第3話
この世界に転移してから一年がたった。
俺は今、国王直属の暗殺者として暮らしている。
国王陛下のスカートから引きずり出された時の絶望的な光景は、今でも鮮明に思い出すことができる。
豪華絢爛な玉座の間。
そこに居並ぶ文武百官。
槍を構えて俺を取り囲む、逞しい兵士たち。
その全てが、むくつけき男共だ。
その全てが、丈の長いスカートをはいていた。
それだけではない。
玉座の間にはわずかだが女性もいた。
彼女たちは皆、一見するとスカートをはいているように見えた。
だが違った。
あれはガウチョパンツだったのだ!
スカートのようでスカートじゃない。
あんまりだ!
転移できないか試してみたが、やはり転移はできなかった。
その絶望的な光景に打ちひしがれていた俺を見て、国王陛下は言った。
「我が足元に、誰にも見つかることなく忍び込むとは! 褒めてつかわす!何なりと褒美を望むがよい」
それを聞いた、衛兵の一人が慌てたように言った。
他より豪華な鎧を身に着けているところから、隊長格であるらしい。
「へ、陛下!かような狼藉者に、罰どころか褒美を与えるなど前代未聞です!」
「よいのだ。この者は、まったく誰にも気づかれずに忍んできたのだぞ。小さな武器であれば持ち込むことも容易だったに違いない。なのに見ろ、この男を。丸腰ではないか。害意がないことは明白。であれば、その技量と勇気を称えるが当然であろう」
隊長らしき男が、俺の両脇を掴んでいた兵士たちを下がらせた。
解放されると同時に、俺の体はその場でへたり込んだ。
それを見た陛下は、訝しげな顔をしながらもう一度俺に声をかけてくださった。
「どうしたというのだ。其方が害されることはない。さぁ、望みを言うがよい」
……望みなんてない。
女性がスカートをはかないこの世界に、一体どんな望みがあるというのだ。
あるいは、褒美として女性をもらい受け、その女にスカートをはかせればいいじゃないか、と思う方もおられるかもしれない。
だが、それではだめなのだ。
スカートの中は宇宙だ。
中には何が入っているかはわからない。
だから想像力が刺激される。
開けたくなる。
自分で箱詰めしたプレゼントを自分で開ける行為の、一体どこに喜びがあるというのか?
いっそ殺してもらおうか。
いや、それは絶対に嫌だな。
死んだら、あの釜に放り込まれてドロドロにされるに違いない。
天国に何があるのかなんて考えたくもない。
生きねばならない。
さしあたり、この場を無事に切り抜け、かつ生活する手段を得なければ。
金だけもらってもだめだ。使い方がわからない。
外の治安が悪ければ、金だけ持った住所不定無職なんて真っ先に殺される。
あるいは、怪しいよそ者扱いされてなにも売ってもらえないことも考えられる。
ならば答えは一つ。
「……陛下にお仕えしたく存じます」
予想通り、国王陛下の口が大きく左右に広がった。
「よろしい!士分第一等の待遇をもって迎え入れようぞ!」
かくして俺は、ひとまずの生活と保証された身分を手に入れたのだった。
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