side島風-最速の艦装少女-:ログ2
Part.1: ビギンズ・デイ
『───ま風!聞こえるか!?島か────』
ボクの名前は
最速の
『──オイ、こっちを見ろ!見るんだ!し───』
本当は、もっと速いフリートレスがいた
いたってことは……もういないってこと
もう……ボクが強制的に最速に『なった』ってこと
「救えなかった……」
『何!?なんだって!?!』
ボクは……ボクは救えなかった
とっさに動けなかった……あの人みたいに
だから…………ボクは……!!
「タシュケントさん……!」
ああ……夢であって欲しい
なんで……こんなことになったんだっけ…………
***
ピピッ!カチッ!
「………………」
2169年7月18日 06:12
目覚ましをワンコールで切って、ボクの朝はそこから始まる。
「……ふぁ……〜〜〜!」
ゴソゴソして数分、ようやく布団から出てあくびと背伸び。
寝るときは全裸派だから、大東亜フリートレスじゃ普通の際どい割に普通の下着より頑丈なTバックと、マイクロビキニじみたブラを付ける。
採用者が同じっぽい、裏で『ズリ穴』って呼んでる下乳の露出のあるインナースーツと一体型のお尻の脇とか丸見えな短い前掛けなんかの変態衣装を上から着る。
でもこれ、着ると分かるけど嫌味なぐらい戦いやすいし、動きやすい。
何より、フリートレスの身体だとこの露出じゃなきゃキツい理由があるんだ。だからこそ、色々と『実用的』な服を着てはい、身支度終わり!
壁の鏡に映る短い髪の毛のボクは、
我ながら眠そうだね。
「……さて、と」
この散らかった部屋を片付けるのにかかる時間は、ボクにかかれば0.05秒に過ぎない。
嘘。2秒かかった。
突風と共にはい綺麗。
「お腹すいたから、
そんな訳で部屋を出る。
さーてここからはとぼとぼ歩いて行こう。
───大東亜最速の艦装少女。
そんな風に言われるボクだけど、普段から速い訳じゃ無い。
いやこんな朝は本当にもう…………かしこく考えられないぐらいにまだ眠くって……
「ふわぁ〜〜〜……」
「随分と眠そうだな?」
「へ?」
気がつけば目の前に大和撫子。
可愛い顔と巫女っぽい服から繰り出された……
せっ……背負い投げぇ〜〜〜〜〜〜????
「ゲフォ!?!」
肺の空気が全部出る勢いで肺の空気が全部出た。
何言ってるか分かんないよね?何言ってるか分かんない。
当たり前だろ、呼吸できてないし。
「目が覚めたか?
この程度避けられないようでは『最速』の名が廃るな島風」
このおっかない大和撫子は、名前を加賀さん。
大東亜の主力、『一航戦』が片方。古くから活躍するフリートレスの一人だった。
見た目は可愛い系の癖して、この通りクッソ恐ろしいキツい性格だ。
「ぜー、ぜー……!!い、いやあの、」
「────加賀さぁぁぁぁぁぁん!!!
何をしているんですかもぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
何か言いかけて、突然全速力をかけてやってくる影。
トウ、という掛け声と共に跳躍。
加賀さんに似た|(ドスケベ)和装の、こっちは銀髪ストレートの女の人が、何故かボクの隣にやってきて、うずくまるボクを優しく起こす。
「大丈夫ですかぁ、島風ちゃん!?
さ、お姉ちゃんが起こしてあげます!」
「ありがとうございます……でもボク同型艦いない一人っ子です、
「どぼしてそんなこと言うのぉ!?!?」
このテンションのおかしい美人、
「
「…………加賀さん。
私の呼び方をお忘れですか?」
突然、静かな緊張感纏う口調で言う翔鶴さん。
「なんだ、翔鶴?」
「私の事は、
翔 鶴 姉 ! !
って呼んでくださいって言っているでしょォォォォ!?!?」
わー、なんか翔鶴さんの隣に達筆な習字で文字が見えるー
加賀さん、これには流石にずっこけている……
「お前…………瑞鶴が沈んでからやけにこだわるようになってないか?」
「リアルマイシスターは関係ありません!!
