怪傑!マジカルモンキー!
ずくなしひまたろう
第1話 マジカルモンキー登場!
私の名前は羽崎みなも。どこにでもいる普通の女子高生だ。
そのごく普通の私が、ごく普通の塾の帰り道で、全然普通じゃない目にあっている。
「フハハ! ついに見つけたぞ! プリンセス・エイプリル!」
私の目の前で、丈の足りないタキシードに身を包んだ仮面の男が叫んだ。
背中にはマント、頭にはシルクハットをかぶっている。
念のため背後を振り返ってみたけど、もちろん私の後ろには誰もいない。
「あ、あの……私のことですか?」
念のため聞いてみる。
「いかにも! 私の目は節穴ではないぞ!そのような格好でごまかされるものか!」
いや、完全に節穴だと思う。
私はそんなお花畑みたいな名前じゃない。
「人違いです!私は羽崎みなも!どこにでもいるごく普通の女子高生です!」
「フハハ! 語るに落ちたな! ごく普通の人間がわざわざ『普通の』などと名乗るものか!」
ダメだ。この人全く話を聞いてくれない。
「ええい!まだるっこしい!出でよ我がしもべたち!プリンセスをお連れもうせ!」
タキシード男がそう叫ぶと同時に全身黒タイツの男達がどこからともなく現れて、私を取り囲んだ。
少し離れたところに大きめの白いワンボックス車が停まっているのが見えた。
あ、これ本格的にヤバそう。
そ、そうだ!悲鳴を上げれば……
「……っ!」
大きく息を吸い込もうとしたのに、肺がうまく動かない。
声を上げようにも口がパクパクするだけで全く声が出ない。
本当に危ない時には声が出ないってホントだったんだ。
小学生の時にお父さんがくれた防犯ブザーも、今は勉強机の奥深く。
バカにしないでちゃんと持ち歩いていればよかった。
私がその場にへたり込んだその時――
パシッ!
タキシード男の足元で小石が跳ねた。
「なに奴!」
その場にいた全員が小石の飛んできた方を振り返る。
見上げたその先、電柱の天辺にそれはいた。
ピンクのフリフリ衣装に身を包み、大きな宝石のはまった銀色の杖を持った――
チンパンジーが。
「怪傑マジカルモンキーめ! また現れおったな!」
違うわ! あれは類人猿よ! モンキーじゃなくてエイプと呼ぶべきよ!
いや、待て。落ち着くのは私だ。
今はそんな突っ込みを入れてる場合じゃない。
「キエェェエ!」
チンパンジーが月に向かって一吼えすると、手にした杖が輝きだした。
まさか、魔法!?
魔法少女みたいな格好だからもしやと思っていたけど、本当に魔法を使うの!?
チンパンジーは跳躍し、電柱から飛び降りると一番手近にいた黒タイツめがけて杖をブンと振った。
ボゴッという鈍い音とともに黒タイツが吹っ飛ぶ。
吹っ飛ばされた黒タイツはベチンと壁に張り付いた後、そのままずり落ちた。
手足が変な方向に曲がっていたような気がする。……死んでないよね?
「怯むな! かかれ!」
タキシード男の号令一下、黒タイツ達が一斉にチンパンジーに躍りかかる。
素手だ。
チンパンジーは人間が素手で勝てる相手じゃない。
案の定、黒タイツ達は銀の杖の一振りで次々と轟沈していく。
黒タイツたちが全滅するまで一分もかからなかったと思う。
チンパンジーがゆっくりとこちらに振り向いた。
目がルビーのように赤く輝いている。
あ、あれ? こいつ私を助けに来たんじゃなかったの?
チンパンジーが笑うように唇をめくりあげ、私に向かってゆっくりと杖を振り上げた。
もう、終わりだ。
アレは絶対に話の通じる相手じゃない。
タキシード男を説得する方がまだ可能性があった。
私ははっきりと死を意識した。
「させるか! プリンセスは我々のものだ!」
その時、さっきのタキシード男が、チンパンジーの間に立ちはだかるように飛び込んできた。
素敵!さっきは頭のおかしい変態にしか見えなかったのに!
タキシード男はいつの間にか手にしていたサーベルでチンパンジーに斬りかかった。
チンパンジーはそれを紙一重でかわし、そのまま回るようにして横殴りに杖を振りぬく。
タキシード男は身を低くしてそれをかわすと、再度チンパンジーを切りつけた。
ピンクの服の白いフリルがぱっくりと切り裂かれたものの、血は滲まない。
それ以上はもう私の目では追えなかった。
二人が切り結ぶたびに、杖が強く光る。
キィィィィン!
勝負はすぐについた。
タキシード男のサーベルが、高い金属音を発しながらどこか遠くへ飛んでいった。
「ぬう!ここまでか!」
待って! まだ諦めないで! もう少し頑張ってよ!
「さらば!」
いうが早いか、タキシード男はマントを翻して走り去っていった。
チンパンジーもそれを追っていく。
後には、静寂だけが残った。
「……助かった」
いつの間にか、黒タイツの達の死体――少なくとも半数は素人目にも死体と断定できる状態だった――もひとつ残らず消えていた。
ブブブ、ブブブ
スマホの振動音で我に返る。
急いでカバンからそれを取り出して、電話に出るとお父さんの声が聞こえてきた。
「みなも、帰りが遅いけどなにかあったのか?」
お父さんは心配性だ。
遅くなる時には事前に連絡を入れておかないと、こうしてすぐに電話をかけてくる。
いつもは鬱陶しいとしか思えないお父さんの声が、今は涙が出るぐらいに嬉しかった。
「おい、みなも! どうした!」
私がヒクヒクとえずいていると、お父さんが電話の向こうで慌てたように叫んだ。
「今どこにいる!?すぐに迎えに行くからな!」
どうにか私が居場所を伝えると、お父さんはすぐに来てくれた。
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