第4話
意外なことに、俺の能力はとてもとても暗殺に向いていた。
なにしろ、この世界の要人はその殆どが男で、その男たちは皆スカートをはいているのだ。
俺の能力で転移できる先はスカートの中だけだ。
転移の選択肢に選べるスカートは三つ。
最寄りのスカート。
視線の先にあるスカート。
そして、一度転移したことのあるスカート。
ターゲットを視界に入れることができれば暗殺は成功したも同然だ。
転移と同時に毒刃で一突き。
後は王宮に設置された帰還用スカートに転移すればミッション完了だ。
殺した奴らのことは、もう覚えていない。
俺には奴らのすね毛しか見えないからだ。
ちなみに、転移済みスカートであれば人間がはいていなくても転移できる。
ただし、畳まれているときは転移できない。
だから今、帰還用の転移済みスカートは国王陛下の石像がはいている。
俺は悲しかった。
この能力はこんなことのためにあるんじゃない。
女神さまだって、きっとこの世界をより良い世界にするために――
"いえ、別に構いませんよ。好きにやっちゃってください。見てますからね~"
……なんか聞こえた。
まさか、ただの暇つぶしのために俺を……?
"……"
……。
とにかく。
俺はとても悲しかった。
俺はこんなことのためにこの能力を手に入れたんじゃない。
俺は、この能力で女の子のスカートの中に潜り込みたかっただけなのだ。
なのに!
なのにどうして!
どうして男の股間にばかり転移せにゃならんのだ!
しかも、事態はより悪い方向へ推移しつつあった。
なんと、この世界でミニスカートが流行し始めたのだ!
もちろん俺のせいだ。
スカートの中に忍び込む暗殺者を恐れるあまり、この世界の要人たちはスカートの丈を短くし始めたのだった。
スカートの丈が短ければ、俺が転移してもすぐに気づけるからな。
おかげで少しだけ仕事がやり難くなった。
初めは、暗殺を怖れる要人たちが防犯対策としてはいていただけだった。
はいているのは皆いい年をしたおっさんたちだ。
だが貴き方々の間のささやかな流行は、瞬く間に下々まで伝播した。
いまや全ての男たちがミニスカートをはいている。
使う布地が小さくて済むので、庶民にも真似がしやすかったのも流行の原因だ。
そしてあろうことか、スカートの短さを競う風潮まで生まれ始めていた。
悪夢である。
俺はミニスカートも大好きだ。
だけどそれとこれとは話が違う。
なにしろこの世界の男たちには、パンツという概念がないのだ。
そんな男たちが、ガハハと笑いながら超ミニをヒラヒラさせて大股で闊歩するのだ。
この世の地獄だ。
俺という存在が、この世界を地獄に変えてしまった。
なんということだ!
女神さまに何と詫びれば――
"べつにいいですよ~。眼福眼福~"
くそ!このポンコツ女神め!
俺が世界の行く末を案じながら悶々としていると、ノックの音が響いた。
俺は王宮の中の一室をあてがわれているのだ。
「どうぞお入りください」
俺がノックに応えると、従者を従えた国王陛下がノッシノッシと入ってきた。
「寛いでいるところをすまんな。一つ、用事ができた」
この国王陛下は、暗殺を指示する際には必ずご自身がお出でになる。
何かしらの信念があってのことらしいが、興味はない。
「なんなりと、陛下」
俺が跪くと、陛下はずいと俺の前に立っていった。
「其方、余のスカートに転移しろ」
……何を言ってるんだ。この人は。
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