第三話:飛んできた救いの手
そこは、一眼見て前人未到と分かる場所
「高過ぎるじゃろコレはぁぁぁぁぁ!!!」
コレはぁぁぁぁぁ!!!
はぁぁぁぁぁ!!!
ぁぁぁぁぁ!!!
……
白雪のこだまが響く、山の上の大地。
よく見れば腕が蝙蝠の翼ないわゆるワイヴァーンなどが飛んでいる。というか、彼らこそこの大地の住人なのだろう。
「高低差がえげつないだろう?
私も、ボルダリングで降りるには少しばかり勇気が足りないと感じたよ!はっはっは!!」
コロラドの言う通り、降りるにしたって高すぎる崖が見えないほど下げ続く崖を上り下りする勇気はない。
「笑い事じゃない!!
……これでは、どうやって合流すればいいか……!!」
「そうだわ!ウォッカ呑んでフワフワした気分で飛び降りれば飛べるんじゃないかしら!!」
「ごめんガングートさん、私お酒飲むとずっとグチグチしてるタイプだから軽くならない」
「あらら時雨ったら……重い女ね」
「重……!?!」
「ふざけている場合ではないぞ時雨に、ガングート!!」
「あらあら、ふざける余裕もない状況になんかなったらそれでこそみんな自沈するしかないのよ大鳳?」
と、ウォッカをあおり冷たく言い放つガングート。
「あなた、真面目なのは良いのだけど……
まぁド級戦艦の老人の話として聞きなさいな。
生きてるって事はねぇ、何をやってもダメな時っていうのがどうしてもあるのよ。
そんな時は一回諦めてウォッカでも呑んで寝て状況が好転するまで待つのも必要なの」
「そんな悠長な!!!」
「あなたはそれで良いでしょうよ。
ここにいる他の艦はね?
誰もその悠長さが無い状態には耐えられない。
クイーンダム艦じゃ無くっても、そんな状況に耐えられるわけが無いのよ」
珍しく
「…………私は…………」
一瞬で、自分の正論が間違いな事に気づく。
皆、戦闘後そのまま今まで歩いてきたのだ。
……疲れてないハズなどない、と
「大鳳さん!」
ふと、
「大鳳さんの考えも、我々は分かっています!
けど……休憩ぐらいしましょう。
上がやらなければ、下も休憩できない。ですよね?」
『まぁ我々クラスノは勝手にやるけどね!!』
「分かっとるから黙っとれい!!
大鳳、時雨の言う通りじゃろ?ワシら大東亜軍は変に真面目なんじゃ……じゃが、真面目にしとるだけではいずれ力尽きる。
クラスノが呑んだくれなのは事実じゃが、今は飲んだくれるなりなんなりして休め。
どうせこの崖じゃ、降りる方法を思いつくにも時間がかかり過ぎる。
ワシも……正直気が滅入って呑みたい気分じゃ……この高さじゃぞ?」
遠くで鳥の声が聞こえる。
自由に空を飛べる翼を、船の力を持つ大鳳たちは持たない…………
「…………そうだな……
……みんな、疲れているんだ……私も……」
ふぅ、とため息混じりにそう言う大鳳。
ふと、彼女の目の前に差し出されるタンブラーが一個。
「疲れにはタンパク質、つまりプロテインだ。
なに、1年分は備蓄しているぞ?水もまぁちゃんと煮沸しておいた。ココア味でいいかな?」
「…………すまない」
コロラドが差し出したプロテインは、煮沸した水を使った少し味気のない味とぬるい味だった。
だが……身体と心には染みる味だった。
「…………私は最低の旗艦だな。
自分の疲れに気付かないとは……」
「大鳳くんと言ったかね?
建造から何年かな?」
「…………1年は経ってない。この場のどの艦より若輩者だ……あなたよりも」
「なら、これもいい経験と思おうじゃないか!
あまり気分が滅入るなら、筋トレにストレッチで脳内物質を出そう!
