第2話 恐怖! 打撃無効のウォーターゴーレム!
私は羽崎みなも。どこにでもいるごく普通の女子高生。
そんな私も、先日おかしな出来事に巻き込まれた。
タキシードの変態たちに襲われたかと思ったら、チンパンジーの魔法少女に殺されそうになり、最後にはタキシードの変態に助けられたのだ。
何を言っているかわからないと思うけど、私にもわからなかった。
結局、あの日のことは誰にも話していない。
話そうにも、あの異常な出来事を上手に説明する自信がない。
お父さんにも変質者が出て腰を抜かしてしまった、といってある。
交番のお巡りさんにも同じような話をした。
現場には変質者の出現に注意を呼びかける看板が設置され、お巡りさんがいままでより頻繁に巡回してくれることになった。
あれから数日、私は変態にも猿にも会うことなく平和に過ごしている。
変な事件に巻き込まれはしたけれど、もう終わったのだ。
私はごく普通の日常に戻ったのだ。
そう思っていた。
ついさっきまでは。
「フハハ! 待っていたぞ! プリンセス・エイプリル!」
友人のエリカと一緒に駅前のドーナッツ屋から出てきた瞬間、どこかで聞いたような声が響いた。
「あ、アンタ、あの時の!?」
忘れようもないその声の主は、あの時の変態タキシード男だった。
この格好で私が出てくるのを待ち伏せていたのか。
人通りの多いこの駅前で、よく通報されなかったものだ。
「みなもちゃんの知り合い?」
エリカがドン引きした様子で私に聞いてきた。
「知らない人」
私は即答すると、迷うことなくカバンに下げていた防犯ブザーの紐を引く。
ピピピピピピピピピッ!
駅のロータリーの隅っこには交番がある。
30秒もしないうちにお巡りさんが駆けつけてくれるはずだ。
が。
「フハハ! 助けはこない! しつこい官憲の手先は先に始末しておいた!」
そういってタキシード男がサーベルで指した先には、お巡りさんが三人転がっていた。
「安心せい。峰打ちだ。職質ごときで殺すほど私は狭量ではない!」
あぁ、もう職質はされてたのね。
そうだよね、あんな格好でうろついて、不審者扱いされないわけないもんね。
「出でよ!我がしもべたち!プリンセスをお連れ申せ!」
どこからともなく全身黒タイツの男たちが現れて私たちを取り囲んだ。
ロータリーに、大きめの白いワンボックスが入ってくるのも見えた。
もうだめだ。
その時!
変態の足元で小石が跳ねた。
「なに奴!」
小石が飛んできた方を、その場にいた全員が振り返る。
視線の先、駅前の小さな時計塔の上にいたのは、ピンクのフリフリ服を着て、銀の杖を持ったチンパンジーだった。
あぁ、こいつも来ちゃった。
もうおしまいだ。
ピンク色のチンパンジーが手にした杖で黒タイツどもを薙ぎ払っていく。
頭を抱えてしゃがみ込む私を尻目に変態が叫んだ。
「現れたな! 怪傑マジカルモンキー! だが貴様もここで終わりだ! 出でよ! ウォーターゴーレム!」
タキシード男の足元に魔法陣が出現し、青く輝き始めた。
現れたのは、身の丈三メートルほどのヒトガタのナニカだった。
それは、水のような透明な液体でできていた。
チンパンジーは紅い眼を爛爛と輝かせ、歯茎をむき出しにしながらソレに殴りかかる。
が、液体でできたそいつにはまるでダメージを与えられない。
「フハハ!どうだわが傑作ゴーレムの力は!」
今のうちに逃げ出したいけど、エリカが腰を抜かして身動きが取れない。
そういえば、以前学校の授業でこういう時の人の背負い方を習った気がする。
確か、保健体育の授業の一部だったはずだ。
私は話半分に聞き流していたことを後悔した。
保健の授業はまじめにやらなくてもそれなりに点数が取れるので、スルーしてしまっていたのだ。
あまりいい点を取っても恥ずかしいという乙女心もある。
チンパンジーはといえば、いったんウォーターゴーレムから距離をとると、フリルのついたスカートの中から何かを取り出した。
まさか、マジックアイテム!?
取り出したのはバナナだった。
まだ熟していない、青いバナナだ。
そして丁寧に皮をむいてモグモグと食べはじめた。
所詮は猿畜生か。
そう思った私は甘かった。
食べ終わると同時に、チンパンジーの真っ赤な眼が、こんどは青く光り始めた。
拳にはキラキラと光る青白い冷気を纏っている。
まさかあれは!
チンパンジーは杖を捨ててウォーターゴーレムに殴りかかる。
バシンッ!
チンパンジーの拳を受けた場所が凍り付き、砕け散った。
さらに、チンパンジーはゴーレムに激しい連打を浴びせ続ける。
ウォーターゴーレムは虹色に輝く霜をまき散らしながらあっという間に小さくなっていく。
そしてゴーレムが半分ほどの大きさになったところで、チンパンジーは力をため、渾身の一撃を見舞った。
最後の一撃を食らったウォーターゴーレムは、一瞬で全身を凍り付かせ、光る霧となって爆散した。
「くそ! 引き上げだ!」
それを見たタキシード男はマントを翻し、ロータリーで待機していた白いワンボックスに飛び込んだ。
車はキュルキュルと音をたてながら急発進。
チンパンジーはそれを追って走り出し、両者はあっという間に見えなくなった。
「……みなもちゃん」
「なに?」
腰を抜かしたままのエリカが、私のスカートを握りしめながら言った。
「あれ、何?」
「知らない」
私は正直に答えた。
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