第11話マザードラゴン
力なく横たえた大きなドラゴンが瞳を開ける。
漆黒の瞳は、水のごとく清んでおり、鏡のように王とその側近達を映し出して居る。
淡いクリーム色の肌は、柔らかな鱗で覆われ、天窓から降り注ぐ光を浴び、神々しく輝きを放っていた。
「おお!、な、なんてことだ」
王の目から見てもその血色のなさは顔に出ていた。
よく見ると瞳の所々から目やにのようなものが湧き、血色のよい肌は白くくすんでいた。
「どう言う事なんだ!」
マザードラゴンに駆け寄ると王は、壁際に恐々と硬直し直立する、世話係を睨みつけた。
「きざし……かも知れませぬ」
側近の王室お抱えの占い師、バオボラが前に出た。
「きざし……だと」
バオボラはただの占い師ではない、古くから王国の行く末を占いやその卓越した英知で支えてきた、遙か昔には王族とも血縁があり、ホルン教の教祖でもある。
「はい……、そこかで生まれたのやも知れません」
「生まれたとは?」
「マザードラゴンが死するとき、どこかで必ず、対になるものが生まれると聞きます」
「対とは」
「マザードラゴンはそれに備え、死を迎え、そして新たな命で生まれ変わり、それに備えため、死を迎えるのです」
「備えるとはいったい」
「それは分かりません、ですが私が祖母の代の時に先の大戦が起こりました」
「むうう……」
戦争の兆しは高まっていた、隣国のヴァロデニアが近年度々、国境に侵入しているのだ。
今は退けられているからいい物を年々その勢力は弱まらず、同盟国との伝えでは、幾つかの国を吸収し兵力を増強していると聞く
「どうすればいい」
バオボラが深く被ったフードの中で考え込む。
「できるだけ早く見つけるのです、対になるもの……そして新たに生まれ来るマザードラゴンの子を手中に収めるのです」
ソックスとネネット 濵明之介 @3647
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