第七話:怒りの第二水雷戦隊です!!







 メキメキメキメキ……!


 謎のD.E.E.P.の巨大な手が、ビフレスト水没部分の大きく口を開けた場所の縁を歪ませます。


「司令官!下がってください!!」


「……!」




 瞬間、ビュオォ、と突風みたいな音と共に、空中へ落ちる影。


 全体の姿は、まさにゴリラ。


 5mはあるゴリラの、下顎から胸にかけて、肩から不自然に膨らんだ両腕に、全裸の白く不自然に美しい人間の女性に似た物が浮かび上がる醜悪な化け物。



 D.E.E.P.


 この地球外生命体は、強さがあの人間の部分の数によって決まる。


 カテゴリー1はまだ雑魚。


 カテゴリー3は、複数のフリートレスでようやく対処可能な強さ。


 ────どれにしろ普通の人間じゃ無理だ!




「司令官ぁぁぁぁぁぁんッ!?!」



 ブン、とゴリラの腕が司令官の頭へとめり込む。


 瞬間、じゅぽん、と司令官の姿が水泡のように弾けた。





「───水牢獄アクアバインドッ!!」




 なんと、弾けた水泡が大きく膨らんで、D.E.E.P.を包んだ……ん?ちょっと待って……!?



「土壇場でやってみるもんだなぁ……こういうのって……!」


「司令官!?」


 ザパン、と私の隣の水から出てきた司令官!!

 本当にマジシャンみた……って考えてもみれば司令官魔法使いじゃないですかー


「ヒュー!司令官あんたやっぱベガスでショーやるべきだぜ!!」


「そのベガスのショーが何かはなんとなくしか察せないけど……!」



 ……あれ、司令官随分苦しそうな……?



 ゴポンッ!!



 唐突に響く水の音に、私たちが驚いて音の方向を見ると……




 ゴポンッ!!バシャッ!!バシャッ!!




 あのD.E.E.P.が、球体の水の内側で拳を叩くよう暴れています。


「グッ……何コイツ……!?

 私の結界に……干渉してる……!」


「どう言う事ダ!?大丈夫なのカ!?」


「ロ巨に心配される程度に……ぐっ……!

 あんまり、もたない……!!」


 司令官、冷や汗がすごい……!

 奴が暴れるたびに、なんかあの水の魔法の球体も不安定になってますしぃ!?





「ほな、」


「我々の出番ですね」




 と、一歩前に出る二人────瑞鶴さんとエンタープライズさん!!



《AIRCRAFT_CARRIER. AIRCRAFT_CARRIER.

 AIRCRAFT_CARRIER.》


「戦艦でもええかもしれへんけど、爆撃の方が速いしな!」


「急を要します。緊急発艦です」



 手にはもちろんフリートライザー。

 光と共に現れる2隻の空母が、瑞鶴さんの頭の上に、そして二つに分かれてエンタープライズさんの前後に!


 空母が、でる!!



「「艦装フリートライズッ!!」」


《 《WEIGH ANCHOR.》 》


 

 二人に重なり、まといし航空母艦の力。

 弾ける水しぶき、立ち上がる蒸気の中、構えるは弓───カタパルトアロー!



「九九式艦爆、行って!」


「SBDドーントレス、発艦!!」



 引き絞られたカタパルトから発艦する矢は、かつて太平洋の空を飛んだ航空機の名を冠するドローン。


 ブゥゥゥゥン!


 狙いは正確。

 あの怪物の捉えられた水の塊へ一直線!!


「これで……!」


「投下……!?」





 その時、


 なーんか食らった事あるような形状の矢が、


 あっ、って思っている間に爆撃機を撃ち落としやがりましたですとぉ!?!!






「何!?」


「今の!!」





「何をしているかは知らないけれども、


 庶民の癖して何を盛り上がっているのかしら?」





 あーっ!?あの崖の上に立ってる鎧武者っぽい妖怪だかなんだかとお嬢様っぽい奴はー!!



「司令官虐めている貴族っぽい女生徒!!」


「いつものぉ!!!

 ……名前なんだっけぇ!?!」



 ぷっ……!司令官に名前を覚えられてないんですか……!





「なんですってぇ!?