ストレスは、適度に身体を鍛えて発散さ!」
にっこりと白い歯を見せて笑って言うコロラドの言葉に、ようやく大鳳の顔から険が取れる。
「……すまない、コロラドさん。
皆も……まずは休もう」
大鳳の言葉に皆が温かい笑みで答えた。
***
「ルーニ、ルーニ、アレやってアレ!!」
「分かったー!!
しゅぼー」
ルーニは、角が生えているせいか火が吹けた。
焚き木がすぐに燃えてくれる。
「お前火を吹けるのか!?」
「見たことも聞いたこともない艦かと思えば、そうか……原生成物と非シーリングコアで出来た子なのか」
燃える焚き木にキャッキャしている背の高いフリートレスを見てコロラドが納得する。
「おそらく実験で使っていたものが散らばったのだろう。
あなたと言い、相当数の非シーリングコアフリートリアが散らばっている」
「通りでか……ふむ。
話は変わるが例の古戦場くんは静かだな」
「タイコンデロガか。
コロラドさんは、ここが衛星通信をも妨害されていることに気付いていますか?」
やはりか、とフリートライザーから聞こえる雑音を聴きながら呟くコロラド。
「電波障害の原因はなにだと思うかね?」
「検討も付かない。
が、対処法ならある」
ふと、カタパルトアローを構え、上空に三発。
放たれた矢は、零式水上偵察機と変わる。
「偵察機かね?」
「そしてアンテナだ。
上空ならば、妨害の薄い範囲を割り出せ、等間隔で飛ばしてこちらの無線が届くよう増幅器にすれば、」
『───私と繋がる』
と、唐突に大鳳の無線に聞こえるタイコンデロガの声。
「タイコンデロガ、盗聴できるなら声も届けて欲しかったがな」
『大鳳、コロラドに対してやっていたのは盗撮。
光学情報なら電磁波妨害は関係ない』
「晴れていてよかったということか。
オリバーポーズ見えているかね?」
『キレッキレの筋肉を見せつけているところでアレなのだけれども、光学情報でいい話がわかったので伝える』
と、妙なことを言うタイコンデロガ。
「いい情報とは?」
『コロラドの方が詳しそうだが聞きたいのだけど、
あなたの陣営のフリートレスに飛べるフリートレスはいるか?』
「何?いるにはいるのだが、もしや……!?」
『BB-60の型番を翼に書いた相手に心当たりが?』
おぉ、と驚くコロラドの声とは別に、うわぁと響く声が。
「おいなんだアレ!?空を見ろ!?!」
「何?鳥でもいた、ってでっかい!?!」」
「いや飛行機じゃねあの速度!!」
「違うぞみんな!!彼女は、」
そう言ってコロラドが飛び出すように立ち上がり、崖の方へ走る。
その瞬間、ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン、と響く、レシプロじみたエンジン音と共に、大鳳の艦載機ではない何かの翼が上空を通り過ぎる。
「うわぁぁ……!!!」
1人の風とともに樹々がざわめき、大きく旋回して再び戻ってくる。
崖側から近づく翼は、二つに割れた艦首が開いた物。
巨大な4つの連装砲塔は戦艦の証。
スクリューをプロペラのように回して風を巻き上げ、鳥には出来ないホバリングで降り立つ。
「ハァイ、皆さんお揃いで!!
ステイツのヒーローの一人、アラバマ見参よ!!
お困りかしら?」
腰に手を当て地面に降りる、褐色肌の健康的な身体の彼女。
ツインテールの髪を揺らし、タカというべきかヒーロー然としたバイザーをあげてそう尋ねる。
彼女こそ、ステイツ陣営サウスダコタ級
アラバマだ!
「やぁ、アラバマくん!!
良くここが分かったね!!!」
「やっぱりコロラドさんね!!20キロ先でも筋トレの声が響いたし、その上ゴジラみたいなでっかいドラゴンが飛んできたのよ?
ビッグセブンのあなたじゃなかったら、恐ろしい一つ目の巨人だったりって二人で怖がってたの」
『二人?』
二人、と皆が疑問を声に出した瞬間、何やらジェットエンジンじみたすごい音が響く。
アラバマの背後の崖の向こう、
下から浮上してくるのは、10mはある模型にしては大きな戦艦!
