第六話
そこから
――いつまでも母さまの衣裳に縛られていてはいけなかったんだわ。
考えてみれば初めから、目指す場所を間違えていたのだ。
何より重要なことは、花嫁それぞれに似合う衣裳を追求し、製作することだったのに。
それなのに莉璃は、母の衣裳こそがすべての花嫁に似合うと信じ込み、自分の感性を完全に捨ててしまっていた。
母の衣裳を再現することにやっきになり、周りが見えていなかったのだ。
さらに莉璃には、もうひとつ決意したことがあった。
――あの花の印象を再現するわ。今度こそ忠実に。
それを主題とし、衣裳に工夫を凝らそうと考えたのだ。
さっそく作業に取りかかった莉璃に、白影は言った。
「あの時……王の御前に皆が集まった時、生意気な口をきいて申し訳ございませんでした」
「いいえ、白影さまには感謝しておりますわ」
彼がいなければ、莉璃はすべてをあきらめていた。
白影のあの言葉こそが、莉璃の考えを大いに変えたのだ。
「ということは、怒っていらっしゃらないのですか?」
「もちろんですわ」
「でしたら婚約を破棄するなんてことは――」
「とくに考えておりませんが」
ただし、わたくしの仕事を認めてくださるのなら、と、もう何度目かわからない文句を付け加える。
「白影さま、わたくし、命をかけてでも衣装を完成させますわ」
「そこまでされては困りますね」
「ですがあなたがくださった機会ですもの」
絶対に無駄にはしない、と、莉璃は寝る間を惜しんで衣裳と向かい合った。
まず型紙を作り直し、裙を体に沿うよう細身の形に修正した。
生地には
実際に作ってみれば、造花を作ることは刺繍を刺すよりも簡単だった。
金箔を塗った針金で花の形を作り、それに金の糸を這わせて花びらに見立てる。するとまるで、裾の上で
襟元の空き具合は広めにし、首元がよく見えるようにした。これならきっと、
作業は昼夜を問わず、ほぼ睡眠をとることなく続けられた。
その間、白影は夜ごと莉璃の作業部屋を訪ねて来た。
そこで何をするわけでもない。会話もなければ、もちろんふれあうこともない。
けれどそれでも彼は、莉璃の側に黙って居続けた。
作業部屋の片隅に座り、ときにはうたた寝をしながら、ときには自身も仕事をしながら、莉璃の努力を見守り続けてくれたのだ。
そして七日後。
いよいよ貴妃の花嫁衣裳は完成した。
「わたくしは鳳家の花嫁衣装を着るわ」
そう言って微笑んだのだ。
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