私は……生まれた時から、全世界の、お姉ちゃんなのですかるぁ!!!!」
ドッヤァァァァ……!!
もうやだ、この姉を名乗る不審者。
加賀さんドン引きじゃないか。
「…………立てるか?」
「あ、はい」
……加賀さん、案外優しくボクの事立たせてくれました。ええ。
「まったく…………いいか、ああはなるなとは言わんが、五航戦はあれでも私が襲いかかってもすぐ迎撃できる練度だ。
今日の演習は、我々大東亜が恥を描くわけにもいかん。
気が緩んでいるなら引き締めろ。
なにせ島風、お前は今回初参加にして、私達大東亜の目玉だ。
分かったか?」
「はい」
「声が小さいぞ!」
「もぉ、加賀さんその辺にしましょぉ〜??
ほら、島風ちゃんも緊張が解けなかったらお姉ちゃんを頼るんですよぉ〜〜〜〜???」
「お前も気合入れるか?」
と、言われているときには翔鶴さんは、大雪山おろしと言う殺意しかない技で投げられていた。
「あれぇぇぇ〜〜〜!?!?ヴゥン!!」
は、そして受け身上手い!?
これが五航戦の練度……!?
***
演習とはつまり、
太平洋、大西洋に所属するフリートレス保有国が、ここインド洋イエメン沖に一同集合して、対D.E.E.P.戦を想定した総力決戦の演習を行う一大行事!!
大東亜連合防衛海軍、
ステイツ海軍、
クイーンダム王立海軍、
クラスノ海軍、
華僑連邦共和国人民海軍、
EU統合海軍、
それらが一堂に会した演習は、もはや壮観だね!
初めて自国側の人間だけで集まって移動したんだけど、まぁクラスノのアル中もいないはいないで寂しいかなとも思ったね。
そんなボクだけど、昨日の演習1日目を終わらせるまでにも割と新しいフリートレスと顔見知りになれたよ。
ここ、新型フリートレス母艦『まみや』の中でね。
フリートレス専用食堂、
今日、2日目の演習は、朝から『まみや』は大盛況!
加賀さん達は先に席を探しに行っちゃった……
「おはようございます!
フリートレス唯一の広報官でもある、
アオバチャンネル、演習二日目も朝から生放送です!」
あ!アオバチャンネルの生放送やってる!!
本物の青葉さんだ!!
このチャンネル好きなんだ、ボク!!
「まぁまだ目を覚ましばかりのお寝坊さんは、今日の『まみや』の食堂の朝のメニュー、気になりますよねぇ?って、あ!!」
「青葉!!まどろっこしい前置きやってる場合かい!!
さっさと、アタシの自慢の飯を見せるんだよ!!」
ガシリとカメラを掴む、快活そうな姉御っぽい感じのフリートレスは、珍しい非戦闘用フリートレスの一人で、
「おい寝坊助ども!!ちゃんと観てるかい!?
今日は朝から、トンテキとトンカツだよ!!!
寝床で見てるバカ共はさっさと起きて食いに来な!!!
残したら招致しないからね!!!」
「もぉ〜!!間宮さん!!
私のチャンネルなんですよ〜!!
我が強いんだから……」
「間宮ァ!!おかわりくれよ間宮ァ!!
トンテキもトンカツも10枚ずつおかわりだ間宮ァ!!!」
「お!!全部食うとは感心だねぇ!!!
気に入ったよサウスダコタ!!10枚なんてケチくさいこと言わず20枚食いなぁ!!!」
おぉっと……今日は余計に騒がしい朝だったなそういえば。
「はい!『ステイツの音響兵器』ことサウスダコタさんがいたのが分かる通り、」
「酷すぎるぞ青葉ァ!?!」
「まったくステイツは相変わらず騒がしいですわよねぇ!!」
「そこのクイーンダム空母も酷いぞォ!?!」
「はいはい、この通りにステイツだけではありません!!
