Part.2:リーブ・オール・ビハインド
インド洋、イエメン沖
各国の空母、巡洋艦、駆逐艦、護衛艦、そしてフリートレス母艦達が集まるその海域、
ワァァァァァァ!!!!
『さぁいよいよ始まりますは、世紀の一大レース!!
3ヶ国の超・高速な駆逐艦装少女による合同公試運転!!
最速のフリートレスを決める最大級のお祭りを、実況はこの私、
『いつもの解説の天龍です。
ふぅ……ようやく龍撃艦隊のお守りから外された……』
『あらら。天龍さん今日はいつものドラゴンな名前で集まった艦隊のみなさんはどうしたんですか?』
『あのバカ達全員、『クラスノ艦達と飲み比べするぜー!』とか行って行ってみれば全員禁酒で、シュンとして大人しくなっていたかと思えば、あろうことか悲しみの飲み会とか言って全員酔い潰れて今医務室で……ウッ、考えただけで胃が……!!』
『うわぁ……司令官はなんて処罰を?』
『いつから、
そのバカ達の中に司令官がいないと思っていたのです?』
『デスヨネー。
はい、気を取り直してまずは選手の紹介です!!』
海上にはボク達3人、それと付き添いが今数隻いる。
『まずは、期待の新人!!
EUF陣営ル・ファンタスク級
おぉ!クイーンダムメイド隊がレースクイーン代わりとは……画面が映えますねぇ……!』
『フランキスカとクイーンダムは、ドーバー海峡を挟んで何度も戦っては共闘してきた、言わば永遠のライバルですからね……
きっと、ル・ファンタスクさんには勝って欲しいのでしょうね……』
***
外はカリッとでも中はソフト。
そんな美味しいクッキーを頬張るル・ファンタスク。
「ん〜♪クイーンダムはお菓子は美味しい〜♪
ましてや現メイド長であるヴィクトリアスさんの手作りといえば美味しいって有名で!」
「ありがとうございます、ル・ファンタスク様。
お口にあっていただき幸いですわ」
クッキーとアイスティーを渡すは、金髪ツインテールのメイド型航空母艦装少女。
イラストリアス級2番艦ヴィクトリアスだ。
「しかし、まさかKGV氏が私に賭けるだなんて思ってもいませんでしたよねぇ?
そういう時、必ずクイーンダムって私達には賭けたりしないじゃないですか〜?」
「ふふふ♪
クイーンダム艦は誰も、貴女には賭けていませんよ?」
「…………はい?」
ややあって、ル・ファンタスクはそう聞き返す。
「これは騎士長であるキング・ジョージ5世様よりの伝言です。
『今日の敗北は、あなたにとって貴重な体験になるだろう』
との事です」
丁寧に綴られたヴィクトリアスのセリフに、あっはっはっは、とさも楽しそうに笑うル・ファンタスク。
「あーっそうですかー
じゃあ、こっちからも伝えてください。
『賭け金を肥溜めに捨てた気分はどう?』って」
「ええ勿論。そう言っておきますわ」
一礼、そして離れるヴィクトリアス。
……ややあってフン、と不機嫌そうな顔になるル・ファンタスク。
「やっぱりクイーンダムがクイーンダムなんですよね。
私があんな
ル・ファンタスクから離れ、誰もいない場所で、
「────うっそぴょーん☆
キング・ジョージ5世さん以外はみんなあなたに賭けてまーす……!」
口元を押さえて、そう堪えきれないままにヴィクトリアスは呟いていた。
「まぁ、感謝してほしいですわね〜♪
これで本気だしてくれるでしょう?
ふふふ……今思い出してもあの無理した態度が素敵で……ごちそうさまでした」
戻るまでずっと、その時のことを思い出して肩を震わせていたらしいヴィクトリアスだった。
***
『さて、一番人気!!
クラスノ陣営は
おっと……今日はなんか……邪気というかなんというかを纏っている……!』
『まるで……酒を絶たれた
『食堂での一件で禁酒しているとは言っていましたねそういえば……って禁酒でこんなオーラを纏うモノなんですかねぇ……
おっと!どうやら事前の付き添いは意外にもEUR艦と……食堂にはいなかった華連国海軍の面々ですね』
***
「ど、同志タシュケント!?大丈夫!?」
「じゃ、邪気が渦巻いてますよ……!?」
「今が禁断症状の最高点だー!!!
