安城理沙-3


中学に上がれば何か変わると思っていた。

それはお父さんとお母さんも同じだったはず。

だけど長谷神が自分の毎日から消えただけでは現実は何も変わらなかった。

むしろ目の前から消えた方が奴の存在は色濃くなって、払拭できないものになっていった気がする。


長谷神の生き霊にでも憑かれているみたいに。


中学の担任が男だったことが怖かった。

長谷神とは全く違うタイプの教師だったけれど異性というだけで駄目だった。

性的な話をコソコソとして盛り上がるクラスの男子が怖かった。

どういう胸がいいとか、女の子のどの部分が好きだとか、そんな他愛もない話が不意に耳に届く度、気持ちが悪いという感情を超えるものが心を圧迫した。


そんな私に気付いた担任は、私を生徒指導室に呼び出し、男性恐怖症なのかと聞いた。

それとも俺の何かが気に入らないかと聞いた。

私は黙ったまま泣いていた。



中学一年の半ばから段々とまた学校に寄り付かなくなっていった私への、お母さんの我慢は限界に達していた。

私の頬を打ち、顔を赤くして喚くお母さんも

私と同じようにどうすればいいのかわからなかったのかもしれない。

私はそんなお母さんがたまらなく嫌いになった。


辛いのはあなただけじゃないのに

どうしてこんな酷いことをするのか。


何でも話していたお母さんとは徐々に口を利かなくなっていった。

お母さんはすぐに怒ることはなくなり

毎晩お父さんとケンカしていた。


階段の陰から夫婦のそんな言い争いを盗み聞く毎に、血は煮えたぎったように熱くなっていく。

やがて血の赤は紅になり、遂にはマグマのように発光すると、それまで怯えていた私の心は黒い煙を上げて溶かされていった。


恐怖が、少しずつ怒りに変わっていく。

そして怒りは恨みになる。

私の毎日がバラバラに散らばったのは

私の心の弱さのせいじゃない。

長谷神の理性の弱さのせいだ。


未来は過去によって成り立っていることを

思い知らせてやりたい。

胸の中に黒い牙が生え揃っていった。

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