各国の精鋭たるフリートレス達が、ここ『まみや』で朝食をとっているのです!!」
青葉さんの言う通り、今日この間宮は朝から各国のフリートレス達が集まっているんだ!
「そうですね、最初のインタビューは……
やはり、クイーンダムは最新鋭戦艦!!
キング・ジョージ5世さんからしてみますか!」
「───ほう?」
口を拭き、視線を上げるとても綺麗な女性。
クイーンダムらしい、体にフィットしつつも荘厳で豪華な専用服を着るは、
「普段は取材などは受けない身だが、
我らクイーンダムが最初、と言われれば受けない訳にもいかないな」
静かに微笑む姿が似合う、キング・ジョージ5世さんだ!
顔が…………顔が良すぎる!!!
「では、キング・ジョージさんに失礼して質問です!
まみやの朝食はどうでしょう?
少し重すぎましたか?」
「愚問だな。
クイーンダムの朝食も美味いが、それ以外は世界最低だ。
大東亜の食事とあらば、例え残り物の残飯と言われても食うだろう」
「まぁ!とても褒めていただいて自分のことのように嬉しいです!」
「ところで、教えて欲しいんだが……
この納豆、何回混ぜれば良いんだろうか?
100回ぐらいなのだろうか?」
うわ、すっごい綺麗な顔の人が丁寧に納豆を混ぜてる……!!
こんな事でも様になるぐらい顔がいい……!!
「───まったく、クイーンダムはいつまでも舌がバカで困りますわねぇ??
納豆は100回も混ぜる必要などありませんし、さっきから見ていればカラシも入れてないだなんて」
と、対岸でも同じく白を基調としつつちょっと所々露出したトリコロールカラーのインナーの女性が、同じく納豆を混ぜながらそう声をかける。
たしか対岸の席は……
「おやおや?リシュリューさん以下EUFの方々にはお口にあいませんでした?」
「クスクス、ジャーナリストという物は、結論ありきで聞いてくるものですのねぇ?
わたくし、和食の家庭料理は好きでしてよ?
まぁ、納豆を100回も混ぜる気はありませんけど……んん〜、どこかのスオミランドの缶詰なんかに比べたら全然匂いも気にならない」
エウロペユニオンフランキスカ。
EUFの最新鋭戦艦、リシュリュー……!!
「フランキスカの喧嘩腰には参るな。
クイーンダムの言う事なす事いちいち揚げ足をとる」
「揚げ足を取られる程度の詰めの甘さ、歴史だけ古いとこうなるのかしらね?」
「あ、あのー、喧嘩はそこそこに」
「───言わせておいたら。そこの陣営はいつもこうなんだからさ」
と、さらに後ろのテーブルからそんな声が。
「ちょ、ティルピッツ!?ダメよそんな……」
「ヒッパー、私はただいつものじゃれあいみたいな喧嘩はほっとけって言っただけだよ。
いつものことなんだから」
白い髪、きっちりした襟元に騙されそうな逆バニーにバルケンクロイツのビキニ。
エウロペユニオンゲルマン、EUGの最新鋭戦艦装少女、ビスマルク級2番艦のティルピッツさんだ。
「おや、たまに出てきたと思えば良い事を言うな」
「まぁ、もう少しじゃれ合っていたかったですけれども?」
「ご飯冷めるでしょ?
間宮に失礼だよ」
対岸の席に座っている心配そうな顔の同じく銀髪でちょっとふわふわした印象の重巡、アドミラル・ヒッパーさんの視線も気にせず、そう言って静かに食べ続けるティルピッツさん。
クールだけど良い人っぽいな……
「たしかに、これを冷めさせるのは失礼だなぁ……
うーん、ここまで来るとOttimoぐらいは言わざるを得ない……!」
「リットリオ、珍しく同意見ね♪」
あ、エウロペユニオンローマニア、ことEUR最新鋭戦艦のリットリオさんとヴィットリオ・ヴェネトさんがめちゃくちゃ料理を褒めている……!!
