第四話:祝え!クイーンダムのフリートレスを統べる女王!!
────話は早朝まで遡る。
ランギス王国海岸部を沿って東へ進んでいくと、この大陸の中央部とこちらを隔てる巨大山脈「マディン山脈」唯一の抜け穴であるアルデンヌ川沿いの都市国家『ギルドア』にたどり着く。
こここそが、多くの冒険者の入り口。
その名前の元にもなった冒険者の『
「そんな訳で、我ら潜水艦隊は先んじて夜通しこのギルドアという国に向かっているんでござるがー」
「そしてこの会話が何度目か忘れたがー」
そんな方向へ向かう静かな海の上、背面を向けて泳ぐ伊8とU-99。
「「暇!!!」」
くわっ、と目を見開き、顔の下半分を覆うマスクの下から勢いよく叫ぶ。
「分かっていたはずでござるが、我々
「正直言って水底を進んでいる方が逆に気が引き締まる故に、水上は本っ当に暇だ……」
「4時間耐久しりとりはもう苦行だからやらぬでござるがー」
「ちょっとまたやろうかとも思ってしまう程度に……」
「「暇だ!!!」」
再びどこへともなく鳥もいない空へ目を見開く二人。
本当に暇そうである。
「…………空が明るくなってきたでござるか」
「航路測定では、まもなくギルドアより9海里南南西という近い位置のはず」
「あー、どおりで漁船とかが見えるようで」
姿勢を変え、双眼潜望鏡で明るくなった遠くを見る伊8。
「…………U-99」
「何か?」
「……1時の方向、ちょい緊急事態」
言われて即座にU-99も潜望鏡を片手に視線を送る。
やや右、朝焼けに照らし出された大きな客船。
ボーン!
その周りの海が爆ぜ、小さな船達が群がるピラニアのように周りで暴れ動く。
「…………海賊旗」
御丁寧に、小さな船達には海賊のマークが入っている。
「あのサイズ……
恐らく魚雷艇の類で海賊行為とは贅沢な……!」
「あんな世代の魚雷艇があるとは、もしや我々同様流れ着いた口でござ……」
だが、二人の目の前で魚雷艇が一隻炎をあげる。
二人は一度海へ潜り、耳のソナーを聞く。
爆発音、その直前、
聞こえてくる着水音と直後聞こえてくるキャビテーションの音は、
(魚雷、確認)
(まさか、フリートレス……!)
2隻は急ぐ。
こんなサイズの魚雷を撃てるのは、フリートレスしかいない。
***
ドーンッ!
急げー、乗り込んでくるぞー!
騒がしい怒号や爆発をBGMに、甲板の飲食用テーブルで優雅に茶を飲む一行がいた。
一人、眼鏡をかけた司書のような雰囲気を醸し出す少女が、タブレット端末を開いて何かのテキストファイルを映し出す。
「この記録によれば、
クイーンダム所属の
彼女は何故か見知らぬ世界で目覚め、同じような境遇のクイーンダム艦と共に、たまたま通りかかった船へ乗っていた……
どうだろう、我が
書き出しはこれでいいかな?」
ふと質問を投げかけた相手は、可憐な印象を受ける金髪碧眼の少女。
クイーンと呼ばれた彼女は、ティアラに似たアンテナの装飾を載せた頭を
「うーん…………間違ってはいないのですけれども……ちょっと書き出しとしては弱く感じますわ……」
「そうだぞ、ベル!!
姉上の記録がこんな凡庸な書き出しで始まるなんて、クイーンダムの恥になっちまうじゃねえか!」
その隣にいた、どことなく隣の少女の面影はあるが、石の強そうな瞳に大分露出の多い動きやすそうな服の少女が、そう強い口調で答える。
「無論ウォースパイト殿の言う通り。
やはり書き直しが妥当だろうね」
「そんなことしている場合かあんたらはぁーッ!?!?」
ふと、3人の座るテーブルの背後から、これまた露出の強いメイド風衣装の銀髪の女性がやってくる。
「なんだイラストリアス?
