第34話 新藤麗奈の人生

ドアから出てきたのは麗奈の母だ。

髪は下していて浴衣をきている。

「こんにちは」

俺たちは挨拶をした。

「ごめんなさいね最近学校に来れてなくて」

「いえいえ、事情もありますしね」

「あなたが生田さん?」

「はい、初めまして」

「あなたの事は麗奈から聞いているわ」

「そうなんですか⁈」

「えぇ」

生田は驚き。麗奈の母は少し微笑む。

どうやら見た目によらず厳しそうじゃなくてよかった。

「これからも仲良くしてあげてね」

「はい!それはもちろん!」

「では中に入って階段に上って二階の一番左側が麗奈の部屋よ」

「はい!」

俺らは家に入って階段を上る。

俺は辺りを見渡していた。

「これすげぇな!俺らの学校のクラスにすごい人がいたなんて」

「たしかにそうね」

「二人ともあまりジロジロ人の家を見るもんじゃないよ」

生田は注意を俺たちにした。

「生田は新藤さんの家来た事あるの?」

「何回かね。麗奈のお母さんがいない時に来てたから」

「そうか」

まぁ、たしかにジロジロ見るもんじゃないな。

にしても何階あるんだよ。

二階に上り終えた後まだ階段はある。

そして俺たちは麗奈の部屋に向かった。

生田は麗奈の部屋に二回ほどノックをした。

「麗奈~?私。桃恵だけど」

返事は返してこない。

不思議に思った俺たちは失礼ながらドアを開けた。

開けた瞬間俺は驚いた。

いや、俺だけではない。

生田、まなも驚いた。

何故ならゴミ屋敷だったのだ。

真っ暗な部屋に机にはノートパソコンに大量のドリンク。

床には食い終わっている弁当が多数。

ゲームのソフトや小説などとにかく散らかっている。

麗奈はベットで寝ている。

おいおい、これが新藤麗奈なのか?

いや、完全にこの部屋だけボロアパートに住んでいる部屋じゃねえか!