この……このアルコールでしか癒せない渇きとストレスを全て速力に乗せればぁ……!!!」
「「おぉぉぉぉ……!!」」
「……同盟国同志二人も当然持ってきてるよなぁ……??」
「当然です!一番美味しい奴持ってきました!!」
「我々人民海軍も全員があなたに賭けてます!!
絶対に買って祝杯をあげましょう!!」
「……いやいや、そこまで我慢するのはちょっと異常じゃないか???」
と、後ろでワイングラスとワイン片手にずっとタシュケント達を見ていたリットリオが呟く。
「タシュケントちゃん、我慢はダメよ?お肌に悪いわよ?」
「はっはっは、EURと違って飯抜き酒抜きで死ぬほど柔じゃないのさ。
まぁ艤装部分にEUR使われている身としてはワインチラつかされて内心激しく穏やかじゃないけど」
ヴィットリオ・ヴェネトの言葉に凄まじき戦士の形相で言い放つタシュケント。
「「ひぃ!?!」」
と最新鋭戦艦が震え上がり、間違ってワインを海へこぼす。
瞬間、ザパァンと勢い良くガングート、ヴォロシロフ、ソオブラジーテリヌイが首を海面に突っ込む。
「ガボガボ……ぶはぁ!!
塩っけがうめぇぇぇぇ!!!」
「一滴でも酒が混ざれば海も酒!!これは酒!!!」
「濃い部分!!散る前に飲まなきゃ!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!
い、い、いくらなんでもここまでやるのかぁ……!?!」
「怖い!!怖いわよみんな!!」
「あっはっはっはっは!!
これだ!!このハングリー精神こそが革命を支えた原動力!!!
カッコつけたがりのEURとは気合が違うんだよクラスノはさぁ!?!」
もはや狂気の笑い声に、2隻の最新鋭戦艦は「マンマァ……!!」と完全に恐怖を覚えている。
「勝つぞォ……勝って医務室に運ばれるまで飲んでやるぞォ……!!!
ぐふふふへへへへへへへへへへ……!!!」
邪悪なまでにギラついた目で、不気味に笑うタシュケント。
一応同志である華連国陣営の二人も、怯えて震えることしか出来なかった。
***
『さて、最後は我らが大東亜陣営!!
島風ちゃんです!ってあら?』
『下馬評だけでなく実質数値でもどうしても最下位候補と言われて……あれ?』
『わぁ……モテモテですねぇ……!!』
………………
……はい、ボクはたしかに、今までの性能試験や前情報では一番速力が遅いはずなんだ。
だから人気も一番な………………
「島風くぅーん!!こっち見てこっち!!
ハイチーズ!!」
「チーズ……」
「きゃーかっこいいー!!顔がいいー!!」
「推せるぅ!!島風くん推せるぅ!!!!」
……いはずなんだけどなぁ……??
今、右と左は黒ギャルと白ギャルに囲まれて一緒に自撮りされてるんだ。
あ、金髪の黒ギャルさんは
歴戦のフリートレスにして、いつもキャピキャピ大東亜ギャル部の二人だよ。
「なんていうかどちゃくそイケメンなフリートレスが私たちの陣営から出るなんて生き残ってて良かったっすわー!」
「つーか顔綺麗過ぎ!!ねー洗顔何使ってるの??
化粧水何?」
「普通にみんなと同じはずなんだけど……」
この二人何言ってもキャーキャー楽しそうで、ちょっと勢いに負けそう……
「おう島風!!流石モテモテだな!!」
「オレも師匠として鼻が高いぜ!」
「夕張さん!陸奥さ……誰が師匠?」
と、やってきたのは傷だらけで手足が機械性の義手のフリートレス、実験軽巡洋艦の夕張さんと、左手に特殊なフリートライザーを装着した快活そうな黒髪のはだけた白軍服のフリートレス、我らがビッグセブンの一人の
「何言ってんだ島風!
ビッグセブン最速の『潮風の覇者』こと陸奥さんは、大東亜最速のお前の師匠みたいなもんだろ!?」
「いや尊敬はしてますけど、何も習って無いです」
「細かいこと気にしてるとハゲるぜ!?
な、夕張もそう思うだろ!?」
「おう!!
少なくともオレ達は
ダチなら、まずはダチの勝利を信じるものだろ!!
今日の勝負、絶対勝てるよう応援しているからな島風!!」
いつもの屈託のない笑みで差し出される手。
握手、ハンドシェイク、そして数度打ち合わせるお互いの手。いつもの夕張さんの友情の証。
「頑張ります!はい!」
「おぉっし!!