心なしか間宮さんめっちゃ嬉しそうだ!
「各国フリートレス諸君!!!
一応は今インタビュー中なのはクイーンダムだ!!
順番を守り、勝手に喋るのはやめるんだ!!」
と、ここで世界の警察ことステイツから、真面目で有名な空母姉妹長女、ヨークタウンさんの一括が入る!
「私は別に構わないぞヨークタウン?
大東亜的にいえば『無礼講』と言うことだ」
「そうはいかない、KGV。
見ろ!あのクラスノが恐ろしいまでに静かに食っている!
こういう時にこそ規律は重要だと、珍しくあのクラスノの飲んだくれどもが……」
「ワーオ……クラスノのみんな大丈夫〜??
なんだか随分顔色悪いわよ〜??」
と、言うわ金髪碧眼癖っ毛でなんかアメスクっぽい格好のかのアイオワ級一番艦アイオワさん。
ペチペチとやたら静かなクラスノ陣営のテーブルの一人を叩く。
……って叩かれてるのよく見りゃタシュケントさんじゃん!!
顔色のあの悪さ……もしや!!!!
「…………やぁ資本主義の豚の手先の戦艦。
なぁ、君らの歴史の禁酒法ってあったよな?」
「What's?」
「あれは…………我が国家でも同じ事をした……ソヴィエトの頃だな…………
失敗だったなぁ…………今日のために、健康のために、とお酒飲まなかったのは…………
ふへへ、みんな禁断症状でお陀仏だぁ……あ、島風のせいで仏教徒みたいな表現に……へへっへ」
やっぱり、酒好きのクラスノ艦が酒絶ったとき特有のアレじゃ無いか……!!!
この前から一緒に戦っていたガングートさんもヴォロシロフさんもソオブラジーテリヌイさんも、その他諸々のみんな震えて目の焦点が合ってない。
「おぉ!!
ようやく禁酒する気になったか!!
やはり、今日は偉いぞクラスノ!!
仮想敵国ながらあっぱれ、と言う奴だな!!」
「「「「ヨークタウン、ザッケンナコラー!!!」」」」
ガバッと顔を上げるのは、あ僕の知り合いメンツだ。
「今日の勝負にハンデやるためにわざわざ禁酒してやっているのよこちとらぁ!!!
同志タシュケントちゃんの気持ちも考えずに
普段わりとお嬢様っぽいくせに、こうなるともはや発言も行動も放送事故なガングートさん。
生放送で中指立てるか
「もう限界です!!私が一番体重も体格も大きいんです!!
アルコールください!!ウォッカがなければジンを!!じゃなきゃビール!!!」
身長は驚異の2m14cm。
影のあだ名は『バイオオーガニックウェポン』のキーロフ級巡洋艦装少女のヴォロシロフさんも、こう泣いていると普通に綺麗なお姉さんだなぁ。
「…………もう、これしかねぇぜ……これしか……!!」
!!!
ソオブラジーテリヌイ!!!
一番見た目は幼い感じなのになんてものを!!
ソイツは……!?!?」
「同志……お前……それ……!!」
「……手指消毒用……アルコール……!!!」
震えた手で持つ、1リットル分はある、シュコシュコ出来るあの蓋の付いたソレ。
「もう限界だ……へへ……へへへ……!!」
蓋を根本から開けるんじゃないよ!!
アイツ……マジか!?!?
「辞めろ!!ソオブラジーテりゅ……」
「名前噛んでんじゃあ、ねーぜステイツの空母さんよォ〜〜!!
オレは
「あんた!!なんてものを!!」
「動くんじゃあねーぜぇ!!
飲んでやる!!飲んでやるぜぇ、このアルコールを!!」
まずい、目が座ってる!!
禁酒しすぎたんだ!!
「辞めろクラスノ駆逐艦!!!
そんなもの飲んだところで、医務室のベッドに行くだけだ!!!」
「もう昨日からお前らの国の真っ黒い炭酸ばっかりでウンザリなんだよヨークタウゥゥゥゥン!!!
