第二話:夕立、抜錨します!





「では、

 これより簡単に、「そこそこやる気出して戦っていい負け方をするぞ作戦立案」を開始しましょうか、司令官!」





「それ負ける前提なの?」


「それはともかくとして、なぜわざわざ敵の前でそれを話すのですかしら?」



 校庭の一角で、他のみんなのバトルを見つつもそんな作戦会議です。


 あ、どうでもいいですけどあの淫魔らしい委員長がすっごく自分から前で戦うタイプだった…………


「演習は、自分のこれまでの実力を発揮する場ではありますが、

 だからといって死力を尽くしてだとか実戦同然、だなんてやったら死人が出るじゃないですか!

 死んだら終わりなんですよ、人生!」





「───御高説は結構だが、


 こちらも随分と舐められたものだな」





 と、さっきカッコよく出てきたあの赤い竜っぽい人……たしかレドゥーナさんでしたっけ?


 ものすごくこっちを睨みつけて不機嫌そうに言うんですが。


「この私に対して、『怪我をしないように戦おう』だと?

 お前程度が死力一つ出せずどう生き残れる?」


「逆に聞きますけどなんで死闘前提なんですか、怖い……」


 と、そこまでつい言った所で首元になんだか装飾の多い槍の刃が。


「ちょ……!?」


「レドゥーナ!!辞めなさい!!!」


「私は誰の指図も受けない!

 忘れたか、プレシア・ランギス!?」


 鋭いレドゥーナさんの視線を、一応ご主人様らしいプレシアさんはキッ、と睨み返す。


「分かりやすくもう一度言うわ。

 まずは、刃を、下げなさい……!」


「お前は気に入ってはいるが、果たして私が素直に何度も聴くと思っているのか?」


 ちょ、ちょ、刃食い込んでますって、私『血』出てますって!


「───!?」


「!」


 ん?

 ちょ、皆さんどうしたんですか、急に私の顔見て驚いて?


「……夕立、血が……?」


「ああ、司令官心配しないでまだかすり傷ですから、絆創膏持ってますし平気です。あ、絆創膏って分かります?」


「そうじゃなくって……!

 血が……!!」


 気がつけば、皆さんなぜかものすごーく注目してますけど…………


 あ、もしかして……!


「……もしかして、ドラゴンやら召喚獣やらいるのに、





 ────、ってそんなに珍しいですか?」






 傷は浅いけど、結構多めに出ている私の血液。


 ヘモグロビンと鉄の結合色ではありえない、発光しそうなほど青白い色の、血。


「え……あ……」


「あー、これだけ色々な方がいれば紫とか色々いると思ってたんですけど盲点でしたね…………


 あ、別に毒とかじゃないから大丈夫ですよ、普通の人には」


 とりあえず、応急修理キットである腰のポーチから絆創膏を取り出して張っておきますねー


 …………そんなにドン引きしなくても良くないですか?


「…………チッ、興醒めだ」


 あー、なんですかその態度ー!

 刃を下ろしたからって舌打ちしちゃいけないんですよー!


「レドゥーナ!!

 全く…………あなたも驚いて、申し訳なかったですわね……つい」


「いえいえ、青い血が珍しいのは事実ですし」


「よかった。

 ただ、こちらも戦いは本気で行きます。

 そのつもりで」


「まぁ、怪我しない程度に頑張ります!」


 なんだ、結構良い人ですねお姫様。

 …………なんて思っていると、頬にすこし暖かい感覚が、って眩しい!?


「司令官!?」


「ごめん、引いちゃって!

 ……本当にごめん…………」


 …………あー、司令官も結構気にしてます?

 とか言う合間に頬の痛みが……うぉぉ!?これって有名な回復魔法!?


「すごーい、フリートレスの身体でも治っちゃうんです、ねごっ!?」


 と、思った矢先に痛ったーい!?

 いやマジで矢が刺さってる!?え、頭に!?頭に刺さってる!?

 うわぁ!?何事!?!


「あー、ごめんなさいねー、当てちゃってー!」


「あはははは!青い血の化け物と契約なんて無様ねー!」


「能無し田舎娘が生意気なのよー!」


「そんなんで姫様と戦うなんて調子のってんじゃないわよぉ!」


「やめなさいあなた達!」


「あ、いいです姫さん」


 なるほど、テンプレいじめっ子ですかー。

 あーあ、司令官も顔曇らせちゃって……




 ───じゃあやる事は一つ。




「反撃ぐらい自分でやるんで」




 刺さった矢を引き抜いて、痛い!

