第二話:遭難部隊と筋肉の異世界漂流期
ニューロペー大陸のどこか
ものすっごい山奥なのが見て分かる場所
「お名前分かるー?」
「わかんない!!」
「返事がよろしいぞ同志」
「どうし?」
「我々、クラスノ陣営の仲間の呼び方さ……なんとなく分かるかいー?」
「今覚えた!!」
ふいーと、建造された謎のフリートレスと会話して、ふいーとため息をつく
「まずいねぇ、本当に本当の新型フリートレスになっちゃったな☆
しかも私のせいだぁ!!
粛清じゃん、ラーゲリじゃん、シベリア送り25ルーヴルじゃぁん!!!うわー!!!」
「どうし、大丈夫?」
「ダメっぽい!!」
「こんな元気で何言っとんじゃお前は」
「同志タシュケント!!緊張感は大事ですよ!!」
近くで見ていた
たはー、と笑う辺り
「まぁ生まれた物は仕方ないってことだよ。
じゃあ、まずは君に名前をつけよう!!
案がある人いる!?」
「もぉ!やっぱり緊張感がない!
……同志寧海が、ひょっとしたら置き去りになったかも知れないのにぃ……!」
「……置き去り、ね……まぁきっと無事さ。
なぁ同志新しいのはどんなお名前が良いかな〜?」
「ボクのお名前ー??うーん、何が良いかな〜???」
一瞬、相方の様な間柄だったある艦を思い出す一人称に面食らい、妙に穏やかに笑ってしまうタシュケント。
「適当で良いじゃろ。なんかルンルンしてるからルンルンとかで」
「お……ルンルン……ルンか!
決めた!今日から同志の名前はルーニだ!」
「ルーニ?」
「ちょ、同志タシュケント!?
流石にそんな
と、適当に言った言葉で何故か名前が決まり、クラスノ艦達が盛り上がるのを理解できないまま疑問符を浮かべる白雪を他所に名前が決まった。
「いいじゃないか、ほらツノ生えてるから怪物じみた名前でも。
なぁルーニ良いだろ?」
「ボクの名前はルーニ!!」
等の本人は嬉しそうな無邪気な笑みである。
「……なぁ、怪物じみたってどういう事じゃ?
おんしらの大地にパンダいないじゃろうし」
「パンダの名前っぽいと言われたいのでしょうけど、そもそもルーニとは、我が国の歴史で船に関する物だと……」
「おーい!!
そろそろ移動するよー!!」
と、仲間の駆逐艦装少女、
「分かったー!すぐに行くー!!
……ほれ、立てるか?」
「うみゅ!」
元気に立つルーニ。
────白雪はこれで167cmあるのだが、ルーニの目線が高い。
「お前……意外と
「わ、私よ頭一つも無いなんて……!!」
ヴォロシロフは、故あって2m越えの凄まじい長身である。
だが目の前のルーニも、なんというかまだヴォロシロフが上というだけで十分身長が高い。
目測185以上、190未満である。
「うみゅ??」
そして頭の中はまだ赤ん坊かのような目でヴォロシロフを見てくる。
「お前たち、いつまでそうしている?」
と、ここで痺れを切らした
「ごめんなさい!今行きます!」
「ほれルーニ、しばらく歩くぞ」
「歩けるかいルーニ?」
「大丈夫!!」
「返事はいいようだが、思ったより歩くことになりそうだぞ?」
***
川沿いに下流に向かって歩く一行。
……やはりというか、タシュケントはヴォロシロフにおぶって貰っている。
「この先に味方がいる」
「味方が?
こぉんな竜がいるような世界に味方がいるって言うのかい大鳳?」
「ああ、何せ通信を貰った。
ここは、ビフレストが漂着した世界だそうだ」
大鳳のセリフに、全員が驚きの声を思わず漏らす。
「……オイオイ、漂流した先が探してた漂流船の到着場所かい?
映画ならいい導入だねぇ、同志大鳳?」
「ああ。ここから、東へ約89キロ先が停泊している海らしい」
「2日歩けば着くのかァ!?
