第2話
あの日を境に毎晩両親が死ぬ夢を見るようになった。
八つの僕が両親のもとに駆け付け、三体の小鬼を短剣で倒したところで囲まれ、僕を庇った両親が血みどろになりながら魔物を倒して、逝く。
すぐそばに立っているのに夢の中の僕と両親は僕には気づかない。声も届かないし、触れられない。
両親が死ぬまでの、変わることのない流れを辿るのを傍らで何もできないまま見ているしかない。
このままなら、やがて僕がいないのに気付いた叔母さんが村まで引き返し、僕と冷たくなった両親を見つけることになるんだけど、僕の見る夢の中ではそうはならない。
両親が息を引き取った後、三人の傍らにいたはずの僕はいつのまにか当夜の僕に成り代わり、こと切れた両親に抱きしめられている。右手には父さんの使っていた直剣が握られ、左手には母さんの身に着けていた腕輪が光っている。
そのことに気付くと、瞬きの間に両親の死体は掻き消え、両親の手で倒されたはずの魔物達が闇夜に目を光らせ、僕に敵意を剥き出しにしている。やがて魔物の牙にかかり、死んだと思ったところで目が覚める。
そういう夢を、あの夜からずっと繰り返している。
この夢を初めて見たのは、両親を失った次の日だった。
人生最悪の夜を繰り返し体験する、しかも魔物に殺されるというおまけ付きでだ。
当たり前だけど僕は打ちのめされ、目覚めたときにはひどい取り乱しようだった。
叔母さんや周囲の人たちには迷惑と心配をかけたと思う。
その後も変わりなく毎晩同じ夢を見続けた。変わっていったのは僕の夢との付き合い方だ。
最初のうちは両親が死ぬ様を見続けなければならないことに絶望し、ろくに抵抗もできないまま魔物に殺されていた。
愚かな行動で父さん母さんを死に追いやった自分への罰だと思ったから。
それでも、そのうちに激しい怒りが僕の中で渦を巻いているのに気付いた。それは、両親を殺した魔物への怒り。過去の自分への怒り。何よりも、されるがままになっている現在の自分への怒り。
また同じことが起きた時にも僕はこうして殺されるのか?
大事な人や物が奪われようとしているときに無抵抗でいるのか?
僕を生かす為に父さんと母さんは死んだのに?
有り得ない。そんなことはあってはいけない。
そんな当たり前のことに気付くのに五日もかかってしまった。
ともかくそれから僕は夢の中で魔物と戦うようになった。
もう、一秒だって弱い自分でいたくないから。
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