第35話 朝田家と夜ご飯


場所は彩香先生がメモしてくれたのでそれを見て向かう。

少し時間が経過した。

「ここか」

ごく普通の家。

「なんかさっきバカでかい家に行ったから少し落ち着くな」

「まぁ、玄関で渡せばいいか」

俺がチャイムを鳴らした。

「はい」

女性の声がした。だが萌の声より少し幼い。

「あの萌さんと同じクラスの坂木賢と言います先生から頼まれたプリントを渡しにきました」

「少し待っててくださいね」

「姉ちゃん!男来たよ!!!!」

おいおい、通話ボタン消せよまる聞こえだぞ。

ドンドンドン

すごい足音が玄関チャイムから聞こえてくる。

す、すごいな男の足音みたいな。

するとドアが開き萌が出てきた。

少し顔も赤い。パジャマを着ていて眼鏡をかけている。

萌は学校では眼鏡をかけていないため少し新鮮だ。

マスクもしている。

本当に風邪を引いていたんだな。

「あ、なんだ賢か」

「なんだとはなんだよ」

「ごめんごめん男って言うからさ妹が」

「俺も男なんだが。てか妹いたんだ」

「うん」

萌は少し下にずれた眼鏡をかけ直す。

「とりあえず中に入って」

「お、おう」

俺は家の中の玄関に入った。

すると妹という中学生くらいの子が俺を見てくる。

「こんにちは」

俺が挨拶をするととても可愛らしい笑顔で挨拶を返してきた。

「こんにちは!妹の美波みなみと言います!」

とても礼儀正しくどっかの姉とは違うのでは?と思ってしまう。

「いいから。美波はあっち行ってて」

「はーい」

美波はリビングに戻って行った。

「それでどうしたの?」

「いや、どうしたのってお前が俺を呼んだんだろ」

「そうだったけ?」

「そうだよ。先生に渡しに行けって言われたから」

思い出したのか手を叩きだした。

「そうそう思い出した」

本当に忘れてたのかよ。

「ほらこれ」

俺がファイルを渡した。

萌は中身を確認している。

「うん。ありがとう」

「おう」

「それで」

「ん?」

「それで、桜さんに謝った?」

「あ~それで俺を呼んだのか」

ようやく俺が何故呼ばれたのかが納得をした。

「うん」

「ちゃんと謝ったよ」

「まぁ、最初っから期待はしてなかったらしいけど」

俺が言うと少しクスクスと笑う。

「おい!なに笑っているんだよ」

「いや、期待されてなかったのかと思って」

そう言いながらまたクスクスと笑う。

「お前な。あの後クラスの連中から変な誤解されたりしたんだぞ」

「変な誤解って?」

まずい、言わなきゃよかったかもしれない。

また余計な事言ったらおかしくなってしまう。

「あ、いや。謝ってたから変な目で見られていた・・・みたいな」

「へー」

萌は怪しげな顔をしながら棒読みで返す。

「そ、それより体調は良くなった?」

「うん。少しはね」

まだ少し咳はしている。

時間も時間だし俺は帰ろうとした。

「それじゃあ、明日これるなら来いよ」

「あ、うん」

俺が家を出ようとすると萌の母らしき人が玄関から出てきた。

「あら、こんな所で何をしているの?」

萌に言った後俺の方に視線を向ける。

「ど、どうも」

ぎこちない挨拶を俺はする。

「あら、お友達?それともこいび・・・」

「違う!!」

萌の母は何を言おうとしてたのかをわかったのか言いかけた瞬間すぐ否定をした。

「そ、そうなの?」

少し驚いた萌の母。

するとリビングに行った美波がこっちを覗いた。

「あ!お帰りお母さん」

「ただいま美波」

「ねぇねぇ今日の夜ご飯はなに?」

美波が興味深々な顔をしながら言う。

「今日は肉じゃがとお魚よ」

「やった!肉じゃが!」

いいな、肉じゃが俺も好きなんだよな。

「では俺はこれで帰らせてもらいますね」

「待って。よかったらうちでご飯食べない?」

「え?」

「ちょっとお母さん⁈」

焦りだす萌。

「別にいいじゃない。萌のお友達なら私も興味あるし」

いやいや、待てよ!俺と萌が許嫁の事しらないのか?

たしかに、萌からお母さんの事は何も聞かされてないし。

いやいや、じゃあ萌と姉さんが勝手に決めたことなのか?

それって許嫁成立しているのか?