なんじゃあ、随分近いのぉ……!!」
「その通りだ白雪。我々は悪運だけはあるようだ……
ただ問題は、『直線距離』なら、らしい」
なんともお茶を濁すような言い方をする大鳳。
「それってどういう、」
ギュワァァァァァァァァンッッッ!!!
こと、まで言いかけた辺りで突如鳴り響く巨大な叫び。
あきらかに何か恐ろしいモノがいる声だが、それは直後響いた声にかき消された。
────ヌゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!!
野太い、だが辛うじて女性と分かる声だった。
───489ッッッ!!!ハイ490ッッッ!!!
ギュワァァァァァァ!!ギュワァァァァ!!!
さらに獣の叫びと、謎のカウント。
一体、何が彼女らを待ち受けているのか……
一行が恐る恐る武器を構えて向かった、その先で見たものとは……!!
***
─────地面に突き立てられた指が6つ。
親指、人差し指、中指、左右で1組。
ポタポタ、と大粒の滴が───褐色に焼けた肌を伝う汗が地面に落ちるそばで地面をとらえる。
「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」
その腕と二の腕の逞しさはまるで鋼だった。
細いのは肉がないのではない、無駄なものを絞りきり、支える筋肉だけが残っているのだ。
二の腕の筋肉の盛り上がりと力のかかり方はまさにエンジン。中で今も内燃して動力を伝えている。
「これで496回ィ!!」
広背筋の見事な逆三角形。それは『正面から見た戦艦の艦首』。
そんな形が一瞬見えるように鍛え上げられたと誰もが思える完璧な形。
「ヌグゥ……497!!」
恐らく体質のせいで大きな胸の膨らみの下、決してサボらずにバキバキに割れた腹筋。
「まだまだ……498ィッッッ!!」
40.6cm───16インチ砲のような太さの太ももと足で真上に支えるは……!!!
ギュワァァァァァァァァン!!!!!
30mはあろうかという、厳つい顔と巨大な牙の、もっと巨大な四足歩行の竜の怪物の片足だった。
「ここに来て負荷を増すか!!フンヌゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!」
逆立ちしたまま足で相手の腕の押し潰しを受け止めて、頭が地面に着くまで腕を曲げる彼女。
「499ゥゥゥゥ!!!!」
まさに人間ジャッキアップ。
パンクしたタイヤを直す時の車のように巨大な竜の腕が持ち上がる。
バランスを崩しかける力に、だが竜も負けじと押し返す。
「最後の難関か!これができて初めて私が『ドラゴンスレイヤー』というわけかァ!!!」
折り曲げる腕。畳み掛けるよう全身で体重をかける巨大な竜。
「ふんぐぬぬぬぬぬぬわぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
そして、過去最大級の力を込めた腕が、相手の全体重を支え……いや、持ち上げる。
「500ゥゥゥゥ!!!!!」
ピーン、と伸びる逆立ちの姿勢。
僅かな高低差と思えない信じられない力に、竜が姿勢を崩して横に倒れた。
「…………ふぅぅぅぅぅ……!!」
彼女は立ち上がり、手荷物などを置いてある木にかけておいたタオルで汗を吹き始める。
「……500回だ、未知の生物くん。
私のトレーニングにつき合った回数だが、捕食のためにしては随分と執念深い話ではないか?」
黒いロングヘアーを拭いていたタオルを手際よく畳み、色々パッツンパッツンな軍風な白の半袖シャツを着る。
ネクタイを結びそして、手荷物の『54式フリートライザー』……の隣のメガネを取り出す。
「だが、この私こと『コロラド』に付き合った事を褒め称えよう。
よく、ついて来てくれた……!」
手荷物のフリートライザー……の左隣の白い色の液体の入ったタンブラーをつかむ。
お分かり頂けただろうか?