そのために用意したあの横断幕にかけて、インド洋をぶっちぎってくれぇ!!」
……ってぇ!?!
少し離れたところに止まっている船は、見て分かる通りの超弩級戦艦!!
現代に蘇ったこれこそ、陸奥さん達に与えられた
正式名称『7
略称『BIG7』!!
の、横にまさかの!?!
『島風ガンバレ!!』
の横断幕ぅ!?!?!
『ここで驚くのはまだはっやーいよ島風くん!!』
え、この声は!?
そして、第三砲塔の上の影は!?!
『やっほー!!驚いたー!?!
艦隊のアイドル!!大和お姉ちゃんの妹な、
『何やってんだよ秘密兵器ちゃーん!!』
あ、この掛け声、武蔵ちゃんが出てきた時のいつもの奴だよ!
大東亜艦なら誰でも知ってるね?
だって大東亜フリートレス全員のスーパーアイドルの武蔵ちゃんだよ?
いつもの萌え袖肩出し和装だよ??ツインテなハイパー美少女だよ??
この掛け声知ってるでしょ????普通でしょ???
なんか後ろのル・ファンタスクがいた辺りとか、イタリア艦がいた辺りからとかも聞こえた気がしたけど……
いや考えてもみれば武蔵ちゃんは世界的アイドルじゃないか。当然だろ、当然だね。
『はーい!今日はぁ、島風くんの応援のために!!
武蔵ちゃん緊急出撃でーす!!
喜んでくれたかな?』
「武蔵ちゃんファンクラブ艦隊ナンバー第6番艦の
艦暦が一年未満だった頃デビュー曲聴いてからガチ推しです!!!
一生推してきます!!!武蔵ちゃん大好きィ!!」
取り出すしかねぇ、ファンクラブ艦隊証を!!
今ここで轟沈しても悔い無いです!!!!
「「お、お前一桁台だったのかぁ!?!」」
「「島風くんやるぅ!!!」」
その手の……!?!みんなファンクラブ艦隊だったのか!!
しかもみんな二桁台だと……!?!もうガチじゃないか……!!
***
「チッ……!!」
ル・ファンタスクは手元の『武蔵ちゃんファンクラブ会員証 No.100』を見て舌打ちする。
「どうせ地理的要因ですしぃ?
勝負に関係ないですしぃ??」
戦う前から敗北感。
しかし、それを認める気は一切なかった。
***
「とーう!
はいそんな訳で!!」
ヴァッ!?!むむ、武蔵ちゃんが目の前ににに!?!?!ひーっ、ひーっ、目の、目の前……!
「…………ふふふ、最初の握手会以来だね?」
「え……覚えて……」
手を握られた。あ、手を洗えないなしばらくと思ったのも束の間、
頬になんか柔らかい濃厚接触が
「─────」
「フフフ♪大東亜艦でもイケメンな方な子だったから大サービス♪
ましてや、まだ大和お姉ちゃんがプロデュースしてた頃からのファンじゃね?
まさかあの頃のちょっとカッコいい子が、こんな大役だなんて驚き」
「────」
「がんばってね!!
後で陸奥さんの第三砲塔の上でライブするから来てね〜♪」
………………行っちゃった………………
「オイオイオイオイ、息をしろ!!勝負はまだだろう島風!!」
「さっきまで目の前にいた推しの残り香吸ったらボク多分轟沈しますって」
「落ち着けみんな致命傷だ!!
てかオレ関節握手しちゃった!!?え、これ……!」
「お……オレの艦もステージにされたりともう……もう……!!」
「心中お察しできます」
………………
ポンと、大東亜ギャル部の二人に肩をたたかれて、反射で答えるだけみたいな状態から戻る。
「…………まだライブあるでしょ?
一緒にペンライト降るまで気を抜かない」
「うちわ用意しておくから……頑張って」
「……!!」
そうだよ。
ここまでされたら、気が抜けない……!!
「……おぉぉおい島風ぇ!!頼むから勝ってくれぇ!!」
と余韻に浸っていたら別の方向から同じ任務仲間の吹雪型2番艦の白雪さんが泣きながらこっちにしがりついてくるし……
「どうしたんですか白雪さん!?」
「どうしたもこうしたも全財産お前に賭けたんじゃあい!!」
「2348円ぐらい?」
「なんで知っとる!?!」
「適当に言ったのにマジですか」
「しょうがないんじゃあ!!ワシは常に金欠じゃからのぉ!!
