアルコールが売りつけられていた。
「ちょっと出る」
「ん? あぁ何するんだ?」
後部座席に置かれた折りたたみの電動バイクを取り出した。
「ハンティング」
黒星は肉でも取ろうと考えた。
電動バイクでは次の町まで行けない。だが、味のあるモノを獲りに行く位ならば出来るのだ。それに衝動買いしたライフルの威力を試したいと言う思いもあるのだろう。
衝動買いした村田銃と呼ばれる銃のコピー銃を担ぎ、バイクにまだがる。
「じゃ、行ってくるわ」
片手を上げ、トクロに手を振った。
「おぅ、戻ってこいよ」
トクロの返事も聞かず、静かな走行音と共に砂埃を巻き上げ走って行った。
「肉かぁ…早く食いてぇなぁ」
トクロは黒星が肉をもって帰って来るのを想像して、料理の出来ない二人が唯一持つ調味料である塩と胡椒の用意をしておいたのだった。
‡
バッテリーの残量を気にしながら走らなければ行けない。
獲物が獲れれば帰りの燃費は悪くなるのだ。行きのバッテリー消費は三割程度に留めておきたい。
見回すが特段何もない。
一度電源を切って煙草を巻き始めた。
「何も居ねぇな…鹿くらいは居るかと思ったんだけどな…」
ちらほらと木が生えているのを見ていた黒星は鹿などの四足獣が居るのを期待していた。
だが、目視できる範囲に生き物の気配は無い。
煙草を咥えながら何も考えない間が続いた。
「?」
音が聞こえた。
少し大きめの岩が遮蔽物となって音源となっているモノを隠している。
煙草を踏み消して、急いでバイクに跨った。
「なんだぁ?」
嬉々とした表情でバイクを飛ばしていく。小型ゆえにスピードが出ないのがもどかしい。
50キロの最高速度を維持しながら音の源へと近づいて行く。
「クリーチャーの類か?」
中型の化け
一台の車が此方に向かって走って来る。
「あ?」
明らかに人相の悪い男が3人乗車ているのが見える。
そのうちの一人が黒星に気づいた様だ。黒星を指さしている。
後部座席に乗る男が散弾銃を黒星に向けているのが分かった。
——パンッ
軽い破裂音が響く。
黒星の構える村田銃からはうっすらと白煙をくゆらせていた。
後部座席の仲間の腕が一本減ってしまったせいか運転はぐらついてヨタヨタとしている。
「何の用だ?」
声を張り上げ、車に銃口を向けた。
車の運転手は銃口を向けられている事に気が付き、異音を立てるほどスピードを出して走り去っていってしまった。
「ッチ…何の用だよ、クソが」
銃口を向けられ、逃げられる。
走り去っていった車に悪態を付きながら銃を担ぎなおした。
「クレーム受理して貰おうか」
絶賛襲撃中のトラックへと距離を縮める。
その前に先客が居るようなので処理しておかなければいけない。
背中に担ぐ村田銃を左腕の肘に依託し、構える。
スコープなど補助具は取り付けられていない。
アイアンサイト越しにクリーチャーに狙いを点けた。
短く息を吐き出し、ブレを抑え反動に備える。
——パンッ
クリーチャーの後頭部に着弾。
だが、ただの四足獣がターゲーットの弾薬では弾かれる。
クリーチャーは攻撃の手を止め、ゆっくりと黒星へと身を向けた。
「゛ァア …ィィ゛イ」
黒星の下へと駆ける為の予備動作に入った。
トラックからの銃弾掃射を受けているが全く効いている様子はない。黒星と同じ様に通常の対動物弾なのだろう。
冷静に対処する。今焦れば数秒後に死ぬのは良く理解している。
ボルトを引いて次弾の装填を済ませた。
クリーチャーが前腕に力を入れる。
駆けだす寸前。
引き金を引き絞った。
巨体が音を立て崩れる。
左の眼窩からは吹き零れる炭酸の様に体液をまき散らしていた。
「二発」
ボルトを引き、薬莢を排莢する。先ほど地面に落とした薬莢も拾い、バイクに跨った。
「おい! お前ら!」
クリーチャーの近くに居るトラックの持ち主であろう人物に怒声を送った。