そう、プロテイン飲料|(ヨーグルト味)である。
グイ、と一気に半分飲み干し、喉を潤し全身にタンパク質を行き渡らせる。
「ふぅー……君の負荷のおかげか、いつもよりもプロテインが身体に染み渡る」
プロテイン片手に微笑みを浮かべる彼女の視線の先、
あまりにも大きな厳つい牙を持った刺々しい顔の竜が吠える。
巨体を支える筋肉のまま、弾丸のように突進するのは次の瞬間だった。
目の前に迫る巨大な質量。
しかし、飲み干したタンブラーを置いた彼女は唐突に迫った牙を正面から掴み受け止める。
パァン、と衝撃波が森を揺らし木々をざわめかせる。
両者、その場からピクリとも動かない。
圧倒的に小さいはずの彼女も、
勢いよく突進した巨大な竜の身体も、
ピタリと、その位置から動いていない。
「素晴らしい牙の強度だ!折れないとは、普段からデンタルケアを欠かしていないと見える!!」
いや、よく見れば彼女の血管が浮かび上がる腕も、巨大な竜の首や脚も微かに震えている。
互角!!
両者のパワーは、互角なのだ。
だから、
「だが、その肉体は私を動かすには力不足か!
どうやらトレーニング量は私が上のようだ!!」
ヌゥン、と言って、唐突に竜の後ろ足が上がる。
そう、彼女は
30mはある超巨大な竜の身体を!
パワーは互角などではなかった……!!
「せっかくトレーニングに付き合ってくれた君だが、お礼に喰われてやる訳にもいかないのだ!!」
途端、自分を軸に竜を一回転させ、真上へと投げる。
「安心しろ、手加減はしよう」
す、と引き絞るよう身体を曲げて構える彼女。
物理法則に従って落ちる竜。
「16インチの拳は、」
そこへ、ブンと風を切って右拳が放たれる。
「全てを砕く!!!」
直撃。顔面の牙が折れ、
一瞬で30mの巨体が空高く放物線を描いて消えていった…………
「もう逢うこともないが、達者で暮らすんだぞー!!」
はっはっは、と腰に手を当てて笑う彼女。
「いや、あんたアレ普通に死ぬじゃろな……?」
「同意だわー」
そんな彼女の後ろにいた白雪とタシュケント、そして黙っているその他諸々にようやく気づく。
「おぉ、見たことのない顔だが、馴染みの陣営の面々か。
いや見た顔もいるじゃないか!
時雨くん、久しぶりだな!!」
「一応6年ぶりになりますね、コロラドさん」
はっはっは、と彼女───コロラド級
「そんなに経ったとは驚きだ!!
もっとも、ビッグセブンが未知の場所で建造される事態がもっと驚きだが」
「ドラゴン出て来てその落ち着きかぁ。
ステイツの『
「そうだとも、クラスノのフリートレスくん?
この私の筋肉が、荒馬と言わずなんと言うのかね?」
言うや否や、コロラドはダブルバイセップスによって二の腕の筋肉を持ち上げて見せる。
「な、ナイスバルクだなぁ……!」
タシュケントも苦笑い混じりに納得のの説得力だった。
続けてサイドチェストするコロラドのドヤ顔が凄まじい。
「筋肉談義もいいが本題に入らないか?」
と、出てきた大鳳がそう呆れた顔で言う。
「ほう?君がこの場の旗艦かな?はじめまして」
「はじめまして、私が大鳳だコロラドさん」
「そして本題とはもしや、『直線距離89キロ先の本営地に向かう方法』かな?」
「!
状況を知っているのか……!?」
「言葉だけではないさ。
少し歩こう、皆も来てくれ!」
ふと、コロラドはそう言って歩き出す。
しばらく歩いた先は崖だった。
「うわぁ……!!」
ただし、圧倒的に高い崖だ。
この森は、信じられないほど高い場所にあった。
よく見れば周りにも似たように広く平らな大地が信じられない高さで本来の地面から盛り上がり、それぞれを断絶ているようだ。
回りくどくなったが要するに、
ここは高い山の上に存在する森だったのだ。
「高過ぎるじゃろコレはぁぁぁぁぁ!!!」
コレはぁぁぁぁぁ!!!
はぁぁぁぁぁ!!!
ぁぁぁぁぁ!!!
……
白雪のこだまが、いつまでも響いていた。
***
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