でもこれで勝てば大穴!!大穴で儲けが出る!!!」
「わーお、ダメ人間の理屈ー」
「悪いかダメ人間で!!
こちとらフリートレスになってチ◯コ無くした身じゃがダメ人間部分はまだあるわい!!」
「どっちも無くして良かったんじゃ?」
「うぅ……無くしても良いから勝ってぐれぇぇ……!!」
ガチ土下座するほどの事なんだ……
「…………このバカは任せて今は公開試験に集中してくれ。
すまなかったな、島風」
「
と、白雪さんをどかす人形みたいな綺麗な人こと吹雪型6番艦の東雲さん。
「島風。結果はこのさいどうなったって良い」
「
そしてその背後から、赤い髪に空母っぽい和装の、最新鋭装甲空母のフリートレス、ついでに上官ならぬ『上艦』な大鳳さんが来る。
「ベストを尽くしてくれ、島風。
私は、いや私達は、お前の力も、何よりお前の『良さ』も誰より知っている。
勝ち負けじゃない……お前の納得いく結果が一番なんだ。
気負わず、本気で走ってくれればそれでいい」
「大鳳さん……!」
「……
だったら余計に勝たなきゃ意味がないじゃろうて!!」
と、白雪さんが、珍しく真剣な顔で叫ぶ。
「白雪?」
「大鳳殿よぉ……この際ワシの賭けなんじゃどうでもいい。
だが勝て島風。勝つつもりで走れ島風。
自分のベスト程度の気持ちじゃ、タシュケントのヤツは愚か、あんなぽっと出のヤツにすら負けて、
なんなら昨日までのお前の走りにすら負ける」
「…………白雪さん……!」
「全てを振り切れぃ。おぬしならそのぐらいやって貰わねばな。
タシュケントとあのフランキスカ女の鼻っ柱を折ってやれ!」
ニカっと笑う白雪さん。
気がつけば、周りにはいろんな人の笑顔があった。
「頑張って島風くん!!」
「そうだ。お前なら追い抜ける」
「ウチら推してるから無敵だよ!!」
「オレも賭けてるからな。勝つ事を願っている」
「みんな…………!!
…………ありがとう!!頑張るよ!!!」
なんだろう……すごく安心できる。
というか……こんないい人たちと知り合えて良かったなって……心の底から思うよ……
「…………よぉし!
じゃあ折角だしワシの刀であいつらの妨害を……」
ってこらこらどこいく気だよ白雪さん!?
辻斬り!辻斬りの目だあれ!!
「はぁい♪白雪ちゃん逮捕でーす♪」
「げぇ!?!吹雪いつのまに!?!?」
「
「いやなんで私が……」
「ゲェ!?!ゴ、」
「誰がクイーンコングだってぇ!?!??」
「ガァァァァァァ!?!?
言っとらん!!そこまで言っとらんから頭蓋が砕けるアイアンクローを辞めぇぇぇえぇぇ!?!?」
「ゴリラじゃなぁいい!!!
私は白露型だけどゴリラじゃなぁぁぁぁいい!!!」
あ、吹雪さんと時雨さんに捕まった……
……ふふふ、いつも通りか!
「……頑張らないとな」
「ああ、頑張れ……!」
大鳳さんに背中を押されて、みんなの笑顔を背負って、
いよいよ、試験が始まる。
***
『さぁいよいよ始まります!
公試運転する3隻のフリートレスは、それぞれすでに位置についています!!』
さて、まずは艤装だね。
ボクは腕のホルダーの片方から54式よりちょっと小さな端末。
60式ウェポンフリートライザー……の制御端末
すでにボク含めて全員腰に巻いたベルトのバックルに、それぞれみんな、ちょっと先端の違う使用の本体部分を付けている。
「負ける準備は良いですかぁ?
島風センパーイ♪クスクスクス……♪」
ル・ファンタスクがさっそく左からそう声をかけてくる。
「あーどうしよ。
準備忘れてたかな…………勝つ準備だけだったよ」
「うわぁ、自信満々ですねぇ〜?
負けた時の顔が楽しみですねぇ??」
「君こそ準備は良いかい?」
「私も負ける準備はしてませーん♪
必要無いです、し!?」
ガシリ、と突然ル・ファンタスクの肩を掴むはタシュケントさん。
「……びしろよ……」
「え……?」
「準備しろよ……!!