返事は無く、黒星はバイクでトラックの下へと猛スピードで乗り付ける。
「ひっ⁈」
黒星はトラックから降りてきた女の目前でブレーキを掛けた。
女は委縮した様子で黒星の前で固まってしまう。
無理もない。黒ずくめの眉間に皺を寄せた男が銃を担いで自分を轢きかけたのだ。
黒星はゆっくりとバイクから降車する。
「誰も来ねぇな」
黒星は周囲の顔を見回しながら不審に思う。
それなりの大型トラックに銃を持って近づいたのだ、銃を持った男がすぐに駆け付けてくるはずだ。
だが、誰も駆けつけては来ない。数人の女性が棒立ちしているだけだ。
先ほどクリーチャーの相手をしていたのも女性なのだろう。女性が連発式散弾銃を持っている。
現状が把握できていないが、先ほど銃を向けてきた車の男たちと仲間割れし、生存確率を上げるため置いて行かれた可能性もある。
クレームを受理せてもらおうと話しかけた。
「おい、さっきの車はなんだ?」
黒星へと銃を向けた男たちが乗っていた車が走り去っていった方角を差した。
「…ぁ…あぁ…」
言葉としての返事は無い。
「おぃ…しっかりしてくれや」
女の肩を揺すった。
「あっ…申し訳ございません…」
黒星に話しかけられた女はフリーズから再起動したようだ。
女は黒星へと謝罪した。
「で、お前ら何?」
先ほどの車についても言及したかったが、それ以上に女だけで構成されたトラックキャラバンの方が興味を誘う。
「初めまして、えっと、コランダムのペリドットと申します」
「おう、そうか俺は黒星だ」
コランダムは組織名だろう。トラックにはcorundum companyと書いてある。
女、ペリドットにコランダムについて問いかけた。
「コランダムはですね、えっと、運送会社ですね、」
「わかってるよ、トラック見ればわかる」
「えっと、燃料や火薬なんかを扱ってま「燃料⁈」
黒星は思わぬ収穫かとペリドットの話を遮った。
「ぇ⁈」
黒星はペリドットの両肩を掴み燃料について質問攻めにし始めた。
「なぁ燃料ってもしかしてアルコールだったりするか⁈」
「はぇ⁈ ぉう えっとっ」
揺さぶられ発音が出来ていない。
黒星は興奮気味で全く気が付いていない。
「なぁ ぉご!」
強い衝撃が走る。
口にしようとした言葉は発せられず、黒星は後頭部を殴られ動けなくなった。
「ぁ…」
黒星の後ろには散弾銃を持った女が立っていた。
ペリドットの肩を揺するのに夢中になっている間に他のメンバーが黒星を囲んだ様だった。
黒星は現状ペリドットを恫喝しているだけの不審者だった。殴られてもなにもおかしくは無かった。
コランダムのメンバーは気絶してしまった黒星を引きずりトラックへと乗せに行った。
‡
「アイツ遅いなぁ」
トクロはせっせと竈の用意をしながら黒星の帰りを心待ちにしていた。
‡
「んぁ?」
黒星は両手の親指を後ろ手に縛られた状態で目を覚ました。
シャツにジャケット、靴も脱がされ、ベルトはもちろん銃も取り上げられていた。
両脇を女性に抑えられている。
「ペリドットさん 起きました」
右側に座る女がペリドットに黒星の覚醒を伝えた。
トラックの助手席に座っていたペリドットが後部座席に身を乗り出してくる。
「あぁと、えっと、すみません…ちょっと止まって! タンザちゃんもガーネットちゃんも放して」
黒星を気絶させ拘束したことの謝罪だろう。ペリドットは黒星の拘束を解くよう両脇を抑える女、タンザとガーネットに声を掛けた。
車が停車した。
「ですが…」
タンザと呼ばれた女は不服そうに黒星の胸板を叩いた。
「うげっ」
叩かれ肺から空気が漏れる。
ペリドットがおろおろとするばかりで何もできない。
一方もう一人のガーネットと呼ばれた女はすでに黒星の拘束を解き、黒星の服や靴を手に取っていた。