たしかに部屋はボロアパートより何倍もデカい。

だが、部屋の散らかし方が完全にボロアパートに住んでいるニートだ。

「嘘でしょ?」

思わずまなも口に出てしまった。

生田は麗奈が寝ているベットに近づき麗奈の肩を揺らす。

「起きて麗奈」

「ん~」

これが人気作家なのか。

俺の頭の中と少し、いや少しどころではない。

全然想像と違った。

俺が想像してたのは本がいっぱいあっていつも部屋を綺麗にしていて。

『私?今は小説を書いているよ』みたいな。

まぁ、たしかに作家さんはすごく大変だとはよく聞くけど。

俺は呆然とただ立っている。

まなは麗奈の部屋をうろうろしている。

生田は麗奈を起こしている。

「ほら!起きて麗奈!」

「なにさ~」

返事を返した麗奈。

声は少し女にしては低い声をしている。

「麗奈に用事があってきたんだよ!」

「ボクに用事?」

「そう、用事!」

「も~なにさ」

麗奈はベットから立ち上がり頭をポリポリとしながら寝起きの目をしていた。

「え」

麗奈は目をパッチリと開きなんで知らない人が部屋にいるの?と言っているかのような顔をしている。

「え、えぇ~!なんでボクの部屋に男の人がいるの~!」

急に大きな声をだした麗奈。

思わず俺も驚き自己紹介をした。

「初めまして同じクラスの坂木賢です」

「あ、それはどうもご丁寧に」

「って!じゃなくて!なんで私の家にいるの!」

「いや、それが生田に呼ばれてきた」

「え。桃恵!なんで!」

生田はゴミを片付けながら麗奈に返した。

「いや、本当は一人で行くつもりだったんだけど桜さんが行きたいって言うし」

「私も桜さんとは仲良くなりたかったから」

麗奈は顔を傾けた。

「桜さんって誰?」

「ん?ほら、本を眺めているあの人」

麗奈は今までまなの存在に気が付かなかったのかまた大声をだした。

「えぇ!ちょっと君なに人の本棚覗いているの!」

麗奈はまなに近づき手を掴んだ。

「え?」

まなは麗奈の顔を初めて見て驚き。

また、麗奈もまなの顔を見て驚いた。

「あなたが、新藤麗奈先生」

「君は」

麗奈が目を輝かせている。

まるで宝石をみつけたかのように。

「君!すごく綺麗だね!ボクの小説のヒロインにしてあげるよ!」

「は?」

俺と生田は同時に同じ言葉が出た。

まなは少し戸惑っているように見える。

「わ、私があなたの小説のヒロインに?」

「そうそう!その綺麗な白髪に美しい肌!そして他の人にはもっていない魅力!」

「うん!これで新作が書けそうだ!」

「新作?」

同時に同じ言葉が出た。

「そう!新作さ。実は昨日からずっと考えていてね」

「どうも想像しても思い浮かばなくて」

麗奈の目の下にクマがついている。

きっと先程まで寝ないで考えていたのだろう。

「それで今きた君の顔を見てヒロインができた!」

まなは少し頭の整理ができていないのかきょとんとしている。

「それじゃあ。僕は原稿に入るから帰ってくれる?」

麗奈がそう言うと生田が麗奈に近づきほっぺをつねる。

「なにが原稿に入るよ」

「痛い痛い!桃恵痛いって!」

麗奈が涙目になりながらわめく。

俺は一体何を見せられているんだ。

数分後

学祭の事について話を始めた。

「麗奈。あなたにオリジナルの台本を書いてほしいの」

生田が麗奈に告げる。

麗奈は乗り気じゃないのか不機嫌な声になる。

「やだ」

二言で断った。まあ、嫌だよなと俺も思う。

学祭のためにわざわざ人気作家に脚本を書いてもらうなんて。

俺でも嫌だなと共感をする。

「なんで!」

生田は納得をしてないようで麗奈に疑問をいだく。

「なんでボクがそんな面倒な事をしないといけないのさ」

「め、めんどうって麗奈今回の学祭は麗奈にとって最後なんだから麗奈の脚本で劇をして優勝したいじゃない!」

「最後⁈』

俺とまなは同時に驚いた。

俺たちはまだ高校二年生。

学祭は来年もある。なのに何故麗奈は今年で最後なんだ。

「なんで新藤さんは最後なんだ?学祭は来年もあるじゃないか」

「それは・・・」

生田は黙り込む。

「ボクは今年で学校やめるんだ」

「え?」

「実は今年やめる予定だったんだけどママとパパが今年は学校に行きなさいって言われて」

「なんでやめるのかしら?」

どうやらまなも俺と同じ事を思っていたらしい。

まなが人に興味をわくことすら珍しい。

少しまなは昔よりは変わってきているように見える。

「それは・・・」

「いやこれはボクが言うよ」

生田が理由を教えようとした瞬間麗奈が止める。

「本当は今日会った人達に言う事でもないと思うけど」

俺は一様初めてではないと思う。

普通に学校にいたしクラス一緒だし。

まぁ、初めて話すし俺とは初めましてか。

「ボクが辞める理由は学校に行っても意味がないと思ったからなんだ」

「小学校からボクは友達はいなくてね。自分から話すのは苦手で人と喋れなくていつの間にか孤立になってた」

「中学に入っても中々自分から話かけられなくて結局孤立のまんま」

「でもそれでも良いと思ったんだ。自分の好きな本さえあればって」

「昔から本を読むのが好きでずっと本を読んでた」