 それを大きく振りかぶって……




 白露型の42000馬力スローイング!!





 パァン!!



「なっ!?」


「私の召喚獣!」


 おー、自信なかったですけど、見事あのいじめっ子の鎧武者っぽい謎の妖怪?召喚獣だっけか……を一撃で穴開けてやりましたよ。


『!?!』


「あー、ごめんなさいねー、つい当てちゃって♪」


 いや本当に、そんな気なかったんですよ〜?

 まさかこんな中世?からあるような矢が、徹甲弾みたいな速度で飛んで自壊しないと思わないじゃ無いですか〜??


「この……!!

 平民風情が貴族の物になんてことしてくれるの!?」


「───ここではクソ貴族も……もとい貴族もクソもなく、」


 ぬぅ、と彼女の背後から現れるモディウス教官。

 ───いっそ引き締めた表情の方がいいぐらい怖ーい笑みで。


「ヒィ……!?」


「勝手をしたバカは、減点だ。

 忘れたか?ん?」


「あ……え、あ…………はい……!!」


 震える声で答えるいじめっ子女子生徒に、ポンと不気味なほど優しく肩に手を置いて、私たちへ。


「教官!

 わ、私の不手際です…………召喚獣を制御できませんでした!」


「そうか。まぁ今日初めてだったからな。

 減点は加減してやる。試合は気を抜くなよ」


 と、言って私の横を通り過ぎ……


「───ちゃんと急所を外していて偉いぞ」


 ぼそり、っていう小さな声で私に耳打ちして去って行きました。


「…………ふぅ。

 夕立、頭の傷治すね!」


「あ、お願いしまーす。

 ここだけ剥げてません?」


「バカなこと言わないで!?

 アイツら……最悪夕立が死んでも良いって頭狙ったんだよ!!」


「常習犯で?」


「そう。

 おまけに毎回靴箱に馬糞返してやっているから……きっと容赦ない」


 いや、司令官もめっちゃ容赦ないじゃないですかー

 逆にここまで仕返しする相手にまだ懲りずやるアイツらって……


「…………」


「司令官?」


「…………夕立ってさ、強い?」


 ふと、そんな事を尋ねて来ます。


「……私は、駆逐艦装少女デストロイフリートレス

 汎用性と遠洋能力、速力をもって、艦隊の邪魔者を駆逐するのが仕事です」


「……どういうこと?」




「ぶっ潰せ、って命令したらなんでもぶっ潰す!



 って事です♪」




 えへへ……♪

 ようやく、笑ってくれましたね、司令官




           ***



「では次だ!

 プレシア、エルウィナ、前へ!」



 そんな訳で模擬戦ですよ。


「……司令官、良いんですね?」


「それこっちのセリフだからね。私の事分かった上であんな作戦なんて……」


「作戦なんて綺麗な物じゃないじゃないですか」


 なぁんて、打ち合わせで出た最適解を確認してみたり




「何をする気かは知らんが、私は負けない」


「私たち、でしょうに」


「そうなるかはお前次第だ」


「はぁ…………ならば、私も気を抜くのを辞めましょう」




 お、あっちもやる気満々じゃあないですか。

 まぁ、怪我だけはしないように、行きますかー。



「ルールは簡単だ!3分の間に戦闘不能となった方が負けだ!

 戦闘不能の基準は、一撃喰らったかどうかとする!」



 結構危なくない?



「用意はいいな!?

 では、始めッ!!!」



 モディウス教官の号令。


 瞬間、向こうのお姫様はなんかカッコよさげな魔法の杖にまたがって飛び上がって、はいレドゥーナさんはドラゴンみたいな翼を羽ばたかせて突進。


「これで落ちるような真似はするなよ!?」


 獰猛な笑み、向こうではなんか呟いた姫様の周りに魔法弾。




 そして私は、後ろに尻餅ついて倒れる!



「!?!」


 はい、動き止めちゃいましたね?





「───空と海、消える境界


 我の目に映るは事象の地平」


 めっちゃ詠唱カッコよくないです司令官?




「その詠唱!?」


「なんと……!」



「大地を全て飲み込もう


 沈め沈め、海の底へ



 『境界閉ざされし海原コバルティウム・タイド』」



 コツン、と司令官の魔法の杖が地面を叩きます。

 ぴちょん、と滴る滴が、突然溢れて私達を包む。




「何てやつだ、まさか───────」




 そう、このエルウィナ・フワという司令官は……



          ***


 ちょっと前、


「私ね……魔法使えるの数個だけなんだ」


「数個でも凄くないです?」


「他は数十個が普通。

 回復と、軽い千里眼……それと、海の力の結界だけ」


 最後、突然規模がデカくないです?


