第一章:新たな艦装少女《フリートレス》、異世界に着任、ってえぇ!?!

第一話:夕立は着任早々に戦います?





 夕立ログ:01


 とりあえずは一旦夜なので寝ました。









 ………………









「君は、正義がいつまでも正義だと思いますか?」



 ふぇ……?



「どういうことで……?」


「言葉通りの意味です」


「うーん……というか、変わらない物はあるんですか?

 私達、兵器だって需要によって大きく姿を変える、って感じですし」


「…………ふふ、その通りです。

 変わらないものなどはない。どんな物でも……価値観ですら」


「?」


「さぁ目覚めなさい。

 あなた達の様な人の産んだ物が……その世界に必要です」


「ところで、あなたはだ──────」









 …………………







 チュン、チュン♪


「んん〜……♪うふゅ〜…………ぽーい…………」


「むぐぐぐぐ!?」



 …………んん〜?

 なんか……胸元がむず痒いような……抱き枕から生暖かい空気と声が……



 ん?

 ……??


「ハッ!?」


 気がつけば私は、司令官を白露型駆逐艦らしい、前初春型の過重武装による重心上昇を考慮してほぼ1から設計し直した速力回復と重心下げを考慮した船体で、って要するにおっぱいで司令官を窒息させてるのに何を語っているんですか私ぃぃぃぃ!?!?


「死なないで司令官!司令官ぁーん!!」


「お……おっきくて柔らかい物に潰されて……」


「司令官ぁぁぁぁぁぁぁぁん!?!?!」



 ───朝から、私は友軍誤射をしてしまいました……シュン……




          ***



 ここは、複数の島国の集まる大陸。

 強いて名を付けるなら、『ニューロペー』。

 おおよそ2000年前からこの名前で呼ばれている。


 ここは、気がつけば色々な物が流れ着く場所。

 住人達は、海の向こうや空の向こうを知るその前からずっと、


 『世界の外』───異世界の存在を知っていた。


 ───その実自分達の先祖も他の世界から来たかもしれない、とある冒険者達は言う。


 そして、そんな世界だからこそ、今でも様々なものが流れ着く。


 魔神だとか天使だとか、魔獣や色々な呼び方がされてはいるが、


 人や知能の高い者は、魔法をもってそれらと契約して、従えたり共に歩んで今も生きている。











「……なるほど、ラーニング完了」



 パタン、と6つの歴史書を閉じてキリッとかっこよく呟いてみたり。


「嘘……こんな短時間で本を6つも?」


「フリートレスにかかればこんな物です、司令官!

 あ、でも巡洋艦装少女クルーザーフリートレスならもっと早いですかね?」


 ……あ、司令官理解してない顔。


 まぁ仕方ないですね…………



 広大な『図書室』を照らすのは、おそらくガスランプ。

 電気なし、空調はないのでややひんやり。

 そして……


「おっと、すまん」


「いえい……えー……」


 今ぶつかった、喋るネコ科っぽい大型動物が普通に歩いている。


 うーん、私完全に異世界にいますねぇ……喋るネコ(推定全長2m、重量は80から90kg)


「現状は理解しましたけど司令官、慣れませんねこれは」


「あはは……ねぇ、その司令官、ってやめない?

 なんだかむず痒いよ……」


「そうは言われましても……もう私の識別は、エルウィナ・フワ司令官を『司令官』で認識しちゃってますので」


「うー……せめてマスターとか……」


「同じような物ですって、司令官♪」


 もじもじ、照れ照れ……

 これだから可愛い子イジるのは辞められない。

 ピンクな髪の毛の色に負けない顔赤らめちゃって……可愛いですねー、うんうん♪




 まぁ実際司令官だから変える必要ないもんね!です




「……それでさ、」


「はい司令官?」


「……早速なんだけど、あなたを呼び出した理由を話すね。

 昨日は出来なかったから」


          ***



 ここは、ランギス王立魔法学園。


 魔法という、大気中に満ちる力を利用した……って言わなくてもなんとなく理解できる例の異世界特有技術を学ぶための場所だそうです。




「ざっくばらんに言えば司令官は純粋な魔法使いなんですけれども、今まで契約出来た魔獣やら何やらが居なかったと」


「うん…………それで単位を落としそうだったんだ……」


 切実ですね。

 単位って言葉はこの世界でも落としちゃ行けない物筆頭なんですね。


「私自身、属性相性とか……使える魔法とか色々あるんだけど……

 一番は、魔力が相手に馴染まないというのかなぁ……」


「どゆことですか?」


「普通はね、契約した魔神やら精霊なんかには契約者の魔力が存在を維持するための力になるんだけど……

 いまいち、今まで会った相手とは合わなくって……」


「……ふむふむ。

 軽自動車だからって軽油入れようとしてたんですけど、相手が求めたのはレギュラーガソリンだったんですね!」


「ごめん、なにそれ?」


「ですよねー。

 じゃあ、米文化の人にパンで誘いをかけてたんですね?」


「そんな所だけど、なんか複雑…………」


 そしてこの世界、米文化もパンもあるんですねー


「でも、そういうのって私に通じるんですかね?

 私以下フリートレス、基本的燃料はみなさん人間と同じ可食物なんですが」


「あ、そうなんだ……!