「ごめんね~ あなたの事殴ったのもひん剥いたのもそこのタンザなの~私は関係ないからね~」
軽い謝罪と共に黒星の拘束には無関係だと主張し、黒星の復讐から逃れようと画策している。
黒星は特段何かをしようとも思っていない。あからさまな裏切りに若干タンザへと憐憫の視線を向けた。
「な⁈ お前!」
憐憫の視線に気が付いたらしい。
「いいから!」
「…わかりました」
強く命令された。
タンザもリーダーの命令には従わなければいけないのか、黒星の拘束を解いたのだった。
「あ、こっちです~」
トラックの扉を開けたガーネットが外へと降りていた。
黒星もガーネットに続いてトラックを降りた。
「本当に申し訳ございませんでした」
平身低頭して謝るペリドットに圧されてしまう。
「別にイイから、ちょっと脅かしたのも悪かったしな」
自業自得である事は自覚している。頭を下げ、キツツキの様になっているペリドットを止める方が先決だ。
ガーネットがペリドットをいさめキツツキ《ペリドット》を止めてくれた。
「で、まぁ話戻すが、バケモン《クリーチャー》に襲われてた時に車走ってきた訳なんだが、」
黒星へと銃を向けた男達の車、
「あ、」
ペリドットが空気を漏らし、女達も動きを止めてしまった。
「あ? どうした? お前らのツレか? ならちょっと態度を改める必要がありそうだな」
「あの恥知らずと同じだと?」
黒星の言葉にタンザが激高した様子で詰め寄ってきた。
銃を向けられた以上ココで引く訳には行かない。
タンザより高い身長で見下ろす。先ほどとは比べ物にもならない冷たい声色に変わった。
「なんだ? 俺の質問に答えろ。恥知らずだの、どうだのは関係ないぞ、お前らのツレかどうかを聞いてるんだ」
「っ……」
自分より長身の人間に見下ろされれば竦んでしまうのは仕方ない。
無言でタンザを見下ろした。
「す、すみません!」
ペリドットが黒星とタンザの間に割って入ってきた。
「おっと」
黒星はペリドットが転ばないようによろけておいた。流石にここでペリドットが転ぶようなことになるのは面白くない。
「すみません。すみません。車? でしたか? その方達でしたらマルマロスの方です、はい。それが…」
ペリドットが先ほどの黒星の質問に答えた。
「マルマロス? なんだ?」
「私たちと、そのあまり仲が良くないと言いますか…」
「あぁそう言う事か」
黒星は合点がいった。
マルマロスと言うのはペリドットの所属する組織と抗争を展開している組織なのだろう。
クリーチャーに車を襲わせるのは、黒星が組織の一員として生きていた頃にもありふれた手口だった。費用対効果の大きい手口としても抗争では多用されていた。
「なすられたか」
「えぇまぁ、はい」
やはりペリドット達のトラックは、あの車にクリーチャーを擦り付けられたのだ。
「敵対組織か、マジか、手ぇ出しちまった」
少々頭を痛める事が増えた。
「え⁈」
「まぁいい。恩着せがましい事言うが、お前らの商品の内で使えそうなモノ融通してもらって良いか?」
「あ、はい。わかりました…ですが、その、構成員の貸し出しはご遠慮下さい」
「あぁ? 女か? いらねぇよ」
ペリドットは黒星が女として自分の組織の構成員を連れていかれるのを警戒したのか、言質を取ってきた。だが、黒星が欲しいのはアルコールである。燃料を積んでいると言ってたのだ。十中八九アルコールを積んでいるだろう。
「それで、アルコールを融通してほしいんだが、積んでるよな?」
「アルコールですか? えぇ積んでおりますが、 クリーチャーを仕留めて頂いたお礼には少々足りないと思われますが…」
命を助けた礼にせびるモノとしてはアルコールは少々安い。
ペリドットには黒星が主流燃料ではないアルコールを希望する理由が分からなかった。
「相方が偏屈野郎でな、古くせぇアルコールカーに乗ってるんだ」