こっちは我が姉上クイーン・エリザベスの記録の書き出しの相談中だ。
忙しいのは分かるだろう?」
「ウォースパイト様!!外を見てください!!
海賊船に、せっかく拾っていただいたこの船が襲われているんです!!今!!」
イラストリアスと呼ばれた彼女が、手短にそう伝えた瞬間、背後からやってくるモヒカンの海賊。
「ヒャッハー!可愛い嬢ちゃんの言う通」
「チッ─────海賊ふぜいがイキってんじゃないわよ!!」
「ギャッハー!?!」
バシュ、と放たれたボウガンの矢が、クイーン・ダム傑作戦闘機であるシーファイア型ドローンとなって、世紀末な海賊をなんと体当たりで海に吹き飛ばす。
「ハン……10年速いのよ!」
「……もうイラストリアス君一人で良いんじゃないかな?」
「何か言いました、ベルファストさん……??」
綺麗な顔を肉食獣も怯える顔に変えそう言われて、ベルと呼ばれたメガネの彼女は肩を竦める。
「うーん、ヌビアンとイラストリアスでこれじゃあ、わたくし達も手伝わなければ行けませんわね」
「はっ!
そうです!!外のヌビアンだけでは抑えられません。
こいつら台所のゴキブリより多くって!!」
言葉通りの相手のよう、這いつくばった海賊を踏みつけるイラストリアス。
「げぇ、よく踏めるなゴキブリみたいな奴を……つーかコイツら臭いぜ、オエッ!!」
「あらやだ、たしかに……
海に帰れ!!」
そのままイラストリアスの蹴りで海賊が一人海へ吹き飛ばされた。
「まぁ、臭いのは嫌だけど……戦艦ですもの、出ましょう!」
「よっしゃ!!姉上の道を開くのは任せろ!!」
「まぁ、我がクイーンが出るならしかたがないか……」
その時、キィンと音を立ててひとりの冒険者風の青年がよろけて現れる。
「ぐっ……ハッ!
君たち!逃げるんだ!!」
「ヒャハハハ!!馬鹿だぜぇ、こいつぁ!!
わざわざ金目の在り処を教えてくれたんだからなぁ!?」
その冒険者風の彼を突き飛ばし、やってくる海賊達。
《BTTERE_SHIP.BTTERE_SHIP.BTTERE_SHIP.》
《BTTERE_SHIP.BTTERE_SHIP.BTTERE_SHIP.》
《LIGHT_CRUISER. LIGHT_CRUISER. LIGHT_CRUISER.》
出迎える独特の機械音声、
その『待機音』と共に飛び出す『艦達』。
「ギャッハー!?!?!」
戦艦2隻に、軽巡洋艦に押し出され海へと落ちる海賊達。
「さて……行きましょうか」
「「「イエス、マイクイーン!」」」
クイーン・エリザベスの短い一言に、3隻のフリートレスが首を垂れて答える。
***
ズガン、ドッシャァーン!!
砲撃、雷撃、確実かつ有効に当てた攻撃で魚雷艇を鎮めていく。
「キャプテーン!!あの女、めちゃくちゃ強いじゃねーですかぁい!?」
「そんな事ぁ見てりゃわかんのよぉ、ちくしょおめぇ!!!
やいゴラァ!!人の商売を邪魔して楽しいかクソアマァ!??」
キャプテンと呼ばれたいかにもな見た目の眼帯と鉤爪の義手の男が叫ぶ。
「────ほーう……??
