女神さまのスカートの中に転移したら、そこは異世界だった

ずくなしひまたろう

第1話


「ぱんぱかぱーん!おめでとうございまーす!」


 真っ白な部屋の中で、能天気そうな顔をした女が、安っぽいベルをチリンチリンと振り回しながら叫んでいる。

 ウェディングドレスに似た、真っ白なワンピースを着た女だ。大きく膨らみフリルで飾られたスカートが、ベルに合わせてフワリフワリと揺れる。

 大変に魅力的な光景だ。どうにかしてあの中に潜り込みたい。


 しかし、いったい何がめでたいのだろうか?そもそもこいつは誰だ?


「私はこの世界の魂を管理している女神です。『女神さま』と呼んでください」


 俺の考えを読んだかのように女が答えた。

 なんてこった。おめでたいのはコイツの頭の中だったか。


「ム〜!失礼な人ですねぇ!」


 女が頬を膨らませながら言う。

 よくよく見れば、とても可愛らしい顔をしている。

 大変に知能が低そうな点を除けば、俺の好みにドストライクだ。


「ち、知能が低そうって……! あなたの好みに合わせた姿にしたはずなのに……」


 自称女神がショックを受けたようにその場にしゃがみこんだ。

 どうやら本当に俺の考えが読めるらしい。


 でも仕方がない。知性というのはその内面からにじみ出るモノなのだ。

 外見を多少いじったところでどうにもならない。


 あ、女神さまが本格的にいじけ始めた。


 あ、あのすみません。言いすぎました。

 ところで、その女神さまが私のような人間に一体何の御用なのでしょうか……?


「そうでした!あなたは本当に幸運なのですよ! 死んだ魂がどうなるのか、貴方はご存知ですか?」


 知るわけがない。


「そうでしょうとも。死んだ魂は、ふつうはあの溶魂炉に放り込まれてドロドロに溶かされます」


 そう言って女神さまは背後にある巨大で怪しげな釜を指さした。

 その周囲には怪しげな人型の生き物が群がり、長い棒で釜の中の何かをグルグルかき混ぜていた。

 端的に言って不気味な光景だった。


 あ、あの……溶かされた魂はどうなるのでしょうか?


「たまに回収車がやってきて天国に運んでいきます。そのあとは知りません」


 本当に知らないんだろう。頭悪そうだもんな。

 しかし、あの中には混ざりたくない。なんだか悪い予感がビンビンする。

 具体的にはわからないが、絶対、気持ち悪いことになる。

 そんな予感がする。


「あ〜嫌そうですね〜。皆さん嫌がるんですよ。でもご安心を!貴方はその運命を免れました!」


 それは朗報だ。

 でもじゃあ、俺はどうなるんだ? 多分、もう死んでるんだろ?


「えぇ、死んでいます。でも大丈夫! 厳正なる抽選の結果、貴方は『特別生まれ変わりプログラム』の対象に選ばれました!」


 そう言って女神さまはもう一度チリンチリンとベルを振った。

 それに合わせてまたスカートがフワフワ揺れる。


「特別生まれ変わりプログラムに選ばれた魂は、人間として現世によみがえることができます! それだけではありません! な、な、ななんと!ご希望の特殊能力付きで生まれ変わることができるんです!」


 おぉ!これが噂に聞くチート転生というやつか! それに俺が選ばれたって!?

 何という幸運!


 そ、それでどんな能力がもらえるんだ?


「なんでもいいですよ。ただ、世界を壊さない程度に制限はかかります。さぁ! 希望をおっしゃってください!」


 よし!スカートの中に転移する能力をくれ!


「え?」


 だから、『スカートの中に転移する能力』だよ!

 聞こえなかったのか?このポンコツめ!


「あ、あの、そんなのでいいんですか?」


 これ以上、何を望むことがあるっていうんだ。

 女性のスカートの中は桃源郷だ!

 この世の楽園だ!

 そこに自由に出入りできるなら、俺は死んでも構わない!


「……まぁ、貴方がそう望むなら。 さあ、いきますよ!」


 突然俺の体が輝きだした。


「これで能力の付与は完了です。 次は転生先の選択を――」


 女神がまだ何か言っていたが、もうそんな事はどうでもいい。

 目の前にはフワリフワリと素敵なスカートが揺れている。

 一刻も早くこの能力を試さなくては!


 転移!


 俺は目の前のスカートめがけて能力を発動させた。


 ぐにゃりと世界がゆがむ感覚。


 程なくして、俺は真っ暗な空間に転移した。


 ここがあのスカートの中か。


 思っていたよりも広いな。 


 いや、広いどころじゃないぞ。

 両手を広げても、何の感触もない。

 スカートの布どころか、足にすら触さわれない。

 というか、床すらない。


 一体どうなってるんだ?


 よくよく目を凝らしてみると、闇の中にいくつもの光が浮かんでいる。


 これは……星!?


 女神さまのスカートに転移したら、そこは宇宙だった。

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