「あなたは?いい?」

「あ、はいそれではお言葉に甘えて」

すると次はまた玄関からドアが開いた。

「帰ったぞ!」

声がとても低くいかつい声がする。

「あら、あなたお帰り」

俺は萌の母が『あなた』って言葉で察した。

萌の父だったぁあ!!

「おう。ん?誰だ君は?」

渋い声をしながら俺に尋ねてくる。

俺はまだ萌の方を見ていて萌の父の顔は見ていない。

俺はゆっくりと顔を向けると。

いや、こわぁぁぁ!!

顔はいかつく体はでかくもう完全ヤクザのような姿だ。

俺はこう思ってしまう。こんないかつい人に許嫁なんて言えねえよ!

これは早々に許嫁を解除しなければ。

あと、すごい狭い。

玄関に三人立ち止まっているからだ。

「と、とりあえず靴脱いで入りな」

苦笑いしながら萌が言った。

リビングにて。

「それで。娘とはどうなのかね」

萌の母は料理をしている。

妹は母の手伝い。

そして俺と萌と父はリビングで話をしている。

「え」

俺は唐突に萌の父は言ってきたのでつい『え』と言ってしまった。

その言葉が腹を立てたのか強い口調で同じ事を言った。

「娘とはどうなのかね」

「あ、えーと。とても仲良くしてもらってます」

とりあえず機嫌をそこねないように丁寧な口調で父に言う。

「そうか。娘のどこが良い?」

「え?」

「娘のどこがええねん!」

急に関西弁を使いだすので俺は関西出身の人なのかなと少し疑問になったがそれどころではない。

何故怒鳴りだしたのかはわからないがおそらく『え』と言ったからだろう。

「と、とても真面目で良いとこですかね・・・」

「それだけかいな!」

「す、すいません!!!!」

あ~もうなんで俺は今萌の家で萌のお父さんに叱られているんだよ。

しかも、途中から関西弁になっているし。

俺もついつい『なんでやねん!』って言いたくなるわ。

「も~お父さんいいでしょ!」

俺が萌のお父さんに叱られていると俺の隣にいた萌がかばってくれた。

「だがな」

どうやら娘に言われると口が出ないようだ。

俺は少ししょぼくれた萌の父の顔を見た。

「てめーなにみとんねん!」

「ひぃー!すいません!」

「だからお父さん!すぐ怒鳴らないで!」

「あと、関西の人でもないのに関西弁使わないで!」

「す、すまん」

いや関西の人じゃあないのかい!!

「はいはい。ご飯できたわよ~」

会話をしていると萌の母はそう言いながらテーブルに料理をだす。

美波も料理を出す手伝いをしている。

本当によくできた妹だなと感心してしまう。

それぞれ自分の席に料理が置かれていく。

とても美味しそうな肉じゃがの香りがする。

「おいしそうですね!」

俺は出された料理を見ながら萌の母に言う。

「そう?嬉しいわ」

萌の母は俺が言った言葉ですごく嬉しそうに言う。

「なに口説いてるの」

睨みながら俺に言ってきた萌。

「別に口説いてねえよ!」

俺が萌に言い返すと前から闇のオーラをまとった父が俺を睨んでくる。

言葉にはだしてないがなんとなく殺意を沸いている。

体が震えだした。

「じゃあ、私は今日賢お兄ちゃんの隣でご飯食べる」

美波がとても可愛らしく言った。

おい!やめてくれ!これ以上君のお父さんをイラつかせるのは!

「そんなビビらなくてもいいじゃないか」

いや、言っている事と顔が違いすぎるのだが。

結局美波は俺の隣で飯を食べる事になった。

「いただきます」

萌の母が作った肉じゃがを一口食べた。

「おいしい!これ。おいしいですね!」

お世辞ではなく本当においしかった。

俺はあまり母さんのご飯を食べたことがないからなのか母の手料理とはこんなにも温かいものなのかと思う。

「ありがとう。坂木君のお母さんは料理作らないの?」

何故俺の名前を知っているのか疑問になるがそれより母の話題をだしてきたこに少し困ってしまう。

俺の隣にいる萌も思わず手が止まる。

不思議に思った萌の父が口にする。

「なんだ。二人して急に止まって」

「あ、いや。実は僕の母は小さい頃出てしまって」

「そ、そうなのか」

先程の勢いある言葉はなくなりなにか申し訳ない顔をしている。

「ま、まぁ別にそんな気にしてないので!急に暗い感じにならないでください!」

「あ、あぁ」

「坂木君!」

急に俺の名前を言ってくる萌の母。

「あ、はい」

「私の事お母さんだと思っていつでも家に来てね!」

「え?」

急に言い出す萌の母。

また、そんな事言い出したら萌の父は黙っていないだろう。

「そうだ!俺の事もお父さんと呼びなさい!」

「えぇ!」

いや、さっきの勢いはどうした!