 この、エルフリーデ・フォン・オテグラーフェンの名前を、」


「名乗ってる場合カ!!伏せろ!!!」


 いつのまにか、



 ドォン、と音を立てて水球を撃ち破り、跳躍していたカテゴリー3のD.E.E.P.が、


 あのエルなんとかさんへ襲いかかって……!?




「はーぐーぐーぐーぐーぐーぐー!!!!」



 なんとぉ!?




 羽黒さん、着ぐるみ姿のまま猛ダッシュしてあのエルなんとかさんを抱えて転がったぁぁぁぁ!!!!




 ズガン、と地面をえぐる一撃を避けたまま、柔らか着ぐるみボディと回転で衝撃を逃して、木へ当たって空中を一回転。


「はぐっ!」


「きゃあっ!?」


 華麗な着地!ウルトラCですよこれは!!


「何をするのよ!!無礼者!!」


「どういたしましてはぐ!!

 みんなー!!今のうちにD.E.E.P.を倒すはぐー!!」





「聞こえたっしょ、大東亜の駆逐艦ちゃん達!!

 今から私の指揮以下、全員第二水雷戦隊!!!

 アッゲアゲで抜錨行くよぉッ!!!」



「「「了解ッ!!」」」



 よっしゃあです!!!フリートライザー早速使いますよぉ!!


「すぅ〜……フンッ!!」


 バキン、と開けやすくなったフリートライザーを開ける。


《DESTROYER.DESTROYER.DESTROYER.》

《LIGHT_CRUISER. LIGHT_CRUISER. LIGHT_CRUISER.》


 神通さん、雪風さん、綾波ちゃん、全員がフリートライザーを構える。



「まって!あそこは陸の上だから!!

 今私が行けるようにする!!」



 と、司令官が言うなり杖を構え、例の結界魔法を展開!

 それも……地形を変えず、なんと言えばいいのか、うまく海だけ足場に広げたような感じに……!



「さっすが司令官ちゃん!!行くっしょ!!」


 瞬間、私たちの手元のフリートライザーが光と共に、それぞれの艦船の姿へ。



 アァァ……!!アァァァンッ!?


 一番槍は、軽巡洋艦神通じんつうさんのちから

 50口径14センチ単装砲が火を吹き、合間を縫って夕立わたし、雪風、綾波の魚雷が敵へ。


 爆煙に怯んだその瞬間、司令官の力で海のように進める大地を走った私たちへちからが向かう。




「「「「艦装フリートライズッッ!!!」」」」




 夕立の艦首へ叩き込まれる拳を起点に分解、再構築されて、


 直前に垂直に跳ね上がる綾波が四角い盾、あるいは扉のような形に変形し、そこをくぐって、


 一度ばらけた雪風が三つほどの円とそれらを繋ぐ光の柱のような膜になり身体を包み、


 神通が一瞬にして変形したビーカーの中で身体が青い液体に満たされて、潰れて流れて溢れ出て、



 ────艦装を完了させる。




「ここがウチらの祭りだしぃ!!!


 行くっしょぉぉぉぉッッ!!!!!」



「「おぉぉぉぉぉぉッッ!!」」



 まずは、牽制がわりの私と綾波ちゃんの12.7センチ単装砲!


 だけどあのゴリラ、普通にナックルウォークの体勢から飛んで避けた!?




《ギョライソウテン、

 ハッシャジュンビー!!》


「逃がさない」




 ──すでに機関最大船速で跳躍していた雪風さん。


《ピッ、ピッ、ピッ、

 ギョライハッシャー!!》


 武器の一部にある確認音声と共に、九二式61センチ魚雷発射戦斧を構え、その頭上の人間っぽい顔に分厚い刃と魚雷を叩き込む。


 アァァァ──────ッ!?!


 爆散した魚雷の原料、奴らの毒であり我々の血フリートブルーに当てられた箇所が、細胞組織を溶かしてミネラルと炭素と水───ようは炭と海水に変えてズタズタにする



「いちいちうっさいしウザい!!!」



 両腕の近接用61センチ魚雷で殴り、怯んだ隙に両肩の肩の14センチ単装砲を向けてぶっ放す神通さん。

 ギャルっぽい言動も気にならない、まさに苛烈な二水戦の旗艦らしい戦いだ!