オレは!!
医務室だろうが甲板だろうが営巣だろうが!!
酔って寝転がりたい、そんな気分なんだよォ〜〜〜〜!!!」
腰に手を当て、傾けられる消毒用アルコール。
もうすぐ口に飲んじゃいけないアルコールが触れる。
ゴクリ、
「!?」
だけど、それは叶わなかった。
ソオブラジーテリヌイが飲んだのは…………
「え、アレ?甘い?あれ出てこな…………」
その手に握っていたものは、
「何ィ〜〜〜〜〜!?!?!?!?」
大東亜伝統の炭酸ジュース、
瓶ラムネ……ビー玉入り!!
「何が起こった……!?
なぜ、あれ、アルコールどこ行ったァ!?!」
一瞬にしてざわめく食堂。
でも……何が起きたか分かったフリートレスは、ボクも含めて結構いる。
───ボクの感覚でも、突っ伏していたタシュケントの目で追っても、早かった。
反応が遅れた……そんな一瞬で、消毒用アルコールを奪い、ラムネに変えたヤツがいた……!!
シュー
気がつけば、全員初めてそのタイミングで彼女が部屋の隅のゴミ箱の上の台の前にいることに気がついた。
───ちょうどボクの真後ろに。
「───いやぁ、まさかおトイレのアルコール切れてると思ってなかったんですよねぇ〜?
ちゃんと手は洗いましたけど、お食事前なら消毒しておきたいじゃないですかぁ?
ねぇ、セ・ン・パ・イ・方♡」
コツコツとボクの真横を歩いて、彼女は───EUF陣営の席の方へ顔を向ける。
「ほう……彼女が?」
「そうよ、ジョージ?
遅かったわね、ファンタスク?」
ニィ、と後ろからでも分かるほど口の端を曲げて笑った彼女は、そのままこっちに振り向く。
「はぁい♡どーもはじめまして!!
私が、ル・ファンタスク級
よろしくお願いしますねぇ、島風セーンパイ!!」
きゃるーん、って擬音の似合うポーズだね。
「って、島風さんいつの間にいたんですか!?!
やだ、青葉一生の不覚!!」
「あらあら、静かに行動しすぎて気づかれて無かったみたいですね〜?
ちゃんと存在感出しておかなきゃだめですよ、センパーイ?」
「いやまぁ、邪魔しちゃ悪いしね。
君だってずっとボクの背後にいたのはそう言うことかなって?」
わぁ〜、わざとらしい感じに手で口を押さえて答えるル・ファンタスク。
…………ウッザ
「気付いてたんですね〜?
ずっと眠そうだったり、空母の方に投げられてたりして鈍っぶぅ〜い反応してたからてっきり分かんないのかなーって思っちゃいましたよ〜?」
「まぁどうせイタズラされたって無害なもんでしょ?」
「あらクール。
じゃあ背中の落書き気付いてませんね?」
背中?
…………うわ、鏡見たら背中に「おっそーい!」ってわざわざ日本語で書いてある!?
「うわ……!?
やったなこいつ!!」
「あっはっはっはっは!!
その顔めっちゃ良いですよ先輩!!
すました顔よりずっと素敵ですって!!!」
ぐぬぬぬ……!!
「…………本当は、君のやつはさっきの出遅れた分の当て付けだったんだけどな」
「え?」
途端、ファンタスクの後ろで吹き出すキング・ジョージさん。
「ククク…………これは、ちゃんと負けを認める辺り度量があると言うか……プクッ」
「……ふふふふ…………!!」
「え、ちょ、何書いてあるんで……うわっ!?!」
あの瞬間、そうボクの真横をルンルン通り過ぎた瞬間に、
まぁ、悔しいから背中に『花まる』とよく出来ましたって水性マジックで書いておいたんだ。
「ぐ……ぬぬぬぬ……!!
や、やるじゃないですか先輩……!!」
「いや、でもあの瞬間一番早かったのは、間違いなく君だろ?
