天ぷらうどんの話

餅雅

松山で天ぷらうどんを注文したら変なのが出てきた。

 田舎で育った僕は少年式を終えたばかりの当時十四歳。真珠御殿が軒並み夜逃げした所謂、バブル崩壊の頃の事だ。世の中これからどうなるか分からないから、今のうちに色々観ておくと良いと父に言われて松山まで出てきた。当時はまだ道が整備されていなかったものだからMT車で片道五時間かかった。昼食にうどんを食べることになり、僕はお店で天ぷらうどんを注文したのだが、自分の目の前には薄黄色いどてらを纏った海老が一匹うどんの上に鎮座していた。

「何これ?」

 僕は思わず声を上げたが、隣に座っていた父が僕を嗜めた。

「いいか? これが、世間一般の天ぷらうどんなんだ」

 僕の頭の中には田舎で食べている茶色い小判型のじゃこ天ぷらが乗ったうどんを思い浮かべていた。

「場所によったらな、薩摩揚げが乗ったり、かき揚げが乗ったうどんを天ぷらうどんと呼んだりするんだ」

 自分が今まで常識だと思い込んでいた事がこんなにも簡単にひっくり返されるのかと驚いた。あれから数十年、僕は色々な国を旅してその地域の食レポを仕事にしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天ぷらうどんの話 餅雅 @motimiyabi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る