第5話
「其方、余のスカートに転移しろ」
国王陛下が訳の分からないことを言い始めた。
今、陛下がはいているのは最近流行りのミニスカートだ。
俺は助けを求めるように、陛下の背後に控える従者を見た。
従者は一礼すると、国王陛下に小さく耳打ちした。
「陛下。タナカ殿が戸惑っておられます。やはり、先に説明から始めるべきではないでしょうか?」
タナカというのは俺の名前だ。
「む、そうであったな。せっかちは余の悪い性分だ。亡き兄上にもよく叱られたものだ」
この国王陛下、いわゆる名君というやつだ。
賢く、慈悲深く、勇気があり、家臣の言うことにもよく耳を傾ける。
快活な人柄は誰をも魅了し、民にも慕われている。
そんな名君にすら、殺すことでしか対処できない敵が存在する。
世の中ままならないものだ。
「実は次の標的はちと難しくてな。恐らく、其方の力が発揮できぬのだ」
どういうことだ?
「私の転移能力が無効にされるということでしょうか?」
「いや、そうではない。だが、其方の転移能力は相手を視界に納める必要がある。今度の標的は、警備の厳重な建物に閉じこもっていてな。まず、視界に納めること自体が容易ではないのだ」
なるほど。
「そこで余は一計を案じた。其方は一度転移したスカートの中であれば、自在に出入りできるのであろう?」
「はい、いかにもその通りです」
「だから、こうして余がはいているスカートの中に其方を一度転移させたうえで、これを贈り物として先方に届けようというわけだ」
応用編というわけか!
さすが陛下。俺よりもずっと賢い。
「かしこまりました。では失礼ながら」
俺は早速転移した。
それから、決して上を見ぬように静かに下がる。
上を見るのは不敬罪だ。
そもそも俺も見たくない。
国王陛下は満足げに頷くと、スカートを脱いで従者に渡した。
そしてフルチンのまま去っていった。
なるほど、やはり陛下は賢い。
あれならもし俺と同じ能力の持ち主がいても決して襲われることはないだろう。
俺は、あれが流行らないことを切に願った。
そうなればいよいよこの世界はお終いだ。
*
数日して、再び陛下が俺の下に現れた。
「働いてもらう」
それだけ言って、俺にいつもの毒刃を差し出した。
例の贈り物が先方に届いたのだろう。
陛下は俺に暗殺を命じるとき、いつも少し辛そうな顔をする。
元来慈悲深いお方なのだ。
だが、今日はひと際辛そうにみえた。
いったい誰を殺そうというのだろうか?
まぁいい。
暗殺の仕事に感情はいらない。
俺はただ頷いて毒刃を受け取り、贈り物のもとへ転移した。
転移した先で最初に見えたのは、真っ白で柔らかそうな、素敵な脚だった。
カランという金属音が響いた。
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