「でも、ボクはそれでいいと思ってたんだ。無理に友達なんて作らなくたって本さえあれば」

「本が友達だった。みたいな」

「そんなボクが初めて中学二年の時自分で小説を書いてみようと思ったんだ」

「それで完成したから応募もしてみた」

「そしたら数カ月後に調べたら受賞をしていたんだ」

「それから読む事だけじゃなく書くことも好きになって気が付いたら中学を卒業をしていた」

「それで高校なんてどこでもいいと思っていたから近くにある高校に入学をした」

「その時に初めて桃恵と出会ったんだ」

本当に申し訳ないと思っているんだけど。

俺そろそろ帰らせてもらっていいかな。

萌の家に行って彩香先生に言われたプリント渡さなきゃいけないし。

まさか、こんなに時間がかかるとは。

俺の考えでは。

『ようこそ我が家へ!』

『麗奈よかったら学祭で劇をするんだけどオリジナルの台本を作ってほしいだけど』

『おけ!任せておいてよ!』

そしてまなは。

『あ、あの良かったらサインを下さい!』

照れながらも表紙を渡す。

『おけ!何枚でも書いてあげるよ!』

俺の考えではこんな感じで終わるはずが。

それが、部屋は汚いし。せっぱ詰まっているとも思わなかったし。

そして何よりこんな複雑だとは思っていなかった。

時刻は夕方の五時。

萌の家とは反対方向だからここからだとかなり時間かかる。

明日渡せばいいのでは?と思うかもしれないがもし大事なものだったら責任とれないので今日渡したいのだが。

だいたい俺が聞かなければいい話だったのだがどうにも気になってしまいついつい理由を聞いてしまった。

麗奈の話が続く。

「桃恵とは高校一年からクラス一緒でボクが一人で本を読んでいると始めて話かけてくれたんだ」

みんな真剣に麗奈の話を聞いている。

これはちゃんと話聞かないといけないだろう。

「ボクにとっては桃恵はたった一人の友達さ」

「こんな本にしか相手してくれなかったボクを話かけてくれたんだから」

その言い方なんだか悲しくなるから言い方を変えた方がいいと思うだが。

「れ、麗奈・・・」

俺は生田が悲し気な声をしているので生田の方を見てみる。

な、泣いている。

「そ、それはまるで初めて恋をした瞬間みたいね」

そう言ったまなの方を見ると。

少し涙目になっている。

「お前泣いてるの?」

「な、泣いてないわよ!」

涙を拭きながら言われても説得力がない。

いや、泣くシーンか?

俺は『本にしか相手してもらえなかった』の方が別の意味で泣けるのだが。

あれ、なんだろ少し涙が。

麗奈の部屋にいた四人は皆違う意味で泣いていたのだ。

まなの泣いている意味は。

『こんな一番感動する恋愛小説と同じじゃない』

桃恵の泣いている意味は。

『なんで今までそんな感謝の言葉言ってこなかったのに今になって』

麗奈の泣いている意味は。

『ボクいつも桃恵には部屋を片付けてもらったり食べ物買ってきてくれたこんな良い友達に出会えてよかった』

賢の泣いている意味は。

『本にしか相手されてこなかったなんて。そんな悲しい事あるかよ!後早く帰りたい』

こうしてしばらく皆違う意味で泣いてした。

数分後。

「なんだか色々言ってたけどボクがやめる理由はある程度作家として上手く行っているし。通信制の学校に行くことになるから」

「そうか」

俺とまなは理由がわかって納得をした。

「後、台本やっぱり書くよ」

その言葉を聞いてみんな驚きと喜びが重なった。

「でも、一つ条件がある」

「ボクが台本を作る代わりに桜さん」

「え?私?」

「そう、君にヒロインになってもらう」

『えぇぇぇーー!!!!!』

おいおい、待て。こ、こいつが?ヒ、ヒロインに?

これはさすがに腰が曲がるかと思った。

いや、俺だけではないと思うが。

「本当はしたくないけど桜さんみたいな人がいたら物語作りたくなるよね」

まなは少し驚いていたがすぐ立ち直り。

「わかったわ。引き受ける」

「えぇぇl!!」

「ちょっと。勝手に決まられても困るよ!クラスの皆にも言わないと行けないし」

生田はすごく困っている顔をしている。

たしかにここで決めたらクラスの皆だって文句言うよな。

「とにかく、クラスの皆にはそう伝えて」

「ボクは仕事にかかるよ。後主人公は桜さんに合った人にしてね」

主人公まで条件に入っている。

てか、まなに合った人って誰だよ!

コイツ俺と雄二ぐらいしか男で話たことないぞ?

ま、まさか俺がやらされるとかじゃないよな?

や、やめよう嫌な方向性を考えるのは。

「と、とりあえず引き受けてくれると言うことで俺はそろそろ帰らせてもらおうかな」

「そうねあまり遅くまでいると申し訳ないし」

「私はまだいる」

生田はまだ麗奈の家にいるらしいので俺とまなは麗奈の母に挨拶をして帰った。

「それじゃあ、私こっちだから」

「うん」

「また明日」

まなはそう言って一人で帰って行った。

あいつが『また明日』なんて言うなんて本当に変わったな。

さて俺は萌の家に行くか。


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