「私、四水戦出身ですけど、みんな流石ですね!」



 私だって今も神通さんの離脱の時の援護射撃しかしてないですもん。


「それ君が言う?十分すごくね?」


「綾波ちゃんだってほぼ同じタイミングで撃ってるじゃないですか。私なんて」


 そうそう、綾波ちゃん前に出ない代わりに割と援護してたり。

 案外苛烈な戦いの伝承より堅実な感じですね〜


「キャハハ!!めっちゃやりやすい〜!!

 あの二人良いじゃん、ねーゆっきー?」


「私、ちょっとしか二水戦いなかったのに二水戦メンバー扱いで良いのかなって思うの……」


「んなこと言ったら史実のあーし、1回目の二水戦壊滅の場にいた艦だしぃ!!」


 ハハハハ!!みんな笑って戦えている辺り二水戦ですねこりゃ!!


 相手カテゴリー3ですし、まだ倒れてないんですよ?



 アァァァ──────ッ!!!



「うぉぉっとぉ!?」


 危ない!!地面ごとえぐる力で振り払いを!?

 土が三式弾ですよもはや!!


「まじめにやんねーとダメかー!!

 はいみんな真面目ー!!」


「「「了解りょうかぁーい!!」」」


 たしかに、これだけ撃ち込んでまだ原型止めている辺りさすがカテゴリー3!!


 この3面ゴリラをとっととぶっ潰さなきゃ!!



          ***


 さて、そんな闘いを見ていたエルフリーデ (以下略) と羽黒。


「……な、何……この戦い……!?」


 ギャハハハ笑ってたり、軽い調子で喋っている暇があるのが信じられないほど、それは……



「……私でも横からは入れませぬ」



 ふと、着ぐるみはぐまのいる方向と真逆の横から、エルフリーデの召喚獣である鎧武者の鬼のような何かが口を初めて開く。


「あなたがですって!?ドウキ、私が認めた召喚獣ほどの物が横槍ができないと!?!」


 コクリ、とドウキと呼ばれた召喚獣は、鬼のような面を肯定の意味でうなづく。


「なんなのよ……あの庶民が呼び出した奴らは……!」


「二水戦なら仕方ないはぐ」


「何よモフモフ!!にすいせん、ってどういうこと!?」


 ふと、苛立ちげにそう怒鳴るエルフリーデに、羽黒はゆっくりとその着ぐるみの目を向ける。




「…………フリートレスは過去の艦艇の名をプロパガンダとして付けられたんだ

 でも、名前とはつまり呪いであり存在理由、

 いつの間にか、その名と同じ艦艇の戦い方をするようになった」




 声のトーンを落とし、戯けた口調をやめて羽黒が語る。

 思わず、エルフリーデもドウキもその声に聞き入ってしまう。






「二水戦。

 正式名称、第二水雷戦隊。


 かつて私が所属する国が、大日本帝国と呼ばれた時代、水雷戦隊───魚雷や爆雷などを扱う艦艇の戦隊において、


 二水戦は、主力艦隊を出す前に、

 一番最初に敵と当たる、最も過酷な任務を任されていた艦達だ」




「主力の先方……!?」


 二人は、未だ戦が身近な時代だからこそその言葉に驚く。




「主力のぶつかり合いの前、

 それは敵の激しい砲火に最初に晒され、一番消耗していない時に戦うということ……!


 そこを駆け抜けた彼女たちは、

 彼女達の名の艦は、鉄と炎の漂う海であらゆる伝説を残したんだ……!


 そしてその名を受け継いだ今も、ああやって嬉々として前衛、先方を戦う……!」


 はぐまの目の奥、羽黒の目が戦場をみる。


「とりわけ、この面子は負け戦でも信じられない活躍をした艦達だよ。

 この苛烈さ、下手に手を出さない方がいい」


「……何よ……!何よそんなの!!」


 と、苛立ちのまま地面を蹴るエルフリーデ。

 だが事実、自分は何も出来なかった。


 ……まだ、自分が嫌う庶民が偶然手に入れた召喚獣が強いから、と自尊心を守る言い訳はできた。







「みんな、動き止める!!」


「司令官!」


 だが、エルウィナはそんな戦いの中で、的確に使える魔法だけでアシストする。

 今も足にお得意の海の結界を限定的に張って足止めし、そこへ攻撃が降り注ぐ。


「何よ……私は……最初からあんな貧乏娘より弱かったっていうの……!!」


「…………、」


 その時、突然走り出すドウキ。


「なっ……!」


「失礼。あの主人の気持ちは分かるものであり」


 その手には刀が握られ、とっさに気付いた綾波が避けた場所を通り過ぎ、今あのD.E.E.P.へと振り下ろされようとしていた。


「ドウキ……!?」


「ダメだ!!」


 キィィン!!