「わかりました…」
黒星が少々バツの悪い表情に変わった。
「あとなぁ、もう一つあるんだが、」
「えっと、構成員は、その」
「いや、アルコールを運ぶのも頼みたい」
「へ?」
黒星はペリドットにガス欠して立ち往生している事を説明した。
「そういう事でしたか! わかりました。今から向かいましょう」
ペリドットの了解も取れ、今からガス欠のキューベルワーゲンへと向かう。
トラックに乗りなおし、黒星の案内と共に黒星が来た道を案内した。
‡
トラックの音が響く。
動ないキューベルワーゲンの中で昼寝をしていたトクロも跳ね起きた。
目視できる範囲まで接近を許した自分に毒気づく。
ホルスターからM27を抜き運転席に身を沈める。
トラックが接近してくる。
確認できる位置では銃を確認することは出来ない。
徐々にトラックの音が低く鳴ってく。近づけば何時でも撃てるように体制を少しだけ変えた。
だが、トラックはキューベルワーゲンの近くに停車したが、今の体制では目視出来なかった。
「? なんだ?」
車からある程度離れた位置に陣取るトラック。トクロは強盗の類にしてはおかしいと思った。だが、車から身を出す訳には行かない。
「——ぃ——……」
トクロの耳にうっすらと声が聞こえた。
やけに聞き覚えのある声だ。
もしやと思い、トラックが停車した方を伺ってみた。
「ぉーーーい」
手を振っている黒星が居た。
「なんでアイツトラックに乗ってんだ?」
強盗を警戒して銃を構えていたが、都労に終わってしまった。
「よぉ、トクロ 肉よりいい物獲ってきたぜ」
やけにニコニコした黒星にトクロは疑いの目を向けてしまう。
「なんだよ、そこの女か? 俺は要らんぞ 正業で売ってるならまだしも私娼は好まん」
「違うわ。お前もかよ、どいつもこいつも俺はそこまで盛ってねぇよ」
ペリドットと異句同意に言われ黒星は苦笑した。
黒星はトラックを指さし、キューベルワーゲンを指さす。
「アルコール持ってきたぜ」
「おぉぉおおおマジかぁ でかした! やっぱり持つべきものはデキた相棒だなぁ」
掌を拘束観点させるトクロだが、普段通りのトクロである。
ペリドットとタンザがキューベルワーゲンの下へと駆けてきた。
「黒星さん、それで、コレに燃料補給すれば良いんですか?」
ペリドットがキューベルワーゲンを指さしている。
「あ「あぁ補給を頼む」
黒星を遮ってトクロが答えていた。
ペリドットが手を振ると、ポリタンクを持ってガーネット達がトラックから出向いて来た。
「お、お、お、おおおおおおお ここここコレはキューベルワーゲン⁈」
ガーネットがポリタンクを落としキューベルワーゲンに駆け寄る。
「おぉ分かるか! TYP82のレプリカだよ!」
同志を見つけたトクロがはしゃぎながらガーネットの下へと行ってしまった。
クラシカルメカにご執心の二人を後目に、ガーネットが落としたポリタンクで燃料補給を始めた。
ガス欠してしまった燃料タンクへの補給は時間がかかる。
何も無い時間の中ボンネットの前でポリタンクを持つぺリベットと目が合ってしまった。
「そう言えば、敵対抗争中なんだったか? マルマロスとか言うのは」
黒星に銃を向けた車の話を持ち出した。
遅かれ早かれ話さなければいけない話でもある。
「はい… 先ほどは申し訳ございませんでした。私たちの問題に巻き込んでしまって…」
ぺリベットがもし訳なさそうな表情でうつむいてしまった。
黒星は対応に困ってしまう。
仲間でも無く、敵でも無く、買った女でもない。商売相手でもない。そんな関係の女性と会話をした事など数える程しかない。
「あー それは別にいいぞ、俺も癖で撃ったのが悪かったしな」
「本当にすみません…」
ぺリベットの表情は晴れない。
「そういや あんたスラム系って訳では無さそうだが?」