 魔力のパスは繋がってるけど、なんだか魔力が送れないというか……補助魔法をかけるにもやたらと抵抗が大きいというか」


「うーん、私も白露型駆逐艦装少女デストロイフリートレスですし、ましてや一度も出撃・遠征・作戦行動をしていませんから……


 エネルギー満タンでこれ以上入れるとバランスを崩して転覆!


 な感じなのでは?」


「言いたいことは分かるけど、そんなに単純なもの?」


「さぁ?」


「だよねー……あ、ついたよ」



 そんな訳で、司令官みたいな子達がたくさん集まる学校の校庭へとやって来ました!




「ギリギリよ、珍しいわね!

 初めて契約結べて眠れなかったのかしら?」


「ごめん委員長……」



 えー!?

 委員長、めっちゃ青肌で黒白目な魔族っぽいじゃないですかー!?!



「何よじろじろ見…………てかなによその格好!?!」


「え、なんかおかしかったです?」


「おかしいも何も胸の谷間とか肩とかお腹に、いろいろ丸出しじゃないのよぉ!?!

 私達淫魔でもそんな格好しないわよ!?!」


 私としては、それを角まで真っ赤にして蝙蝠っぽい翼と先端がハートっぽいしっぽを逆立てて言う委員長氏の方が生物学的にチグハグでは?


「…………たしかにちょっとエッチだよね、夕立」


「えっ、マジなんですか司令官!?」


 そんなに?

 フリートレスでは普通の格好では…………




「静粛に!

 授業を始めるぞひよっこども!!」



 つい、反射で姿勢を正し声の方向を見ます。

 見ると、やっぱりと言うべきか如何にも鬼軍曹っぽいーそうな鋭い顔つきの女性教師が鋭い視線を周りに向けていました。



「全員揃っているか……

 ふむ……エルウィナ!」


「はい!」


「どうやら、お前もなんとか契約は結べたようだな。

 随分と扇情的な見た目だが、その召喚獣はどこから流れてきた?」


 マーム、そんなに私すごい格好ですかマーム!?

 いや周りもなんですかそのクスクス笑い……司令官目を背けないでぇ!?夕立はふあんなんですよぉ!?


「まぁなんでも良い。今、暴れてないだけ最低限の点はくれてやる。


 さて!!

 本日は、お前らひよっこ魔導士共による模擬戦を行う!」



 …………マジですか、いきなりバトル展開ですか。



「事前に組み合わせは決めておいた!

 1組で一対一で戦え!

 勝ち負けに成績は関わらないが、戦いの出来次第でこの私が採点する!!

 無様な姿は見せるなよ!!」


「……相変わらず無茶苦茶よね、モディウス教官……」


「あれでも座学はちゃんと分かりやすいけどね、委員長」


 淫魔委員長曰く、モディウスっていう名前なんだ。

 夕立ログファイル名「怖い女」に登録しておこう。



「では早速組み合わせを発表する!」



 モディウス教官殿は、そう言うなりちょっと凝った意匠のライターと赤い紙を一枚燃やして……


「うぉっ!?!」


 炎が空中で組み合わせ表を描いたぁ!?!

 すごいです!!ものすごくファンタジー!!


 …………だいぶ文字が英語っぽいーですけど……なんで読めるんでしょ……


「相手は…………プレシア・ランギスさん?」


「嘘……!?」


 その名前を見た瞬間、なぜか司令官含めて全員ざわつきます。


「……かーわいそー……!」「まさか姫様相手にねぇ……」「まぁようやく契約したようなのだし……」



 なんですこの空気?

 司令官もそんな青ざめて…………





「────まさか、このような組み合わせとは意外ですわね」





 突然響く凛とした声。

 視線を向ければ、すさまじいオーラ。


 いや、単純に顔が良いんですよ、その人。


 冗談みたいな綺麗な金髪ゆるふわウェーブもやたら似合うし、目の色も宝石みたいな緑で……


 肌の張りが見て違うって分かる人います?いましたよ目の前に。

 確実に普段の食事レベルから違うような人。

 歩くだけでスラッとした長い脚の体型を完璧に見せつけられるような人。





「す……すっごい高貴な姫様っぽい人きた……!」




 語彙力もないフリートレスでごめんなさい……





「本当にお姫様だよ。

 プレシア・ランギス姫、一応ここランギス王領の第4王女殿下」


「肩書きですでに強くないですか」


「実際……1年生で学も実力もトップ…………単独でも戦えるタイプの魔導士」


「設定盛りすぎでは」


 ちょっとは加減してほしいです。




「───まぁ、一応同じクラスでしたわね?

 お噂はかねがね、エルウィナさん?」


 あくまでクール、っていった感じの所作でそう声をかけてくるプレシア姫様。


「きょ、恐縮です……」


「あまり気負わないでくださいな。

 ただ、わたくしもわたくし自慢の召喚獣であるレドゥーナも、」


 直後、姫様の真横に現れて光る魔方陣。


 すぅ、と出てくる真紅の髪を二つに束ねて、竜っぽい翼とツノを持った豪華な第一次世界大戦前の軍服みたいな格好の人……??



「そう簡単に負けるつもりありませんが」


 ズワァ、と謎の擬音とアオリ画像を錯覚する迫力に、私はずっと冷や汗でした。




「何もかも強そうすぎる……!!」



 夕立、D.E.E.P.戦よりも震える事態は初めてかもしれません。


 いや、建造されて初めての戦いですが……




 どうなるんですかねこれ……!?!




           ***

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