 ───振り下ろされた刀の刃が、体表の数センチの部分で何かに押されて動きが止まる。


「バカ!!D.E.E.P.はそんな威力じゃ抜けないし!!」


 瞬間、敵の巨腕が振るわれ、ドウキを守りに入った神通ごとその体に叩きつけられる。


 吹き出す二人の血が、空中で赤と青の放物線を描く。


「ぐっ……!!」


 先に、一番前で受けた神通がなんとか着地し、背後で鎧があちこちヒビだらけのドウキを羽黒がキャッチする。


「ゲホッ、ゴホッ……!!

 あー、最悪あーしこういう少年漫画みてーなダメージ似合わないってーの……」


「神通!!」





「知ってっつーのッッ!!」





 吐血し、青い血を吹く神通に襲いかかったD.E.E.P.の振り下ろした拳へ、カウンターアッパーで魚雷を当てる。


 キャァ────────ッッ!?!


 その腕がとうとう破壊され、海水と炭化物に休息に分解されていく様子に悲鳴を上げる。


「はぁー……はぁー……いひひ、ちった驚いたっしょ?」


 ぴっ、と中指を立てて笑う神通。


 一瞬、三つの目がギョッと開いて神通を見、次の瞬間に跳躍するD.E.E.P.


 だが、その目的地は、


 この事態に立ち尽くしてしまっていた、エルフリーデ



「!?!」


「避けてそこの子!!!」


 瞬間、無事な方の巨腕が振るわれて─────





          ***



 ガギンッ!!



「…………お前、」


 ギギギギギギギギギギギ……!


「お前、今……抵抗しない方を、狙った……!?」


 ……間一髪でした。

 まぁ、無事でよかった、たとえ苛めっ子でも。



 ────んなことどーっだっていいんですよ



 アァァァ────!!!



「うるさいなぁ……そんな意味のない言葉を聞きたいんじゃ無いんですよぉッ!!!!」


 防いだ方じゃない魚雷発射管ナックルで、距離を離す


 …………いやそうじゃなくて、



「お前……わざと反撃しない方を攻撃した……そうでしょ……!?」



 そう、

 コイツは今、手負いの神通さんじゃあない、

 抵抗ができなさそうなこの子を狙った



 アァァァ……



「───アァァ、じゃないッッ!!!」



 4連装魚雷、全部使って大きく吹き飛ばす。


 でも足りない



 こんな奴には、


「やっぱり……」


 こんな程度の攻撃じゃ、


「D.E.E.P.は、人類に敵だ……!!」


 ────このゲスには足りない




「絶対ぶっ潰す……!!」



 改装前の唯一の武器、

 12.7センチ単装携行砲、

 銃で言えば撃鉄のある部分に、左手を押し当てる。


 ザクリ、


 痛みと共に私の血───奴らの猛毒、フリートブルーが、単装砲に流れていく。






《CUT_IN》






 準備を終える印の音声。

 流れ始める装薬装填チャージ中を表す待機音


 史実の武器には無い機能として砲身が十字に青い光と共に展開して、放たれる光。




 それらはまるで猟犬のように、何かを感じて後退したD.E.E.P.へ『噛みつき』、腕、肩足、胴体をたまたまあった岩へ固定する。



 ───もう逃げられない




 アァァァァアアアアアッッ!!



「いちいちうるさいんですよ……耳障りな声で鳴くな!!」



 今更な恐怖の声なんて聞き飽きた……!



「D.E.E.P.は残らず……ぶっ潰す!!!」



 私の意思を、私の怒りを、

 引き金に込めて……この一発に乗せる!!




 アァァァ─────ッッ!!!




 “夕“ これは私の怒り      ”立“


 ”デ“ その無神経な恐怖の声を、 “ス”


 “ト” その被害者面を、     “ロ”


 “イ” 完膚なきまでに、     “ブ”


 “ラ” ───ぶっ潰せと、    ”ス“


 ”ト“ 心が叫ぶ!!!