先ほどの事では会話は膨らまないと分かった。
「え? えぇ、はい…私はスラム育ちじゃないです」
黒星はペリドットの態度や喋り方、頻繁に謝罪を挟む事に違和感を覚えていた。
「ほー戸籍持ちか、それじゃなんで荒野に?」
スラムに出るのは金の無いスラムの住人か職業狩人などが大半だ。ぺリベット達の様に運送屋も居るがそれもスラム出身者で構成されるモノである。都市や町の移動、規模の大きな契約で戸籍持ちが荒野に出る事も有るが、税金を納めて守られた街に暮らす方を優先する者が圧倒的に多い。
荒野に出るのはハイリスクハイリターン。ましてや女が荒野に出るのは無謀に等しい。女狩人も居るが、女狩人は一人でもクリーチャーをあしらえる。
だが、弱いと評価せざるを得ないぺリベット達が荒野に居る理由が掴めなかった。
「まぁその、分裂ですね…その、初対面の方にお話しするモノでは無いと思いますが、黒星様はマルマロスと関わってしまいましたし、」
「あぁ」
前置きが長いが、ぺリベットの言葉の端々からなんとなく察した。
あくまで想像の為、ぺリベットの話は最後まで聞いた。
「マルマロスは元々コランダムの一部でして、前代表だった父が他界した際の不手際で従業員を奪われてしました…マルマロスの代表の方はコランダムの存在が面白くない様で荒野での妨害工作やお店の方でお客さんへ嫌がらせされたりと色々…」
ありふれたマフィアの分裂抗争である。
黒星にも心当たりがあるモノだ。
「まぁ色々あるわな。ところで何処まで行くんだ?」
話題の転換をしたくなってきた。
「名前…だと分かんないですかね? ココから一番近い町です」
「おぉ、目的地は一緒か」
「そうなんですか⁈」
「偶然だな」
中身の無い話をしながら黒星はずっとからのポリタンクを傾けていた。
ぺリベットにポリタンクを渡すよう言いたいが、言いにくいのだ。
「あ、黒星さんもう空ですね。変わりますよ」
ぺリベットから気付いてくれた。これ、幸いにポリタンクを奪いまた、ポリタンクを傾け始めた。
また、中身の無い話を続けた。
共通点も無く、薄い話しか続かないのだ。
燃料補給も終わり、二人で盛り上がっていたトクロに声を掛けに行った。
「おい、トクロ~」
「お? おぉ終わったか、すまんな嬢ちゃん、また何処かで会ったらな」
トクロはガーネットに手を振ってキューベルワーゲンへと向かって行ってしまった。
ガーネットはキューベルワーゲンを羨ましそうに見つめている。
「やっぱ、メカヲタか」
黒星もコランダムの面々に向け、手を振りながらキューベルワーゲンに乗り込んだ。
今後、接点ができる事は無いだろうと思いながら。
コランダムのトラック町へと向かって行く。
トラックが見えなくなるまで二人は地平線を見つめていた。
「…行った」
二人とも肉眼だが、わずかに目の良い黒星がトラックが消えた事を告げた。
二人は無言で車を降り、車のチェックと周辺に罠が無いか軽く捜索をする。
「何も無し。やっぱただの世間知らずか」
黒星がため息をつきながら助手席に乗り込んだ。
「まぁそうなんだろうな。お前にほいほいついて来たんだ。もしお前が人体ブローカーで皆分解ってのを想像してないんだ」
トクロはキューベルワーゲンまでトラックが近づいてきていたのを指摘した。
「仕方ないさ。まぁ俺はたまたまあいつ等に悪さをしなかっただけだな。アイツらが今後どうなるかは知らないねぇ。まぁあいつらの敵組織の方が幾分か頭は良さそうだ」
トクロは車のキーを回し、エンジンを掛ける。
「相手方は外道、兇悪の類だったわけね。まぁ自然淘汰だな」
「外道、兇悪じゃないとこの道は走りにくいねぇ」
何度目かでエンジンがかかり、キューベルワーゲンが発進した。
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