今日の『レース』も楽しみだよ」
実際、さすがはかつて大西洋最速の大型駆逐艦の名前をつけられただけはある速さだった。
だから、ぽんと肩叩いて去ってやるんだ。
「フン!
ま、本当の勝負は後々ですしぃ??
その時勝ったら、ちゃんと花まる付けてもらいますから?」
「まぁそりゃ良いけどさ……
ご飯の前に背中のと、
「へ?え、うわ!?!」
ファンタスクの右太もも、小さく黒のマジックで『ワインください』ってロシア筆記体で書いてある。
見ると、机で突っ伏してるタシュケントさんが不気味に笑いながらマジックペンを掲げている。
「ハァイ、同志ル・ファンタスクゥ?
見つけちゃったねぇ、文字を。
お前、負けたらワイン自腹でよこせや。フランス産の奴をよぉ……持ってるんでしょぉ??
同志タシュケントさんはぜーんぶKGB並みの調査力で知ってるんだよぉ〜??」
「怖……目が座ってる……!!」
「本気だぞ。オイ島風オメーもだよ。
なんのために同志ソオブラジーテリヌイが狂うほど禁酒してると思ってるんだァい……??
同志オメーらの外貨でェ!!
ウォッカも日本酒もワインもたらふく飲むためだよぉ!!!」
ウワッ!?!
クラスノ艦全員がこっちを飢えた獣の目で見てるぅ!!!
「貴様ら……そんな事のために……!?」
「ほーう、資本主義の豚陣営がそれに怒るのかぁい、ヨークタウゥゥゥゥン???」
「見損なったぞ!!性能試験の場を、そんな賭けのために!!」
「クラスノのオッズは幾らだぁい?
キングジョージィ……?」
ハッとヨークタウンさんが振り向く先、キングジョージ5世さんが静かに紅茶を飲んでいる。
「……2.6倍。
まぁ、胴元としては、やや物足りないですね」
「キング・ジョージ、お前は……!?!」
「まったく、一番人気があのアル中とは……
わたくしの陣営が2番手なのが悲しいですわ」
「リシュリュー……!?」
「というかヨークタウン!!
……お前、賭けてねぇのかヨークタウン!?!」
「Oh……ヨークタウン、やっぱり賭けてなかったのね?
今日のレース、結構みんな食券やらオフの日に使うお金も賭けてるのよ?
一番人気はタシュケントで、次点でル・ファンタスクよ?
大穴狙いで島風ね?」
「ステイツの規律と正義は死んだぁぁぁぁぁ!!」
あ!!
ヨークタウンさん、泣きながらどっか行っちゃった……
「…………ボク大穴かぁ……」
「まぁ気にしちゃダメですよ〜センパーイ♪
本来は性能試験が目的なんですからぁ〜、ほらほらご飯でも食べて万全の状態で臨みましょ〜!!」
馴れ馴れしいな、この後輩フランス駆逐艦。
「こりゃ、今日のレースは波乱がありそうだな……」
『あー、館内放送ー。こちらペントコスト准将だー
だからお前ら賭け事の事はヨークタウンに言うなって言ったろ?
アイツ、エンタープライズの遺影片手に格納庫でランボー終盤の保安官事務所状態だ。
ステイツ艦は飯食い終わったら迎えに行ってやれ』
そして、ステイツ艦も大変だな。
真面目すぎるのもダメだね。
「よし……間宮さんボクの分まだあるー?」
「ああもちろん!
あんたのは特別分厚いさね!!」
席について、間宮さんに問うとそう返事が返ってくる。
「大穴だなんて気にすんなよ!?
あたしゃあんたに賭けてんのさ!!」
「嬉しいね。
まぁ頑張るよ」
トンテキを切って口に運ぶ。
うん…………これだけで戦える気がしてきた。
今日は……久々に本気を出そうかな。
あの生意気な後輩ちゃんを、分らせてやるのも面白い!
「…………禁酒は、これ終わったら二度としないでおこうね同志ィ……」
『賛成ー』
「あんたらも早く食いなよ」
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