負けた時の…………ワインの準備を……!!!」
『おぉっと!?なにやら揉めていますがこれは……!?』
青葉さん達の実況も困惑しているけど……ごめんそれ以上にボクもル・ファンタスクも非常に困惑している……
「勝負は……戦争は、強い方が、性能の良い方が勝つんじゃあ無い……!!
最後の最後まで……死力を尽くした方が勝つ……!!」
なんで突然かっこいい名言が……!?
「な、なんですか急に……!?」
「負ける事考えてないような甘い事はするな!!
負けた時の……負けたと分かった時の対応も含めて勝つ為の算段だ!!」
タシュケントさん、これワイン用意してなかったから怒鳴ってるんだよね……??
「我がクラスノは、たとえ脳髄までアルコール漬けでも、勝つと分かっていても既にもしもの対策はしている……!!
『ごめんなさい、負けちゃったのー!
残念会するからお酒ください!おつまみがわりにピロシキ作ったから〜♪』
と言う算段のために同志諸君はピロシキを全力で作っている……!!」
「タシュケントさん、禁酒しすぎで頭おかしくなったんじゃ無いかな?」
「激しく同意ですしちょっと良い話だった気分返してください」
「ピロシキ美味いじゃん!?!
お茶のお供だけじゃねーし!!!
大東亜風に味付けして春雨入れて揚げて食べたら、『あ、これウォッカと合うんじゃ……?合う!!』ってなったんだからな!!!
いいもん、お前ら負けたらピロシキあげないもん!!」
はいはい、もう時間だよ!!
もう……
「まぁ良いさ!!泣いても笑っても、って奴!!
二人共、一走り付き合えよ!!」
《DEADHEAT SPEED》
「ふふん?
追撃、迎撃、いずれも最速!!なル・ファンタスクちゃんに誰も追いつけませんから!!」
《MACH GRAVITY》
「…………まぁ、この重圧を背負って走れって言うんなら……走ってやるさ!!」
《ACCELERATE BOOST》
全員、制御端末を起動。
《PLUS POWER.》
バックルと一体化した部分へ差し込む。
《DESTROYER. DESTROYER. DESTROYER.》
この待機音、大東亜が考えてるんだって。
煩いけど何故か人気で……まぁボクもこれを聞くとこれから戦うっていう気持ちになれる。
ボクはバックル部分である本体を───単装砲じみた銃型の部分を天高く掲げる。
横で二人は付けたままトリガーに指を近づける。
「
「「「
《BURAST ANCHER.》
飛び出す、ボク達の力!
駆逐艦がエネルギーを纏ってボク達へぶつかり、艤装へと変形して装着される。
『さぁいよいよスタートです!!
全員用意が終わりました!!!』
海の上でクラウチングスタート、って言うのも変な感じだけど、意外と静かな水面でみんなその体勢になる。
『それでは、用意!!』
近くのミサイル駆逐艦の主砲が、仰角を取る。
『スタート!!』
ズガァン!!!!
空砲。走り出した瞬間、ボク達はベイパーコーンを纏う。
初速で音速を突破。
スタート地点周りが衝撃波の風に包まれている間にすでに、ボク達は彼方へ走り出していた。
「!?!」
先頭は……ボクだ!!!
現在、大体マッハ換算で7。もう普通のミサイルじゃあ追いつけない。
予定では、このままオマーン沖まで行って戻ってくる。
(嘘でしょ………!?)
(思ったより速いじゃないか……島風!!)
ごめん二人とも
今日は……ボクが一番だ!!
***
ステイツ製フリートレス母艦『セオドア・ルーズベルト』、CIC内
《───裂け目の出現を感知》
それは、島風達の動きをモニターしていた時に突然響いた警報だった。
《警告。エネルギー測定値が限界を超えています》
「出現地点は!?!」
「確認しました!!
そんな……オマーン沖56km!!!
島風達の目の前です!!」
報告を受けたペントコスト准将は、クソッ、と叫ぶ。
「艦長!!ルーズベルトを動かせ!!
載せられるフリートレスは全員載せろ!!
陸奥に連絡してから司令部へ報告!!」
「良いんですか?艦隊総司令であるウェルズ中将に相談せずに?」
「島風達の命が優先だ!!
俺の首程度で済むなら安い、だろ!?」
「イエッサー。
ルーズベルト機関全速前進!!取り舵!!」
「イエッサー!!」
慌ただしくなる中、険しい顔でペントコストは呟く。
「無事でいろよ島風、タシュケント……!」
***
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