人の邪魔をして楽しいか、と?」
ぴょん、と伸びたアホ毛は金髪。
黒く露出の多いメイド服と共に、愛用の45口径12センチ連装砲をサブマシンガンの様に片手で携え、ニィ、とわざとらしく笑う彼女、
「このヌビアン、クイーンダムメイド駆逐隊が一員。
当然の如く誰であろうと奉仕するのが喜びだ。
だが、
何事にも、
例外が、ある!!!」
瞬間、片手で構えた連装砲をぶっ放し、当てるでもなく海賊のキャプテンの魚雷艇の周りに水柱を起こす。
「例外だぁ!?悪党にはご奉仕してくれないって訳かい!!」
「悪党だろうが客人であればもてなす。
まして海賊、であるのならば、我がクイーンダムは多大な恩のある歴史を持つからな
だが……お前達は許せないことを『2つ』した!!」
「二つぅ!?なぁんだそりゃあ!?!」
「ひとつ、」
腰のベルト───実は彼女の体に埋め込まれた端子と繋がれたベルトの脇のユニットからケーブルを伸ばす。
《CUT IN》
瞬間、鳴り響く待機音楽。
ケーブルを繋げ肩に掲げ構えるは、53.3センチ4連装魚雷ランチャー。
燃料、爆薬、その両方を兼ねた彼女立ちフリートレスの青き血、フリートブルーが武器へ充填されていく。
「私の取っておいたスペシャルパンケーキのメープルシロップ添えがダメになった事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!」
《ヌ
ビ
ア
ン
デストロイ ト ー ピ ド ー
ギ ガ ン ト 》
放たれた4つの魚雷はもはや|誘導弾ミサイル。
空中で別れて敵一団のいる海ごと直撃して爆発。
衝撃と爆炎で多数の船を粉砕する。
「〜ッ!」
ボフン、と爆風から出てくる魚雷艇は、海賊のキャプテンの乗った船だ。
「何が2つだこのクソアマァァァ!?!
最初の一つの分ですでにこっちは瀕死だぞ!?!
加減しろバカ!!」
「何を勘違いしているんだ?
いつから加減される立場になった??」
ゾクリ、と背筋が震える冷たい目で見下され、海賊達は動きが止まる。
「いいか?
1つ目の理由でやりすぎたなどという事などない。
そもそもお前たちはこんな悲劇を何人の人間に与えたと思う?」
「し、知るかそんな事ぉ!?!」
「───それは、ヌビアンに変わってわたくしが教えてさしあげます」
瞬間、響く声に船の上のヌビアンも驚いてそちらを見る。
「今日の船内では、ヌビアンと同じものを頼んだ人間が14人。
全員がこの騒ぎでパンケーキをダメにしています」
ズゴゴゴ、と船の反対側から現れる小さな戦艦。
第一砲塔の上に立つ、小さくも威厳を感じる少女が───フリートレス、クイーン・エリザベスが語りかける。
「祖父と旅行に来た少しだけ貧しい少女、次の仕事に向かう労働者さん、仕事のせいで普段は食べられずようやく来れた貴族の方、次の冒険に胸を馳せていた冒険者の方…………
皆、朝早くのこの時間にだけ食べられる特別なパンケーキを楽しみにしていました。
それを大無しにした。
あなた達が」
静かに、しかし強い口調でそう述べるクイーン・エリザベス。
「い、いきなり出てきてなんだよ!?
それが2つ目だって言いたいのか!?!」
「そう。
それがあなた達の…………一番重い罪だ」
ギリィ、と海賊のキャプテンが表情を歪める。
「こちとら生活かかってんだぞゴラァ!?!
そんなことで堂々と罪とかいうお前みたいなメスガキは何様だぁ!?!」
「では、僭越ながらこの私が我がクイーンのご紹介をさせていただこう」
ハッと気がつけば、真横の海にメガネをかけたどこか司書っぽい少女───ベルファストがタブレットと槍に似た武器を片手に立っている。
「いつのまに!?!」
「さぁ、我が女王クイーン・エリザベス!!
艤装を展開して貰いましょう!!」
「うん……!」
気がつけばクイーン・エリザベスの周りに来ていたウォースパイトとイラストリアスが跪き、遅れてヌビアンも静かに頭を下げる。
《BTTERE_SHIP.BTTERE_SHIP.BTTERE_SHIP.》
流れる待機音と共に静かに背後へやってきた戦艦クイーン・エリザベスが、まるで時計の内部のように展開していく。
「
「隙ありィィィィィィイ!!!!」
しかし、その隙を塗って海賊のキャプテンが取り出した木製の大砲が火を噴く。
ボォン!!
「ヒャハハハハハハ!!!