船弦装甲が開いて翼のようになっていたり、スクリュー部分からジェット噴射して浮かんでいる……
『───やったぜ!こんなところに友軍がいるなんて最高だね!!』
直後、飛んでいた戦艦は空中でくるりと回りながら『変形』を始め、
ズゥン!!
一瞬で、8mはある巨大なロボットになる。
「…………カッケェ……!!」
タシュケントは思わずそう呟いた。
「紹介しよう!!
こちらがインディアナ君だ!!
このロボット型艤装は小型ビッグセブンを目指して作られたらしい、つまりは私の艤装が元だ」
『その通り!このおっきな艤装が、ボクの力だ!』
と、その言葉と共に胸のハッチが開き、ぴょんと出てくる中の人。
サウスダコタ級2番艦、インディアナ…………
「…………」
「…………」
「…………な、何さ急に黙って?」
「…………ちっさ」
インディアナは妹のアラバマの大体肩辺りまでの背だった。
「誰が『戦艦で小さい方のインディ』だコラァァァ!!?!?!?」
ポカポカと似たような背か、もしかすれば若干大きめのタシュケントに殴りかかる。
これは余談だが、対義語は『重巡で大きい方のインディ』あるいは『インディアナポリス』である。
「痛い痛い、ごめんって、ごめんって!!」
「小さくないもん!!!なんならおっぱい大きいもん!!生物学上は成人済みだもん!!!
ダコタ姉はともかく、下の妹が、マサチューもアラバマもなんで、なんで二人ともデカいんだよぉぉぉぉぉ!!!」
ちなみに、おそらくアラバマは175以上あるモデル体系である。
「落ち着くんだインディアナくん!!
身長は体質や遺伝情報が絡む物だ!!
なんなら私だって、160辺りだぞ!!」
え、と一瞬全員思ったが、言われてみれば筋肉が大きいだけで背はそんなにでもないコロラドさんに気付く。
そしてこの時、一番大きい背を実は気にしているヴォロシロフが密かにショックを受けて隣のソオブラジーテリヌイに慰められていたのは、さておき、
「うぅ…………良いもん!!艤装でかいもん!!
うぅ……アラバマー、なんでそんな大きくなっちゃったんだよ〜!!」
「あー……姉さん気にしないで?ほら、姉さんはちゃんと姉さんしてるから……」
と、泣きながらアラバマに慰められるインディアナだった。
どっちが姉か分からない。
「…………まぁこの話は不毛だからここまでにしよう!!
それよりも、アラバマ君!!
君の力を貸してくれ!!」
パチンと手を叩いて、話を本題に戻すコロラド。
「なるほど!
OK!!コロラドさんの頼みとあれば!!」
ふと、艤装を解除した二人。
用意は、できた。
「コロラドさんまさか……!」
「彼女たちと私がいれば、こんな高さだろうと89km先だろうと一瞬で行けるのさ」
コロラドが取り出すは、右腕に装着する手甲のようなデバイス。
「さて、久々にやる物だから、安全のためにも皆下がっていてくれ。
行くぞ!!」
さらに取り出すは自身の54式フリートライザー。
《BTTLE SHIP. BTTLE SHIP. BTTLE SHIP.》
右腕のデバイス……そう、「G-フリートライザー』へ開いて差し込む。
《WARNING!STARTED for GIGANTIC FLEETRISE!》
「
両の拳を打ち合わせ、
「
天高く音速突破するようなパワーで右腕を振り上げる。
《GIGANTIC WEIGH ANCHOR》
瞬間、コロラドの遥か上空に現れる光。
そこからまるで3Dプリンターのように、艦首からブロックごとに伸びて、形作られる一隻の戦艦。
戦艦コロラド
それを模した、フリートレスコロラドの専用『巨大艤装』だ!
「おぉ〜……!!!」
第二次大戦の頃の戦艦の姿からは想像のできない垂直離着陸機能を発揮して、ゆっくりと木々を薙ぎ払って着陸するコロラドの艤装。
「さぁ皆乗りたまえ!
