第3話 巨大ロボット出現!? vsアイアンゴーレム!

 私は羽崎みなも。どこにでもいるごく普通の女子高生だ。

 最近はささやかな事件にかき乱されたりもしたけど、それ以外はごく普通の日常を送っている。


 そんな私は今、放課後の教室から一人で夕日を眺めていた。

 校庭では部活を終えた野球部員たちがグラウンド整備をしている。

 彼らが試合に勝ったという話は一度も聞いた事がない。


 何故、帰宅部員の私がこんな時間にこんなところにいるのか。

 もちろん、成績不振で補習を受けさせられているわけじゃない。

 実は生まれて初めてラブレターらしきものを受け取ったのだ。

 今朝、下駄箱の中に入っていたその手紙には、放課後この教室で待っていてくださいという旨の文章が、丁寧に書かれていた。

 愛の告白に間違いなかった。

 放課後の告白イベント!

 退屈な日常の中の、ちょっとした非日常!

 ビバ!青春!

 いったいどんな男の子がこれを書いたのだろう?

 その手紙には名前はもちろん、学年もクラスも書き手を推測させるようなことは一つも書かれていなかった。

 いや、もしかしたら、男の子じゃないのかもしれない。

 でも、それはそれで――


 ガタッ!


 背後の掃除用具入れの中から派手な音がした。

 続いて、クスクスという笑い声。

 音の主は私の友達のエリカとメグミだ。

 下駄箱からラブレターを取り出したところを、この二人に見られてしまったのだ。

 二人はどうしても「この告白を見届けたい」と言い、ああして清掃ロッカーに潜んでいる。

 正直なところ、見世物にされるのは、あまりいい気はしなかった。

 だけど、彼女たちが一緒だと心強いな、という気持ちが少しだけ勝ってしまったのだ。

 それにしても、遅い。

 野球部員たちももうグランド整備を終え、解散してしまっている。

 もしかしてイタズラだったんだろうか?

 でも、あの手紙の筆跡からは、すごくまじめで誠実な印象を受けた。

 こんな風に他人を担ぐような人とは思えない。

 もう一度外を見る。

 夕日はもうすっかり沈み、外を染める光は橙から藍に代わっていた。

 ふと、校門のところに白いワンボックスが停まっているのが目に留まった。

 すごく嫌な予感がした。

 いや、思い過ごしだろう。あんな車珍しくもない。

 きっと学校に出入りしている業者かなにかだ。


 ガラガラ……


 その時、教室の引き戸が静かに開いた。

 胸が高鳴る。

 いったい誰なんだろう?

 ゆっくりと、扉の方を振り返る。

 そこにいたのは――


 「フハハ! 待たせたな! プリンセス・エイプリル!」


 私はそいつに向かって机をブン投げた。

 タキシード男は軽やかに机を回避。

 そのために姿勢を少しだけ崩したソイツに、私は必殺の乙女パンチを繰り出した。

 乙女心をもてあそんだ罪の深さを思い知れ!

 だけど、私の渾身の一撃はあっさりと回避された。

 つづけさまに二発三発と拳を振るうが、かすりもしない。

 くそ!これが日常を怠惰に過ごしてきた代償か!

 私はこれまで体を鍛えてこなかったことを後悔した。


 「元気でよろしい! だが、今日こそ私と一緒に来てもらうぞ! 出でよ! アイアンゴーレム!」


 タキシード男が叫んだが、あの光る魔法陣はどこにも現れない。


 「あれ?ゴーレムは――」


 私がそう言いかけた瞬間、地面が揺れ始めた。

 外を見ると、マウンドを中心に大きな青い魔法陣が光っていた。

 地中から身長10メートルを超える巨大なヒトガタの物体が姿を現した。

 野球部が枯山水のごとく整えていたグラウンドは見るも無残な有様になっている。


 「今日はマジカルモンキーが現れる前に片をつけさせてもらう!」


 ガッシャーン!


 何と、鉄のゴーレムが私を捕まえようと教室の中に手を突っ込んできた。

 私が寸でのところでその手を躱すと、私を探して教室の中をかき回し始める。

 無茶苦茶だ!


 その時、振動で倒れたロッカーから、エリカとメグミが飛び出てきた。


 「危ない!」


 私は叫んだが、手遅れだった。

 ゴーレムに弾き飛ばされた机の一つがメグミに命中した。


 「ええい!ちょこまかと!ならば――むむ!」


 タキシード男の視線が外へ向けられた。

 その視線を追いかけた先、グラウンドを照らす照明塔のてっぺんに、近頃見慣れて来てしまったシルエットが見えた。


 「出たな! 怪傑マジカルモンキー!」


 「キエェェェェエ!」


 マジカルモンキーは銀の鈍器を振りかざし、気勢を上げながらアイアンゴーレムに殴りかかった。

 だが、巨大な鉄製ゴーレムには、さすがのマジカルモンキーもへこみ一つつけることができない。


 「みたかぁ!これがアイアンゴーレムの力だぁ!フハハハハハハ!」


 いつの間にかアイアンゴーレムの肩に乗っかっていたタキシード男が得意げに叫んだ。


 だけど、マジカルモンキーはうろたえなかった。

 銀の杖を捧げ持ったかと思うと、それをバトントワリングのようにくるくる回しながら何やらかわいらしいポーズをとった。

 そのとたん、マジカルモンキーの足元にゴーレムが召喚された時と同じ、光る魔法陣が現れた。


 「な、なに!召喚魔法だと!?」


 呼び出されたのは、アイアンゴーレムによく似た、ヒトガタの物体だ。

 

 「キエェェェ!」


 マジカルモンキーが叫ぶと、ヒトガタ物体の背部が開き、コックピットのようなものが現れた。

 マジカルモンキーが素早くそれに乗り込むと、背部は元通りピッタリ閉まった。


 私にはあれが何なのかすぐに分かった。


 「あれは……魔導甲冑!」


 人気のweb小説にも出ていた。私は詳しいのだ。

 巨大な魔導甲冑とアイアンゴーレムが激しい格闘戦を開始した。

 格闘なんて上等なもんじゃない。単純な殴り合いだ。

 交代で巨大な質量をぶつけ合っているのだ。


 と、とにかく逃げるなら今の内だ!


 「エリカちゃん!メグミちゃん!大丈夫!?」


 「私は大丈夫!だけどメグミちゃんが……!」


 メグミの脚があらぬ方向に曲がっていた。

 でも大丈夫。

 こんなこともあろうかと、前の事件の後すぐに公民館の救急救命講座を受講していたのだ!


 箒をへし折って添え木を作り、裂いたカーテンを巻き付けて固定する。

 ついでに、モップとカーテンで簡易担架を作ってメグミを乗せた。

 後は安全圏までスタコラサッサ。

 エリカと一緒に全力疾走。


 途中、背後を振り返ると、ちょうど魔導甲冑がアイアンゴーレムにアッパーカットを見舞っているところだった。

 アイアンゴーレムが吹き飛ばされ、校舎に激突した。

 魔導甲冑はその隙を逃さずに飛び掛かり、マウントをとると激しい乱打を浴びせ始めた。

 あれじゃ校舎は全壊だろう。危ないところだった。


 「ねぇ、みなもちゃん」


 担架の上のメグミが虚ろな目で話しかけてきた。


 「あれ、何?」

 「知らない」


 私は正直に答えた。


 「でも、みなもちゃんすごく慣れてた」

 「知らない」


 私はもう一度、力強く答えた。

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