 放たれる一撃、その名は、










《夕

 立


 デストロイ ブ ラ ス ト》









 カチリ、と引かれた引き金。


 十分に構えたはずの私の体を、限界以上のフリートブルーの装填で持って起こる爆発反応で打ち出された砲弾が大きく後退させる。



 機関全速前進でこの反動。



 当然の威力で持って、D.E.E.P.の身体を岩ごと貫通する。


 

 アァァァ────────ッッ!!



 急速に広がるフリートブルーとD.E.E.P.細胞の反応。


 炭化して、骨すら脆い物質と海水ににた水へ変わり、みるみる溶けて崩れていく。


 ───あっけなく、その身体だったものは全て消えていく。


 後に残ったのは……大穴の開いた岩だけ



「終わった……ふぁ……」



 あー……まずいですわー、これ……


 艦装が解けて、私は力抜けちゃって地面にゴロンと寝転がっちゃいます……



「ゆーちゃーん!無事!?」


「それ、神通さんが言います……?」



 私は多分『貧血』…………献血した後にカットイン攻撃までやっちゃってもう頭フラフラ……お腹すいたー


 ぐー


 はい、私のお腹の音です


「…………」


「あれ、苛めっ子ちゃんなんです?」


「エルフリーデよ………

 ごめんなさい、余計なことをしたわ。

 召喚獣を制御できてないのは私の……私が悪いの」


主人あるじ、コレは私が勝手に……!?」


「────悔しかったのよ!!!

 邪魔した上で何も出来なくって!!!!」


「…………」


「…………だから、ごめんなさい」


 下から見えた苛めっ子、ことエルフリーデというお嬢様の顔、


 ……泣いてました。ええ。


 タッタッタッ、ってすぐにそのまま走り去っちゃいましたけど……


「……でも私には謝らないんだよね、アイツ」


 と、司令官が私の顔を覗き込んでそう言います。


「でしょうね……ふふっ」


「……ふふっ、何笑ってんの?」


「さぁ?」


 司令官だって笑ってるじゃないですかー

 ふふふ♪


「……立てる?」


「手を借ります」


 司令官の小さい身体には酷かな、と思いつつも手を借りて私立ち上がります。


 ふいー……疲れました


「とりあえず帰投っしょ、ゆーちゃん!」


「はいはい、神通さん一番ダメージデカいんだからちゃんと掴まって!」


 と、綾波ちゃんに肩を借りた神通さんがボロボロで真っ青な血を流して笑ってます。

 ギャルっぽいと言うより喧嘩した不良っぽい男前さでてますよー


「ちょうどいいですね!

 皆が集合したところで、是非皆さんも私のサバ味噌を食べてください。

 量は十分にあります」


 っていつのまにか大和さん降りてきたんですか!?


「さばみそ、って何?」


「この世界の住人である司令官もきっと気にいるはずです。

 魚もこの近海にいる異世界サバの風味は、この赤味噌とよく合いましたゆえに。

 ぜひぜひ」


「大和さんの料理は絶品ですから、きっと司令官も気に入りますよ!」


「当然です。

 私は、この世界でもすでに最高峰の存在ですから」


 一切合切誇張しているようなそぶりもなくさも当然のようにそう言える大和さんかっけー!!




「そんな当たり前のことよりも早く食べてもらいますよ?

 怪我人は特に。

 人が良くなると書いて『食』。直すにもまずは腹ごしらえです」



 よっしゃ!お言葉に甘えてご飯だー!!


 とりあえず、これで一件落着!!

 全員帰投ー!!





 …………で良いですよね?





          ***



「ところで、D.E.E.P.はあれで最後ですか?」


 エンタープライズの質問に、伊8とU-99は目のみを露出させている顔でも、はっきり分かるほど苦い顔をする。


、これで最後にござりまする」


 ぴくり、と伊8の言い回しに気付くエンタープライズ。


「……では、は?」


 その質問に、二人は意を決したような顔で答える。


「……拙者達が内部で倒したカテゴリー1や2はもう残ってはいませぬ」


「しかし、我らの行手を阻んだあのカテゴリー3は、





 





「…………なるほど」


 静かにメガネの位置をただし、エンタープライズは視線を海へ向ける。





「この世界の海もまた、

 私達の戦場のようです」




 ────海は、あまりにも穏やかで、


 何ごともなく、命の営みを行なっている。



「ここで戦うしかないのですか…………最悪の場合は」



 だが、その海の底は、

 誰にも、見えない。



          ***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る