船出は近いぞ?」
外見からは想像もつかないほど、コロラドのブリッジは現代的である。
外を一望できる窓は、当然のように3Dディスプレイにもなっており、必要な情報は随時映し出される。
「操舵席貰いー!!」
「ずるいぞ!!」
「うははぁ♪ボクの艤装より広いしカッコいい〜!!」
「こらこら遠足ではないのだよ!!
もっとも、はしゃぎたくもなるだろう。
なにせ、ビッグセブンの中なのだから!!」
艦長席にあたる位置で得意げに両腕を広げてオリバーポーズをとるコロラド。
ビッグセブンの内部は、素直にカッコいいのだ。
操舵装置、レーダー、ソナー、機関の出力、戦略ボードに羅針盤!!
どれもが、豪華でなお実戦に耐えられるタフさを醸し出す!
フリートレスなら興奮せずにはいられない!
「さて、艦長殿はここからどうする気だ?」
「提督代行の大鳳くん?当然、船は航海するためにある。
そんな訳で、インディアナ君の方がこの場合良いかな?」
「任せて!!サウスダコタ姉の次ぐらいには強力な重力パワーを見せてあげるよ!!」
「まぁ事実だし、私の力は人型になった時に使うべきね……でも姉さん?
コントロールは、私が一番!2番目はたぶん、マサチュー姉さんでしょ?」
「はいはい、生意気だぞ背も態度も!!
まったくさー、すぐ大きくなっちゃってさー、今はボクの出番だぞ!!」
と、言ってニコニコと近くの端末に自身のフリートライザーをかざすインディアナ。
《Indiana : Access completed.》
インディアナの力がビッグセブン艤装と繋がり、その力を映しとる。
そう、小型ビッグセブンを目指し、8m級の人型と10mもの大型搭乗艤装となる力を。
そして、サウスダコタ級フリートレス特有の『ある力』を。
「では、行こう!!
コロラド、機関前進、
「機関前進限界突破船速!!」
「機関ぁーん、前進ぃぃん!!ヨーソロー!!」
皆ノリノリで叫ぶ中、微かな振動とともにコロラドが進み……
いや、
「ワァオ!私達サウスダコタ級の力、『重力操作』がしっかりビッグセブンでも使えているわ!!」
窓の外、ただでさえ高い大地のさらに上。
雲の上まで戦艦が浮かび上がる光景を、一番高いところから見てアラバマが感嘆する。
「さらばー地球よー♪旅だーつ船はー♪」
「こらこら白雪くん!大和君に失礼ではないか?」
「しかし、こうして本当にビッグセブンの力────我々フリートレスの力を借りることの出来る光景を改めて見ると驚くな……」
「まぁ、我がことながら、攻撃系に使いやすいフリートレス諸君の力は……
大抵が私のバトルシップマッスルの補助に使っているからね」
まさに戦艦級の馬力と硬さと存在感を見せるマッスルを見せて言うコロラド。
圧倒的な説得力である。
「何はともあれ短い航海を楽しもう!!
全速前進!!目的地は、味方の拠点だ!!」
何はともあれ、戦艦は空を進む。
海の方角へ……
「…………む?」
「大鳳くん、どうしたのかね?」
「いや……通信をつなげてくれ。
今、さっきまでの電磁波障害が消えたんだ」
ぶぅん、と音を立てて艦橋の前を大鳳の艦載機が横切る。
「こんなに早くかね?」
『そう、こんなに早く』
と、再び真上のタイコンデロガが通話を繋げてきた。
「やぁまた会えたねタイコンデロガくん?
どういうことか、君は分かるかね?」
『あなた達の言い方で言えば、さっぱり。
なぜあんな局所的に電波が遮られたのか、そもそもあの大地はなんだったのか。
……まぁ、私も晴れている時は真上から眺めてみようかなとは思っている』
「ふむ……さっぱり分からないか……」
ふと、進むコロラド艤装の艦橋の中から、見えない後方の大地へ振り向くコロラド。
「個人的には、いずれ調べてみたいものだね」
…………船は、空高く目的地へと進んでいく
背後の大地に、謎を置き去りにして
***
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます