第2話

 女神さまのスカートの中に転移したら、そこは宇宙だった。


 おい!これはどういうことだ!

 スカートの中どころか宇宙空間に放り出されたぞ!

 さては欠陥能力を寄こしやがったな!


「ウフフ。女の子のスカートの中は一つの宇宙なんですよ?」


 どこからともなく、女神さまの声が響く。


 何ということだ!

 そういえば、師匠もそんなようなことを言っていた気がする。

 師匠は、俺にスカート道の奥深さを教えてくれた漢の中の漢だ。

 今は塀の中にいる。


 "Yes、スカート!No、タッチ!"


 これが師匠の第一の教えだった。

 だが、師匠は、自らの教えを守ることができなかった。

 塀の中の師匠に会いに行ったとき、彼はボロボロと大粒の涙を流しながら言ったものだった。


 "いいか、お前は俺のようにはなるな。スカートは愛でるモノだ。決して触れてはならなかったのだ……"


 以来、俺はその言葉を深く胸に刻んで生きてきた。


 それがどうだ。

 俺は力を手に入れたとたん、その力に溺れ、あっさりとその教えを破ってしまった。

 何というふがいない弟子であろうか!


 そしてその結末がこれだ。

 これは教えを破った俺への罰だ。

 俺は宇宙を漂う塵となり、間もなく考えることをやめるのだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 あの、女神さま。

 もう反省しましたので、ここから出していただけないでしょうか?


「入るのは簡単なんですけど、出るのはちょっと大変なんですよねぇ。宇宙の端まで行ければ、ペラっとめくって出てくるだけでいいんですけど」


 端までいけばいいのか。


 俺は手足をバタバタさせてみた。

 しかし、周囲の景色は全く動かない。


 そりゃそうだ。

 いま目にしている光景は宇宙的な規模なのだ。

 人間が多少平泳ぎをしてみたところで動くはずがない。

 というか本当に動けているかも怪しい。

 そもそも宇宙の果てってどっちだ。


「まぁいいか。この世界も私の管轄ですし。このまま、この世界に転生したことにしちゃいましょう。とりあえず、もう一度能力を発動させてみてください。最寄りのスカートの中に飛び込めるはずですよ」


 なんということだ!

 こんな簡単なことすら思いつかないとは!

 そしてそれをこの女神さまに教えられるという屈辱!


「さりげなく私をバカにしませんでしたか?」


 まぁいい、何より優先されるべきはスカートへの転移だ。


 さぁいくぞ!


 能力発動!


 今度こそ、俺はスカートの中に転移した。

 薄暗い中に見えるその布は、絹のような高級感溢れる素材でできていた。

 さては、このスカートの主は高貴な身分の持ち主に違いない。

 何という僥倖であろうか!

 初っ端からそのようなやんごとなき女性とお近づきになれるとは!


 だが、俺はすぐに異常に気付いた。


 それは足だ。


 太くて逞しい立派な足だ。


 そして、ゴワゴワとしたすね毛がびっしりと生えている。


 俺は恐る恐る天を仰ぐ。


 そこには、二つの鐘と、それを打ち鳴らす立派な棒がぶら下がっていた。

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