悪党はなぁ、何かする前に攻撃するものなのヨォ〜!?!」
爆発と同時に勝利の高笑い。
その隣で見ていたベルファストは、思わず口走る。
「まったく、戦艦にそんな攻撃が効くと思うとは」
《───── WEIGH ANCHOR.》
爆煙の中、帯状の交差するエフェクトと共に艤装が展開。
煙を突き破るよう飛び出した最後のパーツが、彼女の頭へ王冠の様に装着される。
「何ぃ!?!」
「───祝え!!」
瞬間、叫ぶベルファスト。
「クイーンダム全てのフリートレスをしろしめす女王たる戦艦!!
その名は、クイーン・エリザベス!!
まさに、今この瞬間!!
この世界初めての艦装である!!!」
その言葉と共に、荘厳な鎧とも戦う為の鉄の城とも見える艤装を纏うクイーン・エリザベスが一歩前に出る。
「ベルファスト、いつもありがとう」
そして祝いの言葉を述べたベルファストをねぎらう。
言われた本人も嬉しそうに海上で跪き、深々頭を下げる。
「…………、逃げる!!」
キャプテンの一言で、一斉に残っていた海賊が引き上げ始めた。
本能的にこれ以上は、まずい。
そう感じたのだ。
「ごめんなさい。
わたくし、これでも結構怒っています」
しかし、運が悪い。
そもそも────とっくにその主砲である38.1センチ連装砲全てが照準を終えている。
ズガァァァンッッ!!!
先程撃たれた木製の大砲が、豆鉄砲同然なのが分かる様な砲撃音。
数センチクイーン・エリザベスが下がるほどの威力の砲弾は、正確かつ無慈悲に海賊達の残りの魚雷艇群を海の藻屑にした。
「あばーっ!?!?!?!?!」
よく生きていたと言うべきである。
今この瞬間、
「そう、今この瞬間海賊達は全て倒されたのである」
ベルファストの言葉通りタブレット端末に記録が紡がれ、そして現実でもその言葉通りとなった。
「うん……一応一件落着、ですかしら?」
「流石姉上ぇ!!オレの出番がないのがちょっと物足りないけど、素晴らしい活躍だぜぇ!!!」
「ふぅ……隣にいたあの子もこれで胸の溜飲が下がってくれるといいが……」
「あらヌビアン、自分の分は良いのかしら?」
「メイド長、それはとっくに暴れて発散させているとも」
「でもアイツら生きてまだ破片にしがみついてるぜ?
姉上、オレ達でぶっ殺しとくか?」
「ウォースパイト、暴れられないからってそれは酷いですわよ。
それに……」
それに?と海の上の3人がクイーン・エリザベスの顔を見る。
「……生捕りの方が、ひょっとしたら賞金が出るかもしれませんもの♪」
***
「かくして、我らクイーンダム艦隊はこの異界の地の海賊を退けた……
と話を閉める前に君たちも出てきてはどうだろうか?」
ベルファストの言葉と同時に、チャポン、と水中から出てくるは
「流石はクイーンダムのベルファスト殿」
「話が早い上に出てくるタイミングまで教えてくれてありがたきー」
U-99、そして伊8が申し訳なさそうな顔を見せる。
「まぁ、分かってはいるけどこのメンツだからね、一応聞いておこうか。
友軍で良いのかな?」
「「もちのろん!!」」
「うん、それはよかった」
「もっと良いことを言うと、恐らく我々の方がこの世界の情報を持っているでござるよ」
「……ほう?
じゃあ、この記録の最後の言葉は少し変えないといけないか」
タップ、範囲選択、削除
そしてタブレットのキーボードに指を滑らせ、こう記録を変える。
「かくして、海賊の襲撃を退けた我々だったが、
新たに現れる、大東亜とEUGの
どうやらこの世界に詳しい彼女らへ付いて行った先に何が待っていたのか……
で、君たちは何処に行くんだい?」
「この先9海里先の街に。
そこまででこれまでの経緯をお話しするでござる」
「いいね。新しい場所は好きだ。
私も、我が女王も」
こうして、クイーンダムの一風変わった艦隊と合流を果たしたのだった……
***
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