急にお父さんとか。さっき前までは俺の事嫌っていたのに何故急に変わる。

「そうだね。私の事はお姉ちゃんとでも!」

「お前は何言い出すんだ?」

「じゃあ、私はお兄ちゃんって呼ぶね!」

「お、お兄ちゃんだと!」

そんな素晴らしい言葉があったのか。

萌の父は急に立ち上がった。

「よし!こうなったら飲むぞ!新しい子供ができた気分だ!あははは!」

なんか急に話がおかしくなってしまった。

こうして食事は盛り上がり何故か俺は朝田家の家族として扱われた。

「それじゃあ、私賢を途中まで送ってくるから」

その言葉普通は男が言うセリフなんだが。

こうして玄関まで朝田家は俺を見送った。

俺と萌は俺の帰る道を歩き出す。

「今日はごめんね」

「え?」

急に謝る萌。

「なんか、騒がしい家族で」

「ま、まぁ賑やかな家族だと思うよ。俺も久しぶりに楽しかった」

「そ、そう」

「まぁ、確かに萌のお父さんは切り替えの早さはビビるけど」

俺が苦笑いしながら言うと萌は少し笑った。

「たしかに私のお父さんはすぐ気が変わる人だけどね」

「やっぱり」

「あと、最初は賢の事よく知らなかったし」

「まぁ、急に同い年の男がいたらそうなるよな」

「うん。それとうちのお父さんとお母さんも私が賢と許嫁なの知ってたからかな」

「はぁ?」

萌は軽く行ったが俺からしたらとんでもないことだぞ。

「なに。知ってたって。萌は軽く当り前のように言っているけど俺そんな事訊いていないんだが⁈」

「そりゃあ、言ってないもの」

「いや、そんな重大な事よく今まで言ってこなかったな?」

普通に考えておかしな話だ。

親はよく許すなと逆に心配になってくる。

まぁ、俺の両親も姉もヤバいから言えないが。

「てっきり彩香先生が言っていたのかと」

たしかに普通なら言うよな。

いや、言ったとしても普通許嫁にするなら俺も知るべきだと思う。

今更ながら言うけど。

まだ、くるみは俺も許嫁なのは知っているからいいとして。

後の二人に関しては今年知ったばかり。

しかも理由が必ず俺の親戚。いや、俺の家族が関わっている。

「それより。そろそろ学祭の話になるはずだけど」

急に話を変え始める萌。

「学祭な今日委員長と副委員長決めたんだ」

「そう」

萌は決めたと言った瞬間少し元気がなくなり声のトーンも低くなった。

俺も少し気になったが話を続けた。

「それで俺が副で委員長がまなになったから」

「え⁈」

俺がその事を伝えると少し高い声になった。

俺は萌の顔を見ると驚いている表情をしていた。

まぁ、俺もあの時驚いてはいたが。

「ほんと驚きだよな。あのまなが自分から立候補するなんて」

俺はまなが立候補した瞬間を少し思い出しながら言った。

「私じゃないの?」

「え?」

「私じゃないの?学祭の委員長」

「そうだよ。よかったな」

「そう」

今度はほっとしている表情になった。

もしかしたら萌は委員長になっていたのかと思っていたのだろうか。

たしかに最初はクラスの皆は萌にしようと無理やり押し付けていた感じもあった。

それを見たまなが席を立って立候補するとは今考えても夢のような話だ。

「まぁ、最初は萌にしようとクラスの皆は言っていたんだけどな」

「やっぱりそうなんだ」

「うん。でもまながそれを阻止したって言っていいのかな。なりかけた瞬間まなが手を上げたんだ」

「あの、桜さんが・・・」

「少なからずお前の事を仲間だと思っているんじゃないか?素直じゃないけどなアイツ」

「そうだね」

そう言いながらクスクスと笑う萌。

その表情は初めて見る。

とても笑っている顔がすごく可愛くてついつい見とれてしまう。

だがそんな俺はすぐ顔を振り向き前を向く。

「この辺でいいよ。ありがとうな」

俺は立ち止まり萌の方を向く。

「そう?気をつけて帰りなよ」

だから一々言うことが男なんだよな。

「おう、お前もな」

萌は頷き後ろを向き帰って行った。

本当にアイツらと許嫁がなければ多分あの三人の内一人は好きになっていたな。

まぁ、人生どうなるかわからんしな。

俺はそんな事を思い込みながら家に帰っていた。


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