「……この結界の応用でそれっぽい技は……何個かできるけど……」


「それ以外できない?」


「うん……だからバカにされてる……けど、」


 司令官は、少しだけ言いにくそうに……でも本音をこう漏らしました。




「…………私、この使える魔法嫌いじゃないし……バカにされたくない」




           ***


「……だから、速攻を狙ったのです。

 エルウィナ・フワをバカにしている連中は、何をみているんですの……!?」


「少なくとも、を見たことないんだろう」






 空を飛ぶプレシアとレドゥーナの目の前、



 そこは、広く雲のない青空と、同じぐらい青い海だけが支配する空間だった。


 海。


 どこを見渡しても、地平線しか見えない。



「コレが人間の作れる亜空間だと!?」


「こうなってしまえば、わたくしは彼女の位置がわからず、向こうはこちらの一挙一動が手にとるように分かる。

 結界とはつまり、術者の生み出した世界なのだから……!」


 してやられた、という顔で周囲に探知魔法を張るプレシアに対し、ハッ、とむしろ喜んでいるかのような顔を見せるレドゥーナ。


「そうでなければな!!

 私のやりがいがない!!」


 叫ぶなり加速し、離れて獲物を探し出す。

 また命令を待たずに、と内心の溜息を殺して、レドゥーナが余計な労力を払わないように空中で浮かびながら探知範囲を広げる。


(……異界尺度法で言えば四方八方は100kmずつの範囲……半径100kmとは、人間が作った結界の範囲としては異様に広い……あ!)


「レドゥーナ、右前方!」


『見えた!!』


 念話は魔導士としては割と基本の術であり、こうやって遠く離れた相手とも話せる。


 どうやら、自分と同じタイミングで、敵の姿を見つけたようだ。


『お前はそこで見ていろ!!

 私の手で片付けてやる!!』


「油断は死を招きますわよ……!」


 いつものことだ、とプレシアもすぐに追いかける。



          ***


 海の上に普通に立てるのはフリートレスの特権ですね。

 ただ、もうちょっと足場に力がかけられたらなって……だって、




「ぐぬぬぬぬ……あっれぇ〜?

 新品だから硬いのかなぁ……!!」


 ギチギチギチギチ…………


 今私は、スマホっぽい機械───その名も『54式フリートライザー』を、訳あって力を込めて『広げよう』としてます。


『夕立!!何してるの、来てるよ!!』


「分かってます分かってますって!!

 ぐぬぬぬぬ……!!!」



 まずい、めっちゃ近づいて来てます!!

 もうすぐ接敵!!うっそぉ!?



「とったぞッ!!!」


「取られてたまるか……


 ぐぬぬ……ぬぅぁぁぁぁぁッッ!!」



 ようやく、フリートライザーがバキン、と展開します。

 ロック解除!開いた背面のボタンを、押す!



《DESTROYER. DESTROYER. DESTROYER.》




 瞬間、待機音声と光と共に手の中のフリートライザーが分解、



 ────勢いよく小さな『ふね』が光から飛び出します。




「なんだ!?」


 驚いている暇はありますか?



 『駆逐艦夕立わたしのちから』は、凶暴です!



 対空機銃がレドゥーナさんを狙い、海をドリフトしながら牽制射撃!


「くっ……!」




「来て、夕立わたし!!!」




 夕立わたしは艦首を私に向けて、勢いよく突っ込んできます。


 息を吸って…………拳を構えて、





「───艦装フリートライズッッ!!!」





 音声認識と同時に、艦首へ拳を叩き込む!!



《WEIGH ANCHOR.》



 瞬間、まるで解けるように、分解されバラバラになる駆逐艦夕立わたしのちからが殴った拳から『装着』されていきます。


 12.7センチ単装携行砲、主機関、煙突、マストに頭の狼っぽいレーダー器官。


 これぞ、ある意味で私の真の姿!




「姿が変わった……!?」





「夕立、抜錨アクティブ


 さぁて、ソロモンみたいにド派手にやっちゃいますか!!」



 ちょっと気取っちゃってます?

 まぁ、ここから本当にド派手に戦っちゃいます!!



          ***

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